SAKANAMON 藤森元生×FM802 DJ仁井聡子、コンセプトミニアルバム『ことばとおんがく』で伝える、音楽と日本語の原始的な楽しみ方

2021.4.10
インタビュー
音楽

藤森元生(SAKANAMON) 撮影=森好弘

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NHK『みんなのうた』の2020年4月、5月のテーマ曲として「丘シカ地下イカ坂」を書き下ろし、新たなステージに突入したSAKANAMON。4月14日(水)には「丘シカ地下イカ坂」を収録する、コンセプトミニアルバム『ことばとおんがく』をリリースする。その名の通り、テーマは「言葉遊び×音楽」。現代版いろは歌ともいえる「いろはうた」や、漢文の語順を入れ替えて読むための記号「レ点」を用いて作られた「レ点」など、8種類の遊び心を20分にまとめた1枚となった。全ての曲を作詞・作曲した藤森元生(Vo.Gt)は今作を通して、歌を物語としてではなく、音楽そのものを原始的に楽しんで欲しいと語る。そして今回の対談相手は、大阪のラジオ局・FM802で『SATURDAY AMUSIC ISLANDS MORNING EDITION』(毎週土曜日7:00~12:00)のDJを務める仁井聡子。このアルバムを「つい口に出して言いたくなる語感の良い言葉のように、音として楽しい言葉がぎゅっと詰まっている」と例えた。いかにしてこのコンセプトが誕生したのか。仁井自身もナレーションで参加した「レ点」を中心に掘り下げていく。

仁井:最後にお会いしたのは昨年10月に大阪城音楽堂で開催された『音泉魂~Connect~』でしたね。あの時はギターの弦が切れ、エフェクターもおかしくなってしまって。そういう人間性が出るステージの裏側をみんなに見てもらえる機会があっていいなと思った。

藤森:絶対にそういう場面を見られたくないアーティストもいますよね。その日は最小限の荷物しか持っていなかったので、スタッフの方が新しい楽器を持ってきてくれることもなく……。

仁井:そうだったんだ。アクシデントを対処する姿から3人の関係性もわかっちゃうじゃん(笑)。とにかく森野(光晴/Ba)くんは「どうしたの、どうしたの」と言いながらも場を繋ごうと頑張るよね。一方キム(木村浩太/Dr)は傍観していて、静かに見守るタイプだった。そこで藤森元生はどうするのか、これはもう見ものだったね(笑)。

藤森:バンドを結成した頃は当たり前にアクシデントが起きていて、30分のライブ中に1回は音が出なくなっていました。最近は慣れてきたので、繋ぎの時間の喋りは昔と比べてだいぶ上手になりましたよ。

仁井:元生は慌てているのだろうけど、全然慌てそう見えなかった。声のトーンから何から、あわあわと慌てふためいた感じがしなかったからね。

藤森:それこそ感情を顔に出さないので、中学生の頃、陸上部の先生に「真面目に走ってない」と怒られたことがあったんですよ。苦しい顔を見せると、周りに頑張っていますアピールをしているように見えることが嫌で。でも顔に出さない技術のおかげで、パニックになっていることをみんなに悟られないまま、チューニングすることができました。多分2人は気づいていましたけどね。

仁井:そりゃそうだ。そうなのかもしれないけど、焦っているように見せないタイプかと思った。意外な発見というか。いわばポーカーフェイスであるということを美徳としているということでしょ。表情で伝えないということは、言葉で伝えないとなかなか気持ちは伝わらないじゃん。だけど話していて思うのは、そんなに言葉も出てこないの。

藤森:そうなんです(笑)。本当に僕はこどもの頃から言葉が下手で。小学校に入る頃も全然呂律が回らず、親に心配されていたくらいです。案の定、今でも上手く言葉が伝わっていないなとか、ニュアンスがおかしいのだろうなとかを感じますね。

仁井:そうなると、自分ができないことを違うもので補おうとするから、表情で伝えたり、他のことでコミュニケーションを取ろうとするはず。元生のコミュニケーションツールは何だったの?

