12年にわたる壮大な物語がついに完結へ 舞台『リチャード二世』フォトコール&囲み取材レポート
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鵜山仁、浦井健治、岡本健一、中嶋朋子(左から)
2009年10月に開幕した、シェイクスピア作『ヘンリー六世』三部作から始まる、新国立劇場シェイクスピア歴史劇シリーズ。2012年『リチャード三世』、16年『ヘンリー四世』、そして18年『ヘンリー五世』まで、同一の役を同じ俳優が通して演じ、スタッフも同じメンバーで上演されるなど話題を呼んできた。
そのシリーズ「完結」編としての舞台『リチャード二世』が、2020年10月2日(金)に幕開く。薔薇戦争の遠因ともいえる王であり、シェイクスピアの一連の歴史劇の中では最も古い時代を扱った史劇だ。初日を前にフォトコール(1幕1場)が行われ、演出の鵜山仁、出演する岡本健一、浦井健治、中嶋朋子が取材に応じた。写真とともに内容を詳報する。
岡本健一「10年以上稽古をして、ここに行き着いた感じ」
舞台『リチャード二世』フォトコールの様子
ーーまずは、作品のみどころを教えてください。
岡本:2009年から続いたシェイクスピアのシリーズになるのですが、最終章にして「最初の物語」です。10年以上稽古して、ここに行き着いたみたいな感じですかね。足かけ12年かけて、本番初日に挑むという全ての集大成になっております。
シェイクスピアの描く物語は、人それぞれの心の動きであったり、権力であったり、欲望、愛と生と死が本当にうまく描かれている作品なので、これはぜひ劇場で拝見していただけたらなと思っております。僕たちもみんな万全の状態で、感染予防対策もして、客席も安心して見られるような状態になっております。2日から25日までやっておりますので、楽しみにしていてください。
舞台『リチャード二世』フォトコールの様子
ーー岡本さんから王位を奪う浦井さん。今まではずっと王様をやっていらっしゃいましたね。
浦井:岡本さんがおっしゃったように、たくさんの人の人生や思いが、未来へ繋がりますようにという願いを込めて、12年間やってきたんじゃないかなと。劇場でお稽古をしていて感じているのは、僕が演じるボリングブルックという役は、実は生前、中嶋しゅうさんが演じられた役。その息子役を僕は演じたこともあり、そうした因縁みたいなものを感じますし、そして今も見守っていてくださっているんじゃないかなという気持ちもあって。それに、セットに関しては、島次郎さんがやはりもうこの世にはいない。
いろいろな思いを抱えて、みんなが前を向いている。演劇って素敵だな、もしくは、絶対つながっていくんだな、人は演劇を捨てないんだなというような希望を自分もいただいているような感触を受けております。なので、ちゃんと恥じないように1回1回やっていけたらなと思っております。
舞台『リチャード二世』フォトコールの様子
ーー中嶋さんは、前回は浦井さんの奥様役で、今回は岡本さんの奥様役ですね。
中嶋:シェイクスピアの歴史劇は分かりにくいところがある中、長い年月をかけて、同じスタッフ・キャストで紡ぎ上げてきたことで、血脈の脈々と続いている思いが私たちの身にちゃんとおさまっている。この舞台のシリーズをつくっていただけたことに、すごく感謝しています。
なにより、こういう時期にお客様の前で演じられること、本当に幸せに思います。たくさんの方の思いと、たくさんのお客様の思いもひとつになって、素晴らしい空間になるといいなと心から思います。楽しんでやらせていただきたいと思います。また、お客様にも楽しんでいただけると嬉しいです。
舞台『リチャード二世』フォトコールの様子
ーーこれまでの作品を演出してこられた鵜山さん、一言お願いします。
鵜山:考えてみれば、王位を奪うとか奪われるとか、今回も端的に王位を譲れ、譲らない、譲らざるを得ないという権力闘争の人間ドラマなんですけど、のみならず、僕らにはちょっと野望があって。花が咲いて、実がなって、葉が落ちて、世代交代もあるし、季節の変化もあるし、そういう人間ばかりではなくwith natureというんですか。そういう環境の中で生きていく者の表情をみていただけたらというのが願いです。よろしくお願いします。
お互いへのリスペクトと「異常な」信頼関係
ーーシリーズとして長きにわたって続いてきました。稽古に入るときは「あ、ついこないだ集まった」という気持ちでおられるのか、「あぁ、懐かしいな」と思うのか、新しい作品なので新鮮な気持ちなのか。どんな気持ちなのでしょうか。
