約5年ぶりにCDを発売したチェリスト・新倉瞳登場!第五回 “サンデー・ブランチ・クラシック”12.6ライブレポート
新倉 瞳(Vc) 撮影:平田貴章
渋谷駅から徒歩5分、109の隣、道玄坂に面したプライムビルの5階にあるLIVING ROOM CAFE(リビングルームカフェ)by eplus。このカフェでは、日曜日の昼下がりに「サンデー・ブランチ・クラシック」というイベントが開催されている。12月6日(日)、その五回目が開催され、チェリストの新倉瞳が登場した。
新倉は、2015年11月18日(水)に約5年ぶり、自身初のコンチェルト・アルバム「エルガー:チェロ協奏曲」をリリースしたばかり。スイス在住の新倉だが、このプロモーションと、12月11日(金)に浜離宮朝日ホールで行われた、約5年ぶりの本格的な曲目を並べたリサイタル のため来日しており、今回このイベントへの出演も叶った。弦楽合奏や、オーケストラの中で耳にすることはあるが、“チェロがメイン”の演奏を聴いたことがある人は、まだ少ないかもしれない。今回のライブは、気軽に新しい発見に出会える、貴重な場となったのではないだろうか。
新倉 瞳(Vc) 撮影:平田貴章
爽やかで上品なブルーのドレスを身にまとった新倉が登場すると、会場からは大きな拍手が。それに応えるように一礼し、チェロを抱えすっと表情を変える新倉。まず、1曲目に披露されたのは、エルガー作曲『チェロ協奏曲 ホ短調 作品85より 第1、2楽章』。1918年に作られた楽曲で、新倉の新譜の1曲目、2曲目に収録されている曲である。印象的な重音から始まったこの曲は、ピアノ伴奏を伴いどこか悲劇的な響きを持って聴衆の耳に語りかけてくる。伸びやかである一方、力強い低音が心に染みいるようだ。流れるようなメロディの中、一拍置いて曲調が変化すると、第2楽章の幕開けだ。これまでの憂いを秘めた優美な演奏とは一転。細やかな弓さばきで、非常に速いスピードで音が刻まれていく。弓を跳ねさせて演奏するスピッカートという、新倉のテクニックが冴え渡った。
新倉 瞳(Vc) 撮影:平田貴章
約10分に及ぶ大曲を弾き終えると、新倉はチェロを抱えながら立ち上がり、「皆さん、こんにちは。チェリストの新倉瞳です。1曲目には、たくさんの想いがつまったCDから演奏させて頂きました。小さい赤ちゃんもちゃんと聴いてくれていて・・・ありがとう!」と、前方、背後の客席まで、それぞれに丁寧にお辞儀をし挨拶。
もともと、“協奏曲”は、オーケストラをバックに弾く曲。この日は、高校時代からの大親友だというピアニストの拓殖涼子とともに阿吽の呼吸で聴かせた。「この大曲を、カフェというカジュアルな空間で弾かせて頂くとどうなるのかなと、今日はワクワクしながら伺ったんですが、食器の音といい感じの和音が生まれて、新しいですね!」と意外なコラボレーションに驚きを見せる一幕も。
新倉 瞳(Vc) 撮影:平田貴章
8歳の頃よりチェロを始め、順調なキャリアを重ねてきた新倉だが、「もっと勉強をしたいなという想いが強くなり、一度皆さんに私のことを忘れてもらうくらいの勢いで海外に行ったんです。その中で、長く深く応援してくださる方々と出会えることができまして。このCDには、改めて強い感謝する気持ちが詰まっています」と今回のCDリリースに込めた想いを語った。
続いて演奏されたのは、ブルッフ作曲『コル・ニドライ 作品47』。「この曲は、ユダヤ教のお祝いのテーマが冒頭にあるんですけれども、苦しく、重々しい思いを持ちながらも最後に救われるような、そんな素敵な一曲で。私自身にもすごく重なる思いがある一曲です」と、多く葛藤と向き合い、脱出し、素の自分を取り戻してきたすことができたという自身の経験と重ねて紹介した。低音から高音まで、長く響かせながら駆け上がっていくメロディ。チェロは低音のイメージだったが、その音域が3オクターブほどあることに、驚かされた。また、“最も人の声に近い楽器”と言われるチェロの優しい調べの心地良さも存分に感じさせてくれる。ピアノにメロディを渡す際、拓殖に視線を送る新倉の表情も楽しげだ。
新倉 瞳(Vc) 撮影:平田貴章
