無観客上演&配信だからこそ可能な“夢”の舞台──ヨーロッパ企画「京都妖気保安協会 ケース4『鴨川ミッドサマードリーム』」劇場稽古レポート
ヨーロッパ企画「京都妖気保安協会 ケース4『鴨川ミッドサマードリーム』」会場の[京都府立文化芸術会館]の稽古より。 [撮影]吉永美和子(人物すべて)。
いよいよ2020年9月26日(土)15:0よりライブ配信される、ヨーロッパ企画の生配信劇「京都妖気保安協会 ケース4『鴨川ミッドサマードリーム』」。京都にはびこる様々な怪現象を、いい感じに保安する人たちの物語を、京都各地の名所から生配信で上演する企画だ。そして今回のケース4は、劇団本公演を10年以上行ってきた、京都の劇場[京都府立文化芸術会館]での無観客公演の生配信。単純に舞台上で芝居をやるだけの作品ではないということで、24日の劇場稽古の様子を、実際に拝見させてもらった。
会場に入ると、まずはロビーに置かれた大きな機材の数々が目に入る。壁沿いに多数の無線LANのルーターが設置され、配信スタッフや音響スタッフの人たちが、電波の状況やワイヤレスの機材の調子を、あちこちでチェック中。今回は劇場やロビーのみならず、エントランスの外や地下の部分も使用するが、この広範囲にまんべんなく電波が届くよう調整するのは、これまでの生配信とは比べ物にならないほど労力が必要になるという。彼らが最も出現を恐れているという「妖怪通信トラブル」「妖怪機材トラブル」「妖怪謎の不具合」が今回も現れないよう、これはもう祈るしかないという感じだ。
配信や音響スタッフの待機スペース。
そして劇場に入ると、ちょうど『夏の夜の夢』の1シーンが演じられている所だった。人間界と妖精界の垣根を超えた大騒動を描き、過去様々な劇団で上演されてきた、ウィリアム・シェイクスピアの名作喜劇。ヨーロッパ企画が古典に挑戦するなら、これしかないだろうというほどピッタリな作品だ。実際に演じている所を観ると、原作に忠実ながらも、やはりヨーロッパ企画ならではのゆるさとワチャワチャ感で、しっかりコーティングされている。「妖気保安協会」は、彼らにしては渋い感じの演技をキープしているので「あー、ヨーロッパ企画はやっぱりコレだなあ」という心地よさがあり、これだけで全編観てもいいなあとすら思った。
劇場内での稽古風景。
しかし今回はシェイクスピアがメインではないので、予想通りのっぴきならない怪現象に阻まれて、舞台は中断。そこにたまたまこの劇場の調査に来ていた「妖気保安協会」の人たちが現れて、事態の解決に動き出す。
そしてここからが、無観客公演の本領発揮だ。無人の客席のみならず、ロビーから渡り廊下まで、保安協会員たちや、舞台を演じてた役者たち、そしてケース1~3に出演したキャラクターたちが、文字通り劇場中を「上へ下への大騒ぎ」状態で駆け回る。中山祐一朗が演じる、京都のご当地感のあるキャラクターも、『夏の夜の夢』のパックさながら、この騒動をさらに面倒な状況へと加速させる。そうして現実と虚構と時間と空間が、劇中の恋人たちの四角関係よりも、よっぽどややこしいものになっていく……。
稽古中のヨーロッパ企画メンバーたち。
この日の稽古では、まだ役者の演技を固めることよりも、カメラの動きやケーブルの配置を確認することを重視している印象だった。中でも、長回し用の手持ちカメラを担当する映像スタッフ・鍋島雅郎には、カメラの立ち位置をどうするかだけでなく、どのセリフをきっかけにカメラを振るかなど、上田があたかも役者の一人のように“演出”を付け、他の役者も鍋島に合わせて演技を調整していく。
『鴨川ミッドサマードリーム』作・演出の上田誠。
その鍋島に、今回の配信について話を聞くと「今までのロケは、ずっと暑さとの戦いという問題があったけど、今回はその心配がないだけでも、気が楽ですね」と笑う。とはいえ「今回はずっと役者に着いて回るので、役者の一人のような感じになってて恐縮です。劇場を縦横無尽に動く中で、僕がコケたり、カメラのケーブルが抜けたりしたら、この配信自体が終わります」というプレシャーも感じているそうだ。そして「役者から裏のスタッフまで、今回特にワンチームでやってる感じ。しっかりとした映像を見せられるとともに、生でやってることを感じていただけたら幸いだなあと思います」と意気込みを見せた。
華やかな照明が使えるのも劇場の舞台ならでは。
