阿部史典インタビュー ストロングスタイルプロレス12・17後楽園 “やりすぎくらいがちょうどいい”イズムで2度目の参戦、ケンドー・カシンと予測不可能な一騎打ち! 「読めないからこそ、逆に楽しみです!」

インタビュー
スポーツ
2020.12.14

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藤田和之vsスーパー・タイガーのレジェンド選手権試合、船木誠勝vsアレクサンダー大塚の初シングルマッチなど、注目カードが揃い踏みのストロングスタイルプロレス12・17後楽園ホール大会にあって、もっとも予想が難しいのが、ケンドー・カシンと阿部史典の初遭遇である。僧侶の資格を持つ異色のレスラーは、澤宗紀さんの「やりすぎくらいがちょうどいい」イズムを受け継ぐ破天荒さが持ち味だ。物怖じしない闘いぶりは、レジェンドが揃うこのリングにおいてある意味最大級の注目選手でもある。果たして、阿部史典はどんな心構えで初代タイガーマスクのリングに上がり、カシンと対峙するつもりなのか。12・17後楽園を前に、話を聞いた。

<シングルマッチ30分1本勝負>
ケンドー・カシン(はぐれIGFインターナショナル)
vs 
阿部史典 (プロレスリングBASARA)

――阿部選手は、とにかく異色な経歴の持ち主ですよね。

「確かにそうだなと思います」

――僧侶の資格を持っていると。

「はい。いまもときどき」

――お坊さんだった阿部選手が、なぜプロレスラーに。

「母親の弟、僕の叔父が僧侶なんです。つまり、母親がお寺の家系なんですよ。ボクはふつうの家の生まれで、小さい頃から(アメリカン)プロレスが好きになり、小学生くらいでスネークピットに入ったんですよ」

――小学生がスネークピットで練習を?

「そうなんですよ。小6くらいからですね。その頃にはすでにデビュー前の鈴木(秀樹)さんもいて。定アキラ選手もいましたね。ボクはそこにプロレスのリングがあるから練習に行ったんです。バズソーキックとかを教わりたかったんですよ。でも、UWFとかは別に知らなくて。その頃って、練習後にするプロレスごっこがすごく楽しかったんですね。

――スネークピットの練習の後にプロレスごっこをしていた?

「そうなんです。そっちの方がすごく楽しくかったんですよ。あと、練習中に出てくるスモールパッケージとか、プロレスで知ってる技がキャッチ・アズ・キャッチ・キャンの練習で出てくると楽しくて。ボクはプロレスラーになりたかったんですけど、ガリガリで細かったので、これは無理だなとなって、中3、高1くらいでやめたんです。その後、ちょっとふざけたことが好きで正規の道とははずれた方に行ってしまい、18歳くらいの頃どうしようもなかったんですね。なので、母親の方から一回手に職を持てということを言われまして、それでお寺に行ったんです。まあ、一回くらい母親の言うことを聞いておくか、みたいな感じで、2、3年くらい京都に行ったんですよ。泊まり込みの練習生みたいなことしてました」

――僧侶の修行、ということですか。

「ええ、プロレスで言えば。育成機関みたいな感じで修行していたんです。2、3年くらいやっていたんですけど、最後の方にはほかの修行僧もやめてしまって、自分ひとりになったんですね。それでも、けっこうこなせるようになりました。と同時に、そういえば自分はプロレスラーになりたかったんだなと思うようになって。格闘技とかは好きだったので、細く長く練習は続けていたんです。そして夜に自由時間がほしいということを言いまして、僧侶の修行をしながら格闘技ジムに行かせてもらって、そちらの練習もしたんですね。畳の上でスクワットしたり、ソバットしたりもしていました。そんな頃、スネークピットに出稽古に来ていた澤(宗紀)さんに偶然会ったんです。そこからボクは澤さんが所属していたバトラーツや、参戦していたゼロワンとかにものすごく惹かれていきました。澤さんとはよく一緒に遊んでもらっていて、ある日、澤さんからから『プロレスやりたいの?』と聞かれたんです。そのとき『プロレス見に来なよ』と言われて、初めて日本のプロレスを(ライブで)見たんです。そしたらこの激しさはなんなんだろうと思って、ますます好きになっちゃったんですね。でもちょうどその頃、修行期間を終えて愛知県のお寺で働き始めたんですよ。そこにちょうど、バトラーツで一番最後にデビューしたタケシマ選手が名古屋にいたんです。デビューしてしばらくしたらバトラーツはなくなってしまったんですけど、そいつが名古屋のスポルティーバにいると言われて、ボクはスポルティーバってバトラーツなのかって勝手に勘違いしてしまったんですね(笑)。それでスポルティーバに入って(プロレス)デビューしたんです」

――なるほど。阿部選手の試合を見ていると、澤さんの試合ぶりを思い出すんですよね。

「いやあ、ボクはもう澤さんありきなので」

――「やりすぎくらいがちょうどいい」イズムを受け継いでいますよね。

「ハイ、そう言ってもらえるのはありがたいですね」

――本当にそこは伝わってきます。無意識のうちで出るものですか、それとも意識して澤イズムを表現している?

