アップリンクと浅井隆氏の元従業員へのパワハラ問題、“和解協議の合意”を双方が報告 原告側は「全ての問題が解決したとも考えておりません」

2020.10.31
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アップリンク公式Twitterより

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映画製作・配給および映画館運営などを行う有限会社アップリンクとその代表・浅井隆氏からのパワーハラスメントを元従業員らが提訴していた問題で、10月30日(金)に浅井氏と原告側それぞれが“和解協議の合意”に至ったことを報告した。

 

アップリンクのパワハラ問題、これまでの経緯

今年6月5日、アップリンクの元従業員ら5名は記者会見を開き、浅井氏とアップリンクを相手どり、これまで受けてきたパワーハラスメントについて提訴することを発表。同時に被害者の会「UPLINK Workers’ Voices Against Harassment」を立ち上げ、声明文を発表した。原告側は、「他の従業員や来場者の面前で理不尽な理由で怒鳴る、『社長の言うことが聞けないのか』等と恫喝する、『おまえは病気である』等の人格を否定した発言をする、時に改善を要望しても『議論する余地はない。会社に残るか去るか』等と半ば強引に退職を促す。こういった浅井氏によるパワーハラスメントが、長期に渡り日常的に行われてきました。これらの行為は『世界を均質化する力に抗う』というアップリンクが掲げるポリシーとは著しく乖離するものです」とパワハラの内容を公表。さらに、同社ベテラン社員らの黙殺についても明かし、「元従業員という外側の立場から、浅井氏のパワーハラスメントによって傷つけられた尊厳の回復を求めるとともに、アップリンクの変革を求めます」と訴えていた。

これを受け、6月16日に浅井氏が声明を発表。「従業員の方々から訴訟を提起されたことに関して、真摯に受け止めております。不適切な言動があったことを深く反省し、謝罪致します。本件の解決に向けて、誠意をもって対応をして参ります。社としてもハラスメントの再発防止に努めていく所存です」と謝罪。6月19日には、「外部委員会の設置」など今後の対応を発表していた。

6月22日には、原告側が再度記者会見を開き、声明を発表。上記の2度にわたる浅井氏の声明について、「私たちの声に耳を傾けることより、形式的な『謝罪』を対外的に示すことを優先させたものでしかありません」と厳しく批判。また、アップリンク側の発表した「今後の対応」が原告側から提案していたものであったことを明かし、「一方的に声明というかたちで公表したのは、浅井氏の発案と誤認させるもので、私たちの提案に対する重大な裏切りでもあります」と指摘した。そして、浅井氏とアップリンク側に「浅井氏およびアップリンクは原告側に対してまず謝罪をおこなうこと」「浅井氏だけが株主という現状を改め、株主が複数となるようにすること。一部は従業員による持株会の保有とすること」「取締役会から独立したアドバイザリーボード(第三者委員会)を設置し、職場環境やコンプライアンス、過去のハラスメントなどについて調査・提言をおこなう権限を与え、取締役会は提言を遵守すること」など6つの提言を行っていた。

 

アップリンクと浅井氏側の“和解協議の合意”報告

浅井氏は、10月30日(金)にアップリンクの公式サイトおよびTwitterなどのSNSで「和解協議に関するご報告」を発表。「6月にお知らせした元従業員の方々に提訴された件について、直接の謝罪の機会を経て、その後、訴訟外での和解協議が合意に至ったことを、これまでアップリンクを支えて下さったお客様、関係者の皆様にご報告します。あらためてこの場でも、今回提訴した元従業員の方々、そして、そのほかの元従業員のみなさん、現在勤務している従業員のみなさんに対して、これまでの私の対応によって傷つけたことを深く謝罪いたします」と報告した。

