劇団Patch×カンテレの舞台『マインド・リマインド〜I am…〜』の稽古を独占取材、謎多き作品の見どころをいち早く紹介
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『マインド・リマインド〜I am…〜』
劇団Patchが、結成8周年を記念してカンテレとコラボレーションする舞台『マインド・リマインド〜I am…〜』が12月26日(土)、27日(日)に大阪・サンケイホールブリーゼ、2021年1月28日(木)~1月31日(日)東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAで上演される。
主人公「僕」が抱いている恋人「彼女」に対する疑惑の真相を、歌と楽器の演奏を絡めて綴られる音楽朗読劇。劇団Patchのメンバー12名は、公演ごとに配役を組み替えて出演。ヒロインも谷村美月、入山法子のダブルキャストとなっている。
同作に密着しているSPICEは今回、通し稽古の模様を独占取材。内容面含め謎が多かったが、この取材を通してようやく作品の深いところに触れることができた。この記事では、『マインド・リマインド〜I am…〜』の見どころをいち早く紹介する。
●ホンを持って芝居をする「朗読劇」そのものをメタフィクション化●
左:藤戸佑飛 右:松井勇歩
まず結論から言うと、「なるほど、こう来たか!」と膝を打つ箇所が非常に多い舞台となっている。
朗読劇と聞くと、役者たちがホンを手に話を音読する光景を思い浮かべるだろう。もちろんその方法に違いはない。しかし同作は、朗読劇という演劇スタイルそのものを物語の世界観に組み込んでいる。
ひとつポイントを挙げるなら、「シミュレーテッド・リアリティ」という言葉だ。「僕」が「彼女」に対して抱いている疑惑について、「医師」に相談を持ちかける場面でこの言葉は登場。「この世界は自分も含めて、すべてコンピュータによるシミュレーションではないかという考え方」と解説される。
左:谷村美月 右:松井勇歩
「彼女」に現実離れした疑いを持つ「僕」。そんな彼に、「医師」は「身近な人や環境、自分を取り巻く世界そのものに疑問を抱くという症例がある」と指摘。「僕」が生きる世界について、「自分も周囲の人間もみんな物語の登場人物で、交わしている会話も、すべてが台本や活字で綴られた虚構なのかもしれないね」と一つの可能性を提示する。
「台本や活字で綴られた虚構の世界」とは、この舞台で役者たちが手に持っているホンのことを指しているのではないだろうか。
そもそも演劇は、台本に綴られた言葉や行動を役者が覚え、稽古を重ねて生身の体に浸透・通過させることで現実に近づけ、観客の目の前で披露するものである。私たちは生の息遣いも含めて、話に共感したり、リアルに感じたりする。まず、そもそもわたしたちが生きる現実の世界には台本なんてない。ホンを手にして、そこに書かれていることを読み上げながら生活することもない。ホンを手にするということは、舞台だろうがなんだろうが、あらゆる世界において現実からもっとも遠い行動なのだ。
中山義紘
「朗読劇」の本作は、「台本や活字で綴られた虚構の世界」という台詞をあえて使うなどして、舞台そのものをメタフィクション化している。「朗読劇」という打ち出し方そのものを上手にネタにして遊んでいる。
登場人物はみんなホンを読み上げる。しかしそれ自体が虚構であると言うならば、わたしたちは物語のなかで、いったい誰の言動を信じれば良いのだろうか。そもそもこの物語の現実と虚構のラインはどこにあるのか。ラストの仕掛けも含めて、全員が手に持っているホンそのものが「物語」の行方を大きく左右するものであり、また観客を翻弄していく。
さらに「音楽」という要素も加わることで、より多重構造的な内容になっている。聴こえてくる音楽が、登場人物の記憶に関わっているのだが、どういう場面でどのように演奏されるのか注目して舞台を観て欲しい。
●コロナ対策のなかでキャラクターを作りあげていく役者たち●
今回取材した通し稽古の配役は、「僕」役が松井勇歩、「彼女」役が谷村美月、「彼女の弟」役が中山義紘、「医師」役が藤戸佑飛の大阪千秋楽公演の組み合わせパート。
演出・木村淳(カンテレ)
演出家の木村淳は稽古後、まず全体的に向けて「相手が喋っているとき、ホンに目線を落とすと相手の台詞を追っているように見えてしまう。できるだけ相手のお芝居のときは目線を上げて、文字情報を追いかけないようにして欲しい」と意識的な部分を指摘。
『マインド・リマインド〜I am…〜』
松井勇歩
松井には「多様性のある「僕」になっている」とOKサイン。その上で「谷村さんの芝居を素直に受けすぎているところがある。「彼女」との距離感が近いゆえに生まれる、「納得がいかない」という感情のラインを作ってください。「彼女」のことを愛しているのかどうか分からない、そういった心の悩みの落としどころも整理してほしい」と話す。本番前らしく、かなり踏み込んで感情の芝居をリクエスト。
藤戸佑飛
藤戸は、「役について悩みながらも、いろんな答えを出してくれた。あなたが演じる「医師」が出来上がった。あとは細かいところを修正しましょう」という木村の言葉を受け、通し稽古のあと、キャラクターを固めるため話し込む一幕も。
『マインド・リマインド〜I am…〜』
最後に木村は、「すごく良くなっていました。マスク、フェイスシールドをしていて相手の表情が分からないなか、ここまで仕上げてくれて本当にありがとうございます」と役者たちのがんばりを労った。
稽古の合間には、密になることを避けるように何度もアナウンスされ、また入退室のたびに手指消毒を推奨。こまめなうがいも促す。厳重な新型コロナ対策をおこない、ようやくここまでたどり着いた。娯楽性と実験性に富んだ音楽朗読劇の幕がもうすぐ上がる。
『マインド・リマインド〜I am…〜』
取材・文=田辺ユウキ 撮影=田浦ボン
公演情報
東京公演: 6800円(全席指定/税込)