『イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜ーモネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン』印象派巨匠たちの初来日作品が集結、レッサー・ユリィもついに来阪
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『イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜ーモネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン』 撮影=ERI KUBOTA
『イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜ーモネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン』2022.1.28(FRI)〜4.3(SUN)あべのハルカス美術館
1月28日(金)から4月3日(日)まで、大阪のあべのハルカス美術館にて『イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜ーモネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン』が開催中だ。本展は、日本とイスラエルの外交関係樹立70周年を記念して、東京では三菱一号館美術館とあべのハルカス美術館の2館で行われるもの。古代から近代まで約50万点もの文化財を擁するイスラエル博物館から、クロード・モネ、ピエール=オーギュスト・ルノワール、フィンセント・ファン・ゴッホ、ポール・ゴーガンら、珠玉の印象派コレクション69点が展示される。なんと出品作の約8割にあたる59点が初来日という稀有な機会だ。昨年東京展が終了し、満を持して大阪に巡回した。
19世紀後半にフランス・パリで興った印象派は、日本でも特に根強いファンが多い。今回は、印象派の先駆者バルビゾン派から、印象派、ポスト印象派、そしてその後のナビ派までを網羅する中で、光がいかに描かれ、表現されていったのかという「光の系譜」が楽しめる展覧会となっている。開催に先駆けて行われたプレス内覧会の模様をレポートしよう。
チャプターごとに展示空間を演出
『イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜ーモネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン』
展示室に入ると、いつものあべのハルカス美術館とは違う空気を感じた。床にはライトブルーのシートが敷かれ、まるで水面に立っているかのようだ。しばらく感動していると、あべのハルカス美術館 浅野秀剛館長の挨拶が始まった。
あべのハルカス美術館 浅野秀剛館長
浅野が触れたのは、やはり東京展で人気に火がついたユダヤ系のドイツ人画家、レッサー・ユリィ。有識者でもその名を初めて聞いたというほど無名の画家にも関わらず、アート業界にセンセーショナルを巻き起こした。東京展では瞬く間にユリィのグッズが完売したそうだ。今回彼の作品は4点来日している。
浅野は「ユリィの作品は、結構大胆ですごく荒々しいんですけども、繊細な感情を内包している。そういう人なのではないかと勝手に想像しました」と述べ、「新しい作品や作家の魅力を知ることは大変な喜びであり、美術館のひとつの役割であると思っています。ぜひそういった面も含めて鑑賞していただきたい」と締め括った。
第1章「水の風景と反映」
展示の様子
ここからは、展示内容を章ごとに追っていこう。ライトブルーの床と壁が爽やかな最初の展示室には、バルビゾン派の画家たちの作品が展示されている。19世紀半ば、パリ郊外のフォンテーヌブローの森にある「バルビゾン村」に画家たちが集い、ありのままの自然を描いたバルビゾン派。戸外で空気を感じ、水のせせらぎを聴き、自然の懐に抱かれて制作を始めたことが印象派の先駆と言われる所以だ。
印象派は「現実をありのまま描く」ことが特徴だが、バルビゾン派はキラキラとした光というよりも、柔らかく穏やかな光に包まれたような絵を描いた。代表的な画家であるジャン=バティスト・カミーユ・コローや、シャルル=フランソワ・ドービニーらによる、自然の空気感や息遣いを感じられる作品が出迎えてくれる。
展示の様子
