四星球に訊く 2020年に向き合ったこと、そこから生まれた最新作『ガッツ・エンターテイメント』
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四星球 撮影=大橋祐希
四星球が2年ぶりのニューアルバム『ガッツ・エンターテイメント』を、2021年2月17日にリリースする。ミュージシャンやライブハウス関係者やイベンターなど、総勢100名以上がコーラスで参加した、新型コロナウイルス禍で危機に陥っている全国のライブハウスへのエール「ライブハウス音頭」など、全15曲を収録。
おそらくこの国で数少ない“コミックバンド”を自称する存在であり、その名のとおりの活動を行ってきたのが四星球であることは今さら言うまでもないが、「コミックバンドであること」は、イコール「時代と向き合うこと」である、という事実を、改めて気づかせてくれる作品になっている、このアルバムは。コロナ禍以降の活動とその末の本作について、4人に訊いた。
■家におって楽しんでもらえることを考えて
どんどん出していった(U太)
──2020年の2月末に、コロナ禍でライブが止まった頃は、まず、どんなことを考えて、どんなふうに動いていったんでしょうか。
北島康雄:みんなそやと思いますけど、最初はすぐ収まると思ってましたし。ワンマン・ツアーが始まる2週間前で、とりあえず1本目は延期しよう、でも2本目からいけんちゃうかな、あれ、2本目も怪しいぞ、3月全部怪しいぞ、そのうち「これ、夏まで怪しいんじゃない?」みたいに、徐々に先延ばしになっていって。という中でもやってたのは、ずっとライブ配信。っていうことに尽きますね、2020年の前半は。
──配信ライブはやることをすぐ決めた?
康雄:ワンマンが延期になった日はやろう、っていう感じでしたね。
まさやん:お客さんがもともとその日の予定を空けてくれているので、何かしたいな、という。
U太:ただ単になくすだけなのは、申し訳ないので。最初は飛ぶのは1本2本やろと思ってたので、1本2本やったらなんとかなるんじゃないかな、って思いつつも、「どうやって配信するん? これ」っていうのが、まずわからなくて。機材もない、人もいない、おカネもない。その時に、知り合いに声かけて……僕らほんま、友達まわりだけでやったんですよ、ライブハウスのスタッフとかと。鹿児島から来てくれたり、大阪から来てくれたり。まだその頃は、県またぎの移動ができたんで、それでなんとか形にして。喜んでもらえて「はあ、よかったな」と。でもその翌週が仙台のワンマン、これは生配信は無理や、ってなって──。
まさやん:毎週スタッフを集めるのは無理やし。
U太:それで、最初やった配信の続きを20分ぐらい録画してお届けしたり、その翌週はさらにその続きを録画して配信する、みたいなことをやってたんですけど。で、「毎週同じものを流すのも違うやろう」ってなってきて、ミュージック・ビデオを撮ってみるとか、過去の『OTODAMA』(音泉魂。大阪のフェス)の映像を流すとか。とにかく、家におって楽しんでもらえることを考えて、どんどん出していった感じでしたね。
康雄:でも、その上半期の後半は、ちょっと複雑な気持ちというか。都内のバンドは、集まれない状況だったりして──。
──ああ、四星球は徳島在住だから。
康雄:それがけっこう葛藤だったですね。都内とか大阪のバンドは、メンバーで集まることすらやめてる状況のときに、僕らはやっていいのか? むしろ僕らこそやらなあかんのか? と。で、下半期は僕ら、2021年の1月まで通して、ツアーを回ることができたんです。それも、四国在住のバンドであることと、たまたまツアー先の街が、行ってもいいタイミングだった、っていうだけの話なんですよね。ただ、「四国のバンドだ」「四国に住んでる限りは」みたいな自覚は、そのときに培われたかもしれないですね。
■お客さんそれぞれが
「今自分たちは、ライブハウスを守ってるんやな」
っていう感覚で来てくれてる(康雄)
──ツアーで行った先々でのお客さんのリアクションは、やっぱり普段とは違いました?
康雄:お客さんより前に、ハコの人がまずちゃうかったな。みんな喜んでくれて、なんせようしゃべってくれるし。もう、ちょっと諦めかけてたみたいなんですよね、みんな。で、ずっとライブがない中で、久しぶりに観るツアー・バンドのライブが、こういうばかばかしいライブなので、よけいに元気出た、みたいなことを、みんなに言ってもらえたので。それは、やってよかったなと思いましたね。僕たちが行けたことによって、この人らのライブハウス人生の寿命が伸びたかもな、のちにここに来るバンドに居場所がある、っていう。
──お客さんに関しては?
