「ミュージカルクリエイタープロジェクト」に急展開!  ホリプロプロデューサーが語る、その手応えとは

2021.3.8
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「ミュージカルクリエイタープロジェクト」

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これからの日本のミュージカル界を担う新たな才能を見つけるべく、2020年6月にホリプロのプロデューサーが「ミュージカルクリエイタープロジェクト」を企画した。音楽部門と脚本部門それぞれでクリエイターを募り、2020年9月末にその応募が締め切られた。現在は、STEP1の審査を通過したクリエイターと共に、作品創作を進めるべくSTEP2が着々と進んでいるという。

前回のインタビューに引き続き、本プロジェクトの発起人である井川荃芬(イカワ カオル)氏と、STEP2から作品づくりに加わることになった梶山裕三(カジヤマ ユウゾウ)氏という二人のホリプロプロデューサーに話を聞くことができた。『デスノート The Musical』や『生きる』といった日本発のオリジナルミュージカル作品制作に深く関わってきた二人が、これからのミュージカル界の新しい道を切り拓く。

応募総数528作品! 新たな才能に感じた確かな手応え

ーーまずは本プロジェクトの発起人である井川さんに、STEP1で集まった作品やその審査過程についてうかがっていきたいと思います。前回のインタビュー(2020年7月末)時点では、音楽部門・脚本部門合わせて50作品ほどの応募があったようですが、最終的には何作品の応募があったのでしょうか?

井川:実は、予想外に多くのみなさんに応募していただきました! 音楽部門が177作品、脚本部門が295作品、さらに両部門の応募が56作品、合計で528作品が集まりました。細々と始めた企画だったのですが、こうしてたくさんのクリエイターの方が熱を持って応募してくださり、本当にありがたいなと思っています。

ーーどんな作品が集まるかによって、審査や今後の方向性が変わってくる可能性があるというお話もされていました。STEP1における審査方法や審査基準を教えてください。

井川:STEP1に関しては、まずプロデューサー陣が担当分けをしてそれぞれ作品に目を通し、そこでピックアップしたものを今度はプロデューサー全員で確認してからSTEP2に進む方を決めました。STEP2に進んだクリエイターは音楽部門が17名、脚本部門が21名です。STEP2には進めなかったけれども、この方だったら今後いろんな作品でご一緒できるかもしれないという視点もあるので、必ずしも「STEP2に進めなかった=NG」ということではないと思っています。

審査基準ですが、弊社で扱う作品は比較的大きな劇場で上演することが多いので、「作品としてある程度の大きさのものが構成できるかどうか」というのがひとつありました。また、「なぜこの題材にしたのかがストーリーの中で見えてくるかどうか」という点も意識しています。あとは言葉で伝えるのはなかなか難しいのですが、興行がかかってくる演目を作っていく上で「“ホリプロらしさ”があるか」ということもポイントでした。プロデューサーのみんなで何度もディスカッションをしながら審査を進めました。

井川氏、梶山氏が関わった、『デスノート THE MUSICAL』 (C)大場つぐみ・小畑健/集英社

ーーたくさんの応募作品に目を通していく中で、何らかの傾向は見えてきましたか?

井川:何かひとつの傾向に偏っているというよりは、多ジャンルに渡っていました。脚本部門で言えば、例えば歴史もの、SFもの、学園もの。他にも、演劇では難しいけれど映像には向いているんじゃないかな、という作品もありました。今回の応募はアイディアのみでもOKにしていたこともあり、ジャンルに囚われない本当に新しいアイディアもあって、それもすごくおもしろいと思いました。

音楽に関しては、正直難しかったですね。「ミュージカルというジャンルを作る方はそんなに多くないのかな」というのが率直な感想でした。STEP1で募集したのは、ミュージカルのテーマ曲となる1曲、それに加えて最低2曲ミュージカルのシーンを想定した曲です。それぞれの楽曲は長けているのですが、ミュージカルは音楽を通してストーリーも伝える必要があるため、多岐に渡った音楽要素がないと作れない部分があります。プロジェクトを通して、そこをもう一歩踏み込んで共に成長できればいいなと思いました。

ーー作品を通して、クリエイターさんたちの想いも何か感じるものがあったのではないでしょうか?

