キュウソネコカミ “臆病な勇者たち”が未来の尻尾を掴んだ日、諦めなかったツアーファイナルをレポート
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キュウソネコカミ 撮影=後藤壮太郎
DMCC REAL ONEMAN TOUR 2021
2021.06.01 Zepp Haneda
メンバーの入場SEにFEVER333の「BITE BACK」が流れ、ツアータイトル『DMCC REAL ONEMAN TOUR 2021』と記された巨大なバックドロップがスルスルと上がってきた時、まるでバンドからの狼煙のような印象で鳥肌が立った。バンドのキャッチフレーズでもある“DMCC”は“Despair makes cowards courageous”(絶望は臆病者を勇敢にさせる)の意で、“窮鼠猫を嚙む”の英語バージョンである(ヤマサキセイヤの固定ツイートから引用)。いや、まさにそもそもがそういうスタンスのバンドである。だが、今回のツアーほど、バンドもファンもこの気持ちを再認識し、爆発させたことはなかったんじゃないだろうか。しかも“REAL ONEMAN TOUR”だ。無人の空間に向かって叫んではいられない。ちなみにファイナルは当初、5月11日にZepp Tokyoで開催予定だったが、緊急事態宣言を受け、延期。約半月の間に会場の変更、それに伴う事務手続き、何よりこの場所に辿り着こうと、予定を工面して集結したファンの熱量が凄まじかった。幸せとは与えられるだけじゃなく、お互いに放出し合うことなのだ。
オープナーは「MEGA SHAKE IT!」。とっても今更なのだが、ソゴウタイスケ(Dr)のデッド気味のポストパンクなドラムサウンドにまず耳が釘付けに。キュウソのプレイが確実なのは自明だが、サウンドが更新されている。5人の音が明確に聴こえるのも気持ちがいい。「御目覚」、「メンヘラちゃん」、「あいつホンマ」とBPM速めに畳み掛けるステージに呼応するように、椅子が並べられたフロアもジャンプと拳で応戦。筆者が観ていた2階席もこんなに揺れるんだ?というファンの熱量を体感した。時に、「あいつホンマ」の《あいつはめちゃくちゃクズだけど 今も僕らに力をくれる》という歌詞の“あいつ”はきっと誰にでもいると思う。なかなか会えないそんな誰かのことを首でリズムを取りながら思い出したりするのだ。そんな瞬間があるからキュウソのライブは、ファンにはもちろん、時々遭遇する人間にとっても優しい。そんなハイパーかつキラーチューンの連投から、ギターのオカザワカズマ作曲のラウドミクスチャー・テイスト・ナンバー「囚」へ。セイヤが「物申して行こう!」と叫び、オカザワのぶっといリフが説得力を増幅させる。語り部分をおもちゃの猿が喋っているていで見せるのは、シリアスな内容にせめて狂言回しを立たせた感じだろうか。いや、それでもシリアスなキュウソは2020年~今年を率直に体現している。演奏も軸の太い、腰の入ったグルーヴだった。
最初のMCでは現状、フロアに降りられないがこの状態に慣れたくないと、セイヤ。そもそもは“エモい”という言葉が広く敷衍(ふえん)しすぎて、何にでも使われることへの違和感をヨコタシンノスケ(Key/Vo)と意見交換していたのだが、ヨコタが「今日、ライブできていることがエモい」と言うと、セイヤが「最初のMCで変な感じになってしまった」と、一刀両断。確かにいい話に回収するにはまだ早い。
