「心が動いて、活力になるような舞台に」 ジェシー(SixTONES)、寺脇康文らによる『スタンディングオベーション』が開幕
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寺脇康文、ジェシー(SixTONES)
数多くのドラマや楽曲を世に送り出してきた秋元康が、この夏新たな作品を放つ。
単独初主演・初座長を務めるのは、SixTONESのジェシー。さらに、映画やドラマでも活躍する寺脇康文、水夏希、木場勝己、清水くるみ、有川マコト、小林タカ鹿、牧田哲也と、ベテランから若手まで個性豊かな共演者が顔を揃えた。脚本は、演劇集団Z-Lionを主催するほか、自らも俳優として活躍する粟島瑞丸。演出はストレートプレイやミュージカル、ノンバーバルまで多彩なジャンルに挑み、新たなエンターテインメントを次々に発信しているウォーリー木下が手がける。
開幕を前にして行われた、ジェシー(SixTONES)、寺脇康文による会見とゲネプロの様子をお届けしよう。まずは会見の模様から。
左から寺脇康文、ジェシー(SixTONES)
――ジェシーさんは初めての外部の舞台ですね。
ジェシー:ド緊張ですよ! メンバーの(京本)大我がミュージカルとか舞台メインでやっているので、僕はバラエティでふざけていくのかなと思っていたらいきなり。ドッキリ!? みたいな。ドッキリ最近多いので。そしたら出演者の方々が素晴らしくて。うわー「相棒」だ! と思って。おじいちゃんがファンでよく見てたんですよ。
寺脇:舞台上では僕と相棒ですね。
――お二人の衣装がだいぶ違うのは……。
寺脇:だいぶ違いますよね。(ジェシーは)中世のヨーロッパ的な感じで僕は純日本風。見てお分かりの通り、僕は刑事役なんですね。『ジョージ二世』という舞台を演じている劇場に、ある事件の犯人が紛れ込んだってことで。警察の私がやってきて。
ジェシー:役者の僕が探すっていう。芝居をしながら。舞台上と舞台の裏の両面で調査していくっていう劇中劇ですね。
――ジェシーさんは衣装を着てみてどうですか?
ジェシー:普段の衣装とはまた違った色々な重みがありますね。座長というプレッシャーも抱えながら。
寺脇:でも普段着も派手だからそんなに違和感ないよ。
ジェシー:そうですか(笑)?
――セリフを覚えるのも結構大変だったんじゃないですか?
ジェシー:そうですね。今までにないセリフ量だったので、稽古の大切さを改めて感じました。キャストの皆さんの顔を見ながら台詞やジェスチャーをつけて勉強しました。皆さん本当にお上手すぎて大丈夫かなって不安だったんですけど、どうですか?
寺脇:いやいや! 華は元々持ってて。あと大胆かつ繊細なんですね、彼は。その両面持ってるし華があるし真面目だし。だからもう初日から結構……帰りもね、相合い傘して(笑)。
ジェシー:初めてお会いした時に稽古場を出たら雨が降ってて。僕は傘なかったんです。で、しょうがないやと思ってたら傘に入れてくれて。二人で相合い傘して駅まで一緒に行くみたいな。本当に優しいんですよ。おかしいですこれは。連絡すると色々アドバイスもしてくれるし、「どんだけ優しいんだよ!」って(笑)。
寺脇:いや、律儀に毎日連絡くれるんですよ。「お疲れ様でした」って。色々と芝居のことも話したよね。
相合傘の様子を再現する寺脇とジェシー
――今回秋元康さんが原作です。台本を読んでどう感じましたか?
ジェシー:ドラマを見ているみたいでした。僕は2012年のドラマでお世話になっているので、約10年ぶりに一緒にお仕事できるとは。しかもまさかの舞台。本当に大丈夫かなってとにかく不安で。あとは楽しんで全力でやろうと思いました。来てくれたお客さんも参加できるような形になっているので、楽しんでいただけたらと思っています。
――どんなところを見て欲しいですか?
ジェシー:色々あるんですよね。1回じゃ分からないと思います。
寺脇:いろんなとこを見なきゃいけないからね。
ジェシー:あと僕は75歳の役を演じているので、そこもですね。声も結構低くなっているので。
――今回のタイトルは『スタンディングオベーション』です。スタンディングオベーションを受ける側はどんな気持ちなんでしょうか?