井川:やっぱり0から1を作る作業って本当にすごい才能だと思います。脚本を書いたり音楽を作るということは私にはできません。ですが、このプロジェクトを立ち上げたのは、新しいクリエイターさんと出会いたいということはもちろん、0から1を作ることのできる才能あるクリエイターさんが、表現することをやめないでほしいと思ったのが一番大きかったんです。

自己PRを読むと、演劇を観て感動したから書いてみたという方、学生でまだ勉強中だけれどトライしてくださった方、劇団でずっと作品作りをしていてステップアップしたいという方、既に映像の世界で活躍されていて、今回ミュージカル脚本に挑戦してくださった方など、そういった方々が想いを持って応募してくださっていました。コロナ禍で「エンターテインメントは必要不可欠なものではない」と言われたような気がして寂しい気持ちがあった中で、それでも絶対に前に進むぞというみなさんの想いがすごく伝わってきました。新しい場所を作って、そこから一緒に作品を作ることができる環境を整えていきたいです。

ーー梶山さんと井川さんは、オリジナルミュージカルの制作を経験している数少ない日本のプロデューサーだと思います。そんなプロデューサーの一人として、今回のプロジェクトの現時点の手応えを教えてください。

梶山:本当に才能ある人が集まってきたと感じています。とにかく楽しみ。とってもいいものになりそうな予感がしています。みんなの想いが凝縮されているし、このプロジェクトをきっかけに、将来新たに世界を席巻するくらいの作品が作れるかもしれません。チームとしても、今作り始めたものを世界中の人たちに見てもらいたいという気持ちで作っているので、全員妥協がないですし、新しい才能が加わることに対してとてもポジティブなんです。

井川氏、梶山氏が関わった、ミュージカル『生きる』

井川:このプロジェクトは本当に細々と始めたのですが、最近では「あれってどう? どういう感じ?」と演劇界の他の会社の方が興味を持って聞いてくださるんです。なので、「あ、これってもしかしたら本当に求められていることなのかもしれない」と感じています。新たな才能が入ることで私たちには思いつかなかったアイディアがきっと出てくると思うので、とても楽しみです。

今回のプロジェクトで、STEP2を経て最終的に選ばれなかったクリエイターの方々についても、発表できる方に関しては名前を発表できたらと思っています。我々だけが新たな才能と出会うのではなく、もしかしたら他社とのいい出会いがあるかもしれないですから。夢物語かもしれませんが、業界全体で横に並んで力を合わせてこうしたプロジェクトが進んでいくのが、本当は一番演劇界の発展に繋がるんじゃないかと思っているんです。少しずつですが、その第一歩として今回のプロジェクトを進めていきたいですね。

奇跡のコラボレーションが生み出す、これまでにないミュージカル作品

ーーSTEP1で審査を終えSTEP2に進むにあたって、文化芸術団体の事業構造の抜本的改革を促し、活動の持続可能性を高めるという目的で文化庁が公募した「文化芸術収益力強化事業 公募3」に本プロジェクトが採択されたとうかがいました。採択のために梶山さんが中心となって企画提案されたそうですね。

梶山:元々は僕が「これからの新しいミュージカルの顧客を獲得するためのソフトを作る」という企画を進めていたんです。一緒に作品作りをするクリエイターや企業を集めていく中で、ミュージカル『生きる』に携わってくださった演出家の宮本亞門さん、ブロードウェイの作曲家ジェイソン・ハウランドさんと共にプロジェクトチームを結成しました。そんなときに、「文化庁の文化芸術収益力強化事業 公募3」という募集があり、井川の企画(ミュージカルクリエイタープロジェクト)とコラボレーションすることになりました。

宮本亞門

ーーそもそも「文化庁の文化芸術収益力強化事業 公募3」に応募しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

梶山:2020年は会社として、そして社会全体として本当に大変な年でした。我々は今も興行を行っていますが、規制もあり、まだまだ思い通りにはならない状況です。そんな中、国が未来に向かっていく意欲あるものに対して支援すると言ってくれるのであれば、今挑戦しなくてどうするんだと。僕らの会社は若いし、演劇界ではまだまだ一番手とは程遠いチャレンジャーだと思っているので、演劇への情熱や作品を作りたいという想いがここで試されていると思いました。公募3では時間がない中、持っている全ての人脈と運を集結させて作った企画が採択されたので、2020年度の最後に受け取った最高のプレゼントと言ってもいいくらいです。

―ー採択されたことによって、「ミュージカルクリエイタープロジェクト」は今後どのように進んでいくのでしょうか?

