歌舞伎座『八月花形歌舞伎』に染五郎の悪玉×團子の善玉が登場! コミカルな舞踊『三社祭』の見どころを聞く
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歌舞伎座『八月花形歌舞伎』に出演する市川團子(左)と市川染五郎(右)。
市川染五郎と市川團子が、2021年8月3日(火)より歌舞伎座『八月花形歌舞伎』の第三部で、舞踊『三社祭』に出演する。これに先駆けて2人は、“三社様”の呼び名で親しまれる浅草神社を参拝した後、合同取材会で意気込みを語った。
■三社様ゆかりの地へ
浅草神社は、雷門で有名な浅草寺のすぐそばにある。そのはじまりは、今から約1400年前に遡る。「『三社祭』をやらせていただくにあたり、公演前に一度伺いたいと思っていました。この機会に参拝することができて良かったです」と染五郎。
「漁師の兄弟が、浅草浦(今の隅田川)で観音様を拾い、それが神社の起源になったそうですね。参拝をしてから踊らせていただくと、きっとどこか違ってくると思います」と團子。ふたりは8月の歌舞伎座で、神社の起源となり御祭神となって祀られている漁師を勤める。夏の日差しの中、ふたりは三社様に手をあわせた。
■緊張感をもち、息を合わせて
現在、染五郎は16歳、團子は17歳。歌舞伎座の本興行としては、最年少タイでの『三社祭』となる。
ーー出演が決まった時の心境をお聞かせください。
染五郎:歌舞伎の舞踊の中でも、体力的な辛さで上位にくる作品です。小さい頃からやりたいと思っていたので、嬉しかったです。相手がいないとできない舞踊で、それを『春興鏡獅子』の胡蝶の精で共演させていただいた團子さんと一緒に、歌舞伎座でやらせていただけることも、とても嬉しかったです。緊張感をもち、息が合うよう稽古を重ねていきたいです。
市川染五郎
團子:染五郎さんとご一緒できることが、まず嬉しかったです。ふたりとも初めての『三社祭』を、一緒につくっていけるというワクワクがありました。
ーーお稽古では、どのようなことを感じていますか?
染五郎:息があわなくてはできない作品です。「ここはこうしたい。このタイミングで合わせたい」と、お互い感じたことを言いながらお稽古を重ねています。父(松本幸四郎)と市川猿之助のお兄さんが博多座で踊った時(2010年)の映像を見て、それを目指しています。
市川團子
團子:鏡を見て左右対称ではないところや、自分たちの映像を見て発見したところを、お互い言い合うようにしています。たとえば足を置く時に、同じタイミングでも、トンと置くのかスッと置くのか。今日も染五郎さんが言ってくださったところをあわせてみたら、ピタっと揃って。一つひとつ詰めていく感覚が楽しいです。
■大きな歌舞伎座の、すべての席へ届くように
ーー幸四郎さんや猿之助さんからアドバイスはありましたか?
染五郎:父からは「とにかく身体をよく動かすように」と。お面をつけると少し俯いて見えてしまうので、正面を向く時は、顔を少し上に向けると良いとも聞きました。これから本番に向け、色々と教わっていきたいです。
團子:猿之助さんは、「染五郎さんにあわせることをまず大事に」。それから、「歌舞伎座の舞台は大きいから、大きく踊るように」とおっしゃっていました。はやく動くことだけで踊りが小さくなってしまうと、見映えも良くありませんし、三階のお客様には何をしているのか伝わりません。腰を入れるところは、極端なくらい大きく入れる。下げるところも下げられるだけ下げる。大きく踊れるようになった後でなら、大きくも小さくも踊れるようになるからと。
ーー幸四郎さんと猿之助さんの『三社祭』をご覧になった感想をお聞かせください。
染五郎:役をいただくと、父が演じた役であれば、まず父の映像をみて研究することからはじめます。『三社祭』も、父と猿之助のお兄さんの映像をみて自分の稽古をはじめました。高麗屋と澤瀉屋の『三社祭』ということで、團子さんも猿之助のお兄さんの善玉を目指すのでは? という思いもあって。小さい頃から父の踊りを一番見てきましたし、父の踊りが一番好きです。やはりそれを目指したいです。
團子:博多座の映像は、おふたりが30代の頃のもので、共演を重ねられてからの『三社祭』です。(オーソドックスな振りから)形を変えていらっしゃるところもあり、それがさらに上の次元で成立されていると感じました。僕は、まず基本をしっかり大切にして挑みます。そして10年、20年後にやらせていただく機会があれば、猿之助さんのように踊ってみたいです。
ーー体力が必要な演目とのこと、筋肉痛や疲れもあるのではないでしょうか。
染五郎:まだあっていないところへの焦りもあり、筋肉痛になっている間がありません(苦笑)。いつものことですが、僕はひと月の舞台が終わってからひと月分の疲れが出る方で。今はとにかく、お互いの息をあわせるように毎日お稽古しています。先日から、実際の小道具のお面をつけて、踊り始めました。それまでマスクで稽古をしていたのですが、マスクの方が全然苦しかったです(笑)。
團子:(大きく頷いて)お面をつけて踊るのが本当に大変だと聞いていたのですが、マスクで稽古をしていた時もよほどキツかったよね(笑)。
■染五郎の悪玉、團子の善玉
ーー染五郎さんが悪玉を、團子さんが善玉を踊られます。
染五郎:やらせていただくなら、悪玉がカッコいいなと思っていました。善と悪のお面を見ていると(おもむろにジャケットの内ポケットから、善玉、悪玉のお面を模したコースターを取り出し)人の顔に見えてくるんですよね。
(一同、笑いとともに「たしかに!」と頷く)
市川染五郎
染五郎:ふたりとも柿色の衣裳で、見た目が似ています。善玉と悪玉のお面をかぶると、顔も分からなくなります。お客様に全く同じに見えてしまわないよう、キャラクターの違いを意識して踊りたいです。男女の恋模様を表現している振りでは、踊りであっても演じることを意識して踊りたいです。悪玉は男を演じますので、男らしく見えるように。全体を通して悪玉の方がパワフルでないといけません。だからといって動きすぎて、暴れているようにみえてしまわないよう、基礎をきちんと入れた上で、パワフルにおみせしたいです。
團子:僕はもともと、善玉が大好きでした。やらせていただけるなら善玉をと思っていましたから、やっぱり僕らは相性が良いのでしょうね(満面の笑み)。
(一同、再び笑いとともに頷く)
市川團子
團子:何ミリとか何秒とか、タイミングをあわせるところはピッタリとあわせたいと思っていますが、踊りの中には、振りや空気感がそれぞれに違うところもあります。そういうところでも、ふとお客様が「振りは違うのに一緒だな」と思っていただけるような、統一感を出せたらいいですね。
■仲間でライバルで、片思い
ーーおふたりの初共演は、2013年10月の国立劇場『春興鏡獅子』でした。当時のご記憶はありますか?
