ビッケブランカ、マイブームはJ-POP!? 真っ向勝負の春ソング「ポニーテイル」を語る
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ビッケブランカ 撮影=渡邉一生
今度のビッケブランカは裏切らない!? 3月17日にリリースされたニューシングル「ポニーテイル」は、変幻自在のファルセットボイスや先の読めない楽曲構成といった彼のランドマークたる手札を一切使わず、切なくも爽やかなラブソングにして春ソングに真っ向から挑んだ珠玉のポップス。アレンジャーとして数々のヒット曲を手掛ける本間昭光が参加し、これぞJ-POPの王道とも言うべき内容に仕上がった今作には、コロナ禍の1年で生まれた自らの変化や衝動を持ち前の嗅覚で形にした、最新のビッケブランカが潜んでいる。現在は約1年越しの開催となった初のホールツアー『Devil Tour “Promised”』の真っ只中、地上波のバラエティ番組にも進出するなど新展開を迎えるビッケブランカが、揺れ動く想いの中で見つけた未来を語る。
ビッケブランカ
●今のビッケブランカはJ-POPがブーム●
――コロナ禍で延期となり、約1年越しでの開催となった全国ツアー『Devil Tour “Promised”』の途中経過はどうですか?
人前で歌うのはやっぱり楽しいです。初日の福岡の1曲目からいきなりグッとくるものがありましたね。いつもより拍手が長かったり、大きい音で拍手しようとしてくれてるのが分かるんですよ。キャパの50%しかお客さんを入れられなくても、何なら1人1人の動きがよりよく見えるし、俺が1日2回ワンマンができる能力があれば良いだけの話なので。みんなが声を出せなくたって、十分満足させてもらってます。
――『Devil Tour “Promised”』ではCA4LAとコラボしたツアーグッズ=バケットハットも作ってますが、ビッケがまだインディーズの頃に渋谷のCA4LAで偶然会ったの覚えてる? 自分の好きなブランドとグッズを出せるようになったのも嬉しいよね。
会った会った! 嬉しいですよね。CA4LAさんとはずーっと一緒にやりたいと言い続けて。ゆっくりゆっくり交友を深めて、今回のツアーでようやく実現したんですよね。
『Devil Tour “Promised”』大阪公演より
――そんな充実のツアーの真っ只中、ニューシングル「ポニーテイル」がリリースされて。アクの強いポップス=ビッケブランカの真骨頂だとしたら、今回は極めてまっとうなラブソングであることが異常事態です(笑)。
ね(笑)。今は自分が家で何を聴いてるかが作る曲にまで影響してるんですよ。ここ最近は難解な曲とか心が振り回されるような刺激の強い曲を聴いてられなかったし、今は自分の音楽でも驚きたくない、みたいな感覚なんですよね。
――以前のビッケはむしろ刺激中毒だったのに、環境が人を作るように音楽も作るんだね。
それはコロナ禍で本当に思いましたね。最近はEDMも爆アゲの曲よりテンポが85~100ぐらいの曲を家ではかけてるし、Salyuさんの「彗星」とかを好んで聴いてたから、次に作る曲はそういう真っすぐで素直な曲になるんだろうなと自分でも感じていて。あえてJ-POPという言い方をするのであれば、これまでにいろんなジャンルをやってきた中で、今のビッケブランカはJ-POPがブームという感じで。だから次にどこに行くのかは分からない。このままJ-POPにい続けるかもしれないし、ガチのレゲエにいくかもしれないし(笑)。
――「ポニーテイル」からのレゲエはマジでビビる(笑)。代表曲である「Ca Va?」とか「Shekebon!」が顕著な例ですけど、転調とかファルセットを駆使したある種の過剰さがビッケブランカの一つのランドマークなわけで、その芸風を使わないのは挑戦とも言える。
正直、自分でもよく分かってないんですよね。今回は単純に「ここは裏声でバーンといきたい!」と思う瞬間とか、「ここでコードを変えてガラッと転調したい!」と思う箇所がなかった=ファルセットとか曲調の変化で補う必要のない圧倒的な主役がいたということだから。自分が思うにそれがメロディと歌詞で、無駄がそぎ落とされた精悍な姿だけがそこにある、みたいな。
『Devil Tour “Promised”』大阪公演より
――逆に言うと、今までは世にごまんとあるJ-POPに埋もれないように、ひと筋縄ではいかない音楽を作ろうと意図的に思っていたわけでもなかった?
