匿名劇壇『10年分の短編集』福谷圭祐+石畑達哉+松原由希子が劇団の10年を語る。「10年間をみんなで振り返る、アルバムのような作品に」

2021.10.22
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(左から)松原由希子、福谷圭祐、石畑達哉。 [撮影]東千紗都

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現代の若者たちのリアルな心象風景を「コメディでもコントでもなく、ジョーク」(劇団紹介文より)のような群像会話劇で観せていく、大阪の劇団「匿名劇壇」。2011年に近畿大学の舞台芸術専攻の学生たちによって結成され、2016年に主宰の福谷圭祐が『悪い癖』で「第23回OMS戯曲賞」大賞を受賞したことで、一気に注目される存在に。劇団員の外部出演も増えていく中で、今年で結成10周年を迎えることになった。

本公演以外にも、イベントなどで短編を発表する機会も多い匿名劇壇。独創的なアイディアと切れ味の鋭い会話で展開される短編こそ、福谷の真骨頂という声もある。『10年分の短編集』は、未上演or新作を含めた14本の短編をランダムに上演し、劇団の歴史を振り返っていく公演だ。全作品の作・演出を務める福谷と、役者の石畑達哉&松原由希子に、本作の見どころと、劇団の10年について語ってもらった。

■短編は、純粋にエンターテインメントを作るという手付きで創作ができる。

──まずは、10周年を迎えた今のお気持ちを。

福谷 感慨深いです。でも昨年の時点では「10周年を華やかに祝おう!」という気持ちは、コロナ禍というのもあって、さほど持てなかったんですよ。でも今年に入って、がんばれば普通に公演が打てるぐらいの情勢になってきたし、じゃあ10年目を祝うような公演をやっても、バチは当たらんやろう……という気持ちになりました。

松原 そうでしたね。でも「10周年公演をやります」と公に言った時に、やっぱり自分でも10年を振り返ることができたので、今は「やる」と言ってよかったなあと思います。

石畑 僕は入団させてもらったのが、劇団の立ち上げから2年後やったんで、実際には8周年なんですけど(笑)。でも8年とは思えないほど長かったですね。すぐに過ぎ去ったというより、一公演ごとにギュッギュッと時間を詰め込んだ感じ。すごく長い、濃密な時間を過ごしたなあという思いがあります。

松原 私は逆に、すごくあっという間だった(笑)。(結成して)2・3年ちゃうかな? っていうぐらいの体感です。

匿名劇壇『ときめく医学と運命的なアイディア』(2020年)。 [撮影]堀川高志(kutowans studio)

──その記念公演を、過去作品の短編集にしたのは?

福谷 (結成)一年目から、いろんなイベントに出させていただく中で、ワンステージしか上演してないような短編が、結構あったんです。演劇の作品を作るのって、短編と言えども結構な労力を割くじゃないですか? それをそのままにしておくのはもったいないし、自分たちの歩みを振り返って確認するという意味も込めて、それらにもう一度向き合ってみるのは、10周年にふさわしいんじゃないかと思いました。

──実際に今稽古をしてみて「10年で変わったなあ」と思ったりしますか?

福谷 大いにしてますね。最初の頃は、自分が脚本を書いたり、演劇を上演することに対して、気恥ずかしさとか物々しさを感じていました。だから「俺は今演劇をしてるから、こういう台詞をしゃべります」みたいな説明をいちいち入れて、足元を確認していかないと前に進めないという気持ちが、当時はあったように思います。

──確かにメタフィクション構造の多用は、初期の匿名劇壇の大きな特徴でしたね。

福谷 (結成から)5・6年経ってから、普通にストーリーと台詞を並べていけばいいんじゃないの? という風に変わった気がします。それは「演劇をやる」という特別さに、自分たちが慣れたからかもしれないです。

松原 稽古をしていても、本当に時代を感じます。トガッていた時代から迷走に入って(笑)、今はこんなことになっているという流れが、すごく見えてくるので。

石畑 その中には僕が入団する前に、お客さんの立場で観させてもらっていた作品もあるんですよ。だから「あの時観てた奴をやれるんや」という感慨もあります。ただラインアップの中に僕の一人芝居もあって、今は「大丈夫かな?」という気分です(笑)。

──短編特有の楽しさって、何かありますか?

