『薔薇と海賊』霧矢大夢×多和田任益インタビュー~純愛にもいろいろあるけど、この2人にとっては……
霧矢大夢、多和田任益 (撮影:池上夢貢)
unratoが2022年3月に東京、大阪で上演する『薔薇と海賊』は、三島由紀夫が描いた、美しくもどこか恐ろしい幻想譚である。童話作家の楓阿里子は、娘の千恵子に童話に登場する姫の扮装をさせている。その邸宅に、阿里子の童話のファンである青年・帝一がやってくる。そして阿里子と帝一の夢の世界のような純愛が始まる……。
阿里子役の霧矢大夢と、帝一役の多和田任益に、この戯曲を手に取った感想、幻想的な世界を演劇として立体にしていく道筋について聞いてみた。演出の大河内直子が隣で見守るなか、俳優の視点で作品に向き合っていく。
■どんな舞台になるかわからないけれど、すごいものができそう!
──『薔薇と海賊』を読んだ印象はいかがでしたか?
霧矢 私はまず、共演者の人の声で脳内再生してみます。今回、夫役の須賀さんは共演歴があるので「須賀っち、ダメな夫役似合いそうだなぁ」なんて思いながら読みました。多和田さんとは今日初めてお会いして「思っていたより大きい人だな」と……。“坊や”みたいな帝一くんを想像していたので、ギャップがありました。やっぱり会ってみないとわからないものですね。
作品としては、大好きなティム・バートンの映画みたいだなって。出てくるのはすごく変な人達ばかりだけど、みんな当たり前のように生きていて、ちょっとおどろおどろしくて、ブラックだけどファンタジック。そのファンタジックなところが人間の芯を突いているような表現などが、似ている気がします。ほかにも、あるシーンはミュージカルの『ファインディング・ネバーランド』みたいだなと思っていたら、演出の大河内(直子)さんも同じことをおっしゃっていて、「私の感じた世界観は間違っていなかった!」と。でも、蓋を開けたらどんな舞台になるかはわからないですけどね。
多和田 僕も誰が演じるのかを想像しながら読みましたが、観る人、演じる人、作る人によって全然印象が変わりそうな作品だなと思いました。この『薔薇と海賊』を読んだ後で、大河内さん演出の『楽屋』(2021年10月上演)を観劇させていただいたのですが、狭い空間の中でそれを感じさせない世界観の奥行きや、女性の怖さや面白さ、美しさを感じました。あと、まず劇場に入った時にすごくワクワクしたんです。空間が、ちょっと異様な感じがありつつ、神秘的で美しかった。こんな世界を作る大河内さんなら、『薔薇と海賊』はとても美しくて神秘的で、最後の場面なんてすごいものができそう!と想像が膨らみました。
──大河内さんの舞台は美術の第一印象が強く、また今回の美術は『楽屋』と同じく石原敬さんが手掛けられますね。
霧矢 大河内さんは美しさをすごく追求されますね。ただ綺麗できらびやかなのではなくて、空間作りに美学があります。蜷川(幸雄)さんのお芝居を観て感じる「この綿密に作られた空間からどんな世界が始まるのだろう!?」みたいなところを引き継いでいらっしゃるのかな。この『薔薇と海賊』は多和田さんもおっしゃったように、作り手によって違う作品になると思うので、大河内さんがどんな世界を作られるのか楽しみです。ここは主張したいのですけれど、私達もどんな作品になるのかまったくわからないので、実は今日の取材に大河内さんも同席してくださっていて、わからないことは大河内さんにすぐに聞けるように見守ってくださっています……!
