メディアと政治の在り方を問う二兎社『ザ・空気 ver.3』に佐藤B作&金子大地が挑む ~社会派を面白く! 3部作の最後を飾りたい

2020.12.10
インタビュー
舞台

(左から)金子大地、佐藤B作 (撮影:池上夢貢)

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二兎社の「メディアをめぐる空気」シリーズ第3弾にして完結編となる『ザ゙・空気 ver.3 そして彼は去った…』(永井愛 作・演出)に、ベテランの佐藤B作と、フレッシュな金子大地が登場する。政権の介入と圧力が強まる中、萎縮、忖度(そんたく)、自主規制に走るメディアを題材に、現代ニッポンを覆う“空気”と「報道の自由」の危機をリアルにあぶり出し、多方面に衝撃を与えてきたこのシリーズ。今作は第1弾と同じテレビ局に舞台を再び戻し、ニュース番組の制作現場を通じ、政権のメディア支配の実態を描く。佐藤は政権寄りのコメンテーターを務める政治ジャーナリストを、金子はアシスタントディレクターをそれぞれ演じる。「面白い社会派の台本をもっと面白く演じて、最後を飾るにふさわしい作品にしたい」と意気込む2人に、2021年の年明けから開幕する舞台に懸ける思いを聞いた。


 

■毎回勝負できる舞台の面白さ

--2人は初共演だそうですね。きょう、取材をご一緒して、お互いの印象はいかがですか。

佐藤 カッコイイですよね。背は高いし、二枚目だし、さわやかだし。自分もこんな若者の時代があったら良かったなあと思いますね。

金子 「お話をしていると温かい気持ちになる」と、あるカメラマンさんから聞いたことがあるんですが、本当にその通りだなと思います。言葉に説得力がある方。尊敬している大先輩なので、(今回の共演を通じて)これからいろいろなことを吸収していきたいです。

--佐藤さんは1973年に劇団東京ヴォードヴィルショーを結成して、誰もが楽しめる軽喜劇(ヴォードヴィル)を40年以上、上演してきました。その豊富な舞台経験から、2度目の舞台となる金子さんにどんなことを伝えたいですか。

佐藤 やっぱり健康であることが一番。元気で舞台に立つのが大切です。それから辛いシーンでも暗いシーンでもどんなシーンでも、自分の気持ちの中で楽しんで表現すること。楽しむまでには大変な稽古があるわけだけど、最終的に人前で演じるときには、自分が作ってきた演劇を楽しめる気持ちが大事だと思いますね。まあ、毎回芝居は違うし。そこがまた魅力なので。どんな芝居も投げ捨てないで一回一回、一生懸命に取り組むことかな。

--舞台ならではの醍醐味を教えてください。

佐藤 お客さまが目の前にいることが一番大きいですね。日によって反応も、劇場の雰囲気も違うし。それを感じながら演じていくのが面白い。「今日は静かなお客さんだな」と思っていたら、終演には温かい感じの劇場になっているときなんて、「よし! やったぞ」という気持ちになるしね。毎回、真剣勝負できるのが舞台の面白さではないでしょうか。

--金子さんは、ドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)で注目を集め、『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』(NHK)で初主演、2022年放送のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では源頼家役で大河初出演が発表されたばかり。2020年2月に上演された彩の国シェイクスピア・シリーズ第35弾『ヘンリー八世』でも、王の腹心で大司教のトマス・クランマーを演じて初舞台と、快進撃が続いています。2度目の舞台にはどう取り組みたいですか。

金子 今回は『ヘンリー八世』とは全く違う芝居なので、これがスタートという気持ちで臨みたいです。ストレートプレイの現代劇は本当に挑戦してみたかったので、こんなに豪華なキャストの皆さんの中に混じって、一緒に芝居ができるのはすごく光栄です。佐藤さんが今おっしゃっていたように、まずは健康が大事だなと思います。

--コロナ禍の今、尚更、心身の健康を保つ大切さを痛感します。健康法はありますか。

佐藤 毎日おいしいお酒をいただくことです。何でも飲みますけど、やっぱり日本酒かワインかな。年を取ってくると、日本酒がうまいんだよねえ(笑)。「飲めるぞ」「おいしい」とか思えるときは健康なんだなと思えるんです。言い訳になるけど、体調のバロメーターなんですよ(笑)。

