クリスマスに雪が降る町に住んでいた青年たちの物語──ミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』太田基裕・牧島輝ペア ゲネプロレポート

2021.12.13
レポート
舞台

ミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』(牧島輝、太田基裕)撮影:田中亜紀

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2021年12月13日(月)よみうり大手町ホールにて幕を開けたミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』。2019年の日本初演版に出演した田代万里生・平方元基ペアに続き、本年より新参加となったのは太田基裕牧島輝。新たなペアが生み出した愛の物語、その公開ゲネプロの模様をレポートする。

【あらすじ】
人気短編小説家のトーマス(平方元基/牧島 輝)は、幼なじみのアルヴィン(田代万里生/太田基裕)の突然の死に際し、弔辞を読むために故郷へ帰って来る。しかし、葬儀が始まるというのに、アルヴィンへ手向ける言葉が思い浮かばない。すると死んだはずのアルヴィンが目の前に現れ、トーマスを自らの心の奥深くへと導いていく。そこには延々と続く本棚があり、トーマスの思い出と積み重ねた人生の本当の物語を書いた原稿や本が存在していた。アルヴィンは、その中から弔辞に相応しい2人の物語を選び、トーマスの手助けを始める。しかし、トーマスはそれを拒み、助けを借りずに弔辞を書くと言い張るが、アルヴィンは気にもとめず、次々と物語を選び、語っていく。果たして、弔辞は完成するのか・・・。
いくつもの物語が語られるにつれ、2人の間に存在した数々の埋もれてしまっていた小さな結びつきが明らかになっていく。
アルヴィンとトーマスが子供時代に育んだ絆と生涯を通じて築き上げた友情の物語。


チリン、チリン……。店のドアに付けられたベルが鳴る。本作にとってとても印象的なこの響きを合図に、舞台上がゆっくりと暗くなっていく。そして現れたのは少し重い表情をしたトーマス。弔辞台に立ち、亡くなった友人・アルヴィンへの最後の言葉を語り出そうとするが、言葉がうまく出てこない。冒頭から数行で最初に戻ってやり直し、少し進んではやはりこれじゃないと中断する。大切な人に贈る自分だけの文章を綴ることに向き合った作家の苦悩からこの物語は始まっていく。

パリッとしたスーツとキッチリ整えられた髪型がプライドの高さを感じさせるトーマスを演じるのは牧島。歌声にトーマスの苛立ちや焦りをじわじわと潜ませながら、客席の集中をグッと自身に引き寄せていく。トーマスは呟く。「書くんだ、トム」。アルヴィンとの思い出の糸を手繰り寄せようと気合を入れ「ここに連れてこられたらいいのに…」の声に呼ばれたかのように舞台上の幕が取り払われると、そこにアルヴィンが。 

牧島 輝 撮影:田中亜紀

喜びのオーラを放って再会を果たしたトーマスに言葉をかけ続けるアルヴィン。トーマスと対照的に手書きのイラストや素朴なアップリケのついた上着とダボついたズボン、くしゃくしゃの髪で笑顔を見せるアルヴィンの存在は、場を瞬時に“陽”の温度で上げていく。アルヴィンを演じるのは太田。少し高い弾むような歌声、イノセントな空気、心に自由を持っている青年の登場。ここから二人は時間をかけ丁寧にアルヴィンの弔辞を仕上げるための物語、「事実ではなくストーリー」を綴る心の旅に出るのだ。

アルヴィンの登場で露わになった書棚は無数の物語が納められたトーマスの頭の中でもあり、アルヴィンがパパと守ってきた小さな書店でもあり。棚や引き出しからは10歳の頃からのアルヴィンの物語、トーマスの物語、そして二人の物語がタイプされたペーパーが次々と引っ張り出され、一人であるいは二人で、その物語を歌で回想していく。学校で初めて会ったこと、閉店後の店内での小さな冒険、喧嘩、クリスマスの思い出、そして成長するに連れて何度も繰り返された帰省と「さよなら」。