続くブロックは新作『モルモットラボ』から「おいしい怪獣」、「シュレディンガー」、「薄皮」とテイストの異なる3曲をプレイ。見所はこのツアーで取り入れたというヨコタのエレピのアドリブ的なイントロを加えた「シュレディンガー」。大人っぽい内容とも相まってナイスアレンジなのだが、離れている間は相手が生きているのか分からないという歌詞が、今の状況では不信感じゃなく、不安な気持ちを呼び起こす。ラスサビでのセイヤのファルセットも泣けた。感傷的な気持ちから、ベースのカワクボタクロウ作詞作曲の「薄皮」が彼の確かなベースフレーズから始まったのも胸に迫った。矛盾や逡巡の表現が少しずつ大人な内容になってきた新曲はライブでもバンドの奥行きを広げ、ファンも共に成長していく上で、大切な存在になっていくだろうと思えた。もちろん新曲だけじゃない。「KMDT25」と「キャベツ」をセットリストに盛り込んだことでさらに奥行きが。特に「キャベツ」でセイヤが弾き語りに転じるパートは久々すぎて、今回のツアーで修行のようだったと、あとのMCで笑わせた。
10曲、走り抜けた後、ヨコタが「シュレディンガー」のイントロのピアノに彼らの“猫がらみ”の曲を即興で盛り込んだと話している間にトイレに行っていたというセイヤ。メンバー間のゆるいトークもそうだが、ファンに対してもライブとの緩急に笑ってしまう。
後半は人力なのにチップチューン風なことが今も新鮮な「ファントムヴァイブレーション」、ダンスロック「カワイイだけ」、これぞロックンロール・リバイバルな「友達(仮)」からポストパンクと人力テクノ感を混交した「適当には生きていけない」へ。この辺りのポストパンクナンバーで如実に感じたが、セイヤのサイドギタリストとしてのリフやカッティングのセンスの良さ。フロアに降臨できる時も、もちろんギター&ボーカリストではあるが、ギターを弾いている時間が必然的に長くなる現在のライブは、人の演奏や曲のパワーを再認識することになる。そしてそれこそがやはりキュウソの強みなのだ。続く「シャチクズ」ではセイヤのボーカルに部分的にエフェクトがかけられ、あらゆることに遅れをとった主人公の焦りの気持ちというより、正気を失っていくようなニュアンスに苦しくなったが、最後の叫びでむしろ救われた気がした。それぐらい曲に没入できたのだ。
ラストスパートは「失ってたまるかー!」というセイヤの叫びから「推しのいる生活」、「ビビった」で、フロアは両手を挙げて踊り続ける。そしてヨコタの「バンドやってるおかげで心が死なずに生きていられる。いろいろある中、来てくれたと思うけど、頑張りすぎずに生きていてください!」という感謝と願いを乗せた「冷めない夢」はバンドとファン両方にとってのリアルな夢だし、希望として響いた。本編ラストに「ハッピーポンコツ」を配したのも続けていくことの意思表明だったんじゃないだろうか。この曲のモデルのA氏はこの日の開演前、注意事項を少し不器用に、でも真剣にフロアに向けて話しかけ拍手を浴びていた。キュウソのライブはすべからく熱く、温かい。
アンコールでこのツアーを経て「ちょっと元気になった」と言ったセイヤ。バンドがバンドであるために――もはやアンセムになった「The band」、そして《なくても死なない》、でも、それを他人に不要不急と言われる筋合いはないと改めて思った「3minutes」で、久々のツアーを完走。いくつかの“武器”は今、使えなくとも、キュウソネコカミが音楽で伝えてきたことはガッツリ、ファンの中で息をしている。そのことを確認できた2時間だったのだ。
取材・文=石角友香 撮影=後藤壮太郎
セットリスト
2021.6.1 Zepp Haneda
02. 御目覚
03. メンヘラちゃん
04. あいつホンマ
05. 囚
06. おいしい怪獣
07. シュレディンガー
08. 薄皮
09. KMDT25
10. キャベツ
11. ファントムヴァイブレーション
12. カワイイだけ
13. 友達(仮)
14. 適当には生きていけない(2020 ver.)
15. シャチクズ(2020 ver.)
16. 推しのいる生活
17. ビビった
18. 冷めない夢
19. ハッピーポンコツ
<ENCORE>
20. The band
21. 3minutes
▼セットリストプレイリスト
https://jvcmusic.lnk.to/kyuso_20210601