そう。まぁ、でもよく考えてみれば、つまらないものを作りたくないという想いもあったかもしれないですけど、それが先行してると言うよりは、ファルセットがあると楽しいし、転調すると面白かっただけだから。でも、今回はそんなことをしなくても満足できたというか。
――今までの路線はやり尽くしたからJ-POPに置きにいってみました、とかではないと。
そうですね、置きにいくならもっと良いタイミングがあったと思うし(笑)。
――ハハハ!(笑) 「ポニーテイル」は本当にド真ん中のポップスで、ここまでストレートなポップスのムーブメントが自分の中に生まれたのは初めてでは?
初めてかもしれないですね。アルバムの中に何曲かそういう曲はありましたけど、驚きも良い具合に混ぜてたし、作詞の仕方もちょっと違ったし、語感をもっと重視してましたから。ただ、今回はいろいろとバランスは違うと思いますけど、聴き終わった後に良い曲だと自分でもちゃんと思えてるので。
――「ポニーテイル」を最初に聴いたとき、イントロからマッキー(=槇原敬之)のような風格を感じながらも、個人的にはビッケが海外の要素を日本のマーケットにねじ込んでポップに聴かせちゃうところが痛快だと思ってきたから、今回みたいなJ-POPの旗振り役をビッケが担うべきなのかと思ったりもして。
なるほどね。正直に言うと、この1年間はライブが満足にできなくて悶々としてたのもあって、そんなことを考える余裕すらなかったんですよね。でも、春にリリースすると決まったとき、やっぱり俺には音楽しかないと改めて思った。これは自分にとって大きな変化なんですよね。
●声=楽器じゃなくて、声=人になった●
ビッケブランカ
――ビッケブランカの音楽はアレンジも含めた総合芸術のイメージがあったからこそ、「ポニーテイル」ではあえてそこに時間を割かないのがテーマだったと聞いて意外でした。
いつも作曲3:作詞3:アレンジ4ぐらいの仕事量だったので、今回は作詞と作曲にちゃんと時間を割きたいなと思って。なので今回は、昔お世話になっていた本間昭光さんに、満を持してアレンジをお願いしました。やっぱり餅は餅屋というか、前回の「ミラージュ」のインタビューでも、結局、自分がやるべきことは作詞と作曲という話がちょっと出てきたと思うんですけど。
――「自分のやれることなんて、めっちゃ良い曲を作って、めっちゃ良いライブをするしかないんです」と。そう考えたら、何でもかんでも自分でというところから、本当にやるべきことにフォーカスできるようになったんだろうね。
そんな気がする。それの最たる形が「ポニーテイル」で。
――そもそもビッケがインディーズ時代に本間さん案件で仮歌を歌って、みたいな間柄だったらしいけど、キャリアを積んでこういう再会ができるのはハッピーだね。
本当にそうですね。例え俺が駆け出しの頃でも頼めば本間さんはやってくれたと思うんですけど、ここぞという変化のタイミングで、ここしかないキャスティングでしたね。重要な部分のコード進行だけ指定して他は基本的に任せたんですけど、最後のサビの展開とかは自分じゃ絶対に思い付かないことをやってくれてるから、頼んでよかったなと思いました。もう俺が全部やらなきゃいけないと固執する時期でもないし、ギミックなしで勝負していくなら、残るのはやっぱり作詞と作曲なんですよ。よりメロディへの理解を深めて、より自分の言葉を具体化できるようにする。これに関してはゴールがないというか、一生鍛錬できるから。極端なことを言ってしまえば、俺、今まではやり過ぎだった(笑)。
――なまじっかビッケがいろいろできちゃうから。
だからアルバムを作るとなっても、「3曲ぐらいはアレンジまで1人で完結させようか」という話になっちゃうわけですよ。でも、めっちゃ時間がかかるからそれ!
『Devil Tour “Promised”』大阪公演より
――今回みたいにやることを絞って集中したことで、改めて自分の強みとか、ここが俺の核だな、みたいな発見はあった?
