松山ケンイチ「この作品の家族の形にすごく影響を受けそう」~『hana-1970、コザが燃えた日-』インタビュー

2021.12.20
インタビュー
舞台

松山ケンイチ

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沖縄の日本復帰50周年の節目に上演される『hana-1970、コザが燃えた日-』に主演する松山ケンイチ。映画やテレビドラマでは徹底して役になりきる真摯な演技に定評のある松山だが、舞台だと劇団☆新感線のスケールの大きな活劇に出演しており、きめ細やかさからダイナミズムまで幅広い。

『hana』はこれまで松山の出演した舞台作品とは雰囲気の違う会話劇で、演出家・栗山民也が沖縄をテーマに、信頼する作家・畑澤聖悟に書き下ろしを託した作品である。返還直前の沖縄で起こったコザ騒動の夜、沖縄のバーにばらばらになった家族が集まる。彼らは失ったものを取り戻すことができるのか……。

「ターニングポイントになる気がする」と言う松山に意気込みを聞いた。

ーー作品のどこに魅力を感じましたか。

僕が知らなかったコザ騒動の起こった70年代に生きた人たちの気持ちや想いが描かれていてとても興味深かったです。脚本家の畑澤聖悟さんは沖縄の激動の歴史と平行して家族の物語にフォーカスを当てます。僕が演じるハルオと弟のアキオ(岡山天音)とおかあ(余貴美子)は血はつながっていませんが、彼らには“家族”の繋がりや温かさがあって、そこが僕はすごく好きだと感じました。70年代の物語ながら今に通じるものだから、ぜひそこを伝えていきたいと思っています。

松山ケンイチ

ーー70年代の歴史みたいなことは勉強しましたか。

これから学ぶところですが、「沖縄の人が返還前の日本をどう思っていたか」ということはぜひ知りたいです。バーhanaの中で繰り広げられる会話劇なので、その時代を生きた方々の実感をわかりたいと思っています。何気ない会話をしていたかと思えばメッセージ性を感じるようなセリフもあって、それらの塩梅は稽古をしながら探っていくことになるんじゃないでしょうか。あとは沖縄の方言をどれくらい正しく再現できるか、今はそれが心配です。

ーー沖縄に関するイメージは何かありますか。

仕事で行くばかりでプライベートで行ったことはまだ一回もないです。神聖な場所という印象があります。あと、台風が多く来て、湿度が高い。僕は天パだから、髪がすごく縮れるんですよね。そういうイメージがあります(笑)。

ーー台風が来て湿気が高い、そういう環境で人間の考え方や身体性に個性が出ると思いますか。

あると思います。僕も田舎出身だから「時間の流れが違う」とか「思考のスピードが違う」というのはわかります。一日のスピードが違うと、いろんなことが変わってくるんですよね。体重の増減でも考え方は変わるんじゃないかとこれまでの経験から思うので、生活する場所で全然違うと思います。

ーーこれから沖縄で生まれ育った人の感覚を探っていきます?

稽古が始まる前に沖縄に行って、いろいろ話を聞いて。取り入れられることは取り入れられるように、学んでこようと思っています。

ーー松山さんの役への取り組みの深さは並々ならないと定評があります。

いやいや。ただ本番中に、「参ったな。これ、なんもできないな」となることがイヤなだけで、そんなに大したことではないです。昔はかなりがんばって、役になりきろうと取り組んでいたこともありましたが、今はできるだけフラットに、ということをテーマにしているところです。

松山ケンイチ

ーー栗山さんの印象はどうですか?

今回、栗山さんとは初めての仕事になります。その人に初めて会って、その時に生まれてきたものや感じたことを大事にしたいと思っています。

ーー先入観から入らない。とてもいい考え方ですね。

そうしないと、構えて、力んで、演出家の望む方向性を先回りして提示してしまう。それじゃあ面白くないと思うんです。せっかくいろいろな人が集まっているのだから、そこで生まれるものこそ「セッション」でしょうと僕は思うんですよね。せっかくだからそれを楽しみたいので、予め余計な情報収集はしないようにしています。

ーー共演者のかたともそういう感じで接する予定でしょうか。

そうですね。できるだけ調べないように。いやでも、たまに勘違いして「お笑いの方ですよね」などと聞いちゃうときがあるんです(笑)。調べたら調べたで「今度はこの人のこういうところが気になってきた」と思って、質問しちゃったりとかするので、どの程度、相手の情報を事前に調べるかっていうのは、常にせめぎ合いです。

