劇作家・横山拓也×演出家・寺十吾に聞く、作品に取り組むそれぞれの思い 『目頭を押さえた』インタビュー
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(左から)寺十吾、横山拓也
葬送とは、遺された人たちのためにあるものだ。『目頭を押さえた』を読んだとき、そう思った。弔いの方法が伝統性と近代化のはざまで揺れる、とある田舎の物語。そんな田舎で、東京に出ることを夢見る少女の物語。いくつかのレイヤーのなかで、各々の思いが交錯する。横山拓也による戯曲が、今夏、新しいキャストを得て上演される。演出の寺十吾は、「そこにあるものが、やがてなくなることを描いている作品」と語った。作家と演出家はそれぞれ何を思い、本作に取り組むのだろうか。
戯曲の背後に漂っているもの
——2012年初演の『目頭を押さえた』がパルコ・プロデュースで上演されるきっかけを教えてください。
横山:最初のお話のとき、『目頭を押さえた』を候補のひとつとして読んでいただいたんです。何年経っても上演に耐え得るものを書きたいというのが、劇作家としてずっと自分に課してきたことなので、こうして上演していただけるのは、劇作家冥利に尽きます。
寺十:戯曲を読んで、いろんなやり方ができる作品だと思いました。大きく演出することも、日常的なテイストにすることもできる。戯曲がしっかりとしていますから。かつて上演されたDVDを拝見しました。いろんなものを抽象的に並べて、それらを利用しながら日常会話が行なわれるという演出でした。とても細かく描写されていて面白かったです。今回は、リアルな美術にしようと思います。
横山:葬儀をめぐる伝統と改革の話でもありますし、若者をめぐる才能の話でもある。都会と地方の軋轢という側面もあり、そもそもどうしてこういう作品にしようと思ったのか、自分でも思い出せないんです。ただ、弟が葬儀会社に勤めていて、いろんなエピソードを聞いて、葬儀をモチーフにしたいと思いました。そこに親族が加わり、やりとりのなかで何かが表現できるかもしれないと思って書いたのがきっかけでした。
(左から)横山拓也、寺十吾
寺十:『目頭を押さえた』というタイトルから、こんな話は想像していませんでした。「涙をこらえる」の意味なのかと思ったら、全く違う意味として使われていて驚きましたね。 芝居の展開の生々しさがとても面白かった。それが唐突ではなくて、ずっと戯曲の背後に漂っているんですよね。
横山:実際にある事故の事例や、地域特有の風習などが終盤のヒントになっています。喪屋はおもに九州の風習で、それを関西の設定に持ち込んだので、実際の関西地方に喪屋はないんです。
寺十:あと、作品のなかに死生観が漂っていると思います。カメラマンを目指す女子高生が主軸になりますが、写真というものはそこにあった記憶を撮影して記録することでもあるとすれば、そこにあるものが、やがてなくなるということも描いているように感じました。
俳優に投げかける質問で自分を問い直す
——稽古にあたって、横山さんと寺十さんで作品についてコミュニケーションをとることはありますか?
寺十:僕は、台本を書いた作家さんとは、初日が明けるまで話すことがほとんどないです。どうしてもわからないことがあるときは聞いたりしますけど、話すことで分かった気になってしまうから。このホンをどう読んだのかを考えて、その結果として舞台を観てもらってから話すのはとても楽しいけど。
横山:(深く頷く)
寺十:ご本人に聞いてしまうと、台本から得るはずの気づきが奪われてしまうと思うんですよね。だから話さないほうがいいのかなと。
(左から)寺十吾、横山拓也
横山:今日のこの対談、どうしましょう?(笑)
寺十:雑談しましょうよ(笑)。
横山:(笑)。でも、寺十さんのおっしゃるように、僕も台本を提供する以上、演出家の方にお任せするスタンスです。僕からあれこれ言ってしまうのは、演出家にとってプラスにはならないと思いますし。完成した作品を観て話すというのは、作家としての楽しみです。iakuでも別の演出家に入ってもらうことがあり、基本的に稽古場では何も言わずニヤニヤしています(笑)。
寺十:偉そうな言い方だけど、演出された舞台そのものは作家に対して「あなたはこういうものを書いたんですよ」という提示でもあるんです。驚きや発見、あるいは落胆を与えることもあるかもしれないけど、作品の正体が、やはりそこにあると思う。もっと言うと、横山さんの書いたものと向き合うことで、横山さんご本人よりも横山さんのことを知ってしまうかもしれない。僕の「横山さんは気づかないうちに、こう考えているのでは」という提示に対して、「言われてみればたしかにそうです」と思ってもらえたらうれしいですね。
横山:今日、プレ稽古を拝見したのですが、そういう感覚がありました。俳優に投げかける質問が、自分にも投げかけられている気がして。遼という少女は何を思ってカメラを持っているんだろうと、僕自身に問い直すことがあって新鮮でした。俳優としての寺十さんは舞台で拝見していますが、演出風景を目撃するのは今日が初めてでした。戯曲や人物の謎を読み解く作業に立ち会えて楽しかったです。
(左から)寺十吾、横山拓也
池袋に感じる独特の「街の色」
——演出家として、役者とのコミュニケーションについて寺十さんはどう考えておられますか?
