XIIXがさらなる深化を見せつけた『USELESS+』ツアーファイナル

2021.12.20
レポート
音楽

XIIX 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

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XIIX LIVE TOUR「USELESS+」  2021.12.16  東京ガーデンシアター

12月16日、東京ガーデンシアターで、XIIX LIVE TOUR「USELESS+」のファイナル公演を観た。ただでさえライブの少ない2021シーズン、しかも須藤優は超のつく売れっ子サポートミュージシャンで、斎藤宏介はUNISON SQUARE GARDENのメンバー。多忙すぎる二人がツアーに出ること自体がちょっとした奇跡だから、一音も聴き洩らさず、一瞬も見逃してなるものかと気合を入れてライブに臨む。セカンドアルバム『USELESS』の緻密に作り込まれたサウンドが、ライブでどんなふうに表現されるのか。期待する見どころは山ほどある。

グリーンのスポットライトを浴びた須藤のベースが強烈な重低音を響かせる、「Halloween Knight」が今宵の宴の始まりを告げるナンバー。フロントに並ぶ斎藤が強烈なカッティングで応戦し、DJを含む3人のバンドがボトムをがっちり固める。軽やかなディスコビートで踊らせる「LIFE IS MUSIC!!!!!」から、腰の入ったファンクチューン「フラッシュバック」へ、サウンドの骨格はロックにファンク、ダンスミュージック、ヒップホップなどを取り込んだグルーヴィーなもの。「今日は我々の演奏に身をゆだねて、自由に体を揺らして行ってください!」と斎藤が叫ぶ。言われる前に、体はもう動いてる。

「めちゃめちゃ緻密に作ったアルバムを一回ぶっ壊して、今日のために再構築してきました。今日の歌と演奏、全部を今日に捧げようと思っているので、最後まで楽しんでください」(斎藤)

柔らかくポップなメロディを持つ楽曲に、DJのスクラッチや、ピアノのジャズっぽいフレーズが洒落たアクセントをつける「ブルー」。EDM風のクールな音色と、レゲトンぽいハネたリズムがかっこいい「Light&Shadow」。超絶技巧も豊富な音楽知識もひけらかさず、誰にでも「センス良くて気持ちいいよね」と思わせる、それがXIIXの音楽美学。ノスタルジックでポップなメロディの「おもちゃの街」も、須藤が弾き分ける生ベースとシンセベース、端正な打ち込みのおかげで彼らにしかない楽曲に仕上がる。「No More」でDJが、ロックの手振りではなくヒップホップの手振りで観客を煽るのも、バンドのグルーヴの軸がそちら側にあるという提示の一つだろう。

中盤では2曲、斎藤と須藤の二人でアコースティック・セッションを聴かせてくれた。ルーパーエフェクターでリズムを組み、ゆったりと心地良く流れる「E△7」。ジャズのインプロビゼーションのような、アコースティックギターとベースのスリリングなぶつかり合いが、強力なファンクチューンへとヒートアップしてゆく「ハンドレッドグラビティ」。インプロの合間にこっそり「ビリー・ジーン」のフレーズを紛れ込ませたり、二人がプレイヤーとしてのびのび楽しんでいるのがよくわかる。須藤はこのコーナーのために、3日前に新しいベースを手に入れたらしい。うれしそうに斎藤にベースを見せる、その笑顔はたぶん音楽を始めた頃の少年のままだろう。

「準備はいいですか? 後半戦行きます!」(斎藤)

ライブ後半の幕開けは、バンド一丸となって攻めるねばっこいファンクロックの「ilaksa」から。ここまで、基本はしっかりと音を聴かせるだけ。照明や演出にそれほど派手さはなかったが、ここぞとばかりにカラフルなライトが激しく点滅し、ライブのクライマックスへと期待感を煽る。続く「Regulus」はDJが主導するダンサブルなリズム、空間にふわりと漂うピアノ、鋭いカッティングのアンバランスなバランスが魅力的な曲で、「ホロウ」はエレクトロニカっぽいスローナンバーかと思いきや、後半は鬼気迫るドラムが導くカオティックな轟音の海に溺れる、実にシュールでかっこいい曲。やはりセカンドアルバム『USELESS』収録曲は、それ以前の曲よりも音楽の情報量が濃く、深い。

フリージャズのようなプログレのような、長く激しいインプロビゼーションをイントロに配した「アカシ」は、アニメ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』のEDテーマになった「アカシ」の音源とは別次元と言っていい凄みを持つ、驚異のライブバージョン。ファンク・ジャズにラップ風のボーカルを乗せた「Stay Mellow」から、よりロック的に直線的な激しさを増すアップテンポの「Answer5」へ、会場のムードはぐんぐんとヒートアップし、DJ、ピアノ、ベースとつないで華麗なソロを披露する中、おもむろにギターの背面弾きをやってみせた斎藤。表情は遠くて見えないが、その笑顔はたぶん音楽を始めた頃の少年のままだろう。

「これはひょっとしたら、思い上がりかもしれないですけど、僕たちは死ぬまで音楽を続けるべき人間だと思っています。毎日毎日せっせと音楽をやる中で、これが死ぬまで続くと思うと途方もない気持ちになったりすることもあるけど、それでも、いつも音楽に戻ってきてしまうのは、たぶん今日みたいな日があるからだなと心から思っています。素晴らしい1日をありがとうございました」(斎藤)

ラストチューンは「like the rain」。人の思いを超えた、大いなる愛の存在を示唆するような歌詞の世界も含め、神聖と呼びたいほどに美しく一点の曇りなきエモーショナル・バラード。バンドが一体となって描き出す音のカタルシス。素晴らしいフィナーレ。

そしてアンコール。「楽しいね、ライブって」と、ひとりごとのように須藤が言う。言葉にはせず、ふふっと笑って応えた斎藤も、思いはたぶん同じだ。アルバム『USELESS』のラストソング「Endless Summer」の、愛らしくノスタルジックな曲調が、甘く切なく心に沁みる。大人びたサウンドかと思えば、時に幼い感情や青春の風景も見せてくれる、XIIXの世界はまだまだ奥が深い。

「終わりたくない。嫌だ」と駄々をこねながら、「来年はとっても頑張ります」と決意を述べる斎藤。「来年はライブを今年の倍やろう」と意気込む須藤。本当のラストソング「ユースレス・シンフォニー」では、客席の灯りをすべてつけて、明るく楽しくポジティブに。斎藤がステージに膝をついてリードギターを弾きまくる。須藤がステージ最前線に歩み出て観客の拍手に応える。そして最後に紹介された、ドラムのよっち(河村吉弘)、マニピュレーター&DJのHIRORON、キーボードの山本健太に送られるあたたかい拍手。形態はメンバー+サポートだが、5人の音の重要性はライブにおいて、まったく平等なものだった。

様々な音楽をミクスチャーしてゆく音楽家の愉しみと、シンプルな演奏者の喜び。知的で緻密な曲作りと、フィジカルで大胆なライブアレンジ。高い緊張感を放ちつつ、リスナーを置いてきぼりにしない柔らかな包容力。そして斎藤と須藤の、ほかの場所では見られないリラックスしたやりとり。XIIXの音楽を、USELESS(無駄な、実用性のない)なんて言ったのは一体誰だ? 音源を超える多くの魅力が詰まったXIIXのライブが、2022年はもっとたくさん観られることを心から願いたい。


取材・文=宮本英夫  撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

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