井上芳雄 by MYSELF Presents 配信ミュージカル『箱の中のオルゲル』作・演出・作詞の安倍康律に聞く~「音楽の力が感じられる作品」
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安倍康律
2021年1月17日(日)イープラスのstreaming+で井上芳雄 by MYSELF Presents 配信ミュージカル『箱の中のオルゲル』が生配信される。
本作は、井上芳雄がパーソナリティーを務めるTBSラジオ『井上芳雄 by MYSELF』から生まれたオリジナルミュージカル。井上と咲妃みゆが出演、作曲・ピアノを大貫祐一郎、作・演出・作詞を安倍康律が務める。
このたび稽古初日を終えた安倍に話を聞くことができた。『井上芳雄 by MYSELFスペシャルライブ』では構成を手掛けていることでおなじみだが、今回の配信ミュージカルにかける意気込みを語ってくれた。
■「音楽の力」を伝える作品を作りたい
ーー今回の配信ミュージカルは、どのようなきっかけで実現したのでしょうか?
昨年の秋頃、(井上)芳雄くんから「配信のミュージカルをやりたい」と話を持ち掛けられました。当初芳雄くんが思っていたのは、『井上芳雄 by MYSELFスペシャルライブ』でやっているようなコントといいますか、ちょっとした軽いネタを30分ぐらいでやりたいということだったんです。
でも僕はネタやコントよりも、せっかく芳雄くんと作れるならしっかりとした作品を作りたくて、最低でも45分ぐらいは上演したいと思いました。どういうストーリーにするかなど、芳雄くんやTBSラジオの方々と話をしていくうちに、だんだん本格的な企画になっていきました。
歌も2~3曲ぐらいかなと言っていたのですが、最終的にはリプライズを含めると8曲になりました。芳雄くんが当初思っていた企画があれよあれよと大規模なものになり、「めちゃくちゃしっかり作り込んでる!」と言える作品が出来上がりました。
ーー2021年最初の『井上芳雄 by MYSELF』で安倍さんはゲスト出演され、「音楽の話を作りたかった」とおっしゃっていました。
かつて芳雄くんがラジオで、「音楽の力はすごい」と言っていたことに感銘を受けたんです。すごく説得力があったし、僕自身も本当にそうだと思ったので、毎回芳雄くんの生歌が売りの一つでもあるby MYSELFのオリジナル作品ということで、ぜひ音楽をテーマにしたいと考えたのです。
コロナ禍でいろいろなZoom演劇が配信されましたが、印象的だったのが、枠の中で芝居をしている役者の姿でした。観ている側からすると、枠の中に閉じ込められているようにも見えたんです。だから僕がZoomで演劇をやるなら、「枠に閉じ込められている」という設定で芝居を作りたいと考えていました。
今回はZoom演劇ではありませんが、「閉じ込められている」ということと「音楽」を掛け合わせた時に、思いついたのがオルゴールでした。僕のイメージを聞いて芳雄くんが「好きな絵本の物語がある」と動画を送ってくれて、すごく素敵だなと思ったんです。それも参考にして、今回の作品に発展させました。
稽古場風景
■井上芳雄&咲妃みゆが等身大で演じるオルゲルとアリーセ
ーー昨日が稽古初日だったとのことですが、感触はいかがでしたか?
稽古が始まる前は、台本を何回も読み返して、この本で本当に大丈夫かな…と考えていました。結構クサいセリフが多いなあと思ったり、でも歌に乗るから多少クサくても平気かと思ったり(笑)。でも実際に稽古が始まったら、やはり実力のある方々が集まっているので、すごく良い感じになり、「僕の脚本でも大丈夫!」って安心しました。
ーー井上さんと咲妃さんはどういった役どころなのでしょうか?
オルゲルを演じる芳雄くん、そして咲妃さんにはアリーセという役を演じてもらいます。ただ今回は、役のキャラクターを作り込むというよりは、お二人には等身大で演じてほしいとお願いしました。芳雄くん、咲妃さんがそれぞれ持っているものを引き出しから存分に出してほしいと思いましたので、オルゲルもアリーセもそんなにキャラが立った人物には描いていないです。セリフはあるけれども自由に、例えば芳雄くんのいつものツッコミのセリフを足しながらということもあるので、「芳雄節」が垣間見れる場面もあると思います。
ーー咲妃さんの印象はいかがですか?