何かね、自分の声に着目してなかったんだなと思った。今までは声も飛び道具の一環だったから、単純に良い声かどうかを判断したことがなかったんですよ。でも、今回みたいに余分なものがなくなってくると、「あ、俺ってこういう声なんだ」って久しぶりに感じた気がする。自分の低い声も良いなと感じられたのは面白かったですね。
――曲を彩るためのファルセットじゃなくて、こういうストレートなラブソングを歌うときこそ自分の声の特性が分かったり、その声に乗ったときに説得力がある言葉なのかを考えたり。
そうそう。そこで声=楽器じゃなくて、声=人になったんですよ。だから、今回のボーカルはすごく良いよね、生々しくて。
――あと、そもそも春の曲を書こうと思ったとき、ふわっと浮かんだイメージがポニーテールの女性だったと。
ただ、俺がポニーテールが好きなのは、「象徴として」なんですよね。ポニーテール=スポーツをする、活発な女性のイメージというか。
――ビッケが惹かれる女性のタイプというか、「かたうた」にも近いものを感じるね。
確かに!(笑)
●理想を掲げてないからこそ何でもやれる●
ビッケブランカ
――「ポニーテイル」と比べるとカップリングの「天」は、みんなが思い描くビッケブランカ像というか。
両方とも春を描いてるけど、いわゆるらしく作った「天」と、らしくない「ポニーテイル」があって、結果、ちょうど良いバランスになったのかなと。「天」はまだ言葉で遊んでるし、構成の妙みたいなところも残ってる。今は「ポニーテイル」で十分満足してるけど、また俺が音楽に揺さぶられたいと思ったとき、「天」の雰囲気が「ポニーテイル」にちょっとずつにじみ出るぐらいが良い着地点になるのかもしれない。この2曲の歩み寄りが理想的な場所なのかも。
――「天」の<だから最初からやり直してるよ/帰る場所はわかってる>というフレーズは、コロナ禍も含めたここ1年の喪失感の中で改めて、「こんな状況でもなぜ音楽を続けるのか? そもそも何で始めたのか?」と問いかける、ビッケの心の旅を表しているような。
「何で音楽をやってるんだっけ?」と改めて思った時、得意だから始めたことを思い出して。ブランクなどもありちょっとやる気がそがれてた時期もあったけど、「いやいや、そもそも音楽が好きで楽しかったはずだよな」と気付いて。けど、それでもまだ足りないんですよ。やっぱり誰かのためじゃないとできなくて、今はもう妹が誇れる兄貴になるためにやってる(笑)。
――ハハハ!(笑) とはいえ、自分のために、家族のために、得意だから、好きで楽しいから作ってきた音楽に、今ではときめいてくれる人がたくさんいて。今年の秋にはデビュー5周年ですが、最後の質問として、2021年に何か成し遂げたいことはありますか?
(しばし考え)……ないわ(笑)。例えば、「こういうミュージシャンになりたい」みたいな理想を掲げちゃうと、「ドッキリのテレビ番組に出てください」とか言われても、そのイメージと合わないと断らなきゃいけなくなるじゃないですか。でも、相手が「出てください」と言うからには何か理由があるわけですよ。そもそも自分で自分の魅力に全部気付けるわけじゃないから、合わないと決めつけること自体が間違ってると思うんですよね。理想を掲げてないからこそ何でもやれるし、自分の知らない魅力を誰かに開花させてもらえる可能性を秘めてる。そういうスタンスでやっていきたいんですよね。
『Devil Tour “Promised”』大阪公演より
――ビッケは周りの目を信頼してるというか、そういう意味では、「ビッケブランカが今後どうなっていくかは、むしろあなた次第です!」みたいな。
そう! 言わばPCC=パブリック・カスタマイズド・キャラクターみたいな。あれ……全然ピンときてないやん!
――まぁ今後もそれぐらい自由な存在でいたいってことね(笑)。
そっちの方が楽しくないですか?(笑) 今年はまた新曲も出すでしょうし、面白いことは何でもやっていくつもりなので。また皆さんともどんどん会えるようになっていくと思うから、これからもどうぞよろしくという感じですね!
ビッケブランカ
取材・文=奥“ボウイ”昌史 撮影=渡邉一生(SLOT PHOTOGRAPHIC)