アインシュタインの頭の中を楽しみながら体験できる『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』が大阪市立自然史博物館でスタート
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『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』
「20世紀最高の物理学者」と呼ばれるアルバート・アインシュタインが、「一般相対性理論」や「ブラウン運動の理論」などを提唱し、「光電効果の法則の発見」で1921年のノーベル物理学賞を受賞してから今年で100年。それを記念して、7月17日(土)から10月10日(日)まで大阪市立自然史博物館で『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』が開催されている。本展では、アインシュタインが提唱した科学理論や日本とのつながりなどを、国内外の貴重な資料やゲーム装置、おもちゃ、マンガを通し、子どもから大人まで楽しみながら学ぶことができる。今年3月〜6月に名古屋市科学館で開催され、今回大阪にやってきた巡回展。開催に先駆けて過日、会場にてプレス内覧会が行われた。その様子をレポートしよう。
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』 撮影=ERI KUBOTA
◆多くの子どもたちに触れてもらい、科学者の卵を生み出す展覧会◆
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』 大阪市立科学館 斎藤吉彦 館長
まず最初に主催者を代表して、齋藤吉彦 大阪市立科学館館長が「私は高校生の時にブラウン運動と相対性理論を聞いてびっくり仰天し、「何事やこれは! 非常に不思議や」と科学に興味を持って、今日に至るわけです。そんなすごい理論を小学生から楽しめる展示になっています」と本展の内容を説明し、「人類には存続の危機が迫っているのではないかと思います。たとえばコロナ、そして地球温暖化。今後どうしていくか、それを解決するためには科学者が必要です。この『アインシュタイン展』は、多くの科学者の卵を生み出す展覧会。それがきっと人類の存続に寄与するという意味でも、この自然史博物館で行う意味が大いにあると思います」と挨拶した。
◆アインシュタインの幼少期から青年期までのエピソードを紹介◆
続いて、大阪市立科学館の上羽貴大学芸員が実際に会場内を回り、展示の趣旨や見どころを案内。これからは上羽学芸員のナビゲートに沿って、展示内容を紹介していく。まず、「アインシュタインのキャラクターにふれる」第1章を見ていこう。
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』
本展の導入部分となる第1章では、アインシュタインが生まれてから仕事に就くまでを中心に、彼の人柄がわかるエピソードを紹介している。どんな子ども時代を送り、どのように科学に興味を持ったのかを、親しみやすくSNS仕立てのパネルで紹介している。上羽学芸員によるとこのパネルには「電池残量や時間の語呂合わせなどに、小さなネタが仕込んである」とのことなので、注目してみよう。
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』
そして知恵の輪が大好きだったことにちなみ、実際にそれらの遊びを体験できる展示が用意されている。
また、アインシュタインはノーベル賞受賞後の1922年に日本を訪れている。約1ヶ月ほど日本に滞在し、各地で相対性理論の講義を行った。日本全土が大歓迎ムードだったといい、当時のエピソードなどをパネルで紹介している。
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』 アインシュタインの研究室をイメージ
◆原子の存在を証明した「ブラウン運動」◆
第2章は「アインシュタインが変えた世界」。アインシュタインが大学の研究者になる前、特許局の職員として働いていた1905年、26歳の時にたった1年間で「ブラウン運動の理論」「光量子仮説に基づく光電効果の理論」「特殊相対性理論」という3つの論文を発表した。これまで誰も説明できなかったことを1年のうちに3つも解き明かしたということで、1905年は「奇跡の年」と呼ばれている。この章ではこれら3つと、「一般相対性理論」の4つの代表的な科学理論を、楽しみながら学べる体験装置やゲームなどでわかりやすく紹介している。
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』 ブラウン運動を体験できるゲーム
1つ目の「ブラウン運動」は、原子の存在を証明した理論だ。黒い小さな粒が小刻みに動いている様子を映し出すモニターの前に立った上羽学芸員は「この小さい粒は酸化チタンという金属のサビ。まるで生きているように見えますが、この中に生き物はおりません。約200年前にロバート・ブラウンという学者が発見したブラウン運動の現象を巡って、科学界では「分子・原子は本当に存在するのか?」という一大論争が起こっていました。その謎を解いたのがアインシュタインだったのです」と説明。
アインシュタインは、「小さな粒の周りにある見えない分子が、おしくらまんじゅうのように四方八方から押しあうことで、ジグザグに動いているのではないか。この動きを丁寧に観察すれば、分子・原子がどれくらいの大きさで、どのくらいの密度で動き回っているのかがわかるはずだ」と発表。他の科学者がそれに基づいて実験をしたところ、分子の存在が解明され、注目を浴びることになった。
部屋の真ん中にあるピンボールのような大きなボードゲームでは、ブラウン運動の動きを体感できる。周りから小さなボールが飛び出して、真ん中にある輪っかをランダムに押し動かす様子をじっくりと観察してみよう。
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』 ランダムウォーク