大河内 今もばぁやのように座っています(笑)。
──大河内さんの演出と稽古しだいで、どんな作品になるのか予想もつかないですね。
霧矢 舞台で上演するビジュアルを思い浮かべながら読んでいるのですが、『薔薇と海賊』の戯曲にはたとえばセットの描写やどこに退場するかもちゃんと書いてあって、「これ、どうやるんやろう?」「この人、どういう人なんだろう?」と常に「?」を浮かべながら読みました。でも、勝手に帝一さんは小柄な人だと思ってたので、すでにここは違った(笑)。
多和田 全然違いましたね(笑)。やっぱり「思ってたのと違う」という時はありますよね。僕は事前のイメージにそれほど頼らずに、実際に立って稽古してみてから考えるようにしています。最初に自分でイメージを固めすぎると、もし違った時にイメージを取り除く作業が大変なので。
霧矢 戯曲が体に馴染んでいくと捉え方も違ってきますよね。今みたいに稽古が始まる前の取材で「こうだと思います」と答えたことが、本番では変わっていたりするから(笑)。
多和田 ありますね、「ちゃうかったー!」って(笑)。
霧矢 やっぱり演劇ってライブで生まれていくものですよね。その時に出会った方々と作って、劇場でまたお客さまとの呼吸で発見することがある。それが面白いです。
──観客は最後の上演しか観られないので、こうやって稽古前のお話を伺うと、本番で「こんな風に変わったんだ!」という変化も感じられます。
■大河内さんは、俳優が腑に落ちるまでよりそってくれる演出家
──霧矢さんは大河内さんとの舞台は4作目、多和田さんは初めてですね。
霧矢 私が出演する大河内さん演出作品の中では今回が過去最多出演者数なので、どんな雰囲気の稽古場になるのか楽しみですね。一人芝居もやって、その時は大河内さんと一対一で「今日はもうやめようか」みたいにゆっくり稽古していました。
多和田 そうなんですね。僕は大河内さんが蜷川さんのところにいらっしゃったとうかがっていたんですけど、演出された舞台を観た時に不勉強ながら蜷川さんと通ずるものがあるなとは感じ取れたんです。だから、勝手な蜷川さんへのイメージと重ねて「もしかして厳しい方なのかな」と想像していたら、大河内さんはめちゃくちゃ柔らかい方だったので、すぐに緊張がほぐれました! しかも関西出身ということで親近感がわいて(笑)、それなのに作品はしっかりした美学を持っていらっしゃって、尖った瞬間がある。人って面白いなと思います。女性の演出家の方と仕事をする経験もあまりなかったのですが、先日ご一緒した石丸さち子さんは熱くてワイルドで全然タイプが違う。石丸さんが赤い炎なら、大河内さんは青い炎で、冷静に燃えている印象ですね。きっと初めての経験もたくさんあるだろうから、役者としてもすごく楽しみです。
──大河内さんの演出や稽古はいかがですか?
霧矢 穏やかに進みますね。一人芝居(2017年『THE LAST FLAPPER』)の時は、セットのベッドに寝そべってくつろぎながら稽古しましたね。作品の内容がハードなので、そのぶん穏やかにすごそう、と。『I DO! I DO!』(2018年)の時は、二人芝居だけど、私がシングルキャストで、相手役の男性がダブルキャストでした。男性二人は稽古時間が2分の1になってしまって大変だし焦りも出てくるだろうから、とにかく私と直子さんは穏やかでいようと結託しました。あれで絆がうまれた(笑)。今回は出演者も多いし、穏やかに過ごそうと思っています。
多和田 そういうことってすごく助かります。焦っている時に、ハッとするでしょうね。
霧矢 そうだね。「じゃあ一回休憩しようか」「今日は帰ろうか」という感じになると思う。
多和田 おお~。僕にとっては初体験になりそうです。
霧矢 作品を最初から固めずに、稽古場では探求します。大河内さんの稽古場は、考えてきたことを試す現場ですね。実際に動いてみて、俳優にとって腑に落ちるかどうかをすごく確認してくださる。
多和田 演出家の方にもよりますよね。俳優が腑に落ちるかどうかは大事じゃなくて、腑に落とすのが俳優だ、と言う方もいらっしゃるし。
霧矢 そういう演出もありますね。
多和田 どれが正解というわけじゃないけれど、俳優に寄り添ってくださるのはすごく嬉しいです。天使みたいな演出家ですね……。
霧矢 そうなんですよ。優しいんです。私が腑に落ちてなくて、なんか気持ち悪いなって思っていたら、そのことをキャッチしてくださる。
──俳優と一緒に紆余曲折していくことを大事にすることで、作品そのものも腑に落ちていくんでしょうね。
■純愛っていったいなんだろう?
──『薔薇と海賊』にはテーマのひとつとして“純愛”があります。純愛にもいろんな形があると思いますが、どう思われましたか?
霧矢 戯曲を読んで思ったのは、私の演じる阿里子は館の主で、そこに帝一があらわれて想像力の扉を開いてくれて、解き放たれていく。かと思いきや、彼のことを自分の世界に閉じ込めたように感じました。純愛というより、彼のことをお人形さんにしてしまうような愛情なのかなと。例えるなら『黒蜥蜴』のようなイメージですね。
多和田 『黒蜥蜴』?
