女性アーティストたちの挑戦する力『アナザーエナジー展』 困難な時代におけるアートの役割を問う
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『アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人』展示風景 三島喜美代《作品 21-A》(2021)
『アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人』が、2021年4月22日(木)から9月26日(日)まで、森美術館で開催中だ。
※森美術館は、政府による緊急事態宣言発令を受け、新型コロナウイルスの感染予防および拡散防止のため、4月25日(日)より臨時休館しています。最新情報は、美術館のウェブサイトをご確認ください。
本展では71歳から105歳までの、現在も現役で制作を続ける、世界14ヵ国のアーティスト16人の作品を紹介している。参加アーティスト全員が女性。フェミニズムの観点やセクシュアリティの多様性を問う作品も含まれているものの、フェミニズム的アプローチが作家全てに共通する題材ではない。国籍や民族の違い、文化的・社会的背景などが反映された、多様な展示となっている。
また、長いキャリアのアーティストたちの作家活動を網羅して紹介する、いわゆるサーベイショーにはせず、アーティストの独自性や作品が持つ固有の世界観に焦点を当てている。
参加作家たちの作品が放つ、「アナザーエナジー」とはなにか
1990年代以降、世界でダイバーシティ(多様性)への関心が高まった。ここ10年の間に、アート界でも女性アーティストを含む見過ごされてきた作家たちへの再評価が国際的に進んだことが、本展の企画の背景にある。主流とされてこなかった女性アーティストたちの実践を通じて、世界のさまざまな問題が浮き彫りになった。
さらに、作家活動を長く続けてきた彼女たちから通底して感じられるのは、揺るがない信念と説得力だ。男性優位の抑圧されたアート界の中で、その構造と主流の価値観に抗い、権威に認められようとして闘うエネルギーとは別の力がある。それが「アナザーエナジー」だ。一貫して制作を続ける彼女たちの人生と、骨太な作品性は、呼応しているように感じられるはずだ。
では、展示の内容の一部を抜粋して紹介していきたい。
1946年にニュージーランドで生まれたロビン・ホワイトは、1982年にキリバス共和国の首都タラワに移住し、地域の日用品や装飾品といった伝統工芸の手法と素材を作品に取り入れるようになった。展示室の壁と床に広がる平面作品《大通り沿いで目にしたもの》は、樹皮製の布「タパ」を用いて制作されている。
ロビン・ホワイト&ルハ・フィフィタ《大通り沿いで目にしたもの》(2015-16)
《夏草》は、彼女がキリバス共和国からニュージーランドに帰国して制作された。第二次世界大戦中の1943年2月に、ニュージーランドで日本捕虜兵と監視兵が衝突して48名が死亡したフェザーストン事件を受け、芭蕉の句からインスパイヤされて制作した作品だという。
上:ロビン・ホワイト&飯村惠以子《夏草》(2001)、下:ロビン・ホワイト&ルハ・フィフィタ《大通り沿いで目にしたもの》(2015-16)
スザンヌ・レイシーは1945年にカリフォルニア州ワスコで生まれ、ロサンゼルスに在住する作家だ。カリフォルニア芸術大学でフェミニズム・アートの先駆者のひとりであるジュディ・シカゴと、パフォーマンスアート「ハプニング」の創始者アラン・カプローに師事する。70年代にアメリカで起こったフェミニズム運動にも参加している彼女の《玄関と通りのあいだ》は、真っ向から社会的課題を取り上げていて力強い。これはニューヨーク市ブルックリンの一角に参加者が腰を下ろし、女性の問題について話し合い、その様子を約2,500人が傍聴するパフォーマンスを撮影した記録作品で、展示室にはさまざまなメッセージが書かれたベンチが用意されている。我々も座ってじっくりと鑑賞したい。
スザンヌ・レイシー《玄関と通りのあいだ》(2013/2021)
1946年生まれ、韓国出身で現在はパリに拠点を置くキム・スンギの出品作《森林詩》は、自身のビデオ作品と、詩の朗読パフォーマンスを組み合わせたビデオ・インスタレーションだ。キムの祖父は道教の研究家で、母は書道家だった。タオイズム(道教)の思想が息づく作品からは、自然と人間の存在、森羅万象などの世界観、哲学的な深い探究心が伝わってくる。
展示風景 キム・スンギ《森林詩》(2021)
1932年に大阪で生まれた三島喜美代の作品は、彼女の代表作と言える陶で作った立体のほか、チラシや使い古された衣類などの通常はゴミとされる素材を使ったコラージュと油彩、アクリル絵の具を使った平面作品が展示されている。高度経済成長期を迎えた日本で、氾濫する情報が消費されていく様子を陶製の立体作品に取り入れた。積み上げられた新聞の束をシルクスクリーン印刷と陶を用いて制作した作品《作品92-N》は、鑑賞者を圧倒する重厚感がある。
展示風景 三島喜美代の作品
会場にはそのほか、エテル・アドナン、フィリダ・バーロウ、アンナ・ボギギアン、ミリアム・カーン、リリ・デュジュリー、アンナ・ベラ・ガイゲル、ベアトリス・ゴンザレス、カルメン・ヘレラ、宮本和子、センガ・ネングディ、ヌヌンWS、アルピタ・シンの作品が展示されている。16通りの個性を放つ作品群は、複雑な社会問題への視座を与えてくれるだろう。
アートの存在意義を振り返る
作品と合わせて着目したいのが、参加アーティストたちへのインタビュー映像だ。長期にわたる制作活動は、どのような背景のもとで行われてきたのかが、16の映像からうかがい知ることができる。参加アーティストたちが持つ思想や哲学、柔軟な発想力は魅力的だ。
展覧会タイトルにある「アナザーエナジー」とは、そうした彼女たちのしなやかな生き方と、制作活動にかける一貫した姿勢を維持するエネルギーはどこから来るのかという問いかけであり、アーティストに与えられた社会的役割を探るものとなっている。
新型コロナウイルスによる困難な状況が続く中、アートの存在意義を振りかえる内容になっていることは意義深い。この状況だからこそ心に響き、示唆するような導きが感じられるだろう。感染対策を十分に行った上で、足を運びたい展示となっている。
展示風景 エテル・アドナンの作品
センガ・ネングディ《ワープ・トランス》(2007)
『アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人』は、4月22日(木)から9月26日(日)まで、森美術館にて開催。
文・写真=石水典子