藤森:物をつくることですね。みんなに褒めてもらえたので、図工が大好きでした。特に段ボールが好きで立体造形物を作ってたかな。小学校2年生の時に乗り物を作る課題を出されて。ホームセンターでもらった大きな段ボールの上に、お肉とかを入れる発泡スチロールのトレイをたくさん載せるわけですよ。安易ですけど、大きいものがかっこいいみたいな、自分が乗れるほどのものを作りたくて。そこで個性が生まれて、かつ言葉以外のコミュニケーションを取っていましたね。

仁井:昔からものづくりの人だったわけだ。

■歌詞もひとつの絵。造語や難読漢字で字面をきれいに整える

藤森元生(SAKANAMON)

仁井:ものづくりから音楽に行くと、歌があるから必ず言葉が必要になるわけじゃないですか。言葉が得意じゃないと自覚してたのに、言葉を紡ぎ出さなきゃならない矛盾はどう克服したの?

藤森:6年生の頃からオリジナルで30曲ほど作っていたので、ある意味修行だったんですかね。当時はGReeeeNやゆずを聴いてて、言葉の意味もわからずに愛してるとか世界が平和にどうのこうのとか歌ってるんですよ。歌詞っぽい歌詞を書くところから始めて、高校生の頃から歌いたいことを歌うための知識と技術を少しずつ身に着けていきました。高校2年生くらいにようやく自分の曲が書けたかな。

仁井:最初に書けたと思った曲は、SAKANAMONの曲にあるの?

藤森:ファーストアルバム『na』に収録されてる「ARTSTAR」が、確か16~7歳の頃に書いた曲で、文化祭で同級生の友達と先生の4人で披露するために作りました。美術の専門の学校に通っていたからアートの曲にしたくて。

仁井:だから「アート」か。それにしても先生がバンドに入るなんて珍しいね。これは前にも聞いたことがあるけど、漢字検定1級とか持ってる人しかわからないような難しい漢字を使うから、文学青年かなと思っていたわけ。でも全然そうじゃないですと(笑)。

藤森:簡単に言うと、なんちゃって文学青年憧れ少年。言葉の意味は理解して繋いでいるつもりですが、僕が子供の頃から「伝わればいいや」というニュアンスで生きてきたので、本来の使い方じゃない言葉を掛け合わせていると思います。動詞に名詞をくっつけるとか。連想ゲームに近いかもしれないですね。例えば言葉を「話す」でしょ、「話す」を別の言葉に解釈して「音を出す」「奏でる」とか。似たような言葉で変換して、面白い組み合わせを作っていくみたいなことなのかな。

仁井:昔からそういう感じで、頭の中に新しい単語が入ってきたら違う言葉に変換して楽しんでたの?

藤森:歌詞が書けるようになってからは、どの言葉が的確なんだろうと当てはめる作業をするようになりましたね。いかにその言葉が面白くてかっこよく、言葉のハマりもよくてメロディに乗った時に気持ちがいいか。そんなことを考えています。

仁井:日本語って、ひとつひとつの単語に標準語の音があるよね。その標準的な音を、この音符に当てはめたいと思うことはある?

藤森:そうですね。僕は大体、先になんとなくふわっと考えて曲を作ることが多くて。おろす作業というか、右脳だけで埋めてみる。そのニュアンスでその響きに近い言葉を探し出す作業かな。

仁井:その作業に漢字辞典や日本語辞典は使うの?

藤森:ガンガン使いますよ。「このニュアンスで別の言い回しがあったよな」という言葉を探してみたりだとか。中には本来使うことがない言葉の組み合わせもあるので、自分でも昔の歌詞が読めないこともあったりします。

仁井:昔すごい調べた漢字があったのを思い出して。何て読むんだろうと思った歌詞が「マドギワールド」の冒頭の<擲って(なげうって)>というところ。聴いたらわかるけど、歌詞カードを見ても読み方がわからなくて。

藤森:僕も変換して素敵な漢字が出てくると嬉しい。こんなふうに読むのか、かっこいいなと思いながら歌詞に入れています。歌詞の字面が絵として綺麗じゃないと嫌。ここは漢字の密度が大きいのに、サビはひらがなが多いなとならないように気を付けています。

■歌詞カード必携、視覚と聴覚に訴えかける仕掛け多数■

藤森元生(SAKANAMON)