--金子さん、お酒はどうですか。

金子 僕も大好きです。ハイボールをよく飲みますね。今は新型コロナウイルスの感染拡大が続いているので難しいかもしれませんが、B作さんとお酒を飲んでみたいです。

佐藤 いいねぇ!(笑)

--金子さんが健康に気をつけていることはありますか。

金子 代謝を上げるために、血の巡りを良くしたいと思って、野菜を多く食べるように心がけています。しょう油ラーメンが大好物ですが、最近は控えるようにしています。


 

■面白い台本を演じる役者は大変

--永井さんには、言葉をめぐるドタバタ劇『ら抜きの殺意』や「君が代」斉唱問題を扱った『歌わせたい男たち』、戦争の記憶を背負う母と息子を描いたホームドラマ『こんにちは、母さん』、樋口一葉の評伝劇『書く女』など、多彩な作品群があります。社会的な骨太のテーマを題材にしつつ、笑いをまぶす永井ワールドを、どう捉えていますか。

佐藤 昔から見させていただいています。うちの劇団、東京ヴォードヴィルショーでも、(2013、15年に)永井さん作の『パパのデモクラシー』(1995年、二兎社初演)をやらせていただきました。喜劇性があって社会性もある永井さんの芝居は、井上ひさしさんの作風と通じるところがあります。2人の世界観はよく似ていますね。井上さんは残念ながら(2010年に)亡くなりましたが、後を継ぐのは、今いる日本の劇作家の中で永井さんだと思います。

--「空気」シリーズの第1作『ザ・空気』(2017年)は、政権の圧力を受けてテレビの報道番組の内容が次々と改変されていく状況を、背筋が凍るような笑いで表現。第2の『ザ・空気 ver.2 誰も書いてはならぬ』(2018年)では、国会記者会館を舞台に、政権と大手メディアの癒着や記者クラブの問題、奮闘するネットメディア記者を、コミカルに描きました。

佐藤 「空気」シリーズの前2作も、もちろんすべて拝見しています。いやあ、面白かったですね。永井さんの劇作家としての一つの完成形だという気がしています。

--シリアスの中におかしみがあり、おかしみの中にシリアスがある。この絶妙なブレンドが永井ワールドの魅力の一つでしょうか。

佐藤 そうなんですよね。そういうことを分かった上で演じなければいけない。読んでも面白い台本は、上演したらもっと面白くしないといけないから、役者の方は大変ですよ(笑)。

--長年、喜劇を追求してきた佐藤さんならではのお言葉ですね。金子さんはこれまでの「空気」シリーズを、どうご覧になりましたか。

金子 一見、ちょっと難しい内容に思えるのですが、面白くて分かりやすくて、あっという間に観終わりました。独特のテンポ、空気感がありますよね。毎回、テイストも違っていて。今回も新しい空気を出せたらと思います。

--佐藤さん演じる政権寄りのコメンテーターである政治ジャーナリスト・横松輝夫は、佐藤さんと同じ福島県出身の設定です。

佐藤 台本を何度も読ませてもらって、横松という役になり切れるかが大事ですね。ニュース番組は好きでよく見ていますよ。社会派が好きなんで。

--金子さんはアシスタントディレクターの袋川翔平を演じます。どんな風を吹き込みたいですか。

金子 今どきの若者で、きっと僕に近いところがある役だと思うので、そこをちゃんとつなげて演じたいです。


 

■日本の“空気”は悪くなっている

--第1作が上演されたのが、2017年1月。それからちょうど4年後の2021年1月に、『ザ・空気 ver.3』が上演される予定です。その間に現実では、安倍晋三首相が辞職し、官房長官だった菅義偉首相が政権を引き継ぎました。菅政権といえば、日本学術会議の会員任命拒否問題に見られるように、強権的な体質が露わになってきました。コロナ禍では、“自粛警察”なるものが登場しました。日本社会の“空気”はどう変わったと感じていますか。

佐藤 良くないですよね。どんどん悪くなっている気がします。国家や警察の権力が強すぎた昔の時代へ、知らず知らずのうちに向かっているんじゃないかな。もちろん、暴力的な弾圧は今ないけれど、強制させるような“空気”、同調圧力が強くなっていると感じています。

