よみがえる唐十郎の傑作戯曲『泥人魚』~宮沢りえ・磯村勇斗が意気込みを語る

2021.10.14
インタビュー
舞台

(左から)磯村勇斗、宮沢りえ

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年末のシアターコクーンを彩る、めくるめく唐十郎の世界――宮沢りえ、磯村勇斗、愛希れいか、風間杜夫ら実力派俳優によって、唐十郎の傑作戯曲『泥人魚』がよみがえる。同作は2003年4月「劇団 唐組」により初演され、第五十五回読売文学賞戯曲・シナリオ賞、第三十八回紀伊國屋演劇賞(個人賞)、第七回鶴屋南北戯曲賞、第十一回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞し、井上ひさしが「独特の詩情と叙情とユーモア。すぐれた劇詩人で舞台の魔術師、唐十郎の集大成」と絶賛したことでも知られる。

演出を手がけるのは、2016年5月に急逝した蜷川幸雄の遺志を継ぎ、森田剛、宮沢りえ、荒川良々らの出演で上演された追悼公演『ビニールの城』(2016年)、窪田正孝、柚希礼音のW主演による『唐版 風の又三郎』(2019年)同様、金守珍(新宿梁山泊主宰)だ。『下谷万年町物語』(2012年)、『盲導犬』(2013年)、『ビニールの城』に続き、本作が舞台では4度目の唐作品への出演となる宮沢りえ、NHK大河ドラマ「青天を衝け」の徳川家茂役などめざましい活躍を遂げる磯村勇斗に、注目作への意気込みを聞きつつ、作品を紹介する。

今作では、「ギロチン堤防」で知られる長崎県諫早湾を去り、都会の隅のブリキ屋で暮らす蛍一(磯村勇斗)、その若者を追ってきた“人か魚かわからぬ不思議な女”やすみ(宮沢りえ)との再会が浮かび上がる。唐は執筆のため2002年に現地を取材し、干拓事業の賛否で揺れた町の葛藤を作品に織り込んだ。(ちなみに新潮社刊の戯曲『泥人魚』の作者あとがきには、この戯曲が生まれた発火点は、取材で訪れた漁協組合で見かけた青年が、水槽の魚に「やすみ、明日はきっと売ってやるからな」と声をかける風景だった……と記している。)

60年代70年代の「アングラ」など過去の活動に言及されることも多い唐十郎だが、天才は時代、時代に傑作を残し、世の中の動きに目を光らせ、常に作風をアップデートしている。今世紀に入ると、近代化する社会の片隅に生きる孤独な男女、彼らのため息や呟きを美しい台詞とイメージに変容させた。干拓に追われて故郷を去った青年、人魚伝説を思わせる幻想、詩的でユーモラスな言葉、先の読めない展開、キテレツでにぎやかで個性的な登場人物たち……唐作品へは経験豊富な宮沢だが、『泥人魚』は「これまでとはまた違う感触のある作品」と言う。

「湾の生態系の変化によって生きる術を奪われた人たち、そこが演じる上での底力になるような気がしています。この戯曲は、出てくる人物がみんなチャーミングなんです。でも唐さんの戯曲は、頭で読んでもわからないことだらけですから。稽古に入って、台詞の言葉を自分の音で発して、何度も何度も体の中に染み込ませて、頭ではなく心で理解できるようになって初めてこの中に生きている実感がわいてくる気がするんです。出演したことがあるとはいえ、毎回、稽古が始まるまでは苦悩の日々ですね(笑)」(宮沢)と、“日本のシェイクスピア”唐十郎作品の面白さ、難しさを語る。

唐作品初挑戦となる磯村は宮沢の言葉に頷きながら、「一度読んで、二度読んでもさらに迷宮に入っていくような世界。共演者の皆さんと一緒にお芝居をする中で体に馴染んでいって、唐さんの言葉を血流のように身体に流せるようにしないといけないんでしょう。普通の台詞とは違う詩的な要素、ただ覚えただけではスッと出てこないだろう言葉も多く、一読しただけでは『どうやって音を出すんだろう?』と未知の領域。頭でっかちにならないように、読み解いていくのが楽しみです」と意欲を見せる。

二人は映像で共演経験済み。お互いが演じる役の印象は? 「蛍一は、ある問題を残して自分の故郷を離れた、大きなものを担う役だと思うんです。磯村さんは、それをきちんと背負える方だと感じます」(宮沢)、「やすみはミステリアスなパワーを持つ女性で、彼女によって蛍一は変わっていく。こうして宮沢さんを目の前にし、僕自身、すでに圧倒され惹きつけられてますからね……こうして共演の機会をいただけて光栄です」(磯村)

