小池博史ブリッジプロジェクト『幻祭前夜 -マハーバーラタより』が凄いらしい
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小池博史ブリッジプロジェクト『幻祭前夜 -マハーバーラタより』
小池博史ブリッジプロジェクト『幻祭前夜 -マハーバーラタより』が、12月8日より吉祥寺シアターで上演されている(12月16日まで)。すでにネット上などで評判の声が飛び交っている。
小池博史は、1982年から「パパ・タラフマラ」を主宰、ほぼ全ての作品の作・演出をおこなってきた。演劇・ダンス・美術・音楽などを舞台芸術の諸要素を融合させたジャンル横断的・越境的なスタイルを特長とし、これらを以て初期においては「パフォーマンス」ムーヴメントの旗手と称され、また中期以降は「タンツテアター(ダンスシアター)」「トータルシアター」の担い手として日本国内はもとより海外でも高い評価を得て来た。しかし2012年には「パパ・タラフマラ」を解散、その後は個人プロジェクト「小池博史ブリッジプロジェクト」へと活動拠点を移行させ、現在に至っている。
かねてより「異文化」や「多文化」を強く意識し、数々の国際共同制作を経験してきた小池であったが、2013年より「汎アジア計画」という国際共同プロジェクトを立ち上げた。それは、インドを発祥とする古代叙事詩『マハーバーラタ』の全篇をアジア諸国のアーティストたちと共に8年をかけて舞台作品化するという壮大な計画だ。
小池博史ブリッジプロジェクト『幻祭前夜 -マハーバーラタより』
『マハーバーラタ』とは、世界三大叙事詩の一つであり、ヒンドゥー教の聖典でもある。一族が興り、内部紛争を経て、最終的にはその勝者までもが滅亡の道を辿り、完全に一族が滅亡するまでを描いた、ドラマ性もスケールも何から何まで「凄い」物語。豊かさのギッシリと詰まったこの作品世界に対して、実は昨今、注目度がきわめて高い。つい先日、日本公演がおこなれたピーター・ブルックの「バトルフィールド」も『マハーバーラタ』だった。ブルックはかつて9時間にもおよぶ『マハーバーラタ』も上演している。また、宮城聰の演出によるSPAC『マハーバーラタ~ナラ王の冒険~』の話題も記憶に新しいところだ。
しかし、なんといっても『マハーバーラタ』の演劇として最もよく知られているのは、バリ島の影絵芝居であろう。夜中に長時間かけて上演されるが、これを観光で見た人も少なくはないだろう。そういえば「パパ・タラフマラ」の名の由来となった『タラフマラ』を著したのは、20世紀初頭の演劇作家アントナン・アルトーだが、彼は或る時バリ島の演劇に刺戟されたことをきっかけに、台詞=理性主導型の西洋演劇を徹底的に批判し、音楽や舞踊など祝祭的感覚が溢れた東洋演劇を大いに称賛するようになった。要は演劇というもの、頭でっかちな理屈でとらえるのではなく、もっと五官や身体全体で受け止めて熱狂的に楽しんでしまおう、ということだ。そこから演劇の新たな効能が見出されて来るのだと。
そう思うと、小池が『マハーバーラタ』に辿りついたのも、とどのつまりアルトーのヴィジョンに寄り添うものであったと見ていいのではないか(前述のブルックもアルトー思想の流れを汲む演出家だが、ブルックと小池を精神的近親者と見なすこともあながち間違いではあるまい)。
小池は『マハーバーラタ』について「東南アジア、南アジアでは社会を構成する哲学的思想基盤として最も重要なもの」と“深み”の面も強調する。そこには、西洋型資本主義の行き詰まりがいよいよ明らかになってきた現代社会が必要とする次なるアジア的思考のヒントが満ち溢れている、と示唆している。
小池博史ブリッジプロジェクト『幻祭前夜 -マハーバーラタより』
小池のプロジェクトでは、2013年のカンボジア滞在制作&公演を皮切りに、ベトナム公演ツアー、2014年インド滞在制作&公演ツアー、その後マレーシア、インドネシアツアーを行い、『マハーバーラタ』の本場となる国々で熱狂的に迎えられたという。そして2015年、バンコクでプレミア公演を行った後、上海、マニラのツアーを経て、遂に東京公演まで漕ぎ着けたのである。その舞台空間はアジア諸国から様々なアーティストが集結して作り出されたもの。それは考えるだけで、新鮮かつ面白く楽しそうだ。
とはいえ、「そもそも『マハーバーラタ』がよくわからん」という日本人も多いはず。それだけで“食わず嫌い”のまま、この豊穣の世界に無縁でいるとしたら余りに勿体無さ過ぎる。ということで、小池のプロジェクトは親切無比にも、次のような入門的なコンテンツを事前ガイドとして用意している。
★4コマ漫画~10秒でわかるマハーバーラタ
「すげぇよバラタさんたち」(作:やまうちさん)
http://kikh.com/mahabharata/manga/
★新人演出助手「まつりか」がいく!
「あの、マハーバーラタって、なんですか?」
http://kikh.com/mahabharata/what/
★マハーバーラタ登場キャラクター相関図
http://kikh.com/mahabharata/familytree/
これらをフル活用して、多国籍を超越しながら「新たなアジア」が表出する奇跡の瞬間を吉祥寺シアターで体感してみようではないか!
■期間:2015/12/8(火)~2015/12/16(水)
■会場:吉祥寺シアター (東京都)
■作・演出:小池博史
■出演:
松島誠
白井さち子
小谷野哲郎
あらた真生
土屋悠太郎
谷口界
吉澤慎吾
スノン・ワラカーン
リー・スイキョン
■演奏:下町兄弟(ジャンベ、パーカッション)
■公式サイト:http://kikh.com/mahabharata/