神田伯山、高座の上でミイラになる? 『古代エジプト展 天地創造の神話 開催記念独演会』の見どころを先出し!

2020.12.17
レポート
アート

神田伯山『古代エジプト展 天地創造の神話 開催記念独演会』 (写真=オフィシャル提供)

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11月21日に開幕した東京展を皮切りに、京都、静岡などでも巡回開催される『国立ベルリン・エジプト博物館所蔵 古代エジプト展 天地創造の神話』。そのうち東京・両国の江戸東京博物館で開催中の東京展でオフィシャルサポーターを務める講談師・神田伯山が1日限りの特別イベント『古代エジプト展 天地創造の神話 開催記念独演会』を開催した。展覧会前売券と公式図録がセットになった約360席のは発売後わずか5分でソールドアウト。ただ、会場で見られなかったファンの熱い要望に応えて12月20日からは日テレゼロチケ LIVE STREAMING、イープラス・Streaming+ほかでストリーミング配信が行われる。オフィシャルサポーターという重圧の中、講談会の風雲児は本展の世界観を高座でどう表現するのか。ここでは配信観賞への誘いとして本公演のさわりの部分を先出しでお伝えしよう。

「古代エジプトに絡んだ講談は……」

今年は2月の真打昇進とそれに続く襲名披露興行など、講談界のみならず演芸界全体の話題の中心になったといっても過言ではない6代目神田伯山。テレビやラジオでも更なるブレイクを果たした彼が、師走のこの時期に挑むのが、東京展オフィシャルサポーターを務める『国立ベルリン・エジプト博物館所蔵 古代エジプト展 天地創造の神話』とのコラボ独演会だ。日本の古典芸能である講談と古代エジプト……。まったく結びつかなそうな両者の関係だが、果たして稀代の講談師はこのあたりをどうクリアしていくのか⁉︎

神田伯山 (写真=オフィシャル提供)

本展の会場でもある江戸東京博物館の大ホールに集まった観客は、感染症対策により全員マスクを着用。掛け声も出せないような状況ながら、開演を知らせるお囃子が聴こえ始めると自然と空気が熱くなるのが分かる。そうして幕が上がり、万雷の拍手を受けながらそろりと高座に上がった伯山。ひと目会場を見渡すと、開口一番「こんな平日の午後5時というありえない時間に集まっていただいて……」とやや毒を交えた伯山節でさっそく笑いを起こす。

まず、今回オフィシャルサポーターを請ける際にあるインタビューで「講談師にエジプトは関係ないですよね?」と聞かれたエピソードを語り始めた伯山。ずばり多くの人が率直に思う疑問だが、これに対して「確かにそう思われがちだけど、そんなことはない」と話す。

「実は講談というのは、よくレ・ミゼラブルのような西洋のお話も取り入れているんです。我々の間では『赤毛物』というんですがね。エジプトは西洋とは少し違うんですけど赤毛物に近い。他ジャンルのものを読むというのは前々からあるんですよ」

へぇ~、そういうものもあるのかと、ほかでもない真打の講談師に語られるとさすがの説得力。これは今日は滅多に見られないようなエジプト絡みの講談が聴けるのではという思いが、きっと多くの観客の中に芽生えたのだが……、

「今回、テレビカメラも密着してるんですけど、みんなから言われるんですよね。『何かエジプトに絡んだものは?』って。さんざん赤毛物があるなんて話しましたけど、エジプトの話は……ない」

そう言ってやや困った顔を見せつつ、「そもそも契約の時に『エジプトの話は一切しない』って約束だったんだけど、いつの間にか追い込まれている……」と本音をさらして会場中の爆笑をさらった。

この日の演目は3本。そのうち「今日初めて講談をお聴きになる方もいらっしゃると思うので、まずはベーシックな講談を聴いていただきたい」と一席目に語り始めたのは、剣豪・宮本武蔵と虚無僧の戦いを題材にした『山田真龍軒』という武芸物だ。

釈台を張り扇でひとつ、ふたつと叩き、ゆらりと羽織を脱いだところで空気が徐々に引き締まっていくのが分かる。そして「播州舞妓が浜といいますところは、大変景色のいいところでございまして……」と語り始めると、まるでスイッチが入ったかのように伯山の顔が講談師の表情に。さらに「ここへやって参りました宮本武蔵。ちょうど葦簀張りの茶店がありましたので……」と講談独特の言い回しで聴かせる強く艶やかな声にゾクッとした感覚を覚える。リズムを刻むようにバシッ、バシッ! と釈台を叩きながらけたたましいほどの速度で語り続ける姿は、観客を武蔵と虚無僧の戦いの舞台へと没入させていく。

時折り、張り扇だけでなく拳で釈台を叩くなど、流麗な動きから繰り出される表現。または緩急をつけて畝る声は観客の鼓動を熱くさせる。耳だけでなく全身をズンズンと揺さぶられるような声の響きは、稀代の講談師が繰り出す“伝統芸の4DX”とでもいうべきか。観衆を引き込む迫真の展開は講談の魅力をシンプルに伝わる内容だった。さて果たして武蔵と虚無僧の決着の行方はいかに……。

「古代エジプトの宗教観は本当に面白い」

一席目を終えて一旦幕が降り、二席目で再び高座に上がる伯山。ここでは初めに、独演会に先立って本展を鑑賞した時の感想を語った。特に「古代エジプトの宗教観」が記憶に焼き付いたそうで……。

