大貫勇輔「“これぞミュージカルのパワーだ。すごい!”と実感できる作品です」 ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』インタビュー
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大貫勇輔
連載終了から30年以上が過ぎた今も国内外で変わらぬ人気を誇っている漫画『北斗の拳』が、ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』としてこの冬、日生劇場で幕を開ける。大作にふさわしく音楽にフランク・ワイルドホーン、脚本に高橋亜子、演出に石丸さち子が名を連ね、日本各地のほか中国ツアーも決定している“日本発”の注目の新作だ。主人公のケンシロウを演じるのはこれがミュージカル初主演となる大貫勇輔。本格的な稽古突入を前に、作品に寄せる思いと高鳴る胸の内をじっくりと語ってもらった。
──まずは国民的人気漫画の主人公を演じることについて、改めて今、どのように受け止めていらっしゃいますか?
大きなプレッシャーと責任をすごく感じています。最初はやはり不安ばかりで……でも先日出来上がったメインビジュアルを見て、自信がつき始めました。撮影現場でも、メイクと衣装を着けて準備が出来た時にまず「これはいけるかも」って自分でも思えたんですけど、カメラマンさんとの相性がすごく良くて、絶妙なスピード感で気持ちよく撮っていただけて。照明も素晴らしかったですよね。また、原作の担当の方たちもすごいこだわりを持って立ち会ってくださって、手の角度や足のスタンスなどこちらが驚くほど細かなところまで丁寧にアドバイスしてくださった。そこで自分でもどんどんケンシロウになっていけたなという実感とともに、スタッフのみなさんがケンシロウのことをこんなにも愛しているんだなとひしひしと感じて自分自身の責任感がさらに高まっていきました。あの撮影は、どんなふうになるのか分からない霧の中にいたところから、もう一段階自分のスイッチが入った大きなポイントでしたね。
大貫勇輔
──ではご自身の中のケンシロウ像もより具体的になってきているのでは?
やっぱりケンシロウって……それが漫画原作の持つ面白さであり怖さでもあると思うんですけど、ものすごく屈強で、喋るよりも行動で現す寡黙な男というイメージがみなさん、強いですよね。だから原作を愛する方は特に「ミュージカル? 歌うのか? あのケンシロウが」ってなるでしょうし、僕も初めは「ケンシロウが歌うってどうやってやるんだろう?」と思っていたんです。けれど、いざやってみると「ケンシロウは本当はこう思っていたのかもしれないな」と納得させられる部分がすごくあって。
──歌で伝える「心の声」。
そう。「喋らなくても心の中ではそう思っていたのかもしれない」という説得力に、「音楽の力ってすごいな」と思いました。それはケンシロウだけに限らず、レイにしてもラオウにしてもトキにしても、みんなのそれぞれの想いが音楽に乗って聴こえた時に、本当は彼らの心の中にはこういう音楽と声とセリフがあったのではないかとすら思えた。特にラオウの苦しみなどは漫画を読むよりもアニメを見るよりも自然に共感できて、「ラオウって……そうか! そうだったのかもしれないな」と。
先日、本読みワークショップがあり、すでに全編通しも行ったんですが、音楽もできていて、脚本もできていて、それを全部通した時に鳥肌と涙が止まらないシーンがたくさんありました。それがミュージカルの強さというか、面白さなんだなと思いましたね。音楽に彩られることで作品にもさらに奥行きが出るというか、キャラクターたちのさらなる心の声を聞くことができる新しい面白さが生まれていく。だから逆に、漫画ファン、アニメファンの方々もこのミュージカルを観て、新しい気づきというか、「なるほど」と思えるシーンがいっぱい出てくるんじゃないでしょうか。
大貫勇輔
──確かに愛の炎を燃やし闘う人間たちのダイナミックな物語世界は、ミュージカルにぴったりの題材。繊細な台本と美しい楽曲がもたらしてくれるものの豊富さにもイマジネーションがかき立てられます。
ミュージカル化、素晴らしいなって思いましたし、本当に「これぞミュージカルのパワーだ。すごい!」と実感しています。なので僕はクリエイターさんやスタッフさん、共に作品を創るたくさんの方々の力をお借りし、信じ、ここで自分のできることを精一杯やれば何かまた新しいエンターテインメントが生まれるんではないかという予感がしています。漫画の中に生きるケンシロウという存在をいかに生の人間として表現できるか。「本当にこの人存在するかもしれない」というリアルをお客様にどれだけ突きつけられるかが僕のテーマで、一番大切にしなきゃいけないことだなって。
──演出の石丸さち子さんとはどんなふうにコミュニケーションを?