染五郎:学校で初めて会った時、「一緒にがんばろうね」と声をかけてくれたのを覚えています。あとは、国立劇場の廊下を走ったり、お風呂で遊んだり(笑)。
團子:僕は台に上がり踊るところの、舞台上の景色を鮮明に覚えています。それから幸四郎さんが、毎日、食堂に連れていってくださいました。僕は毎日カツカレーで、いっくん(染五郎)は毎日……。
染五郎・團子:塩ラーメン!
團子:幸四郎さんは何だったかな……。
染五郎:(首を傾げる)
團子:とにかく3人とも、毎日同じメニューを食べていたことをよく覚えています。
ーーおふたりは異なる個性を持ちながらも、相性は良さそうですね。
團子:はい! 取材や舞台挨拶のトークでも、「打ち合わせをしてきたんですか?」と言われるくらい間が合うんです。自分の気持ちいいタイミングが染五郎さんのタイミングと合うんですよ! ね? 染五郎さん、いかがでしょうか?
染五郎:『三社祭』に関しては、映像でみている猿之助のお兄さんと父の間がお互いの中にあるので、同じタイミングを気持ち良く感じるのだと思います。
團子:“合う”って言ってよぉ(小声)。
染五郎:(笑)
学校の階段ですれ違った時には、「ウイっすって言います」と團子。
染五郎: 團子さんは歌舞伎役者の中で一番年が近くて、仲間でありライバルでもあるので、今回のようにがっつり絡む舞台では、お互いに切磋琢磨できます。意見を言うことも、相手の意見に合わせることも、お互いに素直にしあえる関係だと思っています。色々なアイデアが湧き出てくる人なので、自分が一緒にできることがあればと思います。
ーー團子さんは染五郎さんに対して、どのような印象をお持ちですか?
團子:染五郎さんは、歌舞伎に向かう時にも広い視野をお持ちです。たとえば僕は、映像の資料があるとついそればかりに集中してしまうんです。でも染五郎さんは、映像の他にも本や資料など多くの情報から、とても広い視野で舞台に向かわれていて、学ばせていただいています。すごいことだと思っています。今回も映像や資料のコピーをいただきました。僕は染五郎さんが好きですね。学校も同じですし、なぜか登校時間も一緒なんです。ね? いっくんからは絶対に話しかけてこないので、僕から。内心、嬉しいんだと思いますよ。だから相性は最高です!
染五郎:(静かに笑う)。
團子:僕がずっと片思いですね……(一同笑)。
左耳には、『三社祭』のお面をモチーフにしたイアリング。善と悪をそれぞれに。歌舞伎の小道具を手掛ける藤浪小道具のショップで購入可能。
ーー夏休み期間となる8月は、同世代の学生の方にもご覧いただきやすいですね。
染五郎:踊りですし、お面もかわいいです。悪と善が登場するというとカッコいいものをイメージするかもしれませんが、くすっと笑えるようなコミカルな踊りです。他の踊りにないような、独特の動きも面白いですし、清元は明るくて楽し気な曲調です。夏らしい舞台を楽しんでいただけると思います。
團子:振りの止め方やキレのあるところは、現代のダンスに通じるところもあると思います。テンポの良さなども含めて、視覚的にも楽しんでいただけるのではないでしょうか。パッとした明るさ、溌溂とした感じは、若い方で初めて見る方にも楽しんでいただけると思います。初めて勤める『三社祭』です。全力でやらせていただきます!
『八月花形歌舞伎』は、8月3日(火)から28日(土)までの公演。市川染五郎と市川團子の『三社祭』が上演される第三部では、松本幸四郎が初役で勤める『義賢最期』、中村歌昇、坂東新悟、中村隼人による『伊達競曲輪鞘當』もラインナップされている。
『三社祭』の振りをここでできますか? に応えて。
取材・文・撮影=塚田史香
公演情報
奈河彰輔 補綴
石川耕士 補綴・演出
市川猿翁 補綴・演出
市川猿之助 演出
三代猿之助四十八撰の内
加賀見山再岩藤(かがみやまごにちのいわふじ)
岩藤怪異篇
市川猿之助六役早替り相勤め申し候
一、真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)
豊志賀の死
二、仇ゆめ(あだゆめ)
一、義賢最期(よしかたさいご)
二、三社祭(さんじゃまつり)