井川:脚本部門・音楽部門それぞれ、2021年3月を目処に作品を完成させて世に出すということがゴールとなります。

脚本部門はある程度力のある方が応募してくださったこともあり、彼らにジェイソンさんの楽曲を使って脚本を一から書いてもらうということをSTEP2の課題としました。そこで出来上がった脚本をまずプロデューサー陣が読み、その上でジェイソンさんと話をしながらブラッシュアップしていきます。最終的にはリーディングワークショップを収録し、世の中にパイロット版を公開するという流れで考えています。既にSTEP2の審査を開始していますが、21作品それぞれに個性があり、脚本を読みながらワクワクしています。

ジェイソン・ハウランド

音楽部門に関しては、作品テーマ・ストーリー・楽曲使用シーンを踏まえた上で新曲を1曲作るというもの。制作期間は10日間という短期間にしました。短期間なのには理由があります。例えば、ミュージカル界の第一線で活躍する作曲家のジェイソンさんやフランク・ワイルドホーンさんは、打ち合わせをした翌日に一気に5曲くらい新曲が上がってきます。それほど頭の中にイマジネーションが広がって一瞬で新しいものが作れるということも才能だと思っているので、あえて短い期間で課題を出させていただきました。この音楽部門のSTEP2の審査は、ジェイソンさんと亞門さんに担当していただきます。

ーーなぜそこでジェイソンさんと宮本さんが審査を担当されることになったのでしょうか?

井川:音楽部門の最終的なゴールとして作る作品で、そのお二人にご協力いただくためです。音楽部門では、普段ミュージカルに興味がない方にも作品を届けるために、「演劇×アニメーション」のハイブリッド企画として「オリジナルミュージカルショートムービー」を制作します。その中で使用される1曲を、今回のミュージカルクリエイタープロジェクトで最終審査を通った一人のクリエイターさんに作曲してもらうつもりです。映像については、世界的にも注目されているこま撮りアニメーションを手掛ける制作スタジオのドワーフさんとコラボレーションします。今回はドワーフさんも、スケジュールのない中ならではのこま撮りだけではない新しいチャレンジを一緒にしてくださるそうです。

ーー音楽部門の最終的な作品として、ホリプロがドワーフとコラボレーションして「演劇×アニメーション」のハイブリッド企画として「オリジナルミュージカルショートムービー」を制作するということですね。その経緯を詳しく聞かせていただけますか?

梶山:なぜドワーフさんと一緒にやるのかというと、最初は「こんなおもしろい会社があるよ」と紹介していただいたのがきっかけです。それから知れば知るほどおもしろい会社だなと。例えばNHKのキャラクター「どーもくん」、NHK連続テレビ小説「スカーレット」のオープニング映像、フランスでロングラン上映された「こまねこ」や、最近ではNetflixオリジナルシリーズ「リラックマとカオルさん」など、目覚ましい活躍をされています。そんな中でこま撮りという、なぜそんなことをやるんだろうと不思議な程レトロな撮り方に、今世界が注目しているという話を聞いたんです。

こまねこショートムービー2021

『リラックマとカオルさん』予告編 -Netflix [HD]

