大阪中之島美術館がついに開館『Hello! Super Collection 超コレクション展 ―99のものがたり―』から新たな歴史を刻む
大阪中之島美術館
『Hello! Super Collection 超コレクション展 ―99のものがたり―』2022.2.2(WED)〜3.21(MON)大阪中之島美術館
2022年2月2日(水)、水都大阪に、いよいよ大阪中之島美術館が開館する。美術館構想から約40年、準備室開設から約30年。開館のこの日まで、紆余曲折と長い月日をかけて準備されてきた。柿落としとなる開館記念展は『Hello! Super Collection 超コレクション展 ―99のものがたり―』。大阪中之島美術館所蔵の6,000点を超えるコレクションから、選りすぐりの400点(選りすぐりでもこの点数!)が展示される。1月28日(金)、一般公開に先駆けて1階ホールで行われたプレス内覧会には、大阪の新たなシンボルかつランドマークとなる美術館のお披露目に、多くの報道陣や関係者が駆けつけた。今回SPICEでは、このプレス内覧会の模様をお届けする。
構想から40年、コツコツ収集を続け成長したコレクション
大阪中之島美術館
まずは、大阪中之島美術館の菅谷富夫館長が挨拶。約半年前には、建物完成の内覧会が行われ、そこから美術館として機能するよう準備を整えてきた。菅谷は「今日こういう形で皆さんに活動する美術館としてご披露できるので、関係者スタッフ一同、大変幸せに思っております。幸せという情緒的な言葉ですけれども、大変長くかかった美術館ですので、今日から美術館として機能していくんだなと思うと、ついそういう言葉も出てきてしまいます」と、感慨深そうに語った。
大阪中之島美術館
大阪中之島美術館の建設計画は、大阪の実業家で美術コレクター山本發次郎(はつじろう)の遺族が1983年大阪市に作品を寄贈したことに端を発した。1990年から計画的に作品を収集しはじめ、寄贈や購入により、洋画、日本画、海外の近代絵画、現代美術、版画、写真、彫刻、デザインなど、近代・現代の美術作品のコレクション6,000点以上が揃った。
大阪中之島美術館館長 菅谷富夫
菅谷は収集の際の苦労や経緯も口にしながら、開館展について「多くの市民の皆様に、こういう建物ができました、30年かけてこういうコレクションを公開できるところまで収集ができましたと、まず報告しなければいけないと思っております。少しでも多くの作品を展示したい。ご報告をしたいという気持ちが先に立っております」と意欲を見せた。400点もの展示数のため、2時間でも観終われないボリュームだそうで、「ある意味では覚悟していただきたいというふうに思っております」と笑顔も見せた。
大阪中之島美術館
続いて、本展の構成を担当した大阪中之島美術館主任学芸員の高柳有紀子と平井直子から展覧会の説明がなされた。ここからは実際の展示室の写真を交えながら紹介しよう。
展示会場 入り口
本展は4階と5階の展示室をフルに使って展示されている。カウンターからミュージアムショップまで、フロア全体を回遊できるパッサージュ空間の2階からエスカレーターに乗り、4階に到着すると展示会場の入り口がある。高天井で、エスカレーターから階下を覗くと、開放感のある気持ちの良い空間が広がっていた。
音声ガイド貸し出し口
音声ガイドを担当するのは、女優で創作あーちすとの、のん。こちらもぜひ借りて展示室を巡ってほしい。
第1章 Hello! Super Collectors
山本發次郎コレクション
第1章は、大阪中之島美術館の収集の歴史をたどる「Hello! Super Collectors」。新設の美術館ながら、収集・展覧会活動において長い歴史のある本館。優れたコレクションはもちろん、これまで積み重ねてきた時間の長さや結果が感じられる章となっている。
山本發次郎コレクション
最初に目に入ってくるのは、山本發次郎コレクションの佐伯祐三の絵画。代表作の「郵便配達夫」をはじめ、佐伯祐三の画業が見渡せる8点が並ぶ。
山本發次郎コレクション
さらに、山本發次郎がコレクションしていた墨跡、アジアの染色作品も併せて展示される。彼の独自の審美眼が感じられる絶好の機会となる。