福谷 余計なことを考えずに書けることですね。評価されたいとか、高尚な作品を作ろうとか考えず、ただただ純粋にエンターテインメントを作ろうという手付きでやれます。だから僕らの短編を観て「面白い」と思った人が、長編の舞台に足を運ぶと「ああ、意外とそういう劇団なんだ」と戸惑うかもなあ……と思いますね。

石畑 長編だと、福谷さんが後半書ききれてない感じの時がよくあるんですけど、短編は後半まで気持ちよく、勢いでザーッ! とやれる感触があります。

松原 だから福谷は、短編の方が合ってるのかな? と思う時がありますね。すごくノリがいいというか、ポンと乗って演じられる作品が多いように感じます。

匿名劇壇『賭けてもいいけど』(2021年)。 [撮影]堀川高志(kutowans studio)

──マラソンというより、50mダッシュを10本見せるみたいな感触。

福谷 そうだと思いますし、自分でも「そっちの方が得意なんだろうなあ」と思います。でも長編も、割と50mダッシュっぽいと思うんですよ。(長編の)『悪い癖』(2015年)も、いくつかの短い話を組み合わせた構造ですし。それが功を奏した場合はいい作品になるんですけど、奏さなかったら「ちょっとよくわからない」ということが、往々にしてあります。

──匿名劇壇は、極力劇団員だけで上演するのも一つの特徴でしたが、今回は結構ゲストが入ってますね。

福谷 (劇団員の)芝原(里佳)が役者活動を休止してるから、物理的に人が足りないという事情があったんですが、それだけじゃなくて、この機会に新たな価値創造ができたらいいなあと。たとえば『Ctrl+H』は、女性4人は全員客演で、男性4人は全員劇団員という顔合わせにしました。ただ今の時点では、正直劇団員だけの時の方が面白いんですよね。

──匿名劇壇の演技は、特に目立ったメソッドがあるように見えないのですが、意外と劇団員以外の人には難しいんでしょうか?

石畑 こんなこと言ったらアレですけど、他の劇団さんに行くと「かなり自由にやっているなあ」と感じます。匿名劇壇はやっぱり、福谷さんの中の劇のあり方みたいな所が、すごく大きなウエイトを占めてますから。だから久しぶりに匿名劇壇に戻ったら、合わせるのがちょっと難しかったりします。ゲストだったら、さらに難しいんじゃないかなあ。

松原 特有の温度感、ニュアンスがあるんですよね。それを上手く入れないと、なかなか台詞がしっくり来ない。実はちょっと力を抜く方が、上手くいくのかな? その辺になじんでもらうのは、少し時間がかかるかなあと思います。

福谷 メソッドというより、方言や文化に近いのかもしれないですね。その土地で育った人が持つ、まとってる匂いみたいなものが、匿名劇壇には少なからずあるんですよ。それが「力を抜いてる」ってことかもしれないけど、僕も上手く言語化できないんです。だからこそ、今回は新たな文化圏を作るということに挑戦したい。

僕らが客演さんに合わせるわけでも、僕らに合わせてもらうのでもなく、違う国同士が一緒になって、第三の選択肢を見つけるようなことができればいいなあ、と。劇団員だけで作るのは楽しいし面白いけど、今後も劇団を続けていくためには、それ以外の手段も増やしていかねばならないだろう、という風にも思います。

匿名劇壇『賭けてもいいけど』(2021年)。 [撮影]堀川高志(kutowans studio)

■長期スパンのクリエイトが、劇団を長持ちさせるために必要かも。

──劇団10周年の話に移りますが、旗揚げ当時のことを思い出してもらえますか?

