ヨーロッパ企画の生配信劇「京都妖気保安協会 ケース4『鴨川ミッドサマードリーム』」ZOOM会見レポート~「演劇と配信のハイブリッドの、新しい表現が作れたら」(上田誠)

2020.9.16
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ヨーロッパ企画の生配信劇シリーズ「京都妖気保安協会  ケース4 『鴨川ミッドサマードリーム』」イメージビジュアル。

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ZOOMの生配信でもない、単なる無観客公演でもない、新しい形のリモート演劇を提唱した、ヨーロッパ企画の生配信劇『京都妖気保安協会(以下妖気)』。「走行中の路面電車」「レトロな銭湯」「川床のある料理旅館」を舞台に、妖怪やUMAなどの様々な不思議現象を「保安」する人たちをめぐる3つの物語を、ライブ配信の形で上演してきた。9月10日時点で、シリーズ累計で約31,000回再生されるなど、かなりの反響を呼んでいる。

その最終回となる『鴨川ミッドサマードリーム』は、彼らが毎年京都公演を行う[京都府立文化芸術会館]での無観客公演を、イープラスのStreaming+等で有料ライブ配信する。情報解禁日の9月10日には、ヨーロッパ企画メンバーによる、メディア向けのYou Tubeライブ会見が開催された。

「京都妖気保安協会」作・演出の上田誠。

『妖気』全話の脚本・演出を担当している、劇団代表の上田誠は、この生配信を始めた経緯と、今回の作品について、以下のように語った。

4月(の緊急事態宣言)以降、何か新しい形の表現を、劇団として模索していました。10時からリモートの生配信(番組)をやったり、(携帯ゲームの)「ゲームムービー研究所」をリリースしたりする中で、この生配信劇というアイディアが浮上して。リモートで生配信とか、劇場から無観客で(上演)されるとかは、すでに先人たちがいたので、自分たちならではの変化球を投げられれば、という気持ちがありました。

劇場ではなく、京都のいろんなロケーションから劇をやり、それを生配信でお届けするというスタイル。これはドラマではなく、僕らはやっぱり“劇”だと思っていて。一回目は嵐電(京福電気鉄道嵐山本線)、二回目は銭湯、三回目は貴船の料理旅館。そのシチュエーションに合わせて……地形やその場所にあるもの、あるいはその場所にまつわる物語を取り込んだ劇を展開し、模索してきました。ヨーロッパ企画は、もちろん劇団なんで演劇班があるんですけど、プラス映像班や配信班とか、いろんなチームが混在しています。その人たちが連携してなし得るという、僕たちならではの表現だという感覚を、やればやるほど強めています。

第4弾は集大成として、鴨川の近くにある[京都府立文化芸術会館]でやるので、ある意味劇場回帰のような形になります。そして劇場でやるから、シェイクスピアの『夏の夜の夢(A Midsummer Night's Dream​)』をモチーフにして、演劇にまつわる話をやろうと考えています。劇場ではなく画面でご覧になるから、やっぱり画面越しに観て面白くなるよう、今まで生配信でやってきた映像手法も生かしたいです。なおかつ劇場編なので、劇場で劇を観る喜び、面白さも感じていただければ。生配信と、今まで僕らが(演劇の)本公演でやってきたことのハイブリッドのような形で、何か新しい表現が作れればと思っています

これまでの『妖気』は、走行中で景色が変化し続ける列車、「男湯」「女湯」という壁1つを隔てた2つの空間、建物内の高低差が大きな旅館と、「地形から物語を生み出す」手法を得意とする上田の技が光る作品が続いた。ケース4も、単に舞台の上演をライブ配信するのではなく、劇団とはなじみの深い、この劇場の特性を生かした使い方を目論んでいる。

【動画】京都妖気保安協会 ケース1


 

「京都妖気保安協会」ケース1『嵐電トランスファー』(2020年7月24日配信)。

僕は普段の演劇も、舞台装置の雰囲気を考えてから物語を考えるという順番が多いので、『妖気』も“ここで劇をやると面白そうだなあ”という場所を先に探して、物語を考えるという順番で作ってきました。劇場ってカンバスというか、作品を入れる器ではあるけれど、場所自体を個性も持っているという、二重性がすごくある所。特に府立芸文は、いつも全国ツアーの初日を迎える、僕らにとってはすごく場所性のある土地であると同時に、カンバス的な劇場空間でもある。その二重性を上手く使えたらいいな、というのがケース4のテーマです

今回はヨーロッパ企画メンバーに加え、『妖気』レギュラーの早織、藤谷理子、日下七海(ケース3は欠席)、諸岡航平も出演。さらに『ロベルトの操縦』(2011年)に客演した、「阿佐ヶ谷スパイダース」の中山祐一朗が、久々にヨーロッパ企画の作品に出演する。

実は今年の本公演は、中山さんにお声がけしようとしていました。去年の『ギョエー! 旧校舎の77不思議』のゲストは、主に僕らより若い人を呼んだので、今年はそうじゃない方をと考えてたんです。ただ一人、今まで『妖気』に登場してないキャラクターをやってもらいますが、どんな役かは劇の根幹に関わる話なので(笑)、お楽しみにということにさせてください

