中村佳穂、LIVEWIREにて配信ライブを開催ーーどのように音が鳴ってるかを想像しながら聴く不思議な音楽世界
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中村佳穂 撮影=今木研志
中村佳穂 2020.09.12(SAT)LIVEWIRE
9月12日(土)、スペースシャワーがキュレーションするオンラインライブハウス・LIVEWIREにて、中村佳穂が配信ライブを開催した。会場は、中村が活動初期時代からライブを重ねてきた京都のライブハウスUrBANGUILD。撮影は、BUMP OF CHICKEN、星野源などのMVを担当し、かねてから交友があったものの中村とは今回が初タッグとなる映像監督の林響太朗。
開演時間になり、画面に「NAKAMURA KAHO PIANO,UTA」と表示され、中村の「久しぶりだな~」という本当に小さな声でのつぶやきが聴こえ、「ラララ~」と歌い出される。まず最初に驚いたのが、ピアノを弾く彼女の手元がサイドからアップで映されたアングル。最初から普通の配信ライブになるとは思ってもいなかったが、やはり普通の配信ライブの映像じゃないと再認識する。
ピアノでメロディーを奏でながら、「全てはここから始まる」、「頭の中にあるものは、ちゃんと見せなきゃ誰もわからないなんて思ったから ひとりでピアノを弾いたっけな」、「音楽は 全ては 魔法のようなもの」など想いが歌われる。顔が映っても影がかかっていたり、だからこそ光が差し込むと、そのコントラストにグッときたりと、序盤から感情を相変わらずグイグイと揺さぶってくる。相変わらずと書いたのは、彼女のライブは毎回、いわゆるアドリブから始まり、ライブレポートを書く場合に貰うセットリストにも「1、adlib solo」と記されていて、何が起きるか本当に全くわからないから。まぁ、それにしても流暢に言葉が歌われていき、美しいピアノの音色が合わさっていく光景は、一目惚れというか、一耳惚れというか……。一心不乱な姿を、ずっとサイドから映す映像も素晴らしく狂っている。
彼女のライブは、いわゆる曲間のMCが無く、例えば10曲演奏したら、その全てが繋がっている。まるで組曲のようであり、途切れがないので、繋ぎ目もわからない。今回も気付くと3曲目「きっとね!」に。1曲目のアドリブではないが、既存の楽曲でも、歌詞はハミングであり、スキャットでありと、ハナモゲラ語では無いが、彼女独自の言葉として表現されていく。それが6曲目「シャロン」から少し歌詞が聴き取れる様になる。ここまで圧倒してきた感じが、ここから聴かせる感じというか。もちろん、そんな意識は彼女には無いだろうが。
続く「忘れっぽい天使」では、ピアノも歌声も、より緩やかに穏やかになる。<「みんな同じ辛いのよ。」>、<「時は全てを流すのよ。」>、<通り雨の冷たさに焦ってしまう 怯えてしまうよ 抱きしめてほしいよ どうかして どにかしてほしいよ>、<街の上に正論が渦を巻いてる。>、<上手く慰められたらいいんだけど。>という歌詞たちが全て聴き取れ、頭に入り、心に沁みわたっていく。言葉も演奏も徐々に熱を帯びて、どんどん観る側の我々に迫ってくる。中村は膝を抱えて椅子に乗せた状態で歌い上げる。ここで一気に映像が引きになり、中村の周囲が見えてくるが、植物が置いてある普通の部屋の様にも見えるし、洞窟の中の秘密基地の様にも見えたし、とにかく独特の空気を醸し出している。
そのままヒップホップのフリースタイルの様に言葉を紡ぎ出し、そこから鍵盤を叩き、リズミカルに突っ走って、8曲目「You may they」へ。笑いながら終わり、「疲れたぁ……」と言葉が漏れ、飲み物を少し口にして、そして、すぐ「音楽というものは自分から寄っていかなければ届かない」と歌い始める。カメラのアングルは植物の葉っぱ越しになり、カメラが葉っぱに当たる「ガサガサ」という音も聴こえる。ここで中村はイヤモニを付けた様に見え、そしてどこからともなくストリングスの音が聴こえてくる。ハンドクラップでリズムを取り、彼女が鳴らし終えても、ハンドクラップは鳴り止まない。姿が見えない誰かが部屋にいて、ストリングスやハンドクラップを鳴らしているような不思議な気分になる。どんどんストリングスの音が彼女に合わさっていき、一気にサウンドが爆発したかの様に弾けていく。部屋にはひとりしかいないのに、9曲目「アイミル」から、明らかに今までの世界と変わっていっているのがわかる。