そしてメインの「ランダムウォーク」では、ブラウン運動の予測ができない不思議な動きを体感できる。
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』 ランダムウォーク
ランダムに光る床に沿ってマスを移動しゴールを目指すのだが、テンポ良く進むというよりは、近くを行ったり来たりする感覚で、大きく移動できないことがわかる。
◆光は波であり粒である「光電効果」◆
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』
続く黄色いエリアでは、アインシュタインがノーベル物理学賞を受賞した理論で、2つ目の「光電効果」についての展示が行われている。
「光電効果」は、金属に光を当てると電子が飛び出るという現象だ。18〜19世紀頃、「光は波なのか、粒なのか」という論争があった。ニュートンやホイヘンスら物理学者が論争を繰り広げていた中で、スコットランドの物理学者・マクスウェルが、「光は波だ」と数式に表したが、それでは光電効果の現象を説明できなかった。それについて答えを出したのがアインシュタインだった。光電効果は光センサーなどにも応用されている、最先端の技術。光は波であり、粒だということが体感できる小さな展示もあり、遊びながら光の正体について学べる内容になっている。光電効果の仲間であるレントゲン装置『ニューオーロラ号』の貴重な展示もお見逃しなく。
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』 光電効果を体験できるゲーム
また、光電効果を学びながら遊べる体験型ゲームも用意されている。光の粒を表す赤・青・緑色のボールを的に当てることで電子が飛び出し、それを利用して高得点を狙う。
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』
また、アパレルブランドのアンリアレイジが開発した洋服『REFLECT』も見どころだ。一見白い服だが、フラッシュをあてて撮影すると一気にカラフルに変化する。光が反射すると色や柄が変化する素材を使うことで、光が当たる時と当たらない時で服に二面性を持たせている。ぜひフラッシュ撮影をして、鮮やかな変化を楽しんでほしい。
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』 フラッシュを当てるとカラフルな色が出現する
◆伸び縮みする時間と空間「特殊相対性理論」◆
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』
オレンジ色のエリアでは、アインシュタインといえば最も有名な3つ目の理論、「特殊相対性理論」についての展示が行われている。
特殊相対性理論とは、「時間や空間は立場(止まっている人、動いている人)によって伸びたり縮んだりする相対的なものである」という理論。この特殊相対性理論も1905年の奇跡の年に発表された。特殊相対性理論をうまく説明できる人は少ないのではないだろうかと思うほど難しい理論だが、わずか26歳でこの理論にたどり着いたアインシュタインの天才ぶりをうかがい知ることができる。
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』 相対性理論を体験できるゲーム
特殊相対性理論の世界を体験できるゲームが「光速サイクリング〜キミは爆弾を解除できるか?〜」だ。爆弾が仕掛けられたエアロバイクにまたがってペダルを漕ぐと、爆弾を解除するために、自分が光になって2光年先の惑星に到達するというもの。光の速度に近づくほど時間の流れがゆっくりになっていく様子を体感して欲しい。
また、体験型展示「キャプテン・アインシュタイン」は、アインシュタインの妹マヤ・アインシュタインのナビゲゲートに従って、遊覧船旅行するというもの。ものすごく高速の光が時速20キロだったらどうなる? という設定の中で、周りの空間が歪んだり、色が変わる景色を体験できる。タブレットを手にして、360°広がる不思議な世界へ旅立ってみよう。
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』
浦島太郎は竜宮城で過ごした時間の流れがとてもゆっくりになり、その流れをとり戻すために玉手箱でおじいさんになってしまった。時間の流れ方は人によって違うことから「浦島効果」と呼ばれているが、それを面白おかしく体験できる「ふけ顔体験」も特殊相対性理論をもとにしたもの。家族みんなでトライしてみよう。
◆まっすぐ進むと曲がる?「一般相対性理論」◆
展示の様子
青色のエリアは4つ目の「一般相対性理論」についての展示。奇跡の年からおよそ10年かけて、特殊相対性理論を発展させ、完成させた理論で、アインシュタインの名を世界に轟かせるキッカケになった。
床には目の錯覚を利用したブラックホールが出現する。足元のマークから写真を撮ると、まるで穴に吸い込まれていってしまうような写真が撮れる。
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』 ブラックホールに吸い込まれているような写真も撮影できる
「質量がある物体の周りは空間や時空が歪む」ということをまとめたのが一般相対性理論。「ブラックホールはとても重たい天体なので、周りの空間や時空が大きく歪むため、光さえも引きずられて曲がってしまう、あるいは中に入ってしまいます。そのため、もう二度と出られない、極めて不思議な現象が起こる空間が生まれるのです」と上羽学芸員。
一般相対性理論を体験できるブース
それを直感的に感じられるのが足元に光のグリッドが照らされている「天体になって宇宙を歩こう」というブース。中に入ると、自分自身が重たい天体となって、周りの空間が歪む様子を、グリッドの歪みで感じられるというもの。「足元がぐにゃぐにゃ曲がって気持ち悪くなるかもしれないので、酔いやすい方はお気をつけください」とのこと。壁には、一般相対性理論から導かれた、ブラックホール、重力波、光のドップラー効果といった、現在確認されている不思議な現象の映像が映し出され、デジタル宇宙空間にいる感覚が味わえる。