仁井:新アルバム『ことばとおんがく』はこれまで以上に、歌詞がひとつのアートワークというか、俯瞰して絵を見ている感じがするよね。私は全貌がわからない状態で「レ点」への参加をお誘いをいただいて。完成したアルバムが届いてアートワークを見て「参った」と思った。今までの曲より、さらに奥行きのある歌詞だった。歌詞カードだけでも売った方がいいよ。

藤森:CDの売り上げ云々より、この音楽を聴くには歌詞カードが必要だと思うから手に入れて欲しいですね。曲のガイドブックとして、聴くだけではわからない面白さを伝えているので。

仁井:私たちは日本に生まれて、周りが話している言葉をそのまま会得して発しているけど、日本語にはもっと奥の深さがあったりするから。このアルバムを聴いてそんな日本語の奥行を感じられた。以前からあなたは天才だと思っているけど、この歌詞カードを見た時にとんでもない天才だと改めて思った!

藤森:そう思ってもらうために頑張って作りました(笑)。

仁井:まず私が参加させてもらった「レ点」について聞かせてほしいのですが、どうして漢文で使う「レ点」に焦点を当てたの?

藤森:今の事務所に入った2017年頃には、すでに冒頭の語り部分の構想はありました。レの音が鳴ったら文字の上下がひっくり返ると面白いんじゃないか、初めはそんな感じのひらめきだったんですよ。本来漢字同士でしかレ点は使わない。でも僕はカタカナとか1単語のひらがなに「レ点」をつけてみた。「くり」と「りく」のような感じ。ひらがな同士に本当は「レ点」をつけないんですよね。

仁井:そうか。でも「レ点」という作用をうまく取り入れたわけだ。

藤森:あとこれ、「レ」と言っているのは実際にレの音なんですよ。アルバムの中でも実験的な1曲です。

仁井:本当にレの音なんだ。参加させてもらったのにも関わらず今知った。この次がNHKで採用された「丘シカ地下イカ坂」だけど、本当に幼い子ども達がこの曲を歌っているということが嬉しくてしょうがない。それこそ、このアルバムを作ってオファーが来ないほうがおかしいくらい。こんなに面白い言葉遊びをする人がこの世の中にいますよ、ということをみんなに教えたい。

藤森:「丘シカ地下イカ坂」が生まれたのは、2019年に配信シングルとしてリリースした「鬼」のおかげで。NHKの方に「鬼」のような曲を作ってくださいとお願いをされまして。この2曲が完成して「これは新ジャンルだ! 次のアルバムは教育番組のような世界観を作ろう」となりました。

仁井:元々SAKANAMONが持っていた、他の人には真似のできない歌詞の世界が集約された感じ。言葉というものは面白いなと思わせてくれる実験的な曲たちが入っていて。元生の頭の中を覗かせてもらった気持ちになったよ。アルバム全体で20分くらいしかないし、あっという間だった。実生活に生かせるかどうかが大切なことではなく、言葉はもっと自由で、発想することは楽しいなと思った。

藤森:それは音楽にも言えることですよね。多くのアーティストは良いことを伝えようとしているのでしょうけど、もっと原始的で自由な音楽の楽しみ方もあると思っています。

■音楽と組み合わせることでしか表せない言葉のニュアンスを伝えたい■

藤森元生(SAKANAMON)

仁井:それでいうと、アナグラムを使った「いろはうた」は本当に感動した。五十音をかぶらないように全部使って作ったんでしょ? 1つ1つの文字をくっつけては離すのは大変だったろうなと思って。

藤森:寝られない夜が続きましたね。5日間程度で完成しましたが、ひらがなを書いた紙をつく手何度も並べ替えていました。夜中にそれを繰り返していたので<ひたすらにやりなおし よもふける……>という歌詞は、アナグラムを作っている僕の歌です。その時の気持ちをそのまま歌詞にしました。

仁井:よくできたね! <ほつれぬことのは>の部分が特に好きで。

藤森:そう、そこが決め打ちでした。やってみたら普段話しているときにあまり使わない「ぬ」と「む」の使いどころが難くて。ここから作っていきました。本来のいろは歌は和歌なので、意味を理解できない。内容は素敵だけど今の人たちにはわからないし。たまに濁点をつけて逃げていたりもして。現代語として読めて、かつ歌にしたのは多分世界初です。