「中学くらいから好きだったので(自然に身についている)。とくに自分がやりたいプロレスというのがバチバチというものだったりというのもありますね。でも、世間で言われるバチバチよりか、バチバチってもっと深いものだったりしたんですよ。ボク、石川(雄規)さんのいるカナダに1ヶ月ほど練習しに行ったんですね」

――石川選手のいるカナダに練習に行った?

「ええ、カナダにも行きました。で、石川さんが酒飲みながら、『阿部なあ、バチバチっていうのはな、相手の向こう側にいる世間を殴ることだ』とか言ってるんですよ。なに言ってるか当時の自分にはサッパリわからなくて(笑)。いまも “まだ” 全然わからないんですけど、いまの時代に合ったいまの時代のものを、そういう気持ちを少しでも理解しようとしながら、自分なりに作るのが自分のやりたいことなのかな、という感覚で理解していますね」

――そのスタイルをベースにしながらプロレスを探求している感覚ですか。

「そうです、そうです。むかしのものをやってもたぶんおもしろくはないと思うので」

――阿部選手の試合を見ていると打撃のキレもいいし、コミカルなこともこなしますし、すごく幅が広いですよね。

「もともと愛知県(のローカル団体)から出てきているので、もらった仕事でいろんなことを見せたいと思うんですよね。その根本でバチバチを求めている。そこが大事で。あとはTバックはいたり、ふざけたことをしたりするのも自分の大切なプロレスなんですよ(笑)」

――なるほど。ところで、11・9神田明神ホールでストロングスタイルプロレスに初参戦しました。船木誠勝&伊藤崇文組vs鈴木秀樹&阿部史典組というカードでした。

「初参戦ですごい素敵なカードに入れていただいたなって。そもそも鈴木さんは小6くらいから知っていて、近所のよく遊んでくれるお兄ちゃんみたいな感覚でいたんです。そこからプロレス界に入って”バサラ”の後楽園メインでシングルしたこともありますし、前回はタッグを組んだ。練習もいまでも見てもらいますし、不思議な縁がありますよね。しかもそのときの相手が船木さんですよね。いまを生きる歴史の標本と闘った感覚です。もちろん過去だけではなく現在進行形の歴史上の人物、リビングレジェンドと闘っている感じでした。リビングレジェンド。まだまだ全然敵いませんでした」

――タッグを組んでいた日高郁人選手の推薦でストロングスタイルプロレスのリングに上がったそうですが。

「そうです。日高さんもけっこうボクからしたらリビングレジェンドみたいな感覚なんです。それこそ澤さんと組んでて、そのパートナーがやめたら、それを見ていたボクが出てきてタッグを組むようになった。日高さんって、むかしと比べても顔も変わらず動きも変わらず、ボクと同じテンションで闘えるんですよ。日高さんってすごいんでしょうね。やめるよりも、続けることってすごいことじゃないですか。続けて、しかも変わらない日高さんって一番すごいと思う」

――なにげにキャリア長いですからね。

「そうですよね。キャリアにすがったことをしたがらないイメージもあるので、すごい尊敬しますね。でも、むかしは、めっちゃキライだったんですけどね(笑)」

――え、なぜ?

「バトラーツを見てるときはキライでした(笑)。要は、日高さんってバトラーツに染まらないような試合をしていたんですよ。たとえばロープに走ったりとか。こっちからしたら、早く殴って蹴れよ、みたいな」

――バチバチファイトしろよ、と?

