マーベル映画の全作品をポイント解説、フェーズ2は現代のヒーローのあり方がポイント【短期連載〜MCUは全部見るからおもしろい〜Vol.2】
『マーベル・スタジオ/ヒーローたちの世界へ』
マーベル・コミックの人気ヒーローたちを主人公にした実写映画シリーズ「マーベル・シネマティック・ユニバース」(以下、MCU)。2019年公開のシリーズ22作目『アベンジャーズ/エンドゲーム』が、『アバター』(2009年)を抜いて世界歴代興行収入第1位を記録するなど、映画史に残るビッグスタジオとなった。さらに大阪・大丸梅田店では現在、日本初上陸の体感型イベント『マーベル・スタジオ/ヒーローたちの世界へ』が開催されており、好評を集めている。今後も2021年4月29日公開予定『ブラック・ウィドウ』など多数のシリーズ作品が控えているが、今から観始めても追いつけるように、映画評論家・田辺ユウキがMCU全作品をポイント解説。物語に繋がりがあるフェーズ(シーズン)ごとに短期連載する。
★今回のポイント……時代とともにヒーローのあり方は変化する
フェーズ2は、「現代のヒーロー像とは?」を問いかけるような内容が多く、ヒーロー映画としてはいずれも異色のキャラクター設定となっている。時代とともにヒーローのあり方は変化する、ということをMCUは生々しい視点で描いている。
【フェーズ2】
『アイアンマン3』(2013年公開)
『アベンジャーズ』の時点ではアイアンマンのアーマーはマーク7までだったが、トニー・スタークはこの『アイアンマン3』の段階でマーク42まで作り上げている。なぜ彼はアーマーを大量制作したのか。『アベンジャーズ』などでの激闘からくる不眠やパニック障害などの後遺症(PTSD)、今後も迫り来る未知の敵への恐怖。さらに「人は自ら悪魔を作り出す」という冒頭の言葉を象徴とし、1作目の横柄だった頃の自分が原因となって被るテロ組織の逆襲などブーメランな状況。そういったストレスからアーマー制作に頼らざるを得ない中毒状態に陥ったのだ。そこに、『アベンジャーズ』でのヒーローたちの戦いを踏まえた上で、アメリカ政府が議論する「スーパーヒーローに国防を任せて良いのか」という態度も加わる。ヒーローのどん詰まり感が題材である点、さらにスタークが自分自身と向きあうラストなどいずれも異色的。
『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(2013年公開)
『アイアンマン3』のトニー・スタークを見ていると、このフェーズ2は、各キャラクターが個人の問題にどう向き合っていくかが焦点ではないだろうか。だが『マイティ・ソー』シリーズに関してはやや迷走気味で(苦笑)、この2作目は主人公であるソーの味付けが薄いと言わざるを得ない。一方でソーの義弟・ロキの存在が輝きまくる。MCUきってのヴィラン(悪役)として横暴の限りを尽くし、しかし『アベンジャーズ』ではボコボコに負けるなど弱すぎ&クズすぎて逆に憎めなさを発揮したロキ。何度も誰かを裏切ってきた彼が、今作では母・フリッガの死を悲しみ、ソーと手を組む。ただ、ロキの道化はそこに留まらず……。その裏表に翻弄される快感を得ると共に、同シリーズにおけるソーの立ち位置を今一度確認したくなる。
『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014年公開)
本作の副題「ウィンター・ソルジャー」とは、ベトナム帰還兵を意味する言葉だ。『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』を機に再度注目を集めた、1971年開催のベトナム帰還兵の公聴会の記録映像『ウィンター・ソルジャー ベトナム帰還兵の告白』などを観ても分かるが、戦地での経験は兵士たちの内面や人間性を歪めてしまうものだった。ベトナム戦争は正しいと思い込まされていた盲信、現地での残酷な暴力の数々。キャプテン・アメリカもまた、1作目でドイツの爆撃機とともに北極海に沈んで氷漬けとなり、『アベンジャーズ』を経て約70年ぶりに「アメリカへ帰還」を果たす。だが彼は、ベトナム戦争はじめ、冷戦、湾岸戦争、9.11という現代のアメリカにとって重要な期間をすべて眠りのなかで過ごしている。アメリカという国を信じていたキャプテン・アメリカ。そして、自分が経験していない米国史の数々。空白の時間にピントを合わせようとすればするほど、彼の苦しみは深まる。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年公開)
映画ファンとしては、『悪魔の毒々モンスター』シリーズで有名なスタジオ「トロマ・エンターテイメント」出身で、『スリザー』(2006年)、『スーパー!』(2010年)でインディペンデント映画界の雄となったジェームズ・ガン監督がハリウッド大作デビューを果たし、興奮を集めた作品として知られている。世界中の有能な映像作家をリサーチしてオファーする、MARVELのスカウティング能力の高さを象徴している。物語も素晴らしく、出てくるキャラクターがみんな、そこそこ強いがとにかく欠点ばかりで落ちこぼれ、あと気丈に見えて実は傷だらけの思いを背負っているところが良い。凶暴なアライグマ、ロケット・ラクーンも威勢がイイしキャラ的にキャッチーだけど、実は胸が締め付けられるような過去を持っていたり……。惨めで物悲しい境遇を持った者たちの姿を、1970年代の音楽に乗せて描く人生大逆転劇。負けっぱなしなヤツらがいかにしてヒーローになっていくのかの過程に注目。
『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015年公開)
アイアンマンことトニー・スタークが本作で発明するもの、それは平和維持システム「ウルトロン」だ。自分たちでは手に追えない敵の襲来に備えて制作した人工知能なのだが、その「ウルトロン」は人間たちこそが平和を脅かす存在であると判断し、人類抹殺のために暴走する。前作『アベンジャーズ』同様の「フェス映画」。これまでの主要キャラクターが集まりすぎて、物語的にはちょっととりとめがない。最後までそういった課題はクリアできず、映画としてのウィークポイントとなっており、アイアンマンのPTSD問題の悪化、ブラック・ウィドウ(『アイアンマン2』で登場したスカーレット・ヨハンソン演じるスパイ)とハルクのラブストーリーなど、1作品内であれば十分に成立できるドラマも、超大作すぎで平たくなった感あり。それでもアクションのスケールは凄まじい。特に韓国・ソウルの街で繰り広げられる激戦はシリーズ屈指のもの。
『アントマン』(2015年公開)
「ヒーローのあり方」について提議してきたフェーズ2を締めるにふさわしい作品。主人公であるスコット・ラングが、ヒーローの設定としてとてもユニークなのだ。彼は犯罪者を標的にした元窃盗犯であり、結婚を機に一度は足を洗って真面目に仕事を始めるものの、勤め先の不正を告発するためにシステムをハッキングして3年の懲役刑を食らう男(しかも離婚まで)。社会的には犯罪にあたるが、しかしそれが悪意とは言い切れず、ラングの正義がそこにあった。これは「ヒーローなら戦いの際に物を壊しても良いのか」という昔からの矛盾点などにも通じる、正義=ヒーローのあり方についても想起する。さらに、特殊スーツの効果で身体のサイズが縮小するところも重要。1.5センチという等身大以下であっても世界を救おうとするラングとその仲間の奮闘は、MCUのキャラクターのなかでももっとも感情移入しやすいのではないだろうか。ラングの前任者である先代アントマンのハンク・ピムが、アイアンマンのトニー・スタークの父・ハワードらと働いていたという関連性もストーリーとして興味深い。
文=田辺ユウキ