その流れで突然立ち上がり、ピアノから離れ、ハンドマイクを持ち、裸足で歩き出す。大きな駒が回っているのも映り、「ドラムス、チクタク!」と言うと、本当にドラムの音が聴こえてくる。また、床に置いてあるオブジェがカラフルに輝いたり、ベッドサイドにあるタイプの室内ライトの紐を引っ張って灯りを消したりと、魔法がかかっている世界というか……、まるで童話の様なファンタジーの世界を覗き込んでいる気分に、いや迷い込んだ気分に陥ったという方が正しいかも知れない。もはや配信ライブと言うより、ミュージカル映画……。
それからも、本をめくりながら読み聞かせの様に歌ったり、鞄からペンと短冊形のノートを取り出し、何かを書いたりする。その横では、その後ろでは、小さな駒が回り続けている。現実の世界なのか、想像の世界なのか、もうわからなくなってくるくらいの不思議な世界。セットリスト的な曲目で言うと「10、新曲」になるのだろうが、そんな事はどうでもよくなるほど、彼女と映像監督の世界に惹き込まれる。途中、アコースティックギターを弾く西田修大の姿がようやく見切れるが、それでも全貌は掴めない。
バーカウンターの上で駒が回り、バーカウンター下にもたれながら座り込む中村の手の動きに合わせるかの様に画面から駒が消えていく。「大事なのは、そうイメージ」と歌いきり、「あなたのイメージも是非また聴かせてね。また会えるのを本当に楽しみにしてます。See you。本当にありがとう。みんなLove you。またねバーイ!」と笑いながら観ている我々に向かって語りかけ、手のひらでカメラレンズを隠し、画面が真っ暗になって終わる。そして、画面はスタッフロールに変わり、画面左上にはワイプで、1曲目に「全てはここから始まる」と歌われた彼女のピアノを弾く姿が映っている。演奏メンバーとして、中村(Vocal&Piano idea)と西田(Guitar&Bass Cordination)の他に、荒木正比呂(Sound Design &Effect)、石若駿(Drum&Piano)、角銅真実(Voice)、磯部舞子(Violin)、林田純平(Cello)の名前がクレジットされていた。
一番最後には、「みなさま、お久しぶりです中村です~ヤッホ~ 言葉は魔法みたいだなって思うことが たまにありますが、今回色んな方の力を借りて魔法を形に出来た事、嬉しく思っています。楽しかった? みんな決して楽しむことは忘れないでね。私も忘れず、ルンルンで生きてゆきます。その先で会えるのを心待ちに! STAY SAFE LOVE YOU!! LIVEWIRE中村佳穂」という直筆メッセージが、「カミ伸びた」と一言添えられた彼女がピアノを弾く姿のイラストと共に映される。
60分弱……、怒涛の展開。観終わった瞬間は、今まで観た事の無い素晴らしすぎる世界を、どう文章にしたらいいのか悩んだ……。だが、いざ書き始めると、その圧倒的な世界のパワーに引っ張られるかの様にスラスラと書けた。まぁ、どんなふうに、あの音たちが鳴っていたかという謎は全く解けていないが、そんな事は我々が自由に想像やイメージをしたらいいわけで。何よりも、それぞれの場所で、ひとりでもひとりじゃない様に楽しめたという事が重要だ。まだ観られていない方は、9月22日(火)23時59分まで視聴が出来るので、是非とも観て欲しい。
取材・文=鈴木淳史
配信情報
2020.9.22 tue 23:59 JSTまで
2020.9.22 tue 21:00 JSTまで
当日券¥3,300