「詩になる直前」の言葉と出会い、自分だけの詩を発見する『最果タヒ展』レポート
-
ポスト -
シェア - 送る
『最果タヒ展 われわれはこの距離を守るべく生まれた、夜のために在る6等星なのです。』 《詩になる直前の、渋谷パルコは。》展示風景
2020年12月4日(金)から12月20日(日)まで、渋谷パルコ・4Fのパルコミュージアムトーキョーにて、『最果タヒ展 われわれはこの距離を守るべく生まれた、夜のために在る6等星なのです。』が開催されている。21歳で第13回中原中也賞を受賞して以来、詩集の映画化、作詞提供、小説の執筆など、ボーダーレスに活躍している最果タヒ。今回開催されるのは“詩の展示”で、会場にあるのは「詩になる直前」の言葉であり、空間全体で“詩”を体感するインスタレーションだ。以下、注目度の高い現代詩人による、体感型の“詩の展示”の見どころを紹介しよう。
本展オリジナルミニ本「6等星の詩」(非売品)。※限定枚数販売の為、なくなり次第終了。 ミニ本付きチケットにて一冊選ぶことができる。
スマートフォンの画面や壁面に浮かんでは消える文字
詩が生まれる瞬間に立ち会う
最果タヒの創作の原点はウェブ日記(ブログ)で、インターネットとともに育ち、今もスマートフォンを使って創作しているという。《詩っぴつ中》では、スマートフォンの画面で文章が綴られていく様子を見ることができる。こちらは作者が詩を書く過程をキャプチャ録画した映像作品。スマートフォンの液晶には一部にヒビが入っており、使っていた痕跡も感じられる。操作する人は不在だが、画面では文字が選択され、漢字に変換されて言葉となり、鑑賞者は詩が生まれる瞬間を目の当たりにする。
《詩っぴつ中》。詩作の様子を目の当たりにできる。
壁に文が投影されている《いまなん詩?「詩句ハック」シリーズより》においては、時間とともに文字の一部が切り替わっていく。言葉と意味が流動的に変化していくさまは、さまざまなスピードで切り替わるインターネットのSNSや、LINEやチャットのやりとりのリズムを思わせる。
《いまなん詩?「詩句ハック」シリーズより》映像を見つめていると……
《いまなん詩?「詩句ハック」シリーズより》言葉が時間とともに切り替わっていく。
体を動かして味わう言葉
身体感覚を使ってキャッチできる作品
たとえば本を読むとき、紙の上に印刷された文字を目で追う形になる。しかし本展では、鑑賞時に使うのは視覚に留まらない。《ループする詩》においては、円形のシートの内側に詩が書かれており、すべての文字を見るためには作品の中に入ってぐるりと見渡す形になる。詩は円環状になっているが、自分の視界に見えてきた、言葉の一部だけでも楽しむことができる。
《ループする詩》。大小さまざまな《ループする詩》があり、いずれも中に入って鑑賞できる。
《詩と身体》は立体物に文字が書かれており、屈んだり首を傾けたりして言葉を見つけるようになっている。ジャングルジムで戯れているような遊びの記憶が蘇るとともに、詩を味わうことは身体感覚を駆使することでもあると実感する作品だ。
《詩と身体》
タイトルを含む本の背表紙を一行とし、本棚ごとに一篇の詩になっている《詩ょ棚》。ここにある本は、星を示すものには青、恋愛を示す本には赤が使われているものがあるなど、色と言葉の連想を楽しむことができる。またこの空間にある丸い椅子のインスタレーション《座れる詩》は、座ると詩の朗読が小さく聞こえてくる。本展は、身体と感覚をフルに使うとより堪能できる内容といえよう。
《詩ょ棚》展示風景
《詩ょ棚》。映画化された詩集『夜空はいつでも最高密度の空色だ』中の一篇「青色の詩」が本棚になっている。
《座れる詩》
自分だけの詩が見つかる場所
鏡に反響する言葉の空間に迷い込む
本展で最も広い空間《詩になる直前の、渋谷パルコは。》では、白黒のモビールに記載されたさまざまな言葉が揺らめいており、夜空に瞬く星々のようだ。ここにある「詩になる直前の言葉」たちは、会場がある渋谷パルコに関わるものや、この場所に来るまでの道のりを想像させるもの、鑑賞者の日常にありがちなことなど、身近な言葉が入り混じっている。鑑賞者は、自分の心に引っかかる詩を見つけることができるだろう。
《詩になる直前の、渋谷パルコは。》展示風景
奥の壁には鏡があり、無数のモビールや数々の言葉、鑑賞者たちの姿が写りこんでいる。実体と映像、現実と虚構の境界が曖昧になり、同じ言葉や画像がコピー&ペーストで複製されるインターネットの、無限に広がる空間に迷い込んだような感覚に陥る。
鑑賞者が多数の展示から言葉を選び取る行為は、現代において無数の候補の中から選択を行っていく生き方を連想させる。同時に言葉たちは発見されるのをじっと待っているようでもあり、発言や行動において慎重にならざるを得ない今の状況を示していると見なすこともできるだろう。
一方でこの空間では、あまり深く考えずに感覚任せになって、たまたま目に飛び込んできた言葉をつなぎ合わせても面白い。この会場に来たのも恐らくさまざまな偶然が働いており、偶発性に身を任せることができるのもこの展示の魅力なのだと思う。
《詩になる直前の、渋谷パルコは。》展示風景
近年は詩にまつわる展覧会が増えている。中でも最果タヒは最新鋭の現代詩人であり、時代を体現しているアーティストの一人だ。会場にあふれる言葉は今のこの瞬間を投影しており、来場した人は自分に刺さる言葉をつかみ取れる。鋭い言葉の放つ瞬発力はインスタレーションの強度を増大させており、忘れられない経験になるだろう。今の自分にしか味わうことができない『最果タヒ展 われわれはこの距離を守るべく生まれた、夜のために在る6等星なのです。』は、12月20日(日)まで、渋谷パルコにて開催中。その後、名古屋パルコ、心斎橋パルコへと巡回する予定。是非見逃さずに足を運んでいただきたい。
会場風景
物販コーナー
文・撮影=中野昭子
展覧会情報
≪東京≫
2020年12月4日(金)~12月20日(日) 11:00~21:00
名古屋PARCO 西館6階 パルコギャラリー
2021年2月13日(土)~2月28日(日)
心斎橋PARCO 14階 パルコイベントホール
2021年3月5日(金)~3月21日(日)
主催:キョードー大阪/PARCO
企画・製作:キョードー大阪
協力:sou nice publishing
URL:https://iesot6.com/