また、「今回の合意をハラスメントのない会社の仕組みを作るスタートとして捉え、アップリンクに関わるすべての方々が働きやすい職場作りを目指していきます。私だけでなく、アップリンクという組織全体でも徹底していきたく思います」とし、パワハラ再発防止策として、「外部の専門家による相談体制」「通報制度・窓口の設置」「第三者委員会の設置」「社内体制の改革・スタッフとの定期的な協議」「取締役会の設置」「アンガーマネージメントについてのセミナー、カウンセリングへの参加」の6つを約束している。

 

原告側の“和解協議の合意”報告

被害者の会「UPLINK Workers’ Voices Against Harassment」公式サイトより

一方、原告側も10月30日(金)に被害者の会「UPLINK Workers’ Voices Against Harassment」のTwitterおよびFacebookで声明を発表。「アップリンク及びアップリンク取締役社長の浅井隆氏によるパワーハラスメントに対する損害賠償を求めた訴訟について、訴訟外での和解協議が合意に至ったことをここにご報告させていただきます」としながらも、「『和解』という言葉からまるで円満に解決したかのような印象を受けるかもしれません。確かに、本訴訟については合意の成立によって終了となりますが、私たち原告は、「円満」にも、そして「全ての問題が解決した」とも考えておりません」と説明。さらに、浅井氏による直接謝罪の機会が原告側から求めたものであることを明かし、「浅井氏は、原告の私たちの発言を数度にわたって遮り、まるで他人事であるかのように自身の加害行為を分析し、原告の訴えた被害から目を背ける持論を展開しました。また、被害の訴えを『勘違い』であると受け取り方の問題にすり替える発言もありました」と明かしている。

また、原告側は、和解にいたった経緯についても報告。提訴を取り下げた理由を「決して浅井氏及びアップリンク側の謝罪に満足できたわけではありませんでしたが、もし今後もアップリンクという会社が存続し、浅井氏が継続して取締役社長を続けるのであれば、ほんのわずかでもアップリンクに在籍するスタッフの負担が軽減される仕組みをつくることの方が、より意味があると判断したため、裁判で判決をもらうのではなく、下記の点について合意を得ることを優先することにしました」と明かしている。

原告側からのアップリンクへの提案は、以下3点。

・浅井氏は、アップリンクの株式の一部を社外の者に譲渡し、株主が複数になること。取締役会を設置し、取締役のうち最低一名は社外の者とすること。

・取締役会とは別に独立した第三者委員会を設置し、社外の者が委員となり、ハラスメントなど職場環境について調査し、必要に応じて取締役会に提言することができ、取締役会は提言を遵守すること。

・謝罪の場において原告らが浅井氏及びアップリンクに対し述べた書面について、期間限定で各事務所に閲覧用のPCを設置し、スタッフが閲覧できる状態に置き、スタッフにメール等を用いて周知すること。

第三者委員会の人選については、原告側から候補者の提案も行われたとのこと。

なお、原告側は「提訴後の映画関係者の沈黙と二次的加害について」にも言及。「全ての問題が解決した」わけではないとした理由を「アップリンクの対応のみならず、アップリンクと協働関係にある様々な立場の方が労働における人権侵害の問題を軽視しているということに、私たちは直面せざるを得なかったことによるものです」としている。そして、「深刻なパワハラが明らかになってもなお、沈黙を続けるのは何故でしょうか。加害者の私たちの発言を否定したのは何故でしょうか」「尊厳を犠牲にすることを前提とした働き方が日本の映画業界を支えているのだということを、そしてその問題から目を背けたあなたの行動が、時に人を死に追い詰め、誰かの人生を奪っているのだという事に気づいてください」と訴えている。

アップリンクと浅井氏のパワハラ問題については、当事者間で“和解の合意”には至ったもの“解決”はしていない。今後も注視が必要だ。アップリンクと浅井氏、および被害者の会「UPLINK Workers’ Voices Against Harassment」の声明については、それぞれの公式サイト、Twitter、Facebookを確認のこと。

文=藤本 洋輔

公式サイト・SNS情報

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公式サイト:https://www.uplink.co.jp/
 
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