演劇人コンクール2020優秀演出家賞を受賞した神田真直が主宰する劇団なかゆびが菊池寛、岸田國士、森本薫の戯曲を上演
-
ポスト -
シェア - 送る
2021年 3月6日 (土)、7日 (日)京都市にあるgallery Mainにおいて、劇団なかゆびが『Nakayubi.-11「戦争前夜の作家たち」』を上演する。
劇団なかゆびは、同志社大学の学生劇団・第三劇場の神田真直を中心に2014年結成。2020年から戯曲研究会を開催し、すでにその開催数は50回を超えている。この成果を生かして、2020年10月には主宰の神田が兵庫県豊岡市で開催された演劇人コンクール2020に出場し、優秀演出家賞を受賞した。
今回の公演では、これまでの戯曲研究会の活動を発展させ、菊池寛『父帰る』、岸田國士『是名優哉』、森本薫『みごとな女』といった日本の戯曲を上演する。
3作品はすべて戦前の戯曲史において重要な位置を占め、そして同時に第二次世界大戦中にさまざまなかたちで戦争協力した作家でもある。彼らの戯曲を取り上げることで、新たに日本の演劇における「ことば」の変化、そして日本の戦争前夜の姿を再考することを目指す。
劇団なかゆび主宰 神田真直コメント
◆ 三つの戯曲上演を通して目指すもの
私たちが演劇人コンクール2020にて上演した谷崎潤一郎『お國と五平』は、今からおよそ 100年前に発表された戯曲です。当時は戯曲の発表が流行した、のちに「大正戯曲時代」と 呼ばれる時代にあたります。「大正戯曲時代」では谷崎のみならず、多くの小説家が戯曲を発表しました。そのなかで『お國と五平』のほかに、代表的なものとしてよく例に挙がるのが、今回はじめに上演する、菊池寛『父帰る』です。
しかし、当時書かれた戯曲の多くは、どちらかといえばレーゼ・ドラマ(専ら読むための戯曲)的性格を帯びていました。それを批判し、近代的作劇法の理論的確立を目指したのが、岸田國士です。大正戯曲時代の戯曲と岸田戯曲の、明らかな違いは、強い上演への意識です。大正戯曲時代の戯曲は、読むだけでも充分楽しめるように 書かれています。ところが、岸田戯曲は、舞台上で俳優が演技している光景を想像する力を読者に要求していることがわかります。二つ目に上演する 岸田國士『是名優哉』 は、この上演への意識が特に色濃く現れています。舞台でこそ輝く、「語られることばの美」を志向した岸田戯曲と、大正戯曲時代の戯曲を並べてみると、なぜ今もなお岸田國士が重要な作家とされるのか、よくわかると思います。
ただ、岸田國士の戯曲は、とくに初期の作品はやや空想がかったところがあります。とりわけ女性の登場人物の造形は男性を通して見た、理想化されたものという 印象が強いと、私は思っています。そこで、森本薫『みごとな女』を三つ目に上演するという次第になります。もちろん、時代的制約、差別的なまなざしがまったくないというわけではありません。しかし、森本戯曲の特徴は、小さな人間関係のなかで紡がれる、リアリティが徹底的に追究された対話のなかに、大きな時代の変容の証が巧妙に隠されているところにあります。森本薫は、田中千禾夫と並んでたいへん期待された作家でしたが、1946年に 34歳の若さで早世しました。それでも今日にいたるまでしばしば上演される質の高い戯曲をこのほかにも多く残しています。
今回上演する三作品はすべて、日本の近代演劇史を語るうえで重大な戯曲です。観客が俳優とともに、日本の初期の近代演劇史の一端を感じ取ることが、本公演で私たちが目指すところなのです。
主宰:神田真直(かんだ ますぐ)プロフィール
1993年生。大阪育ち。2013年、同志社大学の第三劇場に入団し、演劇を始める。2014年に第三劇場や演劇集団 Qの学生らとともに劇団なかゆびを立ち上げ。2016年、京都学生演劇祭で審査員特別賞を、続く 2017年、第二回全国学生演劇祭で、審査員賞を受賞。2017年には第二回大韓民国演 劇祭 in大邱に招聘された。演劇人コンクール 2020にて谷崎潤一郎『お國と五平』を演出し、優秀演出家賞を受賞した。「思想との対決」を主題とし、テロリズムや人種差別、天皇制といった社会・政治問題に取材した劇作や、同様の取材内容を戯曲と組 み合わせる演出が特徴である。その外形は作品によって大きく変化する。