ーーそんな松山さんはみんなに愛されそうですね。

いや、めんどうくさいやつだなと思われますよ(笑)。

ーー皆さん、初共演ですか。

余貴美子さんとは、僕が二十歳のころに共演させてもらっていて、去年も現場でお会いしました。パワーがあってすごく好きな俳優さんなので、血がつながってないとはいえ母子役を演じられることが楽しみです。

ーー今回は会話劇ということで、劇団☆新感線のアクションもたっぷりのエンターテインメントとの違いについてはどう考えていますか。

とりあえず今は、力まないでやれたらいいなという風に思います。

ーー先程おっしゃったフラットということですか。

見せる技術に頼るのではなく、心の中に自然と生まれてきたものをそのまま出せるようにしたいと思っています。ちょっと“素人化”したいっていう気持ちがあるんです。

松山ケンイチ

ーー素人化とは?

要するに、俳優が巧い演技をしているように見えるのではなく、日常を生きている人の様式化されていない話し方や動きをしたいんです。だけどそれは、映像でもなかなか難しいことで、特に舞台では浮いてしまう可能性もあります。やはり何らかの技術的な要素が入ることで「会話劇」が成立すると思うんです。そこは栗山さんの演出に委ねたいと思っています。

ーー今までわりと技巧派みたいなイメージもあったので、作り込まない演技に挑むかもしれないことが、事前に出されていたコメントの「一つのターニングポイントになると思います」の意味なんでしょうか。

それもそうですが、この題材自体が僕にとって勉強になる作品で、書かれている「家族の形」にもすごく影響受けそうだと思うんです。例えば、アシバー(ヤクザ)に転落してしまったハルオに対するおかあの接し方だったり、どんなに悲しいことがあっても涙を流さないおかあに対するハルオの気持ちだったり。アキオもおかあのヒモになっているジラース(神尾佑)も同じく、みんな、相手の想いを慮りながら接し方や話し方を変えています。つまり、相手を思ってどういうスタンスをとるか、どういう伝え方をするか。そんなことが登場人物たちの会話から学べて。きっと僕はこの舞台を経験した後、自分の子どもに言うことが変わってきそうな気がしています。

ーーお芝居でやったことが日常生活にも影響を及ぼすのですか。

そうですね。どんな作品でもそういうことがあります。

ーー最後に舞台をご覧になろうと思っている方々にメッセージをお願いします。

1970年が作品の舞台ではありますが、家族の話でもあって、今に通じる、人との触れあいの温かさというものを改めて教えてくれる作品です。幸せの定義というのは、人それぞれあるもので、決めることはできませんが、この作品を見ると、「こういう幸せもあるんだな」と改めて考えるきっかけになったり、「こういう幸せもある。ああいう幸せもある」と幸せの形が多様化したりすると思うんです。観た方を豊かにさせるものがこの作品にはあると思いますので、ぜひ観ていただきたいです。

松山ケンイチ

取材・文=木俣 冬   撮影=荒川 潤

公演情報

『hana-1970、コザが燃えた日-』
 
<スタッフ>
作:畑澤聖悟
演出:栗山民也
 
<キャスト>
松山ケンイチ
岡山天音
神尾 佑
櫻井章喜
金子岳憲
玲央バルトナー
上原千果
余 貴美子
 
<東京公演>
日程:2022年1月9日(日)~1月30日(日)
会場:東京芸術劇場プレイハウス
主催:ホリプロ
 
<東京公演詳細>
S席:9,800円
サイドシート:7,000円
Yシート:2,000円(※20歳以下対象・当日引換券・要証明書・枚数限定)
 
■一般発売:発売中
 
■Yシート(20歳以下限定2000円)
11月12日(金)17:00~ 予定枚数終了次第販売終了
 
■文化庁子供文化芸術活動支援事業対象公演 について

<大阪公演>
日程:2022年2月5日(土)、2月6日(日)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
主催:梅田芸術劇場
お問い合わせ:梅田芸術劇場 06-6377-3888(10:00~18:00)
https://www.umegei.com/schedule/1011/
 
<宮城公演>
日程:2022年2月10日(木)、2月11日(金・祝)
会場:多賀城市民会館
主催:仙台放送
お問い合わせ:仙台放送 022-268-2174(平日11:00~16:00)
https://www.ox-tv.jp/sys_event/p/
 
企画制作:ホリプロ
 
公式HP https://horipro-stage.jp/stage/hana2022/
公式Twitter  https://twitter.com/stagehana 
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