霧矢 江戸川乱歩の作品で、あるマダムが美しいと思うものをコレクションしていくんだけど、その中には人間もいて、剥製にしてしまう。
多和田 怖っ。
霧矢 それもひとつの愛情なのかな。ちょっと歪んでるけど。やっぱり「愛情」と一口に言ってもいろんな形がある。阿里子はまだ37歳で、これからだんだん老いていくから、自分よりも若い帝一に老いた姿を見せたくなくて、彼を閉じ込めてしまうのかな……なんて考えました。勝手な私の印象ですが。
多和田 そもそも純愛ってなんでしょうね。べつに「なに」ということすら無いのかもしれない。きっと『薔薇と海賊』も、見る人によって純愛に見えたり、そうじゃなく見えたりすると思う。見る角度によっても、誰にとっての純愛の物語なのかが違うかもしれない。だからこそ深くて面白いし、やり甲斐がありそうです。たとえば、僕が演じる帝一はすごくピュアだから、彼の目線だとすごく美しい2人だけの世界にも感じられる。それはちょっと怖くもあるほどに。だから霧矢さんから「コレクションする」という話を聞いて「なるほど!」と思いました、今。
──実際に帝一がいる世界と、帝一から見えている世界が、まったく違う可能性もありますね。
多和田 怖いですよね。ゾクッとしますね。
霧矢 まぁ、実際にはどんな舞台になるのかわからないですけどね(笑)。
──どんな作品になるのか予想もつかないとは思いますが、この舞台に参加する一番の楽しみはなんですか?
霧矢 役者として、戯曲の第一印象は「難しい」とか「どうなるんだ?」と思うのですが、「?」が多い方がやっぱり楽しい。お客様が何を受け取ってくださるかわからないので、そういう作品ほど、役者の喜びがある。誰もが分かりやすいストーリーの良さももちろんありますけど、観る人に委ねる作品は好きですね。
多和田 確かに。僕らが「こうだ」と思って演じていても、観ている方は真反対のことを思うかもしれないですね。面白いです。僕が楽しみにしていることはたくさんあるんですけど……僕はここ数年、「自分、これできそうだな」と思ったところで止まりたくない、という思いが強くなってきたんです。できることや得意なことって自分を発揮できるけど、もっと先を知りたくなった。だからこそ、知らない場所でやってみたい。今回、共演者全員が初めてご一緒する方ですし、演出家の大河内さんも、三島由紀夫さんの作品も初めて。きっと、必要な時に必要な役や作品がくるので、今のタイミングで帝一という役をやれと、演劇の神様が言っているのかもしれない。『薔薇と海賊』のチラシに大河内さんの「私達の現在(いま)が出会いますよう。」というコメントが書かれているんですが、その言葉がすごく胸に刺さっているんです。たぶん僕は、今の自分と出会いたいし、今の自分が知らないものと出会いたい。今の自分達が、この作品に取り組んだらどうなるのかを知りたい。だから、早く出会いたいです。
霧矢 本当に。初めて一緒に創作をする方も多いし、作品にも、お客様にも、出会えるのがすごく楽しみですね。
取材・文=河野桃子 写真撮影=池上夢貢
公演情報
【日程・会場】
■東京公演:東京芸術劇場シアターウエスト(〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-8-1)
2022年3月4日(金)~13日(日)
3月4日(金) 18時
5日(土) 12時/17時
6日(日) 13時
7日(月) 13時
8日(火) 18時
9日(水) 13時
10日(木) 18時
11日(金) 13時
12日(土) 12時/17時
13日(日) 13時
※開場は開演の30分前
■大阪公演:茨木クリエイトセンター
2022年3月25日(金)・26日(土)
大阪公演に関する問い合わせ先 072-625-3055
【出演】
霧矢大夢 多和田任益 田村芽実 須賀貴匡 鈴木裕樹
大石継太 飯田邦博 羽子田洋子 篠原初実 松平春香
作:三島由紀夫 演出:大河内直子 音楽:阿部海太郎
美術:石原敬 照明:大島祐夫 音響:早川毅 衣裳:前田文子
ヘアメイク:国府田圭 舞台監督:鈴木政憲 制作:村田紫音
プロデュース:田窪桜子(アイオーン)/西田知佳(ぴあ)
企画・製作:unrato 主催:アイオーン/ぴあ
一般 6,800円/学生 3,800円/高校生以下 2,800円
※学生、高校生以下は一般発売日から当日引換券での発売。
公演当日、要学生証提示。
【一般発売】
2022年1月15日(土)10:00~
※未就学児の入場は不可とさせて頂きます。
※今後の感染症対策は感染状況や政府等の要請により変更となる場合もございます。
ウェブサイトやSNS等でお知らせしますので、ご確認くださいますようお願いします。
http://ae-on.co.jp/unrato/
【公演に関する問い合わせ先】
baratokaizoku@ae-on.co.jp