マーベル映画の全作品をポイント解説、フェーズ3は「ヒーローが戦闘時に街を壊す問題」が浮上【短期連載〜MCUは全部見るからおもしろい〜Vol.3】
『マーベル・スタジオ/ヒーローたちの世界へ』
マーベル・コミックの人気ヒーローたちを主人公にした実写映画シリーズ「マーベル・シネマティック・ユニバース」(以下、MCU)。2019年公開のシリーズ22作目『アベンジャーズ/エンドゲーム』が、『アバター』(2009年)を抜いて世界歴代興行収入第1位を記録するなど、映画史に残るビッグヒットとなった。さらに大阪・大丸梅田店では現在、日本初上陸の体感型イベント『マーベル・スタジオ/ヒーローたちの世界へ』が開催されており、好評を集めている。今後も2021年4月29日公開予定『ブラック・ウィドウ』など多数のシリーズ作品が控えているが、今から観始めても追いつけるように、映画評論家・田辺ユウキがMCU全作品をポイント解説。物語に繋がりがあるフェーズ(シーズン)ごとに短期連載する。
★今回のポイント……時代とともにヒーローのあり方は変化する
フェーズ3は全部で11作。今回は、2016年、2017年に公開された5作品を紹介する。『ドクター・ストレンジ』シリーズがあらたに加わり、「ヒーローが正義のために戦うことによる破壊という犠牲」についての解釈を投げかけるなど、MCUとしても重要なターンとなっている。
【フェーズ3・前編】
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年公開)
フェーズ3の幕開けとなる同作で、「ヒーローとは?」を問う大きな決定が成される。国連の管理下にアベンジャーズを置くという「ソコヴィア協定」だ。これによりヒーローとしての行動が制限され、活動の際には許可を要することになる。『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』で繰り広げられた激闘は、人的・物的にも甚大な被害が及び、結果的にソコヴィアという国が消滅してしまった。アイアンマンは、当時の戦いで命を落とした少年の存在に心を痛めて協定に賛同。一方のキャプテン・アメリカは協定を不服として署名拒否。そのため、両者を中心とした「シビル・ウォー(内戦)」が起きてしまう。公開年の2016年は、ドナルド・トランプがアメリカ合衆国大統領選挙への立候補を表明したタイミング。「米国とメキシコの国境に壁を作る」といった発言は物議を醸し、まさにアメリカは賛成派と反対派で二分。そういった現実社会とのリンクを感じさせながら、立場が違えば「正義」の捉え方も変わることをあらわし、そして世界を救うための街の破壊や一般市民の命の犠牲に関する疑問を投げかける。
『ドクター・ストレンジ』(2016年公開)
天才的な脳外科医でありながら、名声に繋がらない手術は自分でメスをふるわない傲慢なドクター・ストレンジ。地位、名誉を手に入れた男が、交通事故で両手の神経を損傷。治療法を探すうちに、チベットの魔術へとたどりついていく。ドクター・ストレンジが身につけるのは、街などの空間を歪めたり、時間を巻き戻したり、物体や重力を変化させたりできる魔術。そして悪と対峙するヒーローとなったとき、彼はドクターであることにこだわり、戦闘によって破壊された場所、ものを修復=治療していく。フェーズ2で問題提起され、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でも議題の中心にあがった、「ヒーローが世界を守るために戦った代償としての破壊被害」に対する、ひとつの回答を示していくのだ。また、ヴィラン(悪役)である暗黒次元の支配者・ドルマムゥとの対決で、何度叩きのめされても時間を巻き戻す能力を使ってしつこく挑み続けるところは、これまでのMCUのキャラクターとは違う結末を迎える。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017年公開)
MCUの作品のなかでも傑作ではないだろうか。まずオープニングの戦闘シーンが素晴らしい。ガーディアンズの仲間たちが必死に戦っているにも関わらず、木の種族・グルートはノリノリでダンスをするなど可愛らしくも役立たずな行動で好き勝手に振る舞い、カメラもそんなグルートばかり追いかける。ジェームズ・ガン監督はやはりキャラクターの役割を際立たせ、愛着たっぷりに描くのが抜群にうまい。主人公のピーター・クイル(=スターロード)は、実の父親を名乗る男・エゴと出会ってアイデンティティと向き合うことになり迷走。かつて自分を地球からさらい、義理の息子として育てた海賊・ヨンドゥとの間で「親子関係」について揺れ動く。ガーディアンズの一員である緑色のガモーラは、妹・ネビュラに過剰な嫉妬を向けられて殺し合いの姉妹喧嘩を展開。ただ、ネビュラも父親にまつわる悲しい過去を背負っていて……。「血の繋がり」を物語の軸とし、ガーディアンズ内の関係性を疑似家族的に映し出し、血縁以上に絆がかたい仲間としての結びつきで困難を乗り越えていく様が感動的。アクション時の構図、人物相関図がお見事。
『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年公開)
サム・ライミ監督による『スパイダーマン』3作、マーク・ウェブ監督の『アメイジング・スパイダーマン』2作を経て、スパイダーマンがMCUに初めて降臨したのが『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』。同作予告編で、本物のアイアンマン、キャプテン・アメリカに興奮してスマホで自撮りしていた様子が笑いを誘ったが、本編でも「ソコヴィア協定」でアベンジャーズが内部分裂したときに軽口を叩いていたほど、初々しかった。『スパイダーマン:ホームカミング』は、そんな駆け出しヒーローの青春ドラマとなっている。特におもしろいのが、アベンジャーズ入りを夢見るも、15歳という若さもあってそもそも自分自身がヒーローになるためのヒストリーが薄く、また地球侵略を目論む巨悪もやってこないため、結局自ら悪者を探してそれを正そうとするところ。その正義が空回りする部分がこれまたイタい。部活のようにヒーロー活動に打ち込むスパイダーマンの姿が新鮮なれば、敵のヴァルチャーもまたMCUのヴィランとして新味。『スパイダーマン』シリーズ最高のリブート。
『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年公開)
2020年に公開された『ジョジョ・ラビット』は、ナチスを題材にした映画のなかでも素晴らしい傑作だったが、そのメガホンをとったのがこの『マイティ・ソー バトルロイヤル』の監督でもあるタイカ・ワイティティだ。シリアスで重厚さをウリにした『マイティ・ソー』前2作の路線から大きく外れた意外性溢れるシリーズ3作目は、タイカ・ワイティティ監督の『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』(2014年)の流れもくんだような奇妙な笑いも交えられたギャグ映画。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズの好評を受けて、舵を大きく切ったのではないだろうか。邪悪な姉・ヘラに、武器であるムジョルニアを破壊され、宇宙の果てまで飛ばされるソー……といった物語展開も、アクション映画的ではなく、踏んだり蹴ったりの転落人生コメディといった風情。弟・ロキとの漫才みたいな掛け合いや、前作『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』のセルフパロディもある。一方で、ソーの出身地である神々の国・アスガルドについてのエピソードは、アメリカという国への皮肉が込められており、社会風刺も効いている。
文=田辺ユウキ
イベント情報
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