ここ最近、コロナ禍で動画がどんどんアップされてきていますよね。きっとそれらはこれからもアーカイブとして残っていくと思います。その動画をCGで残したとき、CGの技術というのは進化し続けるので、将来見返すと古く感じるという現象が起きてしまいます。一方、こま撮りという技術は実物の人形を撮影しているわけなので、いつ見ても古く感じるということがないんです。ただ、人形やセットに手間ひまかけて作るのはもちろん、維持費や撮影などとても大変だと思います。ただ、こうして手間ひまかけてものを作る、だからこそ古びないということが、なんだか僕には演劇を作っている人たちと重なる部分があるように思えて。演劇界も「こんな状況下でわざわざ人が集まって、しかも儲からないのに、なぜやっているんだ」と外から見た人は思うかもしれません。でも、我々としては演劇はそれでもやる価値があるものだと信じています。そういったところでものづくりの想いに通ずるものがあったので、ドワーフさんと一緒に仕事をしたいと思ったんです。

ーーなるほど。今までにないコラボレーションが実現することによって、全く新しいコンテンツが生まれそうですね。どんな作品になるのかとても楽しみです。

梶山:僕の夢は日本発のミュージカルを世界で上演するということなのですが、その形にはこだわる必要がないと思っています。今やブロードウェイですら全ての劇場がクローズしている中、アジアで日本と韓国だけが劇場で上演している状況です。昔は確かに「いつかブロードウェイで上演したい」と言っていましたが、今はとにかく大勢の方に作品を観てほしいだけなんです。

そこで、世界から評価されているドワーフさんと組み、さらにブロードウェイで作品を作りたいという想いがあった亞門さん、そして映画音楽を作りたいという夢を持っていたジェイソンさんとタッグを組むことになりました。もし文化庁の事業に採択されていなかったら、これだけ豪華なクリエイター陣が揃って仕事をするということは実現できなかったでしょう。興行がかかるとどうしても経済面を無視できないので、正直思い通りにならないことが多々あります。今回は国が資金的にも援助してくれるということで、純粋に未来に向かって才能ある人たちが集まることができました。

一般的に新作ミュージカルを作るとなると2〜3年かかるのですが、今回は2021年3月中に作品が完成し発表できます。今ここで才能あるクリエイターの力を世に出し、それを良いと思った人が彼らに仕事をオファーできるというスピード感もすごく良いことだと思っていて。「ミュージカルクリエイタープロジェクト」が文化庁の採択事業となったことで、若いクリエイターたちの生きた才能をすぐに活かせるチャンスが掴めました。

日本のミュージカル界の未来を見据えて

ーーホリプロさんは『ビリー・エリオット』、『スクール・オブ・ロック』などで多くの若手ミュージカル俳優の発掘に精力的ですが、そういった会社としての動きと今回のプロジェクトが繋がっていく可能性はありますか?

井川:はい。脚本部門・音楽部門ともに、俳優の育成のことも考えながら進めていくつもりです。脚本部門ではジェイソンさんの楽曲を使った新作を作りますが、その過程で俳優陣にはNYにいる彼からリモートでボーカルトレーニングを受けてもらいます。ジェイソンさんは、実はブロードウェイでも指折りのボーカルトレーナーなんです。以前とある作品に向けて、日本の錚々たる方々に彼が30分ずつレッスンをしたことがあるのですが、見違えるほど声が変わるんです。それを間近で見ていたこともあり、今回のプロジェクトの中でもぜひジェイソンさんのボーカルトレーニングを、と考えています。

山﨑玲奈

音楽部門では既に梶山と話をしていて、ぜひ『ビリー・エリオット』や『スクール・オブ・ロック』で関わっていた子どもたちを、と思っています。偶然にも梶山は『ビリー・エリオット』を再演から担当し、私は『スクール・オブ・ロック』を担当していました。その作品制作の過程で、本当に才能ある子どもたちを見てきたんです。2020年末の「ホリプロスカウトキャラバン」でグランプリを受賞した山﨑玲奈さんのことも、以前『アニー』に出演しているのを拝見したのですが、今までのアニーの子たちと醸し出す雰囲気が違うなと注目していました。山﨑さんはその後『スクール・オブ・ロック』も受けに来てくれて、本当に素晴らしい才能を持っているなと改めて感じて。『スクール・オブ・ロック』の2020年公演は中止になってしまったけれど、弊社のマネージメントと繋がってこうして育成ができるというのも、ある意味第一歩。ミュージカル界を目指す若い才能は本当に大切なので、育てていける環境をマネージメントに限らず作っていきたいですね。

