孤高のきらめきとツンデレ 明日海りお×千葉雄大×小池修一郎(演出)『ポーの一族』インタビュー
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明日海りお、小池修一郎(演出)、千葉雄大
ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』が2021年、帰ってくる。
萩尾望都作品のなかで圧倒的人気を誇りながらも、映像化・舞台化をしてこなかった『ポーの一族』が、満を持して宝塚歌劇団でミュージカル化されたのは2018年。今回の再演では、宝塚歌劇団での上演と同じく脚本・演出を小池修一郎が手掛け、より演劇的なアプローチを元に生まれ変わる。主演のエドガーは、『理想のエドガー』と原作者に言わしめた明日海りおが再び挑戦。そしてアラン役にはミュージカル初挑戦の千葉雄大がキャスティングされた。そのほか、エドガーの養父母にあたるポーツネル男爵には小西遼生、ポーツネル男爵夫人シーラには夢咲ねねなど、実力派キャストが脇を固める。
都内某所で明日海りお、千葉雄大、小池修一郎にミュージカルにかける思いを聞いた。
──宝塚版に続き、再度『ポーの一族』を上演することが決まった時のお気持ちをお伺いしてもよろしいでしょうか?
小池:何より原作の萩尾先生が「また、明日海さんのエドガーが見たい」と思ってくださっていて、私も「また(エドガーを)演じさせてあげたいなぁ」と思っていたんです。その当時、歌劇団としては、既に明日海さんの退団までのスケジュールは決まっておりまして、そこで退団後……もう宝塚歌劇ではないわけですが、再演することは可能であると分かりました。ただ、再演が実現するかは、明日海りおさんご自身の判断によるな、となりました。そうしたら彼女は「是非やりたい、叶えば嬉しいことです」とおっしゃって下さいました。
萩尾先生も「何はなくとも、明日海さんのエドガーがいてくれれば」というご希望もあってですね。私は舞台化するまで30年萩尾先生を待たせましたし、なにより「ポーの一族をやりたい」と思ってから40年以上待ったりした訳ですよ、人生の最後の狂い咲きじゃないですけど(笑)、また出来ることがとても光栄です。
まだ、上演していないので、どうなるかは分からないですけど、時代が変わってきたと感じています。今は『明日海りお(女優)が少年役を演じる』ということに、そんなに抵抗がなくなっているというか、「異常なことである」と世間が受け止めない時代になってきたと思います。
――明日海さんにお伺いします。宝塚版を経ての再演、形がかわるかと思いますが、どのようにお感じですか?
明日海:宝塚時代に出演させていただいた『ポーの一族』は大変独特な世界観があり、私の中でも思い入れのある役でした。……実は永遠のお別れをしたつもりでいたんです、エドガーの魂と(笑)。それが、このような形で巡り逢えるなんて嬉しいです。ただ宝塚版とは環境がすごく変わりますし、私自身幕が上がる頃にはブランクが1年少しある状況です。不安も少しありますが、見に来てくれたお客様に「また初演の時とは違うよさがあるわ」とか「これも何回も見たい」「見てよかったわ」とか感じていただけるように……まだ日がありますが、意気込みだけは存分に持っております。
――千葉さんは既に好評のミュージカルに、またミュージカル初出演ということで参加される率直なお気持ちは?
千葉:ミュージカルは、僕自身お客さんとして見るのも好きですし、「やりたいなぁ」と思っていました。この『ポーの一族』というタイトルに参加出来ることになって、ミュージカルが出来ることも嬉しいですし、見ている側だった自分とはまた違うと思うので、課題はたくさんあります。ただ、未知の世界なので、怖いものは何にもないというか、失うものはなにもないな、という気持ちです。
――バレエのレッスンもスタートされているのですよね。
千葉:あ、バレエ(笑)。ちょっと背中が真っ直ぐになった気がしてます。でも、動くとボロが出るかもしれません……(笑)。
――ヴィジュアル撮影で、エドガーとアランに扮した感想と、それを見た感想をお願いします。
明日海:私からでいいんですか?
小池:さぁさぁ(笑)
千葉:ふふ(促す)
明日海:そうですね、ヴィジュアル撮影の前の日に、色々思い出さないとなと思いまして、一通りナンバーを歌ったんです。そしたら、色んな感情が込み上げてきて、1曲歌い切れないぐらいで……あくる日に扮装をしてみて、メイクの感じも髪の毛の感じも今回用に調整したものではあったんですが、「帰ってきたなぁ」という感じでした。そして、千葉さんのアランと対面して、はじめは勿論緊張したんですが、千葉さんがシャッターの切る度に豹変されるのを見て、「流石、映像の世界の人だぁ……」って、オーラというか、その生きている瞬間瞬間がモニターに次々と現わされていくと本当に素敵で。勉強させていただきました(笑)。
千葉:世界観が出来上がったポスターを見て、改めて考えるきっかけになったのですが、撮影の時って今よりもより「なにもはじまっていない」状況だったので、与えられたものをどう表現するかって言う感じで撮影に臨んでいました。恐らくミュージカルがはじまる頃には、また変わってくると思いますし、これから変化を持たせられるように頑張ります!
ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』メインビジュアル
小池:宝塚の作品と言うものは作り込みます。勿論今回の再演も作り込んでいるんですが、作り込みの方向性が違うんですね。宝塚歌劇って歌舞伎と並んで特異な文化だなって思い知らされます。普段は宝塚歌劇を演出しているので、当たり前だと感じていることが、当たり前じゃないんだと気づくんです。勿論、男役であっても明日海りおさんは女性で、でも、男役という生き物なんですよ(笑)。いつも男の子みたいに扱ってるけど、やっぱり女性が男性を演じている。それを思い出します。
そして、千葉君は「カメラに対して何かを演じる」っていう感性がすごい。恐らく、「こういう風に演じるぞ!」って役作りを考え込んで振舞うんではなく、カメラの前でバンバンバンバン、アランを表現して見せるんです。千葉君は昨年歌の先生に一度見てもらったのですが、「すごく声がいい」という風に言っていただいたので、とても楽しみにしています。10年芸能界を走っている千葉君が一緒に走ってくれるんです。これだけ第一線の人が「失うものは何もない」っていうのはすごくないですか!?
千葉:本当にないんです(笑)。
小池:それを言えるってすごいですよ。
――小池先生から見た明日海りおさんとエドガーの似ている点はなんでしょうか?
小池:私が知っている明日海りおというのは宝塚歌劇団の生徒なんですね。その部分でいうと、「孤独が似合う」。孤独が好きかと言ったら好きじゃないんだろうけど(笑)、自分を孤独に追い込むのが好きというか、ストイックなんですよ。好きって言ったら怒られるかな?(笑)生き方、取り組み方がストイックで、その姿がエドガーに似ていると思います。本人もそう言うところに共感するところがあるんじゃないかなって思ったし、恐らく萩尾先生も「これだ!」と思う要素のひとつになったんじゃないかな? 彼女には『孤高のきらめき』があるんです。
明日海:『孤高のきらめき』……(笑)。生きている環境も違うんですが、私も大勢で過ごしていると、無口に、少し離れたところから見渡して、自分のもの想いに耽るというか、考え事をはじめたりするところがあるんです。それが宝塚版でエドガーを演じた時は生きたんじゃないかなって思います。
――明日海さんは『ポーの一族』で好きなナンバーはありましたか?
明日海:なんだろう……プロローグの「ポーの一族」は迫力があって、この物語の象徴みたいで、とてもいいですよね。私が一番好きな曲は一幕のラスト「愛のない世界」で、あれがなくならないことを祈っています(笑)。
――千葉さんとアランにも「似ているな」と感じるところはありますか?
小池:アランってツンデレだよね(笑)。本当の彼のことは、稽古も始まってないから分からないけど、イメージだけで言うと千葉君にもツンデレな空気を感じています。ぴったり!
千葉:ツンデレって言ってもらえたので、じゃあ、「ちょっとは生意気な口をきいてもいいかな?!」って感じではありますけども(笑)、冗談です(笑)。自分ではツンデレかは分からないですけど、心の扉を開いたら、そういう面も……あるのかなぁ?(笑)似ているところはこれから探していければいいなと思います。そういれば、この世界に入って最初にスチール撮影をしてくれたカメラマンさんに「君は目に憂いがあるね」って言われたんですよ。今でも「どういうことなんだろ~」って思ってるんですが、アランを演じる時に役立つといいなぁって思ってます。
――最後にみなさんにメッセージを。
小池:現実の世界と向かい合うのが、バンパネラやエドガー自身の生きざまであるとするのなら、これが今の明日海りお自身であるのかもしれませんね。エドガーはアランを自分の側に連れて行くんですけど、それで言うと「千葉雄大はどこに行けばいいんだ!」(笑)ってなっちゃいますけど、そういう現実の世界と夢の世界が融合した姿をお見せできればと思います。
明日海:私も、新たな共演者のみなさまと、小池先生が新たにどんな演出をされるのか楽しみです。萩尾先生が宝塚初演の初日に観劇くださって「夢のようです」って言ってくださったんですね……みなさんにも『夢の続き』を見ていただけたらなと思っています。是非みなさま……私はプレッシャーが大きい方が燃えるので、是非、期待を膨らませていらしてください。
千葉:『ポーの一族』にはすごく耽美な世界観のイメージがあるんですけども、その中には様々な人の気持ちが渦巻いている人間臭い作品、血の通った作品だなって僕は感じたんです。なので、非現実的な世界観を楽しみつつ、ご覧下さるみなさまの体にもその血が流れたらいいな……と(笑)。がんばります。
ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』は、2021年1月11日(月・祝)~1月26日(火)まで大阪、梅田芸術劇場メインホールにて、2月3日(水)~2月17日(水)東京国際フォーラムホールCにて上演される。
取材・文=森きいこ 撮影=福岡諒祠
公演情報
大阪公演:12月12日(土) 午前10:00~
東京公演:12月19日(土) 午前10:00~
梅田芸術劇場
大阪公演:06-6377-3800 (10:00~18:00)
東京公演:0570-077-039 (10:00~18:00)
※車椅子でご来場のお客様は当日のスムーズなご案内のため、公演前日までに梅田芸術劇場お問い合わせ番号まで、ご連絡ください。