「そうそう。わかりやすく言うとバチバチをやれよと。でも、バチバチの中で日高さんは異質だったんですよ。いま思うと、日高さんって全部できるし、あえてやっていなかったというのをいまになるとわかるんです」

――必要なとき以外はあえて出さないと。

「そうです。やったところでほかのみんなと同じだからやらなかったということじゃないですか。いまも一緒に練習したりするんですけど、マジですごいなと思いますね」

――そのすごさがいまでは理解できると。

「理解できます、ホントに」

――リビングレジェンドと言えば、ストロングスタイルプロレスとは初代タイガーマスク選手が主宰するリングです。ただ、初代タイガーマスクをリアルタイムでは知らない世代ですよね。

「知らないです。ボクらの世代って、初期パンクラスとかUWFとかの映像を単体で見るんですよ。だから時間軸がわからない。ふたつ見たとしたらどっちが先?みたいな。ネットで調べてやっとわかる。試合のおこなわれた時間軸がわからないんですよね。ボクら世代って過去の映像をYou Tubeで見たりするじゃないですか。それを見てから時間軸を整理するんですよ」

――そういったなかで初代タイガーマスクの映像も見たと。

「ハイ、もちろん見ました。ありきたりの言い方になるんですけど、やっぱりすごいですよね。ああいう時代にああいう選手っていない。ホントすごいですよね。ありきたりの軽い言葉しか出てこないんですけど、とにかくすごい。佐山(サトル=初代タイガーマスク)さんってすごいです。こんな自分が言ってしまっていいのかと思うくらい。佐山さんと言ってる自分が怖いですもん(苦笑)」

――名前を出すのもおこがましいと。

「恐れ多いです、ホントに(苦笑)」

――そのリングに連続参戦することになって、いかがですか。

「光栄です。ホントに光栄です。興奮します」

――今回、12・17後楽園ではシングルマッチ、しかもケンドー・カシン選手との対戦になります。初遭遇になりますよね。

「ハイ、ボクは初遭遇です。タッグでもないです。会場で一緒になったことがあるくらいですね」

――どんなイメージですか。

「キャリアを経て、いまはつかみどころのないイメージがありますね。共通点には鈴木(秀樹)さんがいて、鈴木さんもすごいカシンさんからインスパイアされているようなイメージがあります。のらりくらりしているような、つかみどころがない。そんなイメージです」

――いままで闘ったなかでは誰に近いですか。

「インスパイアされているからといっても鈴木さんとはまた違いますね。なんでもできるんでしょうけど、激しいことをするようなイメージはない。もうそういうのはやめているんでしょうね。ボクは(カシンが)自由なことをしてくる人だと思うので、自分もなにも考えずに自分がやる自由なものをぶつけたいなと思います。とくになにも考えていないですね」

――現段階では試合のイメージもしていない。

「ハイ、イメージもできないですね」

――そのときにならないとどうなるかわからない?

「ホントわからないです。たぶん向こうも、このカードに対してなにも思ってないじゃないですか。べつにひとつの試合があるくらいにしか思っていないでしょうから。若手がチャンスだと思ってガンガンいくよりかは、自分もあえてそういう気持ちでいこうかなみたいな感覚です。そこまで気構えるのではなく、あえてたくさんある試合の中のひとつという。別に手を抜くとかじゃなくて、いつも通り自分は100%で挑むんですけど、対戦相手に対してなにかを考えるようなスタンスではないのかなと思います」

――リング上でぶつかってなにが生まれるか?

「そうです。現段階では全然わからないです」

――そこが楽しみでもありますよね。

「読めないからこそメチャクチャ楽しみです。ボクはどんなカードでも試合をするときは対戦相手を考えて、どんなことしようかなとか考えるのが当たり前なんです。でも今回は考えずに。だから逆に緊張していないですね」

――今大会でおこなわれるカードの中でもっとも予測ができないカードだと思いますが。

「ああ、確かに(笑)。2分くらいで終わるかもしれないし」

――あるいは正反対の激しい攻防が展開されるかもしれない。しかも逆にカシン選手を阿部選手が翻弄する可能性もあるのかなと。

「そう思われているのであればありがたいですね。そういうふうに思われる人でありたいと思います。コイツどういうことしてくれるんだろうと思われる選手になりたいというのは、自分のひとつのテーマなので」

――阿部選手は、カシン選手を相手にそういうことができる数少ない選手かなと思います。

「やりすぎくらいがちょうどいいって、ボクにとってはあとで怒られるときの保険みたいなもの、先に謝ってるみたいなものなんです(笑)。だから今回も先に謝っておくというか(笑)。(カシンとは)これが終わってからもそんなに会うこともないでしょうし。カシンさんだったらならないでしょうけど、たとえコラー!と怒られるようなことになったとしても12月17日を終えて18日になれば、いいかなって思っちゃうと思うんで。ボクの生涯キャリアを通してあったとしても、(カシン戦は)5回はないと思います、なので、いいかなって(笑)」