今回初めてお会いしたのですが、ミュージカル『シャボン玉とんだ宇宙までとんだ』を観た時に、凄く素敵な女優さんで、芳雄くんとも息がピッタリだなと思いました。
アリーセは、短時間で感情をバーンと高めなければいけない難しい役どころなんです。でもそんな不安を吹き飛ばす芝居をしてくださって、僕がイメージしていたアリーセをはるかに超えるものを演じてくれました。それが芳雄くんにも良い影響を与えていると思いましたし、お互い高め合っている、素晴らしい二人芝居がすでに出来上がっていました。
(左から)大貫祐一郎、咲妃みゆ、井上芳雄、安倍康律
■『箱の中のオルゲル』第二弾を目指したい
ーー安倍さんは、劇団ぼるぼっちょを主宰していて演出も手掛けています。配信ミュージカルを演出してみて、何か発見はありましたか?
今回は、舞台の演出とともに映像のことを考えなければいけないのが難しいと思いました。僕は映像に関する知識がないので、映像ならではの演出というものがあまり思いつかなかったんです。
ただ、TBSのスタッフの方々がすごく優しく、かつ優秀で、「こういうふうに撮ったらいいのではないか」といろいろなことを教えてくださいました。テレビにはこういう手法があるのかと新たな発見がありましたね。
生配信ではカメラが5台入るのですが、出演するお二人には舞台のつもりで演じていただくので、その動きに合わせて撮影していくことになると思います。それをどのように視聴者の皆さんに見せていくのかというのが大変なところで、舞台であれば自分の見たいところを自由に見ることができるけれど、映像はそうはいきません。
ここでオルゲルの表情が見たいのに…と思っても、カメラが切り替わってしまうと、見ることができない。「見たい場面を自分で選べない」ということが積み重なってしまうと、作品への面白さも半減してしまいます。そういう意味でも、スタッフの方々とギリギリまで作り込んで、最高のものをお届けしたいと考えています。
ーー改めて、どういう物語になりそうですか?
箱に閉じ込められて、行き場のないオルゲルが、音楽がそばにあることで、そして歌うことによって希望を持ち続けられるという話です。笑いと泣きの両方が味わえる作品になっていると思いますし、コロナ禍だからこそ、グッとくる人もいるのではないでしょうか。
そして最大の見どころは、芳雄くん、咲妃さんの歌と大貫(祐一郎)さんの音楽の素晴らしさです。稽古をしていても、芳雄くんが言っていた「音楽の力」をすごく感じていて、メロディーや旋律がグワーッとくるものがあるので、そういう意味でも「音楽の物語」として仕上がっていると思います。
ーーコロナ禍が続きそうですが、今後挑戦したいことはありますか?
僕は、劇団ぼるぼっちょを主宰していますが、コロナ禍では、公演をやる勇気がないんです。でも何かを作りたいという思いはあるので、一人で演じるミュージカルの台本を書いてみました。一人芝居であれば、関わってくる人数も少なくてすむわけですから、今のような状況でも上演がしやすくなります。仕事がなくなって困っている役者がいたとしたら、僕がどんどん作品を書いて上演していく…そういうことができたら、みんなの力になれたら、と考えています。
ーー2018年にSPICEで安倍さんにお話を伺った時、「いつか芳雄くんとミュージカルを作りたい」とおっしゃっていました。その夢が叶って、どんなお気持ちですか?
不思議なもので、夢が叶ったというよりは、ようやく一歩を踏み出したという気持ちです。もちろん芳雄くんとクリエイトをしたくてもできない人がいる中、実現できて僕はラッキーだと思うのですが、「やったぜ!」という気持ちよりも、ここから二歩、三歩と、どんどん進んでいきたいという気持ちが強くなり、ますます夢が膨らみました。
だから、今回の配信ミュージカルは、ぜひたくさんの人に観ていただきたいです。好評だったら、オルゲルの第二弾ができるかもしれませんから。芳雄くんも「これを1回で終わらせるのはもったいないな」と言っていたので、オルゲルのライバルが登場するような別バージョンを作ってみたいし、いつかお客さんを入れて上演したいです。
(左から)大貫祐一郎、咲妃みゆ、井上芳雄、安倍康律
取材・文:秋乃麻桔 写真提供:安倍康律