--金子さんは「空気を読む」ことはよくありましたか。

 金子 小さいころから空気は読んできた方だと思います。でも、こういう仕事をさせていただいてから、自分というものを少しずつ出せるようになってきました。僕はまだその途中ですが。今年は本当にいろいろあって、大きくみると悪い空気にばかり目が向いてしまいます。でも、だからこそ、身近な人たちにはちょっとでも愛情を伝えていきたいと思っています。

--温かい“空気”を作っていきたいですよね。さて、『ザ・空気 ver.3』でも、テーマは重いかもしれませんが、リアルな時事ネタを風刺した面白い作品に仕上がるのではないでしょうか。

佐藤 そう、そこが永井さんの作品の魅力だし、劇作家としての力量だよね。

--おふたりの他の配役は、政権に批判的な姿勢を取るニュース番組のチーフプロデューサーに神野三鈴さん、チーフディレクターに和田正人さん、サブキャスターに韓英恵さん。多彩な顔触れです。

佐藤 皆さんとは初めての共演なので、本当に楽しみです。そのためにちゃんと準備をしなくては、と思います。

-- 『ザ・空気 ver.3』は、高い評価を受けてきた「空気」シリーズという一つの大きな物語を締めくくる役割も担っています。

金子 素敵な舞台になるのは間違いないと信じていますし、そうなるように頑張りたいです。シリーズ完結となると、皆さんの思うところは一緒なのではと思います。初めてのストレートプレイの現代劇で、一番楽しみにしていた仕事の一つ。身を委ねて、すべてを吸収したいです。若造なので一番元気に頑張ろうと思います。

佐藤 いやあ、大役だよね。これまで素晴らしい舞台を作り上げてきたのは、スタッフやキャストの皆さんのお力のたまもの。『ザ・空気 ver.3』も前2作に負けないように、最後を飾るにふさわしい作品にしたいです。お酒を飲んでる場合じゃないね(笑)。


取材・文:鳩羽風子
写真撮影:池上夢貢
ヘアメイク:吉田太郎
スタイリスト:九(Yolken)

 

公演情報

二兎社『ザ・空気 ver.3』
 
■会場:東京芸術劇場 シアターイースト
■日程:2021年1月8日(金)~ 31日(日)全28ステージ
■前売開始:2020年12月12日 ( 土 )
■料金(全席指定・税込):一般6,000円、25歳以下割引3,000円(枚数限定。要証明書。二兎社、東京芸術劇場ボックスオフィス、ぴあにて取扱)、高校生以下1,000円(枚数限定。要学生証。二兎社、東京芸術劇場ボックスオフィスにて取扱)

■作・演出:永井愛
■出演:佐藤B作 和田正人 韓英恵 金子大地 神野三鈴
■美術:大田 創
■照明:中川隆一
■音響:市来邦比古
■音楽:礒﨑祥吾
■衣裳:竹原典子
■ヘアメイク:清水美穂
■演出助手:白坂恵都子
■舞台監督:澁谷壽久

 
■宣伝美術:永瀬祐一( BATDESIGN inc. )
■宣伝写真:西村淳
■宣伝ヘアメイク:COCO( 関川事務所 )
■ホームページ:宇田敦子( 動画まわり )

 
■票券:熊谷由子
■制作協力:持田有美 畑中あゆみ( NAPPOS UNITED )
■制作:安藤ゆか 弘雅美

 
■共催:公益財団法人 東京都歴史文化財団 東京芸術劇場
■助成:芸術文化振興基金
■企画・制作:二兎社 TEL 03-3991-8872 ( 平日10:00〜18:00 )
■公式サイト:http://www.nitosha.net/nitosha44/

 
【全国ツアー】
2021年2月4日〜3月7日 ※ 問い合わせ・申込みは、各会場まで。
2月 4日(木)福岡 北九州芸術劇場
2月 7日(日)滋賀 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
2月11日(木・祝)埼玉 富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ
2月13日(土)・14日(日)岩手 盛岡劇場
2月20日(土)・21日(日)愛知 穂の国とよはし芸術劇場PLAT
2月25日(木)兵庫 兵庫県立芸術文化センター
2月27日(土)愛知 長久手市文化の家
3月 5日(金)山形 東ソーアリーナ
3月 7日(日)山形 川西町フレンドリープラザ
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