本読みで初めてお会いしたんですけど、石丸さんは本当に『北斗の拳』に出ているんじゃないかというくらいの情熱をお持ちの方で。僕もそれと同じくらいの熱量を持っていると思っているので、二人で話をした時にもすごく分かり合えた感じがありました。「とにかく全力で本読みをやってみてください」と言われ、僕も「明日どうなってもいいからこの本読みに全てを賭けて行ってみよう」って思って挑んで。その日は特にあれこれ話さず終わったんですけど……ただ、僕も石丸さんと同じ方向を向けているんではないのかなという感触はすごくありましたね。ここから改めてワンシーンワンシーンをどう細く作っていくか、本当に稽古が始まるのが楽しみです。
──カンパニーのみなさんの印象はいかがでしたか?
まだ僕も全部を感じ切れてはいないですけど、やはりみなさん「プロフェッショナルだな」と思いましたね。6日間のワークショップの最後に「じゃあ全通ししてみましょう」とやってみてもうこのクオリティなんですか!? すごい!という驚き。ここで僕はこれから初めて座長としてやっていくんだよなぁと思いつつ……でも逆にたくさん頼れるんだな、頼っていいんだな、信じて頼れるものがいっぱいあるっていいな、ありがたいなって思いました。もちろん僕も死ぬ気でやるし全てを賭けてやりますけど……まだまだ至らないところだらけだと思うので、皆さんに助けてもらいながら僕は本当に僕のできる全力を尽くし、最後はみんなで一緒に「誰も見たことのない景色」まで行けたらいいなと思っています。
大貫勇輔
──新作立ち上げならではの開拓精神も掻き立てられますね。
オリジナルならではのみんなの手探り感というか分からない感は、やっぱりすごく面白いです。「前こうだったからああだよね」じゃなくて、本当にみんなで白のキャンバスの中に自分たちの色を塗っていく作業。その時間というのは芸術家冥利、表現者冥利に尽きるワクワク感でいっぱいです。稽古場に入ったらこの気持ちはもっともっと増幅するんだろうなぁ。今はまだ見えない部分がいっぱいあるけれど、それも全部稽古場で一緒にディスカッションしながら具体的に作り上げていくんだなと思うと……本当に舞台人にしか経験できない作業ができることが楽しみでしかありません。
──ふんだんなアクションシーンも本作の見どころのひとつです。キャストのみなさん、拳法のレッスンも始められていると伺いました。
僕は今年の2月から空手を。でも始めてすぐ「やっぱり踊りと全然違うんだな」というのをすごく感じています。アクションシーンと一言で言っても、舞っているように戦うのか、純粋に戦っているのか、戦う様に舞うのか。おそらくこの3種類の表現があるんだろうなと思っているんですけど、そこの境目は大切にしたい。「ダンサーが格闘技っぽくやっているよね」って見え方では終わらせずに、ちゃんと格闘技をやっているんだという身体表現を伝えたいですね。北斗神拳の伝承者ならではの身体のあり方、ケンシロウとしてのリアルさはやっぱりしっかりと追求したいので、そこがダンスとあやふやに混ざらないようにしたいなと思ってます。もちろん自分でちゃんとした意思を持って混ぜるのはいいと思うんですけど、そこの境目はしっかり確立させたいですね。
──クライマックスではケンシロウのほとばしる心情をダンスで表現する大きな見せどころも。こちらはダンサーとしての本領発揮で。
振りや動きに関してはまだ全く分からないですけど……元々僕自身、言葉にならない時に思うがままに踊ることで自分の心を鎮めたりというようなことをしてきた人間。踊りで本当に救われてきた人間なので、ケンシロウの言葉にならない叫びを踊りで表現するということは自分が今までやってきたことを再現する作業というか……それを舞台上で、ケンシロウとしてできる、やるというのはすごくありがたいことであり、運命的なものを感じますね。「ああ、やっぱり僕は言葉にならない感情を表現するために踊ってるんだよな」って。それをできることへの感謝と、やるべくしてこの役をやるんだなと思う宿命と。今、そういういろんな気持ちが混ざっている状態です。
大貫勇輔
──根源的なところでケンシロウとご自身とがリンクしている。
このお話はいろんな状況を経て最後にラオウと戦うケンシロウの“人間としての成長”の物語でもあると思うので、僕もこの作品を通して自分自身と向き合う覚悟です。稽古の中でいかにケンシロウと自分の人生をリンクしていけるか──ケンシロウはたくさんの悲しみやいろんな人の思いを乗り越え、抱えて、ラストへと向かっていくんですけど、そういうケンシロウの人間としての厚みみたいなものを、自分の内から出したいなって思っています。
──とはいえまだ『北斗の拳』の世界観に馴染みのないお客様も多いかと思います。漢気溢れるパワフルなこの物語の魅力、大貫さんはどう受け取りましたか?