長じて作家として成功したトーマスは、鋭い観察眼と豊かな情緒を持った少年だった。少し変わっていると周囲から見られていたアルヴィンは、非常に聡明で豊かな魂を持った愛の人だ。歌で紡がれていくエピソードも年頃の男の子らしい思い出、誰もが過ごしてきた青春の匂いに包まれ、二人はとてもいい友だちだったことがわかる。もちろんいいことばかりじゃない。自分の世界が広がれば、互い心の距離が狂うこともある。都会に出て行ったトーマスの負い目も大人になった私たちには思い当たることばかりだし、生まれた町でずっと生きているアルヴィンのささやかだが平和な暮らしも、大事にしたい宝物だ。

太田基裕 撮影:田中亜紀

幕が開いた瞬間から、すでにアルヴィンはこの世にはいなかった。今トーマスと過ごしているのはトーマスの空想の中で生きているアルヴィン。そのアルヴィンの視線はずっとトーマスに注がれている。言葉では言い表しきれない、あるいは歌でも伝えきれないくらい溢れ出る様々な思いを多彩な表情で放出し続け、身体中で訴え続ける太田のみずみずしいパフォーマンスが心を打つ。常に空を見つめ、深く自身の中に潜り込んでいるトーマスの“大人としての葛藤”を思いの中心に据えた牧島の暗さも印象深い。終盤、父親に向けたスピーチを見事に成し遂げたアルヴィンをやっと真っ直ぐに見つめ、本当の彼を見つけたと心の殻を破っていく瞬間も鮮烈だった。歌も芝居も自然なコンビネーションで、この二人だけの『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』がしっかりと生み出されていた。

子供の頃「人が死ぬといい話をするんだよね」と、先に死んだほうの弔辞を残された者が務める約束をした“ちょっと変わった親友同士”。クリスマスになると雪が降る町に住んでいた彼らの愛と人生を綴った二人だけのミュージカル。夢中でストーリーを追いかけ、豊かな歌に包まれ、気づけば目の前には素敵なクリスマスの飾り付けと小さなツリーと天使像が残されていた。その作品タイトルが“僕らの人生”ではなく“私の人生”となっているのもいい。懐かしく暖かいけれど、ちゃんとビターな後味。ハートウォーミングのその先にある人生の重さを噛み締められる佳作である。

アルヴィン:太田基裕

アルヴィンを演じます太田基裕です。
2人で紡ぐミュージカル、非常に繊細な道のりだと感じています。僕自身を通したアルヴィンがお客様の心に少しでも届きますよう、トーマス役の牧島さんと積み重ねていきたいと思います。
2021年を締め括る美しい作品になりますように。
千穐楽までよろしくお願いいたします。

トーマス:牧島 輝

きっとこの作品を観た後、自分が生きてきた中の何気ない時間やくだらないのになんだか楽しかった記憶が尊くてかけがえのないものだったのだと感じると思います。僕はそうでした!笑
皆さんが辛い時、ふとこの作品を思い出したら温かい気持ちになったり、おっと寄り添ってくれるようなそんな作品だと思っています。
限られた公演数、みなさんとの限られた時間の中で、一つ一つ色んなことを確かめながら、共感しながら素敵な時間を過ごせますように!

取材・文=横澤由香

公演情報

ミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』
 
日程:2021年12月13日(月)~12月25日(土)
会場:よみうり大手町ホール
※ツアー公演はなし
 
主催:読売新聞社 ぴあ ホリプロ
企画制作:ホリプロ
お問い合わせ:ホリプロセンター
03-3490-4949(平日11時~18時/土日祝休み)※発売日のみ10時~13時
 
<注釈付き席販売詳細>
注釈付き席:9,000円
販売開始日:11月1日(月)18:00~先着順
【注意事項】
※注釈付き席は、ステージの一部が見えづらい可能性のあるお席です。予めご了承ください。
 
<キャスト>
アルヴィン:田代万里生
トーマス:平方元基
 
アルヴィン:太田基裕
トーマス:牧島 輝
 
<スタッフ>
作詞・作曲:ニール・バートラム
脚本:ブライアン・ヒル
演出:高橋正徳(文学座)
翻訳・訳詞:保科由里子
音楽監督:後藤浩明
ステージング:神崎由布子
美術:乗峯雅寛
照明:柏倉淳一
音響:大野美由紀
衣裳:小林巨和
ヘアメイク:宮内宏明
歌唱指導:満田恵子
舞台監督:北條 孝、 長沼 仁
 
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