泥海の輝く中を、あの子らは今、どこまで行ったのか みな それぞれの 滑板に腹這って 見えない島をめざして 掻いた そして 泥海ふかく溺れた児らは 透明に 透けるよな 無数の しゃっぱ(シャコ)に 化身した――。

今作では諫早市出身の浪漫派詩人・伊東静雄の詩が(一部手を加えられ)効果的に使われており、海、そして泥に溺れながら姿を変える生き物たちのイメージが物語の底深くに沈められている。ちなみに劇中には、普段はまだら呆けだが、午後6時になると明晰でダンディな夜の詩人に変身する伊“藤”静雄なる男も登場。初演では唐が演じた役に、風間杜夫が挑むのも楽しみだ。

現代の俳優たちの身体が唐十郎的劇的世界に染めあげられ、変容し、ドラマチックに反転していく……その瞬間を目撃するまで、もうすぐだ。


 
取材・文=川添史子  撮影=大久保惠造
宮沢りえ ヘアメイク/千吉良恵子(cheek one)  スタイリスト/三宅陽子[宮沢]
磯村勇斗 ヘアメイク/佐藤友勝 スタイリスト/笠井時夢
ジャケット¥79,200、ベスト¥49,500、シャツ¥46,200、パンツ¥46,200/以上すべてUJOH(M)、
ヴィンテージネックレス¥4,180/new territory
その他/スタイリスト私物
〈ショップリスト〉
M tel:03-3498-6633
new territory tel:03-6451-0534

 

公演情報

COCOON PRODUCTION 2021 『泥人魚』

■作:唐十郎
■演出:金守珍
 
■出演:
宮沢りえ 磯村勇斗 愛希れいか 岡田義徳
大鶴美仁音 渡会久美子 広島光 島本和人 八代定治
宮原奨伍 板倉武志 奈良原大泰 キンタカオ 趙博
石井愃一 金守珍 六平直政 風間杜夫
 
■スタッフ
音楽:大貫誉 美術:大塚聡 照明:泉次雄 音響:友部秋一 衣装:伊藤佐智子 ヘアメイク:新井健生
映像:大鹿奈穂、石原澄礼 振付:広崎うらん 殺陣:佐藤正行 美術助手:岩本三玲 演出助手:加藤由紀子 舞台監督:幸光順平
宣伝美術:榎本太郎 宣伝写真:江森康之 宣伝衣装:伊藤佐智子 宣伝ヘアメイク:稲垣亮弐 宣伝広報:ディップス・プラネット
 
■公演期間:2021年12月6日(月)~12月29日(水) 全28回
■会場:Bunkamuraシアターコクーン
発売日:2021年10月17日(日) AM10:00~
■料金:S席11,000円 A席9,000円 コクーンシート5,500円(全席指定・税込)
※コクーンシートは、特にご覧になりづらいお席となります。
に関するお問合せ:Bunkamuraセンター 03-3477-9999(10:00~17:00)
■公演に関するお問合せ:Bunkamura 03-3477-3244(10:00〜18:00) https://www.bunkamura.co.jp
■主催/企画・製作:Bunkamura
■公式サイト:https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/21_doroningyo
 
 
<ご注意>
※本公演は政府の判断によるイベント収容率に基づき、販売座席を決定いたします。
※公演中止、または、主催者がやむを得ないと判断する場合以外のの払い戻しはいたしません。ご購入の際には、ご自身の体調や環境をふまえ、ご判断くださいますようお願いいたします。
※発売初日のみ、1回の受付につき4枚までの枚数制限がございます。
※10/18(月)以降は残席がある場合のみ、お取扱いたします。
※未就学児童のご入場はご遠慮いただいております。 
※劇場内では常時マスクのご着用をお願いいたします。マスクをご着用でない方の入場はご遠慮いただきます。 
購入時に登録の氏名・緊急連絡先は、保健所等の公的機関からの要請により提供させていただく場合がございます。
※車椅子スペース(S席相当)には限りがございます。車椅子でご観劇のお客様は座席指定券をご購入のうえ、お早めにBunkamuraへご連絡ください。S席以外の座席指定券をお持ちのお客様は、差額をお支払いいただきますので、予めご了承くださいますようお願いいたします。また、お座席でご観劇の場合も当日スムーズにご案内をさせていただくため、公演日前日までにご購入席番をBunkamuraへご連絡ください。
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※各営業時間は変更になる可能性がございます。詳しくはホームページにてご確認ください。
※当劇場の感染症対策とご来場されるお客様へのお願いにつきましては、最新情報をホームページにてご確認の上、ご来場ください。
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