ヨーロッパ企画 第30回公演『ロベルトの操縦』(2011年)より。右から二番目が中山祐一朗。 [撮影]清水俊洋

そして上田以外のヨーロッパ企画メンバーも、ZOOMでコメント。まずは「妖気保安協会」の保安協会員を演じる5人のメンバーたちからは、以下のような言葉が寄せられた。

ケース3までやってきましたが、ご覧いただいてる方はうすうす気づいてるかもしれないですけど、保安協会員たちはさほど活躍しておりません(笑)。事件を解決するのは(シリーズで出演している)大学生たちだったりするので、4はぜひ大活躍・大奮闘して、面白い劇になればいいなあと意気込んでおります」(石田剛太)

石田さんもおっしゃる通り、ケース3までは出番が少なかったんですけれども、その分妖気保安協会が使う小道具を、私酒井がいろいろと作っております。おそらく舞台版でも、新しいアイテムが出てくるんじゃないかと思っておりますので、その辺りのディティールも楽しんでいただけたら」(酒井善史)

保安協会員の活躍が少ないというお話がありましたけども、それを言うなら役者全体よりも、スタッフの方が大変なシリーズだなと、裏を見て思っておりました。そっちを写した方が面白いかもしれないですが、それを支えにして表では軽やかに劇が行われている所を、イメージしつつ見ていただければと思っております」(角田貴志)

『鴨川ミッドサマードリーム』ZOOM会見の風景。

妖気を追っ払うでもなく、招き入れるでもなく、いい状態に保つのが妖気を保安することだ……と思ってたら、前回宇宙人が出てきて、これは保安協会的にはどういうことなの? と。結論としては、妖気が電気だとすると、宇宙人はガスということで、電気修理に来てガス漏れを見つけるみたいなことが起こっていたと。あらゆる現象を、電気やガスや水回りに置き換えて観てもらっても、楽しめる作品じゃないかと思っております」(諏訪雅)

我々は過去3回無事保安できてきましたし、4回目もおそらく保安ができるんじゃないかと思ってまして。まあ、京都はだいたい保安できてるんで、京都ができたあかつきには、滋賀、大阪、各地を保安していけたらなと、勝手に思っております。まずは今回、鴨川辺りの保安をしっかりしたいと思います」(土佐和成)

また彼らを取り巻く人間(?)を演じる3人のメンバーからは、以下のようなコメントが。

○○役(注:ケース3を参照!)の中川晴樹です。ヨーロッパ企画はこれまで劇団……企画集団として、映像チームとは割とバラバラで活動してたんですが、今回こういう状況で舞台ができないので。みんなで一致団結して、この状況を乗り越えようというのが、この(生配信劇の)企画。ヨーロッパ企画的にはこういう風に、この状況を乗り越えるんだという所を、見ていただけたらと思います」(中川晴樹)

陶芸をやっているリョウタという役で、早織さんが演じるスミレと夫婦という設定で、毎回出演しています。ケース1ではパラレルワールドから来たリョウタという役も演じたので、4ではいくつものパラレルワールドのリョウタが現れるんじゃないかと、勝手に妄想しています。本来なら(新作のツアーで)40ステージやってるような期間だったので、非常にうずいた状態で劇場に乗り込んで、前のめりな姿勢で挑もうと思っています」(永野宗典)

京都妖気保安協会と因縁がある、骨董屋店主の役をケース2で演らせてもらったんですけど、その因縁も(ケース4で)解き明かされるかと。敵対する役ということで、そこに興味を持ってもらえるように演りたいです。2の時に、リハーサル・本番含めて、一回もセリフがちゃんと言えなかったんで、バッチリ完成したものをお見せできたらなあと思っています」(本多力)

【動画】京都妖気保安協会 ケース2


 

「京都妖気保安協会」ケース2『西陣ピクセルシャドー』(2020年8月26日配信)。

この他にも上田には、記者からいくつかの質問が寄せられた。主なやり取りは以下の通り。

──劇団として集団創作ができないという状況を、どのように感じたのか。

やっぱりみんなが集まりたくて始めたのが劇団ですし、劇団という名前自体「劇」をする「団」なんですけど、その「団」がやりにくくなってるということは、実際あって。でも実はこれ以前から、ヨーロッパ企画は京都と東京で分かれて活動しているので、みんなが散らばりながらも連携を取るという、新しい劇団の形を模索することが、最近のテーマだったんです。この時期を利用して、今まで手つかずだったことをやってるような感覚があります。

今回の生配信劇は、銘々が銘々の所で準備して、集まれる時に集まって、パッと解散するというスタイル。それをやるためには、それぞれが一人ひとりの時間を充実させなくてはいけないという、今までと違った楽しみがあります。僕も今までずっとエチュードで物語を作ってたんですけど(注:ヨーロッパ企画は、稽古中のメンバーの即興芝居から出てきた言葉を、上田がまとめるという作り方をしている)、一人で自分の中を見つめて、一人で脚本を書くという時間が増えています。

──「ドラマじゃなくて劇」という思いは、具体的にどのように形にされますか?