――だからこそ、数少ない貴重な機会かなとも思えます。

「そうです。こういうカードはすごいありがたいです。だからこそ、ふつうのことはしたくないですよね」

――この大会で阿部選手を初めて見るファンも多いかと思います。

「そういうのメッチャ好きなんです」

――そういうところでこそ爪痕を残したいと。

「そうです。元々が愛知県のよくわからないドインディーから出てきているので、初見の人たちに見られる感覚というのがすごい気持ちよかったのをおぼえているんですよ。初めてガリガリの坊主が全日本プロレスの後楽園に上がったときとか、『なんなのコイツ!?』と言われるあの感覚って何物にも代えがたいというか。いつもやってることであったとしてもどよめきが起こったりすると、そういうときの反応がすごく楽しいんですね。初見の人たちの前でやれるというのは、すごくうれしいです」

――阿部選手は身体も特別大きいわけでもないし、髪型とかコスチュームもふつうですからね。

「ふつうですよねえ」

――そこからの衝撃ですよね。

「確かに(笑)。そう言われるとありがたいです。どこにでもいる兄ちゃんじゃないですか」

――最初はそう見えますよね。その兄ちゃんがこんなにすごい動きをするんだとのインパクトを見る者に与える。しかも阿部選手は現在、大日本のBJW認定タッグ王者ですよね。

「ハイ、タッグのチャンピオンです。船木さんとやったとき(11・9神田)なんか、次の日がBASARAのシングルのタイトルマッチだったんですけど、前日に船木さんにやられてるんで、こんなチャンピオンいるのかな?みたいな(笑)」

――BJW認定タッグ王座は野村卓矢選手と組んで、ストロングスタイルプロレスでもおなじみの関本大介選手、佐藤耕平選手から奪ったんですよね。

「ハイ、取りました。両選手とも世界に通用する人たちだと思うので、自分も世界に通用する選手になりたい、そうなるべきだと思ってます。世界で誰が見てもすごいなと思われるような選手になりたいですね。新鮮味もある上で、出て当然だよなと思われる人になりたいです」

――なるほど、12・17の3日後(12・20)には“ツインタワーズ”石川修司&佐藤耕平組との(4度目の)防衛戦もあるそうですね。カシン戦は防衛戦の直前になります。

「ハイ。でも、ボクって先のことを考えない、その日はその日のことしか考えないので、べつに次があるからとか考えてやることは一度もないので、その試合(カシン戦)に集中したいと思います」

――ストロングスタイルプロレスのリングには2大会連続の参戦になりますが、カシン戦後も継続参戦を狙いますか。

「それはもう、オファーをいただけるならもちろん。こんな経験をさせてもらえるリングってなかなかないですから。参戦できるなら参戦したい。毎試合トライアウトというか、そういうことはどの試合にでも思っていることでもあり、ひとつもスベれない。この試合(カシン戦)も、もちろん試験だと思っているし、ハズせないと思っています。でも、カシンさんとの試合に関しては、ハズしたなと思うことすらも正解みたいな感じがありますね」

――確かにそうですね。いろんな見方ができますからね。

「全部が正解になるような気がして。だから逆に気構えがないんです」

――どんな闘いになっても正解だと。

「ハイ。この前の試合(11・9神田)だったらハズレと正解はあったと思うんですよ。たとえばボクが船木さんに脅えてしまったら」

――萎縮してしまったらと。

「ハイ。そうなったらハズレじゃないですか。でもそういうのってボクは絶対にないので。それでカシンさんに対してボクは一回も打撃を出さなくてもそれは正解になるし、逆になにもしなくても正解に見えると思うので、なんか不思議な感覚ですね」

――さまざまな解釈が可能な試合なので、それぞれの楽しみ方ができますね。

「ハイ。なにが正解だかボクにもわからないですけど。だから、やってみるしかないですよね」

阿部本人も、カシンとの初遭遇でなにが起こるのかまったく予想がつかないという。と同時に、なにかやってくれるのではないかという期待はインタビューをしてさらにアップした。カシンvs阿部は第4試合に組まれているが、もしかしたらセミやメインを食ってしまう可能性も。たとえその反対だとしても、相当のインパクトを残すのではなかろうか。いずれにしても「正解」は間違いのないカシンと阿部の一騎打ち。楽しみだ!

(聞き手:新井宏)

イベント情報

『初代タイガーマスク ストロングスタイルプロレスVol.8』

 日時:12月17日(木)18:30試合開始
 会場:後楽園ホール

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