フランス発、世界的ベストセラーとなった問題作をオペラ化、ブルーノ・ジネール『シャルリー ~茶色の朝』ついに日本初演へ
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ブルーノ・ジネール『シャルリー ~茶色の朝』 (C)Zélie Chalvignac
神奈川県立音楽堂による音楽堂室内オペラ・プロジェクトとして、ブルーノ・ジネール作曲の『シャルリー ~茶色の朝(原題:Charlie)』が、2021年10月30日(土)・31日(日)に日本で初上演される。
市民たちの政治的無関心や事なかれ主義・楽観主義によって、全体主義・ファシズムが猛スピードで社会を巣食っていき、気が付いた時には後戻り不能の状態となってしまう恐怖を描いた作品。まさしく現在の日本の社会状況にも大いに通じうるアクチュアリティを秘めた、注目の現代オペラだ。
(C)Jean-Marie Dandoy
このオペラの原作は、1998年にフランスの心理学者フランク・パヴロフによって著された『茶色の朝(原題:Matin brun)』という短い寓話。“ある朝突然、「茶色のペット以外は飼ってはいけない」という法律が施行されたら?”という仮想世界を舞台に繰り広げられる、主人公と友人「シャルリー」の静かで何気ない日常が綴られる。だが、やがてシャルリーも主人公も当局に強制連行されてしまうのだ。
そもそものきっかけは、1990年代後半、フランスでは人種差別や排外主義を唱える極右政党の国民戦線が台頭し、保守派の中で彼らと協力関係を結ぶ動きが出てきたこと。これに危機感を抱いたパヴロフが、多くの人々、特に若者たちに読んでもらおうと、子どもにもわかるやさしい言葉で、短い、しかし衝撃的なこの物語を11ページの原稿に詰め込み、自らの印税を放棄しわずか1ユーロで出版した。
フランク・パヴロフ photo by Raphael GAILLARDE
数年後の大統領選挙で国民戦線党首ルペンが決戦投票の候補に残ると、フランス社会は大きく動揺。その時、人々はこの物語を発見。多くの人々がこの物語を読み、「極右にノンを!」の運動につながった結果、極右を敗北に至らしめ、同時にパヴロフは忽ちベストセラー作家になった。以降もこの物語は本国フランスで200万部を突破し、以後、日本を含む世界26か国語以上に翻訳される世界的ベストセラーとなった。日本語版は2003年に大月書店より発行された。
『茶色の朝』日本語版(大月書店刊)
そんな物語を、2007年にオペラ化したのがフランスの現代作曲家、ブルーノ・ジネールだった。ジネールは日本ではまだあまり知られていない存在だが、色彩感と質感あふれる力強い作風で知られる、現代フランスを代表する作曲家の一人。1960年フランスに生まれ、ピエール・ブーレーズやブライアン・ファーニホウ、ルイス・デ・パブロといった当代一流の現代作曲家に師事し、室内楽、オーケストラ作品から電子音楽まで様々なジャンルで創作し、IRCAM(フランス国立音響音楽研究所)等の世界的機関と協働する一方、エリック・サティや、クルト・ヴァイル、ナチスの迫害にあったユダヤ人作曲家など、時代の波間に消えた芸術家たちの作品を掘り起こして紹介する著作や活動等でも知られている。
ブルーノ・ジネール (C)Jean-Pierre Bouchard
ジネールは本作品を小さな会場、若い観客の集まる会場でも上演できるように、演奏者を5人の器楽奏者と1人の歌手に絞り、1幕のオペラに仕上げた。題して《シャルリー~フランク・パヴロフの『茶色の朝』にもとづくポケット・オペラ》。オペラ《シャルリー》はシンプルでスタイリッシュな舞台と、ささやき声やスローガン、ポップなメロディ、叫び声など多彩な要素を取り入れ、精緻で美しい響きに満ちた音楽的にもユニークな作品。主人公は若い女性のように描かれ、演じ、物語るのは一人のソプラノ歌手。
(C)Jean-Marie Dandoy
(C)Jean-Marie Dandoy
