会わずに創る! 劇団ノーミーツ渾身の新作オンライン長編演劇『それでも笑えれば』観劇レポート~2020年末、彼らの最後の「選択」は?
劇団ノーミーツ第3回公演「それでも笑えれば」
オンライン演劇の新しい可能性を探る、気鋭の集団「劇団ノーミーツ」による新作長編公演が幕を開けた。2020年の年末に彼らが放つこの物語は、見る人それぞれにとっての “この1年” を真摯に見つめ直させる。
劇団ノーミーツ第3回長編公演『それでも笑えれば』は、2020年12月26日(土)〜12月30日(水)まで(12月28日(月)は休演)。劇場は株式会社Meetsが運営するオンライン劇場「ZA」。これは収録映像の配信ではなく、生配信の演劇だ。
劇団ノーミーツ第3回公演「それでも笑えれば」
■劇団ノーミーツ・これまでのあらすじ
劇団ノーミーツは、緊急事態宣言下の2020年4月に旗揚げされた。創作期間から千秋楽まで、一切会うことなく作品を創り上げるというフルリモートのエンタメ集団だ。
はじめはTwitterの短編作品の投稿からスタートし、破竹の勢いでオンライン長編公演の大成功を収めた。第1回・2回を合わせると、その有料動員数は12,000人を超えている。(ナンセンスかもしれないが)敢えて劇場公演のサイズ感で言うなら、シアターコクーンで2週間満員御礼という観客数だ。
さて、第3回長編公演である本作のテーマは「選択」。
この記事では、初日前日に行われたゲネプロの様子をレポートする。
こんなことになるなんて誰も思ってなかった
コメント欄の使い方などを丁寧に解説してくれる前説を経て、本編がスタート。
前説
物語の主人公は、人気上昇中のお笑いコンビ「へるめぇす」のマキ(河邑ミク)とルリコ(めがね)だ。ふたりにとっていよいよここから、というタイミングでコロナ禍が訪れ、スケジュールが全て白紙になってしまう。
劇団ノーミーツ第3回公演「それでも笑えれば」
オリンピックの延期決定、日用品の不必要な買いだめ。会話の中に散りばめられたキーワードで、2020年春先の記憶が鮮明に蘇る。
マネージャー役のオツハタは劇団ノーミーツ所属俳優のひとりで、Zoomを使った演技が驚くほど生き生きとしている。出ハケの美しさというのは舞台の基本だが、それはZoomでも同じことが言えるかも? 入退出の所作も含めて、安心感ある運びで導入部をリードする。
劇団ノーミーツ第3回公演「それでも笑えれば」
明るく場を持たせようとするボケのマキに、事態の深刻さを察して焦るツッコミのルリコ。
Zoomで漫才をやってみようと試しても、呼吸や間が思うようにいかず、とても成り立たない。『生でやるもの』、『掛け合いが大事』。そう嘆くルリコの言葉は、そのままオンライン演劇そのものヘの確信犯的ブーメランになる。
進むべき道は観客の手に
登場するだけでコメント欄がざわつくイケメンは、ルリコの恋人役を演じる相馬 理だ。このふたりが喋っているだけで、画面が華やぐのは何なんだろう……
劇団ノーミーツ第3回公演「それでも笑えれば」
物語中で最初に選択をして、決断するのは彼だ。環境が変わっても、終盤まで変わらない笑顔はまさに清涼剤。
そして、本公演の大きな特徴は「選択式演劇」だということ!