梶山:「ミュージカルクリエイタープロジェクト」で作る2本の作品に限らず、弊社で初めて舞台に立った子の将来を非常に意識して企画を立てています。子役、特に男の子に関しては大人になるまでに非常に難しい時期がある。中高生で声変わりがあり、年齢的にもミュージカルにあまり登場しないという子どもたちがコンスタントに舞台に出ることができればいいのですが、それがないために子役で終えてしまう子もたくさんいます。そういうところも意識して、僕らにしかできない作品選びをしていきたい。少し先になるかもしれませんが、今回出会ったクリエイターの方たちと、弊社でキャリアを積んでくれた子どもたちと一緒になって作品を作っていけたらいいですよね。

梶山氏が関わった、ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』

ーー2020年は新型コロナウィルス感染拡大によって、少なからず人々の生活や価値観に変化があったと思います。そのことは、今回のプロジェクトにも何らかの影響を与えていますか?

梶山:まず、既存のミュージカルファンだけを相手に仕事をしていては、我々のこれまでの規模の興行はもう成り立たないと思っています。劇場へ行きたくても行けない人がたくさんいる中、映画は観るけれど演劇は観ない方、歌は好きだけどミュージカルは観ない方、そういう潜在的なミュージカルファンを掘り起こすことが絶対的に必要です。このままの興行を10年続けていけば、どんどん興味のある人だけのものになっていくでしょう。コロナ禍で多くの人がエンターテインメントを欲している今だからこそ、自宅にミュージカルや演劇を感じられるソフトを届けたい。コロナ禍が過ぎたあとで劇場へ足を運んでみようという気持ちになってもらうために、種まきが必要なんです。これを観ると「早く劇場に行きたいね」という気持ちになるような、そんな作品を今まさに作っています。

井川:コロナ禍で苦しいこともありましたが、最近いろんな配信コンテンツが生まれていますよね。例えば、井上芳雄さんのオリジナル配信ミュージカル『箱の中のオルゲル』を拝見したときに、苦しい状況下だからこそ生まれたコンテンツというのがこれからの新たな楽しみのひとつとして広がっていのではないか、思いました。今我々がドワーフさんと作っていく作品は「ミュージカルって楽しいよ、劇場っていいね」ということを感じてもらえる導入部分になりますし、脚本家に作ってもらっている作品に関しては「ミュージカルそのもの」を気軽に自宅で楽しんでもらえるようなものになっていくと思います。

井川氏が関わった、ミュージカル『スクールオブロック』

日本ではどうしても上演期間に制限がある公演になるので、オリジナル作品を作るということは経済的にもとても大きな挑戦です。ブロードウェイでは新作創作の過程で、リーディングワークショップを実施し、ブラッシュアップを重ね、トライアウト公演を経てオン・ブロードウェイでの上演を目指す、という創作の過程が確立されています。しかし日本の興行システムは欧米と異なる部分もあるため、この環境下で質の高い新作を創作できる過程としてどういうことができるか、ということを考えた時に、あえて、リーディングワークショップという創作過程をお見せすることで、お客様と共に作品を育てていけるようになるのでは、と思い、まずはパイロット版の発表、ということを行うことにしました。コロナ禍で大きく発展した配信という形で作品を作る過程をお客様にも一緒に体験していただいて、劇場へ行けるときになったら同じ空間でそのエネルギーを感じていただくという、オリジナルミュージカルを作る新たな道が拓けたらいいなと思っています。

ーー「ミュージカルクリエイタープロジェクト」の当初の目標に掲げていらっしゃったように、最終的には日本発のオリジナルミュージカルを世界へ届けるということに変わりありませんか?

井川:そうですね。その点は本当に変わっていません。今、コロナ禍で海外のみなさんとのクリエーションの楽しさ、そして難しさを同時に肌で感じています。いつの日か、日本発の作品を日本のクリエイターと一緒に作れる日がきたらいいなと夢見ています。日々そんな話しかしていないんじゃないかというくらい、現実的な夢として常に考え続けています。

取材・文 = 松村蘭(らんねえ)

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