次の部屋では、アルフレッド・シスレーやギュスターヴ・クールベ、ポール・セザンヌといった「ザ・印象派」の作品が並ぶ。床と壁の色が明るく、会場が広々と感じた。作品同士の間隔も広めにとってあるため、1枚1枚の絵に没入しやすい環境が作られていた。
展示の様子
ノルマンディーの港町に生まれ幼い頃から海に親しみ、海の景色を描いたウジェーヌ・ブーダンは、モネに戸外制作の楽しさを教えたそうだ。「彼の教えがなければ、モネは絵を描かなかったかもしれないというほど、影響力の大きい人」と、巡回しながら解説した浅川真紀上席学芸員。画家の関係性にも注目して作品を鑑賞するのも面白いのではないだろうか。
クロード・モネ「睡蓮の池」 1907年 は撮影可能
本章のラストに鎮座するのは、初来日となるモネの「睡蓮の池」。睡蓮をモチーフに生涯で300点以上描いたモネだが、本作は当たり年と言われる1907年に描かれたもの。周囲の光景、水面のゆらぎ、水底までが様々な光のレイヤーの中に凝縮されている。ちなみにこの作品を含む6点は、写真撮影が可能だ(しかもゴッホ、ゴーガン、ルノワール、ユリィという豪華さ!)。
第2章「自然と人のいる風景」
展示の様子
床の色が高原のようなグリーンに変わり、第2章へ。ここでは、自然の風景とともにある、人の存在感や営みがクローズアップされる。
カミーユ・ピサロ「豊作」 1893年
農村で働いたり憩いでいたりする人々の生活を活写したのは、印象派では最年長のカミーユ・ピサロ。当時全8回にわたり開催されていた『印象派展』全てに出展した唯一の画家で、若い画家とも積極的に交流し、様々な技法を取り入れたり、展覧会に誘うなど、中心的な人物だったという。陽の光の恩恵を受けて、慎ましく逞しく生きる農民たちを、明るい色彩と新たな視点で描き出した。また、ユダヤの崇高なる存在(太陽神信仰)とユダヤ系であるピサロのバックグラウンドも加味しながら観るとより面白い。
フィンセント・ファン・ゴッホ「プロヴァンスの収穫期」 1888年
かつて共に南フランスのアルルで、共同生活を行い絵を描いたゴッホとゴーガン。ちょうどその頃(1888年頃)に描かれた2点のゴッホの作品からは、喜びと生命力があふれ、この力強い筆致にはただ圧倒される。浅川は「ゴッホの絵からは、画家の感情の動きや揺らぎをダイレクトに感じる。そこに私たちは心を惹かれるのだと思いますね」と語った。
ポール・ゴーガン「ウパ ウパ(炎の踊り)」 1891年
一方、ゴッホとの生活が2ヶ月で破綻し、ゴーガンは温暖な気候と「未開」を求めてフランスの植民地タヒチに渡る。そこでファイヤーダンスをする先住民たちを描いた作品「ウパ ウパ(炎の踊り)」。官能的な踊りで、フランス文化が浸透していた都市部では禁止されていたそうだ。赤々と燃える炎、踊る人々、周囲の恋人たちからは、呪術的かつ超自然的な輝く生命力が感じられる。
第3章「都市の情景」
展示の様子
第3章は、計7点の作品が展示される小さめのスペース。グレーの床は街の石畳を歩くイメージだ。自然を描くのはもちろん、移りゆく社会と都会、人間の姿を目撃し記録した印象派の画家たち。19世紀後半からはパリの大改造計画で、公園なども整備され、都市の暮らしに変化が訪れる。同時に産業化により、田舎にも工場が進出した。中産階級やブルジョアのファッショナブルな人々と、安い賃金で大変な労働をする労働者たちを等しく描き出し、人間の生活層の光と闇、社会のリアリティを画布にとどめていった。
ゴッホとピサロの公園の絵の横にはお待ちかね、レッサー・ユリィの作品が2点並ぶ。黄色、赤、黒の原色を大胆に使い、鮮烈な色彩と繊細な感情が交わる「夜のポツダム広場」は、雨で濡れた道路にネオンの光がトランスしている。曇った空や湿気、街の雑踏、ネオンなど、私たちが現代生活で感じる感覚にも通じるものがある。「シルエットで表された傘をさす人々の胸に去来する思いを巡らせると、都会に住む人々の憂愁、光と闇が人間の心の内部をさらしているんだろうなと。そのあたりを重ねてみると、どんどん引き込まれます」と浅川。
レッサー・ユリィ「冬のベルリン」 1920年代半ば も撮影可能
「冬のベルリン」は、抑制した色合いのオシャレな作品。洗練された都会の情景と寂寥感をうまく表現している。浅川は「直系の印象派と同時代の人ではないが、印象派の光というものを自ら咀嚼して、モダンライフに当てはめ、恐らく自分の心証も当てはめて描いたのでは」と分析する。この絵は1920年代、ベルリン・ユダヤ博物館に収蔵、公開される予定だったが、ナチスの強制計画により差し押さえられ、しばらく行方不明に。戦後再発見、返還され、イスラエル博物館に収蔵。そして今我々の目の前にある。確かに惹きつけられるユリィの作品は必見(「夜のポツダム広場」も撮影可能だが、実物を観てほしいため、敢えて載せないことにする)。来歴のドラマにも思いを馳せてみてはいかがだろう。
