『おちょやん』で改めて脚光を浴びる松竹新喜劇の魅力について、渋谷天外と久本雅美が対談「自由な空気を迎え入れたい」
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『松竹新喜劇 夏まつり特別公演』 撮影=福家信哉
NHK連続ドラマ小説『おちょやん』(2021年)の主人公、千代のモデルとなった浪花千栄子を輩出したことで、あらためて脚光を浴びている松竹新喜劇。その『夏まつり特別公演』が7月10日(土)から18日(日)まで京都・南座で上演される。
同公演の演目となるのは新作喜劇『一休さん』と『愛の小荷物』。青年期の一休さんが山城の飯岡で起きた村民の争いを解決する『一休さん』は、松竹新喜劇の劇団代表・渋谷天外が『おちょやん』で同じく出演していた毎田暖乃と共演することでも話題に。一方の『愛の小荷物』は久本雅美が主演。松竹新喜劇の人気作をどのように演じるかに注目があつまっている。
大阪市内でひらかれた記者会見には、『一休さん』の藤山扇治郎、桐生麻耶(OSK日本歌劇団 特別専科)、毎田暖乃、渋谷天外、『愛の小荷物』の久本雅美が出席。それぞれ意気込みを語った。
藤山は自身が演じる一休さんというキャラクターについて、祖父である名優・藤山寛美の名前を引き合いに出し「一休さんとおじいさんは似ています。人のために知恵がわくところがすごい。一休さんは変わった人でもあるかもしれないけど、考えられない発想を持っている」と数々のとんちの伝説に舌を巻く。
2021年にOSK日本歌劇団の特別専科へ移籍して以来、初の外部公演への出演となる桐生は今回、一休さんに依頼を持ち込む武家・蜷川新右衛門役。松竹新喜劇の印象について「日常に近い会話劇を繰り広げて、そのなかでホロッとさせたり、可笑しくさせたりする。こういう舞台をやってみたいと思っていました」と念願が叶ったという。
『おちょやん』を絡めた話で盛り上がったのは天外と毎田。天外が「暖乃ちゃんの実力は分かっています。ここで暖乃ちゃんに芝居で負けたら、私のうん十年は何だったのかとなる。全力でつぶしにかかります!」と冗談で笑わせたが、毎田は「天外さんに勝つことは一生ないので、私が勝てるように引っ張ってください」と絶妙の切り返しをみせて共演者らを驚かせた。
『愛の小荷物』で世話焼きの女性・おつねに扮する久本は、「これまでおつね役といえば、曽我廼家十吾さんと酒井光子さんでした。でも私はキャラクターが違うので、自分らしく、笑いをとりながらやっていきたい」と気合十分。さらに「品は損なわないようにしたい。喜劇ですから、グッときながらも笑ってもらいたい」と展望を口にした。
『松竹新喜劇夏まつり特別公演』
記者会見後には、天外、久本に単独インタビューを実施。ふたりの出会いから、芝居のあり方などについて語ってもらった。
――天外さん、久本さんの初共演はテレビドラマ『総務部総務課山口六平太』(1988年)ですよね。
天外:そうですね。堤大二郎くん、高田純次さんが出演した作品で、私は当時、名前が渋谷天笑でした。久本さんと同じシーンになることはあまりなかったけど、休憩時間に一緒にお茶をしていろいろ話しましたね。とても可愛らしくて、おもしろくて。そして無礼な人でした(笑)。
久本:ちょっと待ってください、そんなことないです! 私は松竹新喜劇をずっと見ていたので、2代目渋谷天外さんの息子さんだと存じ上げていました。そんなものすごい家系をお持ちなのに偉ぶることはない。あの頃からずっと天外さんは裏表がなく、ざっくばらん。あと、今も昔もグイグイとくる人でもあります。
天外:あのときから久本さんの芝居はすごく面白かったので、松竹新喜劇にもお迎えするようになりました。久本さんは古いものをちゃんと知っているけど、それをあえて出さない。どんどん新しいことにチャレンジしている。もちろんその芝居の仕方を見て「それは違う」という人もいれば、「おもしろい」と絶賛する人もいるでしょう。芝居とは、そういった過程を経て新しくなっていきます。また、彼女の芝居を見た若い者たちがどこまで吸収できるかが大事。それが次の世代へのバトンタッチになりますからね。