僕もちゃんと原作を読んだのは出演が決まってからなんですが、最初に読んだ時はやっぱり絵の持つパワー、「筋肉すごいな」とか「すごい死に方をするな」とか、あとは印象的な死ぬ時のセリフだったり……“バトルもの”という部分に気持ちが行ってたんですけど、2度目に読んだ時、本当に、それぞれのキャラクターの持つ様々な孤独だったり、正義だったり、愛だったり、そういうものが描かれている漫画なんだなとわかりました。
もちろんバトルエンターテインメントもこのミュージカルの中に織り込んでいくんですけど、同時にそれぞれのキャラクターの個性はもちろん、どういう生き方だったのか、人生で何を選択してきたのか、それぞれが持つ戦わねばならぬ宿命とは?といったものを、みんなで繊細に考えて作り上げたいなとも思いました。
そして実際、台本にも登場人物それぞれの生き様が丁寧に描かれていますし、メロディに乗せてそれぞれが感情を吐露していく時により深く届くものがすごくたくさんあることが、全てのシーンで感じられるんです。それはやっぱりワイルドホーンさんの持つ音楽の力なんだなと思っていて……なので、むしろ本当にミュージカルが好きな人にはこの世界、より強く鮮明に届くんではないかなと思います。
──本来作品に刻み込まれていたメッセージの強さ、やさしさ、美しさ。早くみなさんに届けたいですね。
僕は「人間は一人では生きていけない存在なんだ」ということを、この作品で描いているような気がするんです。思いを持ち続けることが人間をより強くしてくれる、大事な人を守れる強さになっていく……ケンシロウもそうやって成長していきますし、自分も守りたいものを守れるような人間になりたいなと思っています。そしてお客様にも観劇後に自分が守りたいな、大切にしたいな、愛しているなと思う人を、もう一度あらためて大切にしなきゃなって思ってもらえるような……自分の存在を振り返るきっかけになるような作品にできたらいいなって。今はそんなことを考えています。
大貫勇輔
取材・文=横澤由香 撮影=iwa
公演情報
■原作:漫画「北斗の拳」(原作:武論尊 漫画:原 哲夫)
■音楽:フランク・ワイルドホーン
■演出:石丸さち子
■脚本・作詞:高橋亜子
■協力:株式会社コアミックス
■主催:ホリプロ/博報堂 DY メディアパートナーズ/染空间 Ranspace/イープラス
■企画制作:ホリプロ
<キャスト>
ケンシロウ:大貫勇輔
トキ:加藤和樹/小野田龍之介(Wキャスト)
シン:植原卓也/上田堪大(Wキャスト)
リュウケン他:川口竜也
トウ、トヨ:白羽ゆり
マミヤ:松原凜子
レイ、ジュウザ:伊礼彼方/上原理生 (交互で役替わり)
バット:渡邉 蒼
リン:山﨑玲奈/近藤 華(Wキャスト)
ほか
〈東京公演〉
期間:2021年12月8日(水)~29日(水)
会場:日生劇場
〈名古屋公演〉
期間:2022年1月15日(土)・16日(日)
会場:愛知県芸術劇場 大ホール
〈大阪公演〉
期間:2022年1月