第4章「人物と静物」
展示の様子
本展の最後を飾る第4章は「人物と静物」。あわいピンク色の床、サテンの壁で装飾された空間は、中産階級の屋敷の一室に招かれたようだ。急成長する中産階級とともに、余暇とそれに伴う娯楽が都市生活の中で重要性を増していき、印象派とポスト印象派の画家たちは、人々の日常生活の何気ない瞬間を捉えようとした。
ピエール=オーギュスト・ルノワール「花瓶にいけられた薔薇」 1880年頃
ルノワールは人物を得意とした画家だが、静物画も併せて展示されている。静物画は西洋絵画の中で最も低くランク付けされてきたジャンルだった。しかし印象派の画家たちは伝統を打破し、改める手段として静物画に挑戦していった。さて、一列に並べられた3点のルノワールの人物画を見比べてみると、時代やモデルにより描き方が変わっているのがわかる。仲の良い親友を描いた「レストランゲの肖像」と、上流階級の友人の妻を描いた「マダム・ポーランの肖像」では、細部の描き込み方が全く異なる。
エドゥアール・ヴュイヤール「長椅子に座るミシア」 1990年頃
本展ラストはナビ派の画家で締め括られる。ナビ派はヘブライ語で「預言者」の意味。ブルターニュ地方のポン・タヴェン村で生まれた、ゴーガンを中心とする画家の集まりを言う。ピエール・ボナールやエミール・ベルナール、エドゥアール・ヴュイヤールらがゴーガンの影響を受け、平坦な色面を組みわせて、そこに象徴的かつ神秘的な意味合いを込めた。
自然の光から始まり、都市の光、工場の煙に溶けあう光、室内のやわらかい光、人間に差し込む光。様々な光の見解と継承を鑑賞できる『光の系譜』展。
今回はコロナの影響で、イスラエルからクーリエ(美術品輸送業務に携わる学芸員)が来日できず、リモートで展示設営を行なった。苦労もありながらの作業となったが、クーリエからのメールの最後に「Lights gives life.」という言葉が綴られていたそうだ。浅川は「光が生命をもたらす、息吹を吹き込むという意味だと思います。本当に困難な時代に、はるかイスラエルから光の贈り物が私たちに届けられたんだと実感した瞬間でした。感染対策を取りながらひとりでも多くの方に光を感じていただきたいと思っております」と感慨深げに語った。
東京展では売り切れ続出のグッズも
ミュージアムショップ
ミュージアムショップでは、図録をはじめクリアファイル、マグネット、Tシャツなど、多様なオリジナルグッズが購入できる。東京展では、レッサー・ユリィのポストカードは早々に完売したというから、ぜひこの機会にゲットしておきたい。またイスラエル発ライフスタイルブランドLalineが、本展をイメージしたハンドクリアジェルとハンドクリームの特別セット「バイオレットアンバー」セット(税込1,675円)を販売。
ミュージアムショップ
ほかにも、展示室で楽しめるクロネコキューブ制作の謎解きキット(税込1,300円、非売品の作品解説ブックレット付き)も美術館
ミュージアムショップ
『イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜ーモネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン』は、1月28日(金)から4月3日(日)まで、大阪あべのハルカス美術館にて開催中。印象派の画家が見たフランスの人々の生活と、継承されゆく光の描き方をぜひその目で感じてほしい。
取材・文・撮影=ERI KUBOTA
展覧会情報
会場:あべのハルカス美術館 〒545-6016大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43あべのハルカス16階
開館時間:火~金/10:00〜20:00、月土日祝/10:00〜18:00(入館は閉館30分前まで)
休館日:1月31日、2月7日の各月曜日
観覧料:一般1,900円/大高生1,100円/中小生500円
※料金は全て税込。
※障がい者手帳をお持ちの方は、美術館
※特別展「メトロポリタン美術館展 ー西洋絵画の500年ー」(11月13日(土)~2022年1月16日(日)大阪市立美術館)の半券提示で当日券から100円引き(1人につき1回限り有効、他の割引券との併用不可)
主催:あべのハルカス美術館、イスラエル博物館(エルサレム)、産経新聞社、関西テレビ放送
後援:イスラエル大使館
協賛:野崎印刷紙業
展覧会URL:https://www.ktv.jp/event/insyouha/