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』
一般相対性理論は、私たちの生活にも直結している。GPSは地球の周りを高速で回る衛星を活用しているが、地球の重力の影響もあり、相対性理論がないとGPSは正しく動作しない。GPSが正しく動かせるのは、相対性理論のおかげで、私たちの生活を支えていると考えると、少し身近に感じられるのではないだろうか。GPSのしくみや「重力レンズ効果」についても、パネルやおもちゃでわかりやすく展示されている。
展示の様子
◆平和を願ったアインシュタイン◆
最後を飾る第3章は「アインシュタインの研究の先に広がる景色」。この章では、アインシュタインほどの天才であっても、未来を完全に予測することができなかったという側面や、現在彼の研究がどのような技術でどこまで明らかになっているのか、また、晩年に尽力した平和活動についてが展示されている。
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』
アインシュタインはユダヤの家庭に生まれたことでナチスに追われ、アメリカに亡命。「アメリカでナチスが台頭してくることに危機感を覚えたアインシュタインは、フランクリン・D・ルーズベルト大統領に「このままではナチスドイツが原爆を作ってしまうかもしれない、それに先立ちアメリカも原爆を作るべきである」という手紙を送ります。それがキッカケの1つとなり、実際にアメリカは原爆を発明し、そして日本に落とされたという経緯があります。それを聞いてアインシュタインは大きく後悔したと言われております」と上羽学芸員。
その時の手紙の複製資料や、その後アインシュタインが日本の出版社からの「原爆をどのように考えているか」という質問に回答した日本人への手紙の全文日本語訳が展示されていて、アインシュタインが原爆を通して平和への願いを強くした想いの経緯を知ることができる。
日本人への手紙について上羽学芸員は「これは当時の日本人だけでなく今の私たち、そして未来の日本人だけではなく世界の人々に対してのメッセージと考えていただいてもいいかと思います」と述べた。
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』
アインシュタインが亡くなる1週間前、ベッドの上で署名した、『ラッセル・アインシュタイン宣言』の草稿もじっくり読んでみてほしい。
最後に上羽学芸員は「アインシュタインは天才だったが、未来まで正しく予測できたわけではございません。たとえば彼は一般相対性理論から導かれるブラックホールを存在しないと思っていましたし、重力レンズや重力波も、さすがに目に見えないと考えていました。ところが、実際に観測できているわけですね。アインシュタインが予測したよりもはるかに人類が協力して科学を発展させていっています。未来へのメッセージ、科学技術の発展、そして平和への願いを受け取ってお帰りいただければと思います」と、展示案内を締め括った。
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』
会場を出ると、ペコちゃんとコラボした会場限定フォトフレームのプリクラが設置されていた。ミュージアムショップでは、コラボしたミルキーやアインシュタインにまつわる書籍やグッズが販売されている。
『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』
本展では、難しく感じる理論も、子どもから大人までわかりやすく楽しめるよう、随所に工夫を凝らして展示されている。ぜひ、アインシュタインの成し遂げた偉業と奥深さ、面白さを、様々なゲームやパネルを通して体験しに訪れてほしい。『ノーベル賞受賞100年記念「アインシュタイン展」』は10月10日(日)まで、大阪市立自然史博物館2階、ネイチャーホールにて開催。
取材・文・撮影=ERI KUBOTA
イベント情報
■会 期 2021年10月10日(日)まで
■開館時間 9:30〜17:00(ただし、入場は16:30まで)
■休 館 日 2021年8月23日(月)、30日(月)、
9月6日(月)、13日(月)、21日(火)、27日(月)、10月4日(月)
■会 場 大阪市立自然史博物館 ネイチャーホール(花と緑と自然の情報センター2階)
■入 場 料 当日:大人1,500円、高大生800円、小中生500円
前売:大人1,300円、高大生600円、小中生300円
※未就学児、障がい者手帳等をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料(要証明)。
※上記特別展入場料で、大阪市立自然史博物館常設展(当日限り)と、
大阪市立科学館展示場(2021年8月22日(日)まで)も入場可能。
※20人以上の団体は前売料金で販売。
■主 催 大阪市立科学館、大阪市立自然史博物館、読売新聞社、関西テレビ放送
■後 援 駐日イスラエル大使館、大阪府教育委員会、大阪市教育委員会、堺市教育委員会、応用物理学会、日本化学会、日本天文学会、日本物理学会、 日本物理教育学会
■協 力 宇宙航空研究開発機構(JAXA)、自然科学研究機構国立天文台、理化学研究所、
京都大学大学院人間・環境学研究科、京都大学基礎物理学研究所、慶應義塾図書館、
ゲント大学(ベルギー)、東京大学宇宙線研究所、名古屋市科学館、福岡市科学館、
愛媛県総合科学博物館、上越科学館、仙台市天文台、アンリアレイジ、改造社書店、浜松ホトニクス、Blue Dragon Art Company
■協 賛 岩谷産業、関西電気保安協会、島津製作所、清水建設
■公式サイト https://www.ktv.jp/event/einstein/
本展は、政府及び自治体等による新型コロナウイルス感染拡大防止のための各種ガイドラインに基づき実施します。
今後の感染状況によって、開催内容に変更が生じる場合があります。