寺十:役者に対して、どうしてほしいというよりは、どうしたいのかを問うことが多いですね。役者が気持ちよく作品と向き合って、よき方向に向かう補佐をするのが演出家としての僕の役目だと思っていて。なので、俳優を知ることが大切だと思います。稽古場での会話も含めて、その俳優を知り、理解するために作業をしています。どうしたって掴みとることができなかった俳優もいますね。その人を見守るだけで、最後までどういう人なのか謎のままだった。柄本明さんなんですけど(一同笑)。
——柄本さんは、掴めなそうです。
寺十:もちろん、演出上のオーダーは応えてくださるんです。しかし最後まで存在的に謎で、得体の知れなさがありました。でもそれは俳優としてとてもすごいことです。作品だけで接点を持っている感じもありました。
横山:僕は自分で演出もするので、稽古場で別の演出家の方がどういう言葉を用いて俳優と接するのかを知りたくなります。今日のプレ稽古で発見があり、演出家として勉強になりました。
——東京芸術劇場シアターイーストが会場です。どのような空間にするのか、プランをお聞かせ願います。
寺十:今回は、基本的な形で使うつもりです。僕は役者で出たことはあるけれど、演出としては初めてなんです。今度やってみて、より劇場の雰囲気を感じられると思います。
(左から)横山拓也、寺十吾
——劇場には霊的な何かがいるという都市伝説もよく聞きます。
寺十:シアターグリーンが新しくなる前、真裏がお墓でよく出るという噂がありました(笑)。僕は池袋という街に感じるものがあります。独特の街の色がある。埼玉より北の人たちにとっての入り口となる街で、こう言ってはなんだけど、あれだけの都会でどこか垢抜けないでしょう(笑)。池袋には舞台芸術学院がありますけどね。
横山:僕は長いあいだ大阪にいたので、池袋のことは何も知らないです。ほぼ、演劇を観に行くことが目的の街になっています。やっぱり雑多な感じはあります。関西の都市で言うと、天王寺みたいな雰囲気なのかな? と思いました。
——東京芸術劇場の存在で、池袋が演劇の街として認識されるようになりましたね。
横山:そうですね。劇場も増えていますから。僕は今回、もう少し稽古場にうかがいたいなと思っています。寺十さんの言葉を収集して、自分の演出に活かしたいです。あまり作家が稽古場に足繁く通うのはよくないかなという気持ちもあるのですが、寺十さんは気になりますか?
寺十:僕はまったく気にしないです。たまに役者さんたちが気にしてしまうことがあるけれど、きっと大丈夫ですよ。
横山:それでは、節度を持ってお邪魔します(笑)。
(左から)寺十吾、横山拓也
取材・文=田中大介 撮影=ジョニー寺坂
公演情報
/枝元萌 橋爪未萠里 大西由馬
/山中崇 梶原善
制作協力:ニベル
共催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京芸術劇場
企画・製作:パルコ
お問い合わせ:
公演に関するお問合せ=パルコステージ 03-3477-5858(時間短縮営業中)
主催:サンライズプロモーション大阪
企画・製作:(株)パルコ
お問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888 (11:00~16:00)※日曜・祝日は休業
日程:2021年7月9日(金)
会場:名古屋市芸術創造センター
一般発売日:2021年5月15日(土)
主催:キョードー東海
企画・製作:(株)パルコ
お問い合わせ:キョードーインフォメーション 052-972-7466