《タバケトエンタアシュケトのカノポス容器》第3中間期・第22王朝、タケロト2世治世、前841〜前816年頃

「古代エジプトの宗教観っていうのは本当に面白い。まず亡くなった時に(死体を)ミイラにするんですけど、ミイラって臓器を全部取っちゃうんですね。そのための臓器入れなんてのもあるのは知らなかった。本展にも展示されているけど、臓器入れってさぞデカいやつと思うじゃないですか。それがスターバックスのL(サイズ)くらいなんですよ……」

《タレメチュエンバステトの『死者の書』》プトレマイオス時代初期、前332〜前246年頃

「他の臓器を抜いた後も心臓だけは残しておくんです。そして(死体を)包帯でバーっと巻いて、心臓のところに護符というお守りを置いておくらしい。あと『死者の書』というのを必ずそこ(棺の中)に供える。これが死んだ後のガイドブックになるらしいんです。これでもってようやく亡くなることができると。何だかよくわからないけど、それを知ってウチの師匠もミイラにしたいなって思っちゃいました(笑)」

《ネフェルティティ王妃あるいは王女の頭部》前1351年〜前1334年頃

そのほかにも、高さ2メートルの《セクメト女神座像》に圧倒された話や《ネフェルティティ王妃あるいは王女の頭部》の美しさに思わず立ち止まってしまった話などを披露。冗談を交えた話に場内は爆笑の連続で、伯山のフィルターを通して本展の魅力を解りやすく、なおかつユーモアたっぷりに語り尽くした。

偶然で引き継がれた“珍品”を古代エジプト風に

ここではもうひとつ、ある演目にまつわる若手時代の貴重なエピソードも披露。その演目は4500本あるといわれる古典講談の中でも“珍品”と呼ばれ、伯山の大師匠である二代目神田山陽から二代目神田愛山に偶然受け継がれた話なんだそう。

伯山曰く、晩年の山陽が古いネタ帳を広げながら「もうこのネタはやることがない。お蔵入りだな」なんて懐かしんでいた時に、たまたま弟子の愛山が「師匠、何でもいいから話を教えてください」と言って家にやってきたという。「何でもいい」という一言を聞いた山陽は「これ、こいつに教えよう」と気まぐれで教えたそう。そして、それから30年以上が経って、大ベテランになった愛山。

「あ~、こんなネタ、昔やってたなぁ。誰も受け継ぐ者はいないが、受け継がない方がいい。でも、まぁ、ちょっとやってみようか」

愛山が乗り移ったかのように伯山はそう語る。しかし、実際に寄席でかけてみたところ、意外や意外、愛山の腕が上がっていたこともあってこれが客にウケた。そして、これまた偶然そこにいたのが、ほかでもない当時の神田松之丞。もともと愛山に稽古を付けてもらいたいと思っていた松之丞は、機嫌よく高座から降りてきた愛山にこう言ったという。

「愛山先生、何でもいいから稽古をつけてください……」

そんな偶然に偶然が重なって受け継がれてきた珍品の逸話の流れで「時代は元禄時代でございます。皆さんご存知、五代目の綱吉の時代。赤穂義士伝、忠臣蔵の時代が……」と語り始める伯山。しかも、この題目は古代エジプトの薫りをまぶしたこの日だけのスペシャルバージョン。果たして古代エジプトと古典講談がどのように融合するかはストリーミング配信を見てのお楽しみ。

この日は演目をもうひとつ披露。こちらは様々な人物が代わる代わる登場する約40分の長話で、百面相のごとき神田伯山の類稀な技量が十分に堪能できる名演だ。

会場風景

神田伯山『古代エジプト展 天地創造の神話 開催記念独演会』は、日テレゼロチケ LIVE STREAMING、イープラス・Streaming+ほかで12月20日からストリーミング配信スタート。約2時間の独演会は本展に興味がある方にも伯山ファンの方にも特別な時間を提供してくれること間違いなし!


文・写真=Sho Suzuki 写真(一部)=オフィシャル提供

イベント情報

『古代エジプト展 天地創造の神話 開催記念独演会』
■配信プラットフォーム
視聴や購入方法は各プラットフォームのページよりご確認ください。
・日テレゼロチケ LIVE STREAMING: https://l-tike.com/ntvzero/livestreaming/
・Streaming+: https://eplus.jp/egypt-ten2021/hakuzan_streaming/
・PIA LIVE STREAM: https://w.pia.jp/t/egyptten-kandahakuzan/
・Huluストア: https://www.hulu.jp/store/ancient-egypt-the-creation-of-the-world-hakuzan-kanda-solo-performance
■販売期間
日テレゼロチケ LIVE STREAMING/Streaming+/PIA LIVE STREAM:
2020年11月17日(火)正午~2020年12月26日(土)19:00
Huluストア:
2020年12月20日(日)正午~2020年12月26日(土)17:59
■配信期間
2020年12月20日(日)正午~2020年12月26日(土)23:59
■販売価格
1,800円(税込)

展覧会情報

『国立ベルリン・エジプト博物館所蔵 古代エジプト展 天地創造の神話』
会期:2020年11月21日(土)~2021年4月4日(日) 
会場:東京都江戸東京博物館(〒130-0015 東京都墨田区横網1-4-1)
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都江戸東京博物館、ベルリン国立博物館群エジプト博物館、朝日新聞社、日本テレビ放送網、東映
後援:ドイツ連邦共和国大使館
協力:ルフトハンザ カーゴ AG
協賛:野崎印刷紙業
公式サイト:https://egypt-ten2021.jp
お問い合わせ:03-3626-9974(東京都江戸東京博物館代表)
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