岡本:会っていない期間が何年間かあったりするんですけど、会った瞬間にそれが一瞬でなくなるというか。そういう感覚ですかね。作品ごとに命がけで取り組んでいる姿をみんなが共有しているので、お互いリスペクトもありますし、ものすごい異常な信頼関係もありますし。そう言った意味で作品に忠実に入り込める環境にはなっていますね。
鵜山さんの脳の中にあるものを、どうやって自分たちが具現化していくか。その作業になっていく。もう久しぶりとかじゃないですね。すぐこの作品に対して取り組んでいく人たちの集まりだと思います。
舞台『リチャード二世』フォトコールの様子
浦井:登場人物の名前が、ヨーク家とランカスター家とあり、同じ名前がどんどん出てくるんですけど、それがこの12年間で役者さんの顔でインプットされていて、理解できる自分がいます。そのことに、今回初参加の原くん(※原嘉孝)の「これ、誰ですか?」という質問で、はっと気がつく(笑)。血筋に慣れているという感触はあるんだなと思いました。
中嶋:不思議なもので、12年やっているからこそ、「あぁ、あのときのあれお前のせいだったんだね」とか「あぁやられた、やられた」とか、そういうお話になるのがすごくおかしくて(笑)。親戚の集まりじゃないですけど、それは長年積んできたものというのは本当に尊いなと思います。ありがたいなと思う毎日です。
舞台『リチャード二世』フォトコールの様子
ーーシリーズ完結ではありますが、『リチャード二世』はきっかけの物語で、最初の物語です。この構想はもともとあったのですか。
鵜山:いえ、全然なくて(笑)。最初『ヘンリー六世』をやったときは、これだけでもうたくさんだと思ったんですけど、幸いいろいろな方の力があって、お客さんも含めて、集まって、続いてこられて、危ういバランスを保ちながら仲良く一丸となってやってこれた。大変ラッキーなことだと思っています。1作ごとに今度どうするの、今度どうするのと話し合ってきました。最初は今度どうするのもなく、これで終わりだろうと思っていたんですけど、つながってきたので。それはいいことですよね、きっと。
ーー演じる側としては、今回、最初の物語ということで、「ここに戻るの?」という感じですか?
岡本:今回の話が原点です。王家の血筋の中で王にになっていたのを彼(ボリングブルック)に奪われることによって、これからの未来が、自分たちが過去にやった作品になっていくという、不思議な感覚になる。僕は2本(の作品)だけ王様として王冠を被らせていただいて、そのほかは健治(※浦井健治)が王冠をかぶっていたのですが、王冠というものの力をすごく感じていますね。
「俺のいうこと聞けよ」と(笑)。これから日本、世界、人のことを思って生活して欲しい。欲とかそういうものを捨てて欲しい。人のために生きていかないとこういうことになるよということですかね。ちょうど今、政権が変わった状況、今現在の東京でやることがリンクする部分もあったりもして。不思議な感覚ですね。
岡本健一、中嶋朋子(左から)
ーー肖像画を見ても、リチャード二世はイケメンですし、そこは岡本さんぴったりかと!
岡本:いやいやいや(笑)。でも、実在した人の話を面白く描いている。12年シリーズをやって、もちろん見続けているお客様もいますが、一方で、今回初めてシェイクスピアに触れたり、初めて舞台を見る、観劇するという人にもちゃんと分かるように伝わるようにするにはどうしたらいいかを考えます。
人の心の動きを重点的に。全然シェイクスピアと言いながらも、難しい作品でもないし、まず劇場に来て、客席で味わってくれたら、みんなの生きている力というか、存在しているだけでエネルギーを感じるんじゃないかという気がします。
ーー先ほど、浦井さんのお話で、原さんのお話が出ましたが、事務所の後輩として何か声をかけられるんですか。
岡本:彼は台本を読んでて、自分のセリフを言っているのに、誰のこと言っているか全然わからないと。ややこしい名前がいっぱいあるから。そこは新鮮だし、最初に見たお客さんもそういうものなんだろうなと思うんです。自分の中の指針としては、原くんが感動したらOKというか(笑)。まぁ、最近は彼もよく感動していますから、多分大丈夫です(笑)。
天国から稽古場や本番を見守ってくれているような気がして
浦井健治
ーー12年間、みなさん、いろいろと変化があったと思いますが、再確認したものはありますか。
浦井:12年経つと、諸先輩も12年分、年をお召しになられているので、より深みが、深々しいと言いますか。一音が重い。それは自分の憧れで目標で。その音を出したいという憧れがたくさんあるという感じです。