仁井:これは、なかなかの奇才じゃないとできないと思う。ぜひ歌詞カードを楽しんで欲しいな。あとサウナとライブがテーマの「OTOTOTOTONOO(オトトトトノオウ)」も気が触れているとしか思えない。藤森元生の頭の中には、言語化できない言語がたくさんあるんだろうね。

藤森:1曲目の「ことばとおんがく」でも歌ってますが、言葉と音楽が一緒になることでしか表せないニュアンスがあると思う。そういうものを表現出来ていたらいいな。

仁井:出来過ぎでしょ。伝統音楽や民謡もそうだけど、歌詞のほとんどは物語になっていて、その景色を見せるために音楽がある。でもその前の原始的な楽しみ方というか、音として面白くてつい言ってみたくなる言葉とか、音としてハマる言葉みたいなものがぎゅっとなっているような曲ばかりで、聴いていて飽きない。

藤森:最近の音楽とは違う楽しみ方ですよね! それこそ教育テレビでやっているような、子供たちに新しい脳みそを使ってもらえるような作品になれたら嬉しいです。

仁井:聴いた人の言葉に対する意識の変化がありそう。そういえば日本では昭和初期の頃から、標準語のアクセントに近いメロディラインで作ることが、美しいと言われることが多かったけど、今はあまり考えられていない音楽が多いと思って。元生はどう思ってるの?

藤森:初めてプロデュースしていただいた方に、色々教えていただいて。「橋」と「箸」みたいにイントネーションによっては違う意味で捉えられられる言葉に気を付ける、言葉を伝えやすくするためにメロディをずらすような感じ。それからは意識するようになりましたね。でも「かっぽじれーしょん feat.もっさ」は勢いで書きました。言葉のイントネーションに合わせたものもありつつ、音楽が自由であることを忘れないように、頭を使わない曲も作りました。

仁井:最後のもっさ(ネクライトーキー/Vo.Gt)が、折れて一緒に<ランランランラン>と歌い出すところが面白くて。聞き間違いが多い人にもういいわ、と諦めてつい歌ってしまう様子が伝わってくる。こういう曲もあれば「PACE」のような曲もある。

藤森:これが一番難しかったかもしれない。自粛が始まった頃に作った曲で、最初の4行と最後の1行しか歌詞を書いていなかった。アルバム制作に取り掛かる前だったので、特に意識してもいないし。真面目なことを言っているので、元々の歌詞を変えずにそれを台無しにしない言葉遊びを考えぬいて、このもじりになった。意味を成立させるためにもじることが難しかったですね。

仁井:ラッパーの方が韻を踏むのとは違うけど、近しいように思う。よくこんなに言葉遊びができたなと感動しています。

藤森:CDのケースのCDを外したところに文字が羅列されてありますよね。1番左の列の上から5つ目を見てください。

仁井:あ! 「にいさとこ」になってる!

藤森:そこにこのアルバムの楽曲とバンド、メンバー、参加者の名前が全て隠されているんですよ。「鬼」で手伝ってくれた子供達の下の名前も入っています。

仁井:こんな地下ダンジョンを作っていたのね! 胸熱だ。これは良い脳トレになりそうですね。ありがとうございます。

藤森:そう言っていただけて嬉しいです。ありがとうございます。

藤森元生(SAKANAMON)

取材=仁井聡子 文=川井美波 撮影=森好弘

リリース情報

コンセプトミニアルバム 『ことばとおんがく』
2021年4月14日(水)
初回限定盤(CD+DLカード)¥2,700(税込) TLTO-30
通常盤(CDのみ)¥1,800(税込) TLTO-31
 
1.ことばとおんがく
2.かっぽじれーしょん feat.もっさ(ネクライトーキー)
3.鬼(Album ver.)
4.レ点 feat.仁井聡子(FM802 DJ)
5.丘シカ地下イカ坂
6.いろはうた
7.OTOTOTOTONOO
8.PACE
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