ストーリー中のあるポイントに差し掛かると、画面に選択肢が現れる。
劇団ノーミーツ第3回公演「それでも笑えれば」
回答のタイムリミットは意外なほど早く来るので、観客同士のコメント欄での相談などは困難だろう。物語に没入したままのテンションで、彼女たちに直にアドバイスをするような気持ちで「えいっ」と選択しよう。
集計は即座に行われ、回答の分布比率も見ることができる。そして物語は多数決で選ばれた先へどんどん進んでいく。
もし、他の道を選んでいたらどうなるんだろう? そんな疑問も当然浮かぶ。けれど後戻りも、他の道の覗き見もできない、そこはリアルの人生と同じ仕様だ。
劇団ノーミーツ第3回公演「それでも笑えれば」
やがて季節は夏を迎え、お笑いの同期たちの中にも変化が。
「へるめぇす」のライバルでもある「セッシー4C」を結成する矢島(上谷圭吾)・カオリ(石山蓮華)。特に人一倍繊細なキャラクターである矢島は、カラ元気だらけのZoom飲み会で感情を隠せない。
売れなきゃ意味がない、負け犬になりたくない思いは芸能を志す者なら誰にでも共通する。夢を追って、あるものは諦めて……それは、言ってしまえばいつどこにでもある人生模様だ。
けれど、2020年ではそこにコロナ禍というどうしようもない流れがあるのが哀しい。『よく頑張ったよ』と乾杯することも、肩を抱くこともできないのだ。
やっぱりこれは演劇
そして「それでも笑えれば」を観劇して最も深く心を揺さぶられたのは、主人公マキと母親の関係性だ。母親役を演じた藤井咲有里からは、一瞬も目が離せなかった。
劇団ノーミーツ第3回公演「それでも笑えれば」
これはオンライン演劇を見ていて初めて感じたことだけれど、イヤホンで観劇していることによって感情が増幅された。生の舞台で見てもきっと感動しただろうが、耳元で聞こえるセリフは、心に届くスピードがより速い。娘を思う “情” に溢れた言葉が、まるで観劇している自分に向けられているように感じられた。
さらにその演技を受けて、マキの演技もぶわっと膨らむのがはっきり見えた。作用し合う役者を細かく捉えられるのは、正面からふたりの顔が見えるZoom画面ならではだ。
おそらく、オンラインという不自由さ、情報のほどよい少なさがかえっていい効果を生んでいるのではないかと思う。そして、1回こっきり・撮り直し不可という緊張感もまた不可欠な要素だろう。やっぱり “生の演技” を “精細に” 見聞きするというところが、映画やドラマには無いオンライン演劇の魅力なのだと実感した。
2度ほどある母娘のシーンは間違いなく演劇だったと思う。少なくとも筆者は感動したし、オンラインでもこの感覚を味わえたことが嬉しい。次のシーンへの暗転中、コメント欄には「88888」と拍手が並んだ。
まわるまわるよ季節はまわる
作品の中で、場面転換も注目すべきポイントだ。別撮りの映像をはめ込むだけでなく、視覚が飽きないように工夫が凝らされている。生のカメラワークによって時間経過を表現していたが、あれは一体どうやっているのだろう?
なにせフルリモートの劇団である。役者の隣にカメラマンがいるとは思えない。緻密に計算された演出に拍手を送りたい。
劇団ノーミーツ第3回公演「それでも笑えれば」
そして物語は秋〜冬へ。年末の大舞台「お笑いグランドチャンプ」を前に、マキとルリコも大きな選択を迫られる。それはつまり観客ひとりひとりが「選択」を迫られる、ということだ。
ネタバレはご法度なので詳しくご紹介はできないが、何度か訪れる「選択」のチャンスを楽しんで、登場人物たちを応援してみてほしい。個人的には、途中で多数決に負けて願いと違う方へストーリーが分岐してしまい『ギャー』となった。無念である……別のルートも見てみたい!
ここに立たなければ見えなかったものもある
カーテンコール
上演時間は約130分。長めの公演だったが、前作とは違って途中休憩は設けられていない。ただそれでも観客としては、仮にトイレに立ちたくなったとしても、小腹が空いても、その気になれば劇場(画面)を手に持って移動できるから許容できる(役者は大変だろうと思うけれど)。作品を描ききるため1秒たりとも止まれない、そんな強い意思を感じた。
フルリモート劇団の「劇団ノーミーツ」、その名前は “NO MEETS” で “NO密” で “濃密” を意味する。彼らがこの長編作品を一度も集まることなく創り上げたのかと思うと、もう笑ってしまう。
劇団ノーミーツ第3回長編公演『それでも笑えれば』は、2020年12月26日(土)〜12月30日(水)まで(12月28日(月)は休演)。公演各公演当日10:00まで購入可能だ。『それでも笑えれば』のタイトル通り、舞台にとってしんどい2020年ではあったけれど……それでもこういった成果が生まれてくるから、演劇って面白いのではないだろうか。
取材・文=小杉美香