最後に演奏されたカタロニア民謡・カザルス編曲『鳥の歌』は、新倉のデビューアルバムのタイトルにもなっている曲。この曲について、新倉は「この曲は、平和を祈る曲です。いろいろと悲しいニュースも多い世の中、私に何ができるかを考えた時に、微力ですが私の音楽がどなたかの平和に響いたらいいなと思っております」と語った。なお、この曲は新譜にもオーケストラバージョンとして、約9年ぶりに新しく新緑されている。
チェロの深く豊かな響きを存分に聴かせてくれた今回のライブだったが、アンコールでは「最後はちょっと明るめに!」とジャズのスタンダードナンバーとして知られる『Bay Mir Bishu sheyn』(邦題『素敵なあなた』)という東欧のラブソングを聴かせてくれた。なんと、新倉はチェロを弾きながら歌声も披露!哀しみも喜びも同居する独特の旋律に合わせ、観客からは手拍子が沸き起こり、大盛り上がりとなった。
新倉 瞳(Vc) 撮影:平田貴章
終演後、ライブを終えた感想を聞いてみると「本当におしゃれな空間で、普段のクラシックのコンサートとは全然違う雰囲気でした!クラシック音楽や、チェロをご存知ない方も、中にはいらして頂いて。私自身も、リラックスして演奏できて、新しい発見があるすごく楽しいコンサートでした」と、充実の表情を見せた新倉。
特に、MCでも触れていた食器の音との調和が印象的だったようで、「食器の音と一緒に演奏させて頂くことで、和音がジャズの音に聞こえてきたり。確かに、音楽にはジャンルという区切りがあるんですけど、“楽しむ”ということについてはあまり区切りがないように思いました。クラシックも、垣根を感じることなくもっとたくさんの人に聴いて頂きたいなと、改めて思いました」と語っていた。
「チェロの音をあまり聞いたことがない方でも、チェロってすごい楽器だなあと興味を持ってもらえたら」という新倉が言っていたように、このライブでの選曲でも、チェロの音域の広さや、その音の深さや優しさなど、様々な魅力が感じられるライブとなった。クラシックという“ジャンル”そのもの、そして個々の楽器や演奏者の魅力を肌で感じられる「サンデー・ブランチ・クラシック」。一期一会の楽しみを味わいに、ぜひカフェへ足を運んでほしい。
新倉 瞳(Vc) (左はピアニスト・拓殖涼子) 撮影:平田貴章
ライブの模様
新倉 瞳(Vc) 撮影:平田貴章
新倉 瞳(Vc) 撮影:平田貴章
新倉 瞳(Vc) 撮影:平田貴章
新倉 瞳(Vc) 撮影:平田貴章
■日時:12月6日(日)
■会場:「LIVING ROOM CAFE by eplus」
■出演:新倉瞳(チェリスト)
新倉 瞳/Hitomi Niikura(チェロ)
8歳よりチェロを始める。当時ドイツにて、ヤン・ヴィミスリッキー氏に師事。11歳で帰国後、毛利伯郎氏に師事。桐朋学園大学音楽学部を首席で卒業、卒業時には皇居桃華楽堂新人演奏会に出演。桐朋学園大学在学中の2006年にはCDデビューし、2009年には森下仁丹ビフィーナのCMキャラクターにも抜擢された。2010年よりスイスに留学し、バーゼル音楽院にてトーマス・デメンガ氏に師事。2015年には、ポルトガル/リスボンで開催された『Internacional Verão Clássico 2015』チェロ部門にて第1位受賞。また、カメラータ・チューリッヒのソロ首席チェリストに就任、室内楽奏者としての活躍も目覚ましい。今、一番目が離せない若手女流チェリストである。名器特別貸与者として、日本ヴァイオリンよりC.F.Landolfiを貸与されている。
http://www.hitominiikura.com
■日時:12月27日(日)
■会場:「LIVING ROOM CAFE by eplus」
■出演:松田理奈(Vn)
▶第1部13:00~13:30、第2部15:00~15:30
▶公式サイト:「LIVING ROOM CAFE by eplus」
■予定曲目:
テーマ『冬に聴きたくなるクラシックヴァイオリン小品集』
サンサーンス・白鳥
バッハ/グノー・アヴェマリア
チャイコフスキー・アンダンテカンタービレ
フォーレ・子守唄
カルロス ガルデル・思いの届く日
マスカーニ・「カヴァレリア ルスティカーナ」より間奏曲
プッチーニ・「ジャンニ スキッキ」より私の愛しいお父さん
※お子様もご入場可。
※予約の受付はなし。
※飲食代の他に、お一人様につき一律500円のミュージックチャージ。
※混雑状況によっては、ステージが見えづらい場合や相席のお願いをする場合あり。
※満席の場合は入店できない場合あり。