これは劇団の中でも「何をもって“劇”とするのか?」と議論になっていて、特に答は出てないんです。でもやっぱり客席がなくても、画面の向こうとこちらが生でつながって、今そこでリアルタイムで何かが行われるということは、ドラマではないなあと。ドラマや映画は、撮った画(え)を切り貼り(編集)して作るイメージがあるけど、この生配信劇は本当に、そこでライブで行ってるという感覚が、すごくあります。

それをアーカイブで追体験できるのもまた面白いんですけど、それだけだと別に生でやる必要はないんですよ。収録したものを流せばいいという話。でもやっぱり、お客さんが生で観て「これ、生で演ってるんだ!」という空気を体験するのが、生配信劇の肝だと思ってるし、そこが大事と考えてます。

【動画】京都妖気保安協会 ケース3


 

「京都妖気保安協会」ケース3「貴船スターシップ」より(2020年8月30日配信)。

また「鴨川についてどうとらえていますか?」という質問では、メンバーたちのフリートーク状態になり、こういうやり取りが行われた。

永野さんが、デートの時は必ず鴨川に連れて行くと、聞いたことがあります」(石田)
デートも行きましたし、フラれた後も行きました(笑)。鴨川に癒やされたエピソードは尽きないかもしれません」(永野)
タイトルに鴨川って付いてて、すごい最終回っぽい。何か(最終回に)ふさわしい地名かなあって。でも鴨川出ないもんね(笑)」(諏訪)
劇場からちょっと離れてるよね」(石田)
もしかして、正確には(劇場は)鴨川沿いではないことを言ってますか?(一同笑)」(上田)
(京都)御所の方が近いし」(本多)
でも僕らは毎年鴨川でお花見もしますし、何だかんだで僕らの活動のかたわらには、鴨川が流れているという感覚があります」(上田)

『鴨川ミッドサマードリーム』ZOOM会見の風景。

さらにこの流れで、ヨーロッパのメンバーたちから上田に質問する時間も!

今回もスタッフさんは地獄を見ますか?」(永野)
毎回違うんですよね、地獄が」(酒井)
それで言うと、今までは撮影スタッフと配信スタッフがいて、今回はその間に、舞台のスタッフというセクションが入るから、感じが違うかもしれないですね。人が増える分、むしろ個人の大変さは軽減されるのでは……軽減しないとな、っていう。でもキャストもスタッフも増えているので、やることは大きくなりますよ」(上田)

今回そういう意味では、ハードルは何なんですか?」(諏訪)
お楽しみの仕掛けがいくつかあるんですけど、それはまだ内緒。劇の中で劇をやる感じになるので、そこら辺を上手く生かしてやろうかなと」(上田)

上演時間は何分になるの?」(石田)
最近の本公演は2時間半ぐらいだけど、そこまでは行かないです。今までの生配信劇は、30分が最大だったんですが、今回は1時間半行くか行かないかを目指してます。生配信で見られる、心地いい尺はそれぐらいかなと」(上田)

ヨーロッパ企画の生配信劇「京都妖気保安協会」ロゴ。

中川晴樹が真面目に語った通り、舞台公演ができないというピンチを、生配信劇という手段で、劇団一丸となって突破していくことになったヨーロッパ企画。これまでのケース1~3を振り返っても、劇場の演劇ではまず不可能な物語の見せ方を提示しつつも、一発撮りならではのスリルと確かな臨場感という、映像ではなかなか出せない空気感を作ることにも成功していた。

ケース4はその実験性をさらに高めつつも、ヨーロッパ企画らしい笑いと、生の舞台の再開が待ち遠しくなるような劇を作ってくれるに違いない……と思わせてくれる会見だった。

取材・文=吉永美和子

配信情報

ヨーロッパ企画の生配信劇シリーズ「京都妖気保安協会」
ケース4 『鴨川ミッドサマードリーム』

■作・演出:上田誠
■出演:石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、本多力
藤谷理子、日下七海(安住の地)、諸岡航平、早織、中山祐一朗(阿佐ヶ谷スパイダース)
■日時:2020年9月26日(土) 14:30開場、15:00開演
■会場:京都府立文化芸術会館より無観客・ライブ配信
※本公演は無観客配信での上演です。会場での観覧・視聴はできません。
※本編終了後、出演者による「おまけトークショー」あり。
※9/28に、You Tube Live「ヨーロッパ企画の生配信」にて『水曜どうでしょう』の藤村忠寿&嬉野雅道を迎えた「『京都妖気保安協会』ケース4『鴨川ミッドサマードリーム』藤村さん嬉野さんとアフタートーク」を配信。
 
■料金:オンライン視聴券3,000円(税込)。
■販売・視聴:イープラス 「Streaming+」 
https://eplus.jp/europe-kyotoyoki4/
※10月4日(日)23:59までアーカイブ配信あり。
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