康雄:来れない人が、予想よりだいぶ多いですよね。その中でも来てくれる方は、ほんまに四星球を待ってくれてたんだなという感覚と、今も……7月からライブができたんですけど、僕たちは。そのときから感じたのは、「お客さんと一緒に作る」みたいなのが、より強くなったというか。前は、60分ライブしますよ、っていうとき、その60分間を一緒に作るみたいな感覚だったのが、当日までを一緒に作るみたいな感覚になった。その日のために準備して、感染対策に気をつけて、会場のオープンからいろんなルールを守って、という。それで、楽しさも……楽しいという感覚のバロメーターがあるとすれば、絶対前の方が楽しいんですけど──。
──まあ、暴れられないし、声も出せないし。
康雄:でも、楽しいを作る楽しさ、みたいなのに変わっていってる感じはしました。新しい楽しみ方を模索する楽しみ、みたいな。あとはもう、お客さんそれぞれが「今自分たちは、ライブハウスを守ってるんやな」っていう感覚で来てくれてる感じはありますね。
■他のバンドにめっちゃ言われました
「楽しそうにやってんなあ、四星球」って(U太)
──でも、いろいろ不自由だとは言え、四国在住なのもあるし、ほかのバンドよりはまだ動けた方なのかな、と、話をきいて思いました。
U太:そうですね、それは、申し訳ない……というのとは、また違うんでしょうけど。他のバンドに「目立つ、SNSで」って言われましたね(笑)。めっちゃ言われました、それは。「楽しそうにやってんなあ、四星球」って。
──あと、大きい事務所に所属していたりしたら、「動くな」って言われたりすることも──。
U太:そうですよね。結局今、やればやるだけ赤字ですからね、ライブなんて。それでもやれるのは、強みかなと思うんですけど。あと、SNSを見て「徳島のバンドやからできるんじゃん」って思う人って、少ないと思うんですよね。そういうところで、「今ライブやっていいのか?」って突っ込まれることもあるやろな、と思ってたんですけど、それは全然なかったので。
──でも、セルフ・マネージメントのバンドだから、赤字でもライブをやれるけど、セルフだからその赤字を自分たちが直でかぶる、というのもあるじゃないですか。
U太:はい。
──そこは大丈夫なんですか? マネージャーのU太さん的には。
U太:いや、なんかね、最初はすごい考えてたんですけど……知り合いの社長さんが、「借金は楽しく返せばいいよね」って言っていて。まあ、LD&Kの大谷(秀政)さんなんですけど──。
──(笑)。さすがですねえ。
U太:で、「ああ、確かにそやなあ」という気持ちになったんで。もうやるだけやって、楽しい方がいいよね、っていう。大谷さんみたいにはなれないですけど、そういうふうに、気持ちの潤いの方を大事にしたい、って思えたのは、大きかった気がします。
■僕らもDragon Ashに近づけたんかな
って昨日思いました(モリス)
──そして、2年ぶりのアルバムなんですけれども。どんなふうにここに向かって行ったのか、教えていただけますか。
康雄:コロナ禍になってからも、こういう状況でも動いてるバンドがアルバムを出すってことは、すごい意味がある、と、レーベルの担当の方が言ってくれたんですね。ちゃんと時代を刻んでるバンドやから、こういうときにちゃんと出した方がいいよね、っていう。そう言われる前に、曲はだいぶできてたんですよ。今すぐにでも出せるぐらいの曲数があったんですけど、コロナ禍より前に作った曲だけでアルバムを出すのは違う、というのは大きくて、だから新たに何曲か作って。あとは、元気のない時代なので元気が出るようなアルバム、明るいやつを作りませんか?っていう提案をもらったんですけど、それは提案いただかなくても、そうはなってたと思いますね。
──聴いて思ったんですけど、あの、何か、演奏うまくなってないですか?
まさやん・モリス:(笑)。
U太:いや、若干下手になったなと思いました、僕は。ツアー中に。
──アレンジの問題かな。演奏がダイナミックになったというか、聴いていて「おっ!」と思う瞬間が増えた気がするんですが。
U太:これまでやってきてない、細かいことはやったりしましたけど。まあ、完全に、パソコンを使い出したからやと思うんですけど。
──ああ、アレンジに?