神奈川県立音楽堂は2019年に作曲者ジネールの代理人に直接コンタクトを行い、日本初演プロジェクトが動き出した。演奏を行うのは「アンサンブルK」。2008年に誕生以来、ストラスブールを拠点に、室内楽と文学、視覚芸術、ダンス等他の芸術表現のコラボレーションに積極的に取組むフランスのアンサンブル・グループ。独自のポリシーに基づくユニークな活動を展開し、《シャルリー》舞台版を世界初演し、欧州で広く上演してきた気鋭の団体として、ジネールが日本初演にふさわしいと推薦し、今回の上演となった。
(左から)アデール・カルリエ(ソプラノ)、アンサンブルK
ブルーノ・ジネールとのリハーサル風景
ブルーノ・ジネールとのリハーサル風景
本公演は、三層構造で開催される。第Ⅰ部は、ナチスに弾圧された作曲家たちの作品を紹介する、《禁じられた音楽》の室内楽コンサート(約30分)。第Ⅱ部は《シャルリー~フランク・パヴロフの『茶色の朝』にもとづくポケット・オペラ》(約45分)。第Ⅲ部は作曲家ブルーノ・ジネール(オンラインで参加)を囲むクロストーク(日仏通訳付)(約30分)となる。
改めて述べる。今の日本が既に「茶色の朝」を迎えており、私たちの誰もが「シャルリー」であることを確認するためにも、そして、私たちがこの事態にどのように対応すべきかを考えるためにも、この演奏会を貴重なチャンスとして捉えたい。
【動画】ブルーノ・ジネール「シャルリー ~茶色の朝」日本初演(フランス語上演・日本語字幕付)PV
公演情報
Ongakudo Chamber Opera Project Bruno Giner « CHARLIE », Pocket Opera after “Brown Morning” by Franck Pavloff, Japan Premiere
両日とも 15:00 開演 (14:15 開場)
■会場:神奈川県立音楽堂
文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
協力:株式会社大月書店
作曲:ブルーノ・ジネール 原作:フランク・パヴロフ「茶色の朝」 (日本語版:大月書店)
演出:クリスチャン・レッツ 照明・舞台監督:アントニー・オーベリクス
プロダクション:アンサンブルK/CCAM ヴァンドゥーヴル・レ・ナンシー国立舞台センターの共同プロダクション
演奏:アンサンブルK
[メンバー] アデール・カルリエ(ソプラノ)、エロディ・ハース(ヴァイオリン)、マリー・ヴィアール(チェロ)、 グザヴィエール・フェルタン(クラリネット)、セバスチャン・デュブール(ピアノ)、グレゴリー・マサット(パーカッション)
<第Ⅰ部> 室内楽コンサート(演奏:アンサンブルK)
ベルトルト・ブレヒト/クルト・ヴァイル『三文オペラ』より「マッキーの哀歌」(1928)
モーリス・マーグル/クルト・ヴァイル「セーヌ哀歌」(1934)
ベルトルト・ブレヒト/クルト・ヴァイル『三文オペラ』より「大砲ソング」(1928)
ロジェ・フェルネ/クルト・ヴァイル「ユーカリ」(1934)
エルヴィン・シュルホフ 「ヴァイオリンとチェロのための二重奏」(1925)より
パウル・デッサウ 「ゲルニカ~ピカソに捧げる」(1937)
ブルーノ・ジネール「パウル・デッサウの“ゲルニカ”のためのパラフレーズ
(チェロ、クラリネット、ピアノ、パーカッションのための)」(2006/日本初演)
<第Ⅱ部> 《シャルリー~フランク・パヴロフの『茶色の朝』にもとづくポケット・オペラ》日本初演
(フランス語上演・日本語字幕付)
<第Ⅲ部>作曲家ブルーノ・ジネール(オンラインで参加)を囲むクロストーク(日仏通訳付)
10月30日 やなぎみわ (美術作家・舞台演出家)、10月31日 高橋哲哉 (哲学者・東京大学名誉教授)
※ブルーノ・ジネールは来日できなくなり、オンラインでのトークに出演となりました。
U24(24歳以下): 2,500円 高校生以下: 無料 (要
*関連企画参加者に優待制度あり
*車椅子席有り(付添 1 名無料)*未就学児の入場はご遠慮ください