福谷 僕らが大学三回生の時ですけど、当時は劇団にするつもりはなかったですね。

松原 そうそう、「劇団作りたいから集まって!」というんじゃなくて「一回(芝居を)書きたいから、出てくれない?」みたいな感じ。その後少し時間が空いてから、また声をかけてもらって……という風に流れに乗ってたら、いつの間にか劇団名がついて、気づいたら10年が経っていたという感覚です。

──とは言いつつ、第二回公演でいきなり関西小劇場の名門[ウイングフィールド]で公演を打つなど、最初から攻めた姿勢でしたね。

福谷 それは当時いたメンバーの中に、かなり社交性の高い人間がいたからです。イベントの主催者とつながったり、学外に向けて発信することの関心が、彼は非常に高かった。今は東京に行って、オブザーバー的な関わりになってますが、彼がそうやって最初に行動してくれたのは、すごく幸いでした。

匿名劇壇『気持ちいい教育』(2013年)ダイジェスト。

──石畑さんが入るのは、その直後ですか?

石畑 そうです。第三回公演に出してもらった後に「(正式に)入れてくれないか?」と、福谷さんに何回も電話しました(笑)。

福谷 その第三回公演の『気持ちいい教育』(2013年)で「space×drama」という企画に参加したんですけど、そこで優秀作品に選ばれて、翌年「(シアトリカル)應典院」(現・浄土宗應典院本堂)で公演をする権利を獲得したんです。それで卒業後に、就職云々ではない未来を選択するということになりました。

──最低でも一年は、劇団を続けなければいけなくなったと。

福谷 一年先のスケジュールが決まってしまったわけですから(笑)。さらにその後『悪い癖』が「OMS戯曲賞」を取ったのも大きかったです。あの賞は再演に助成金が出るというのもあって、さらにその先の未来の切符をもらったという感じがしました。この2つの出来事が、劇団を続ける大きなターニングポイントになった気がします。

匿名劇壇『悪い癖』初演(2015年) 。 [撮影]河西沙織(劇団壱劇屋)

──役者のお二人は、特に印象に残ってる作品はありますか?

石畑 先ほどの『気持ちいい教育』は、稽古期間中に肋骨を折ってしまって、痛み止めを飲みながら出ました(笑)。初めての匿名劇壇の公演というのもあわせて、思い出深いです。

松原 私は『大暴力』(2019年)かな。その前に、なかなか作品作りが思ったようにいかない時期があったんです。作・演出もそうだし、役者の方も「もう一段階抜けた所に行きたいけど、どうやればいいんだろう?」と悩んでいて。それが『大暴力』をやった時に、演じていて何かがポン! と抜けた感覚があって、そこからちょっと楽になりましたね。

福谷 2016年ぐらいから「ちゃんとしたストーリーテリングがしたい」という思いに満ち満ちているのに、それが全部しっくり来なくて「ダメだ」と思う時期が続いていて。そこで開き直ったと言うか、「演劇をやってることについて言及しないと、何だか恥ずかしい」と考えていた頃にもう一度立ち返って、何のてらいもなく書いたのが『大暴力』でした。

──5分程度の超短編をガンガンつなげる「フラッシュフィクション」の手法を、長編として初めて用いた作品でしたね。

福谷 そうですね。僕の個性と、周りからの評価がある程度マッチするような作品作りが、この方向ならできるんじゃないかと、ようやく思えるものができました。

匿名劇壇『大暴力』(2019年)。 [撮影]堀川高志(kutowans studio)

──第三のターニングポイントの作品になるかもしれないですね。他にも、劇団を続けるために「こんなことをしたらいいんじゃないか?」と考えていることはありますか?