U太:パソコンでアレンジを詰めるようになって。ドラムを打ち込んだりするのが、楽しくなっちゃって。そういう意味では、今までやってなかったアレンジとかもありますね。
まさやん:DTMでアレンジを作って、メンバーと共有して、次のスタジオで生でやってみて、「ここ違うな、じゃあ変えようか」ってスタジオで変わったことを家に帰ってパソコンに落とし込んで、また共有して──っていうくり返しでしたね。今までに比べたら、だいぶやりやすかったです。みんなの共通認識ができるので。僕がスタジオで弾き語りして「こんな曲、どうでしょう?」ってやったとしても、それを聴く側の「ああ、こんな曲なんやな」っていうイメージは、一人ひとり違うし。それは演奏も同じで、「ここのキメ、こうだよね?」っていう認識が一人ひとりズレてたりしたのが、打ち込むことによって、指標を作れるというか。
モリス:曲が完成するまでのスピードが、速くなりましたね。あと、昨日YouTubeの番組を観てたら、Dragon Ashの桜井(誠)さんが出ていて。「うちは(降谷)建志がほぼ全部アレンジを作ってきて、それを生に置き換える」って言っていて、僕らもDragon Ashに近づけたんかな、って。
康雄・U太・まさやん:はははは!
モリス:と、昨日思いました。
■生きてること自体がエンターテイメントですよ
っていうところに行き着いているアルバム(康雄)
──前作は、多数の伏線と回収があるところまで含めて、ライブでやっていることをそのままパッケージできた、初のアルバムだったじゃないですか。
康雄:はい。
──そうすると、その次のアルバムって、何をやったらいいか、困ると思うんですけど。
康雄:そこは、ほんまにそうでしたね。まず、アルバムを作る前提で作ってない曲が多かったし。しかも、デジタル・シングルでリリースした曲を、ちゃんとした盤で出したい、配信だけで終わらしたくない、っていう愛着もあるので。それも入れてちゃんと作品にしたい、というので悩んだんですけど。結果、前のアルバムが一個ストーリーができてるんならば、今回は、短編集だけど実はこれ一個のストーリーだったんだな、という。それを網羅できる言葉が『エンターテイメント』しか見つからんかった、というか。
──なるほど。で、それはまた例によって、メンバーには説明しないまま?
まさやん:ほんとそうですね。『エンターテイメント』って言葉でまとめる、ということと、曲順はこうしたい、というのは知ってたんですけど。だから、最後の「おもてたんとちゃう」って曲で、康雄がバーッとしゃべって、いろんな曲のエッセンスを回収していく、っていうのは、これまた、言わないんですよ、全然。
康雄:それ単純に僕、言い忘れてるだけやと思うんですけど。言ってなかったっけ?
モリス:なんか聞いた気もするけどな。
U太:いや、俺も知らんかった。レコーディングのとき、「康雄、なんか言うてるなあ。これ、どこで使うんやろ?」って思ってたら、最後の曲に入ってた(笑)。
まさやん:本人は「まとめかた、どうしよう……」とか、ずっと悩んでて。それがちゃんとね、最後の15トラック目でまとまってるから、「まとめ上手やなあ」って思いました(笑)。
──その、言いたくないのは何なんですか?
康雄:(笑)。いや、言いたくないとかは全然ないですよ。だから僕、単純に仕事が遅いっすね。最後の決定が遅い。アルバムのタイトル案も、『エンターテイメント』って言葉を選ぶまでに、他にもいっぱいあったんですけど、仮のやつをメンバーに言って、あとで変更したらブレるじゃないですか。「もうこれでいこう」って決めるまでは言わない、っていうのはあるかもしれないですね。
U太:だから、四星球の思想っていうのは、4人の思想じゃないんですよ。北島康雄っていう人間がこのバンドの思想で、表現を作ってて、あとの3人はそれを構築する。部署違いの人っていうか、町工場の違うラインというか。それはこの18年間で、徐々に徐々に構築されてそうなっているので。よくも悪くも、他の部署に対して口出しはしないし、できないし。っていうバランスが今なんでしょうね。
康雄:あと、このアルバム、タイトルが『エンターテイメント』っていうので、エンタメをやってる人をターゲットにしてるようにも見えるんですけど、聴いてもらえば……「シンガーソングライダー」って曲とかそうですけど、実は、生きてること自体がエンターテイメントですよ、っていうところに行き着いているので。
──ああ、確かにそうですね。
康雄:生活しながら誰かを楽しませてたりとか、生活しながら自分が楽しんでたりっていうこと自体が『エンターテイメント』ですよ、っていう。そういうことに特化した仕事をしている人ではなくて、みんなが、という。それは、聴いていただけたらわかると思います。
取材・文=兵庫慎司 撮影=大橋祐希
リリース情報
●通常盤[CD] VICL-65464 / ¥2,500+税
1:トレジャーハンター
2:Mike is my friend
3:薬草
4:ライブハウス音頭
5:ポピュラーミュージック
6:アナザーストーリー
7:彼がドラムを始めた理由
8:名犬ニッパー・ドッグンロール
9:名豚ブッヒー・ピッグンロース
10:早朝高速
11:キミの背中
12:\(^o^)/
13:運動会やりたい
14:シンガーソングライダー
15:おもてたんとちゃう