久本:松竹新喜劇ならではのお芝居がありますよね? 私はワハハ本舗という、松竹新喜劇とは真逆の劇団から呼んでいただいていますが、最初は受け入れてもらえるかどうか怖くて、怖くて。ただ、兄さん(天外)たちは、自由にやらせてくれた上に、ちゃんと受け止めてくれはった。これは私に限らず、外から新しい風を取り入れようとしていたのでしょう。私としては松竹新喜劇が好きですから、「何かを変えてやろう」なんて微塵も考えていなかったです。自分のおもしろがっていることが、みなさんのお役にちょっとでも立てたら良いかなと思います。松竹さんのお芝居の一つの彩りになれたらという気持ちでやっています。
天外:ある時期からそういう自由な空気を、新喜劇としても全員でちゃんと迎え入れていこうとなったんです。というのも私はかつて『お祭り提灯』のとき、主役で入っていくときに六方(ろっぽう)を踏んで、周囲から「芝居をつぶすつもりか」と散々怒られたことがありました。でも私は、「いや、自由に、派手にやればええんちゃいますか」と言ったんです。そういう世界で育ってきたから、自由にやってきたという久本さんへのうらやましさがありました。しかも自由でありながら、自分でちゃんと枷をつけてやってはるから、変な方向に外れない。ちょうど良い具合にうちの新喜劇のなかで動いてくれてはります。
『松竹新喜劇夏まつり特別公演』
――久本さんは今回『愛の小荷物』でお節介な女性の役をつとめますね。久本さんご自身は、自分で「お節介やなあ」と思うときはありますか。
久本:困ってる人を見かけたら放っておけないんですよ。ワハハ本舗の若手劇団員から「お金がなくてご飯が食べれないんです」と聞いたら、もう涙が止まらなくなる。家にある米、そうめんなどをかき集めて「これで食っていけるか」と渡します。あと自分の服をあげることもありますね。劇団員にはよく「最近どないしたん?」と尋ねることもあるけど、そういう部分が私のお節介なところかも。
天外:いやいや、それはお節介というより親切ちゃうか? お節介は、ちょっと煙たい感じやんか。
久本:あ、なるほど。うちの若手は今では逆に「姉さん、何かないですか」と言ってくるようになりました(笑)。兄さんはどうですか。お節介なところはあります?
天外:僕は「何かあげようか?」と聞いたら、すぐ断られる。「飯を食いに連れて行ったろうか?」と若手を誘っても、「いや、遠慮しときます」と。めっちゃ寂しいです。
久本:ああ、兄さんは寂しがり屋ですもんね。
天外:「エエもん食いに連れて行ってやるから」と言っても来ぇへんからね。
久本:でも兄さんはジャンクフードが好きじゃないですか。ご飯を連れて行ってくれるのは嬉しいけど、私もジャンクフードばかり食べさせられて、さすがにちょっと飽きてきたから「もうええですわ」と言ったことを覚えてます。もうね、毎日なんですよ。連日のようにラムチョップを食べに連れて行ってもらったときは、「こっちが羊になってまうわ!」となりましたもん。おいしかったですけどね。
『松竹新喜劇夏まつり特別公演』
天外:そういえば現在の渋谷天笑がインタビューで、「天外さんの付き人をやっていたときは地獄でした」と話していたんですよ。そのあとから付いてくれている子も「いやあ、分かります。地獄です」と言うんです。確かに仕事の日は付き人は朝、私を迎えに来て、楽屋まで連れていき、舞台の準備、食事などをやってくれる。仕事が終わってホテルに帰っても、酒に付き合ってくれたりして。彼らからしたら毎日が渋谷天外のペースになってしまう。誰だって自分の生活のペースがあるけど、付き人をやるとそれが崩される。そう考えると、こういう仕事は慣れるまでは地獄かもしれません。
久本:だけどお付きの方が「天外さんと一緒にいると地獄です」と堂々と言えること自体、良い関係なんですよ。ほんまに嫌やったらそんなことは絶対に言えへん。「天外さんに付くのは地獄」と聞いても、兄さんは人柄や器が大きいから笑ってくれるじゃないですか。
天外:あとね、1年くらい付いていると僕の気を読めるようになってくる。そうやって人の気を読む力がついたら、舞台にも生かされてくると思うんです。あと付いてくれる子たちは、自分の子どもみたいなもの。別に俺の葬式には来てくれなくて良い。その分、芝居の稽古をやってほしい。で、これからの劇団の力になってもらいたいですね。
久本:兄さんはほんまに劇団のことを大事に考えていますよね。だから私も松竹新喜劇の舞台に出るのが毎回楽しいんです。ただ、兄さんとはここのところ、共演の機会がないですね。またご一緒させていただきたいです。そうなったら最高ですね。
天外:一緒にやりたい台本は何本もあるから、いつか共演したいですね。
『松竹新喜劇夏まつり特別公演』
取材・文=田辺ユウキ 撮影=福家信哉