中嶋:変わっていないと言えば変わっていなくて、そこが素晴らしいんですよね、このカンパニーは。年はとりましたけど、幸せだなと思うんです。顔合わせるだけで、元気もらっちゃうんですよね、先輩方に。私が元気を差し上げねばと奮い立たせてもらっております。
岡本:70歳、80歳ぐらいの方もずっと最初からやっていますし、そう言った意味で、死というものをみんなで共有しないといけないこともありました。そうなると余計に彼らが常に稽古場でも本番でも見守っているような気がして。ちょっとでも舐めたことをすると、怒られる感じというかね。一緒にやってくれて、別の世界に行った方々のためにも魂を込めてやらないといけないと思う。
本当に、70歳、80歳ぐらいの役者さんってすごいですよね。叶わないですよ。自分がその年齢になったときに、そこにいけるように、今から健康管理はちゃんとしてやっていかないと、追いつけないですし、そういう姿を劇場で見るのも、それだけで感動すると思うんですよね。人の生きている力というか。それを生で見るという、その特別な時間をみんなで味わえたらいいなと思います。
中嶋朋子
ーー新型コロナウイルスの感染拡大の影響で大変な時期ですが、稽古や楽屋のあたりで気を使っているところは。
岡本:そんなに雑談はしないですよね。静かです。常にマスクをして、舞台上ですかね、集中して会話をするのは。それ以外はすごく清潔です。
ーー親睦を深めるために。ご飯をみんなで食べに行こうとか……。
岡本:そういう気にはならないですね。全く。みんなで楽しむのは本当に、舞台上で……大丈夫? 咳しているけど(笑)。
浦井:急に咳が出ました、すみません(笑)。
岡本:よかった。そんな感じですね。そうそう、鵜山さんがコロナに関して、いいことをおっしゃってらして……。
鵜山:あまり敵だとは思わないで、助けてもらっている。より寛容になるために、よりいろんなものを受け入れるために、切磋琢磨するために、助けてもらっているとしか思えないんですよね。さきほど自然と一緒にと言ったのは、そういうことなんですけど、人間のことだけ考えるとダメみたいだということを痛切に思わされます。芝居はそういうエコーを聞かなくてはいけないし、それを表現できないといけないと本気で思います。
鵜山仁
ーーシリーズ完結ですが、「鵜山さん、どうしましょう」と聞かれたら、次も考えますか?
鵜山:いくらでも(笑)。表現するのは僕ら、続いていくでしょうし。いつこれがバタッとなくなるのか分からないですし、そこまでは何をやればよく分かっていないんですけど、この繋がりの先に何かあると思っておりますので、ウェルカムです。
岡本健一
ーー最後に、お客様へのメッセージをお願いします!
岡本:(コロナ禍で)いろいろな意識が変わり、鵜山さんに言われて、自分も気がついたのですが、演劇とか人間とかお芝居をするとか、人として生きるとか、そういう部分を超えた話、物語になっているような気がするんです。遠くから見たら、昆虫も人間も同じじゃないか、みたいな。生物の物語みたいな感じでなんですかね。……余計見なくなっちゃうか(笑)。どう思う?
浦井:いままでソーシャルディスタンスがあったと思うんですけど、今回は100%のお客様の動員を目指してというところで、新国立劇場では1発目となると思うので、気合十分と言いますか。みんなでまた新たな演劇じゃないですけれども、昆虫や生物や植物やすべての生命を開花させて、エネルギッシュにみんなで生きていこうじゃないかというのを学びの場といいますか、そういった渦が巻いている演劇空間というものを体験していただけるような状況になるのではないかと思っています。
その分、役者としては1回1回かなりシビアになると思う。セットはだだっ広いんです。なので、いかに集中して、いかに、しゅうさん(※中嶋しゅう)はフックと言ったんですけど、フックを誰にかけるか。植物にかけるのか、役にかけるのか、想像にかけるのか。徹底してエネルギーをみんなで回していくということで、お客様に楽しんでいただけたらと思っております。
岡本:素晴らしい!よろしくお願いします!
公演情報
演劇『リチャード二世』
Richard II
会場:新国立劇場 中劇場
翻訳:小田島雄志
演出:鵜山 仁
岡本健一 浦井健治 中嶋朋子 立川三貴 吉村 直 木下浩之 田代隆秀 一柳みる 大滝 寛 浅野雅博
鍛治直人 川辺邦弘 ⻲田佳明 松角洋平 内藤裕志 椎名一浩 宮崎隼人
上映情報
日程:2020年10月27日(火)~11月3日(火・祝)
会場:新国立劇場 中劇場
Bプログラム リチャード三世 2012年上演
『ヘンリー六世』 5,500円
『リチャード三世』 3,000円
2作品通し券 7,600円