寺脇:満員のお客様が立ち上がって拍手してくれるというのは、やっぱり鳥肌が立つような感動がありますよね。逆にエネルギーをいただいて次の公演も頑張れるし。すごく嬉しいですけど、だからこそ本当の意味で立ち上がって拍手したいと思っていただけるような芝居をしなきゃと毎回思うし。今回『スタンディングオベーション』という題名で、させようとしてる、みたいな感じに思うかもしれませんが(笑)。
ジェシー:「まあ一応立っておくか〜」みたいな(笑)。
寺脇:「題名だし」みたいな(笑)。そうならないように僕たちは頑張って演じていきたいと思います。
ジェシー:普段は僕が(スタンディングオベーションを)してる側ですかね。やりたいんですよね、いやーすごいなって。笑ってる時もそうで、バラエティでも立っちゃうんですよ。それも一種のスタンディングオベーションではあるので。この公演で少しでも心が動いて感じてくれるものがあったなら嬉しいですね。今も結構厳しい状況で、見に来られたっていう感動も多分あると思うので。僕たちもそうですし。みんなでスタンディングオベーションできたらと思います。
寺脇:みんなずっと立ってたらどうする? ずーっとスタンディング。
ジェシー:そしたら最後座ってもらって(笑)。
――最後に意気込みをお願いします。
ジェシー:まずは感謝ですよね。今までは当たり前だったじゃないですか、箱があって共演者がいてお客様が来て。でも時代的に大変な状況になって。絶対不安だとは思うんですよ。でも人生一回ですし、見に行こうって気持ちでお客さんが来てくれる。僕たちも不安ですけど、落ち込んでも何も始まらないですし。見に来てくださった方々の心が動いて、明日も頑張ろう、負けずに生きていこうと思ってもらえたらいいなと思います。
寺脇:座長がおっしゃる通りですよね。今年僕は春にもこの劇場でやったんですけど、その時もお客様は半分でしたし、去年も公演はほとんど中止で。今日久しぶりに満席のお客様の前でやれるっていうのは、感動するだろうなって想像しています。出てきてすぐ泣かないようにしないとなって(笑)。
ジェシー:夢みたいですよね。
寺脇:本当に。当たり前のことが当たり前じゃないって気付かせてくれますよね。
※この先ゲネプロレポート/多少のネタバレ及び舞台写真あり
上演前に目を引くのは、舞台上にセッティングされている多くのモニター。観客席や会場内の様子がリアルタイムで流れておりワクワクする。作中ではこのモニターが防犯カメラになったり、ワイドショーを映すテレビになったり、舞台セットになったり。映像を使った挑戦的な演出を多数行っているウォーリー木下らしいアイデアと遊び心に溢れた見せ方だと言えるだろう。
舞台は古典作品『ジョージ二世』の公演が終わったカーテンコールのシーンからスタート。ジョージ二世役に抜擢された若き主演俳優が、自らが主演を務める公演で行われるスタンディングオベーションについて、自虐とユーモアを交えて語る。
ジェシーが演じるのはこのアイドル俳優。難しい役柄だが、舞台裏で見せる若者らしい溌剌とした明るさや苦悩も、舞台上でのちょっとおぼつかない演技もとても自然。素直に設定を理解し、作品に没頭することができた。腰を曲げ、しわがれ声で威厳たっぷりに振る舞いつつ時折台詞を噛む絶妙な大根役者っぷりが、妙に味のある魅力的な老王に見えてくるのも面白い。
また、『ジョージ二世』の作中で殺陣などもこなしつつ、舞台裏で巻き起こる様々な出来事を通しいい役者へ成長していく若い主演俳優を瑞々しく演じており、ポテンシャルの高さに驚かされた。
ジョージ二世の娘を演じる水の可憐さや、息子役である木場の熱演も魅力たっぷり。作中で言われている通り、二人とも『ジョージ二世』を演じている間は役柄の年相応に見え、役者というものの凄さを思い知らされる。それでいて舞台裏のシーンでは大人らしい落ち着きや厳しさを見せており、ギャップも楽しい。ジェシーや水、木場は、舞台上で行う公演と舞台裏を頻繁に行き来しているが、切り替えの大変さを感じさせない堂々とした演技を見せている。
また、ネタバレになるため詳細は伏せるが、大人たちがまだ経験の浅い主演に向けるあたたかい愛情には目頭が熱くなった。
刑事役の寺脇と部下を演じる牧田は、舞台を引っ掻き回すトリックスター的な存在。登場時こそ厳つい雰囲気をまとっているが、舞台よりも犯人探しが重要といいながら舞台裏の人間関係に興味を持つなど、お茶目な一面がコミカルに描かれている。一方で、刑事としての熱意やまっすぐな正義感も芝居からしっかりと伝わってきた。そのバランスの良さにより、言動にハラハラさせられるが憎めない、愛すべき刑事たちに仕上がっている。
いまいち空気を読めないトボけた刑事たちに振り回されるプロデューサーや演出家との温度差も面白い。犯人探しに協力的で、時折自らの推理を披露する演出家助手もいい味を出しており、登場人物一人ひとりが主役級の存在感を放っている。
また、『ジョージ二世』にオーバーラップするように、登場人物たちが抱える悩みや家族との確執、愛が描かれるのも見所。“劇場型サスペンス・コメディ”と銘打たれているものの、家族愛が軸の物語だと感じた。
そして、舞台上で進む物語と会場全体で行われる犯人探し、舞台裏で展開する役者やスタッフたち自身の物語が絡み合う複雑な構成を、映像などを駆使しながら楽しく、分かりやすく見せる演出も見事。会場全体を使ったドタバタ劇や、アドリブのようなやりとりとメタな台詞に笑い、登場人物たちが抱える葛藤や彼らの成長に涙できる本作。キャスト陣の多彩な魅力と、生の演劇ならではの面白さを味わえる本作を、ぜひ見届けてほしい。
取材・文・撮影=吉田沙奈