過去最大規模となる今回の配信では、6台ものカメラを導入。そのうちの4台は劇場内専用で、映画『ドロステのはてで僕ら』の監督も務めた山口淳太が撮影を担当する。「本公演の舞台収録も、毎年僕が撮って編集しているので、同じチームを集めて、同じように撮影します。今回の画作りは、劇場内のシーンは僕、長回しの部分は鍋島に割と任されていて、上田さんにはカメラワークを一緒に考えてもらってるという感じです」と、各々の役割を語る。
稽古中のヨーロッパ企画メンバーたち。
とはいえ通常の舞台撮影と生配信劇とでは、当然勝手が違う。「普段はとにかく撮影して、後でカット割りを決めるんですが、今回はカット割りを僕が事前に決め込んでから、スイッチング(画面の切り替え)をすることになります。そのスイッチングが、そのまま配信で流れる。つまりいつもの本公演の編集作業を、生で見せるという感じになるんです」と緊張を見せつつも「さっき舞台(での芝居)パートを観ることができたので、どんな感じかは何となくわかってきました。カット割りを決めきっちゃえば、後は精度を上げるだけです」と、長年劇団の映像を担当してきたスタッフならではの頼もしさを見せた。
行く先々で「京都妖気保安協会」とめぐりあう大学生チーム。
演劇の場合、役者はどんなに舞台の片すみにいても、観ている客にはバッチリと観られてしまう。しかし映像だとカメラが外れたら、何をしても一切観客に観られる心配がない。今回の作品は特に、そんな映像の利点を生かして、あれやこれやのトリックを試みていることが、役者たちの動きを観察すると、うすうすわかってくる。多分実際の生配信では、油断すると「え、今何が起こったの?」「あれ、いつの間にこんなことに?」というシーンが続出するはずだ。
本多力(左)は「京都妖気保安協会」と敵対する骨董屋の役。
そして「面白かったけど、やっぱり客席で観たかったなあ」と結局思ってしまう無観客公演が圧倒的に多い中、むしろ「あ、これは無観客じゃなきゃ無理だわ」と思うと同時に「劇場じゃなきゃできなかった世界だなあ」と、納得すること間違いなしの舞台になるだろう。ネタバレが過ぎるので一切撮影ができなかった、クライマックスのシーンを観て、そう確信した。
俳優たちの演技を見守る上田誠(一番左)。
は生配信終了後の10月4日(日)20時まで購入可能な上、同日23時59分までアーカイブ視聴ができるので、オンライン演劇の一つの革命となりそうなこの劇をぜひ観てほしい。ただケース1~3をまだ観ていない人は、その内容が本作にいろんな形で絡んできているので、今のうちに全部チェックしておくことを強くオススメする。
ヨーロッパ企画の生配信劇シリーズ「京都妖気保安協会」ケース1『嵐電トランスファー』
ヨーロッパ企画の生配信劇シリーズ「京都妖気保安協会」 ケース2『西陣ピクセルシャドー』
ヨーロッパ企画の生配信劇シリーズ「京都妖気保安協会」ケース3『貴船スターシップ』
そして稽古休憩中にチラッと話ができた、妖気保安協会員役兼小道具担当の酒井善史からは「この劇場版用に、もちろん新しいガジェットを作っています。ぜひそちらも注目してください!」との伝言が。小道具をアップで眺められるのも映像配信ならではのお楽しみなので、ストーリーに置いてけぼりにならない程度に、じっくりとチェックしていただきたい。
自ら作ったガジェットを手にする酒井善史(左)。
取材・文=吉永美和子
配信情報
ケース4 『鴨川ミッドサマードリーム』
■音楽:青木慶則
■出演:石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、本多力
藤谷理子、日下七海(安住の地)、諸岡航平、早織、中山祐一朗(阿佐ヶ谷スパイダース)
■会場:京都府立文化芸術会館より無観客・ライブ配信
※本公演は無観客配信での上演です。会場での観覧・視聴はできません。
※本編終了後、出演者による「おまけトークショー」あり。
※9/28に、You Tube Live「ヨーロッパ企画の生配信」にて『水曜どうでしょう』の藤村忠寿&嬉野雅道を迎えた「『京都妖気保安協会』ケース4『鴨川ミッドサマードリーム』藤村さん嬉野さんとアフタートーク」を配信。
■料金:オンライン視聴券3,000円(税込)。
■販売・視聴:イープラス 「Streaming+」
https://eplus.jp/europe-kyotoyoki4/
※10月4日(日)23:59までアーカイブ配信あり。
■公式URL:http://www.europe-kikaku.com/kyotoyoki