石畑 福谷さんの本を、舞台だけじゃなくて映像でもやりたいです。特に今回上演する新作は、すごく映像向きだと思うので、劇団員で面白い映像が作れたらいいなあと思います。

松原 ここらでもう一度、外の人にすごく出会いに行きたいと思っています。劇団のプロデュースで、劇団じゃない人たちの方が多い公演を打つとか、逆に違う人の企画を入れた公演をするとか。外(の舞台)に出ると「あ、こんな所にこんな人がいたんだ」みたいな人に、本当によく出会うんですよ。お客さんやスタッフも含めて。そういう人たちとも関わることで、匿名劇壇ももうちょっと開いていけたらなあと思います。

福谷 劇団員にはすでに話してるんですけど、今のように1~2ヶ月の短期集中で作品を作るのではなく、週一回ペースで1年ぐらいかけて、一つの作品を作っていくことができないかな、と。今の作り方を繰り返すのは、特にこのコロナ禍ではコストとリスクがデカすぎると思うんです。もう少し長期的なスパンでクリエイトして、いつでも上演できるようなレパートリー作品を所有する。それが今後、劇団を継続していく秘訣になるのでは……という仮設を、今立てている段階です。

──それが成功したら、今後の小劇場演劇のクリエーションに大きな影響を与えそうですね。それでは最後に、10周年記念公演の意気込みなどを。

福谷 お祭りごとになるかもしれないけど、僕自身は「祭り」って意識は、さほどないです。でも「匿名劇壇をもっと知ってほしい」という気持ちは、いつもより強い公演かもしれません。僕らを応援してくださってる方には「こんなことをやってきたんだよ」と、一緒に振り返って楽しんでもらいたいし、知らない人たちには「匿名劇壇がどんな劇団なのか」をわかりやすく見せられる。それこそアルバムのような作品になると思うので、そんなつもりで観ていただけたらなあと思います。

松原 正解が出ましたね(一同笑)。

石畑 一人芝居があるから、とてつもなく物量が多くて、ホンマに大変やなあと思っています。でも「10周年記念公演だから」と気負わずに、これまでと同じように……そしてこれからも同じように作品に向き合って、お客さんにしっかり楽しんでもらうことを考えて、取り組んでいきます。

松原 今の稽古段階でも「あ、こういう作り方もできるんだ」と、これから先の劇団活動に活きるような新たな発見がありました。だから本番でもお客さんと一緒に、10年を振り返るだけでなく、11年目に続いていく新しいことを発見していくような、そういう時間が作れたらと思います。

匿名劇壇『10年分の短編集』チラシ。

公演情報

匿名劇壇『10年分の短編集』
 
■作・演出・出演:福谷圭祐
■出演:石畑達哉、佐々木誠、杉原公輔、東千紗都、松原由希子、吉本藍子(以上、匿名劇壇)
伊藤駿九郎(KING&HEAVY/theatre PEOPLE PURPLE)、亀山貴也、隈本晃俊(未来探偵社)、佐々木ヤス子(サファリ・P)、徳永健治、中村るみ、古谷ちさ(空晴)、本多晴奈(リコモーション)
※出演者は作品ごとに異なる。詳細は公式サイトでご確認を。
 
■日程:2021年11月6日(土)・7日(日)
■上演タイムテーブル:
【6日】
14:00~
『コミュニケットボール』『夢の忘れ物』『Ctrl+H』
16:30~
『一人だけ芝居』『チェーホフの銃』『ライトノベルが止まらない』
19:00~
『Shovel』『リーディングハイ』『めくれる察し』
【7日】
12:00~
『伊藤丸あい子のめくるめく願望』『Shovel』『ライトノベルが止まらない』
14:30~
『救世主』『ハイパーフィクション』『Ctrl+H』
17:00~
『チェーホフの銃』『奇跡と暴力と沈黙』『ハッピーバースセンチュリー』
■会場:ABCホール
■料金:一日通し券=前売7,000円、当日7,500円、25歳以下3,000円、高校生以下1,500円 1ブロック=前売3,000円、当日3,500円、25歳以下1,500円、高校生以下500円 ギフト=3,000円
※ギフトは1ブロックのみ観劇可(購入時日時指定不要)。プレゼントにご利用ください。前売のみ取扱。
■問い合わせ:090-9657-2437 tokumeigekidan@yahoo.co.jp(匿名劇壇)
■公式サイト:https://tokumeigekidan.jimdofree.com/next/
 
※この情報は10月19日時点のものです。新型コロナウイルスの状況次第で変更となる場合がございますので、公式サイトで最新の情報をチェックしてください。
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