田中徳松コレクション
続いては日新製鋼(現・日本製鋼)の代表を務めた田中徳松が、事業の傍ら個人で収集したコレクションから、上村松園や村上華岳らの近代日本画や、高村光雲の彫刻など優れた作品が展示されている。
高畠アートコレクション
画廊を経営していた高畠良朋が、佐伯祐三作品が寄贈されたことに感銘を受け、佐伯の周辺にいたエコール・ド・パリ(パリ派)の画家の作品を寄贈した高畠アートコレクションのコーナーでは、モーリス・ユトリロやモイズ・キスリング、マリー・ローランサンなど、パリ派の代表的作家の作品を展示。ここまでが、美術館構想が始まって数年の間に寄贈されたコレクションだ。
近代・現代美術のコーナー
「本格的な収集活動が始まるのは1990年の準備室以降。収集方針が決まり、専門学芸員が配置されたことにより、購入をはじめ計画的な作品の収集が始まりました。その中で大阪にゆかりのある近代現代美術は当館のコレクションの特徴の一つとなっています」と学芸員の高柳。コレクションを展覧会活動などを通じて紹介することにより、研究が進み、作家が発掘され、遺族などから声がかかり、作品が寄贈される循環によって、コレクションが成長した。ここからは、大阪と関わりのある近代・現代美術が、絵画、写真、版画、戦後美術というジャンル別に展示される。
大阪を代表する作家、小出楢重の「裸女の3」「菊花」をはじめ、北野恒富、竹内栖鳳、池田遙邨など、超重要作家らの作品が続々と登場。また、近代の大阪で活躍した女性日本画家3名の作品も展示。前述した展覧会と研究の良い循環により、評価が高まるという結果を生み出した。
中之島や道頓堀など、当時の大阪の風景を描いた作品もあり、美術に詳しくないくても大阪に馴染みがあれば楽しむことができる展示内容だ。
写真や版画、立体作品も鮮やかに迫り、新たな体験を促してくれる。
そして第1章の最後にある黒い部屋。これは展示のために黒くしたわけでなく、建築として黒い壁が設置されている。具体美術協会は、戦後の日本において、最も重要な前衛美術グループ。彼らはかつて中之島にあった私設展示施設「グタイピナコテカ」を拠点に活動していた。その施設の一部の壁が黒かったことにちなんでいる。
このエリアでは、具体美術協会のリーダー吉原治良と、同時代に活躍した今井俊満の作品を展示。本館では吉原の作品を約800点、今井の作品を約120点所有しており、国内有数の作家コレクションとなる。黒い壁に映えるダイナミックで躍動感のある巨大作品群からは、底知れぬパワーが感じとれる。
大阪中之島美術館
第1章を抜けると、中之島の景色が間近にのぞめるフロアがある。
大阪中之島美術館
さらに、過去本館が主催した展覧会のフライヤーコレクションが壁に貼り出されており、ここからも歴史を感じることができる。
第2章 Hello! Super Stars
大阪中之島美術館
第2章からは5階の展示室へ。
ロビーにはバリー・フラナガンの「ボウラー」が展示されている。ちなみに、ここからも堂島川が一望でき、中之島が水都であることを感じさせられる。
ところで本展の作品のキャプションの横には「ものがたり〇〇」と数字が振られており、特設サイトから作品にまつわる99のものがたりを見ることができる。99は「未完」。「100個目のものがたり」で展覧会は完成するという意味を込め、100個目のものがたりを募集しているそうなので、気になる人はサイトをチェックしてみよう。
第2章「Hello! Super Stars」は、特に注目の作家の中から25作家を選りすぐり、目立つ作品を展示した章。展示室を入ってすぐに出会うことができるモディリアーニの「髪をほどいた横たわる裸婦」は、海外作家の購入第1号で、1989年に購入したもの。これを皮切りに、近代絵画や戦後美術の代表的な作家の代表的な作品を計画的に購入してきた。
「美術館の核はコレクションである」という考えのもとで、1990年代に計画的に購入された草間彌生や サルバドール・ダリ、ルネ・マグリット、ジャン=ミシェル・バスキア、ゲルハルト・リヒター、そして現在も大阪を代表して活躍する森村泰昌ら、錚々たる作家たちの珠玉の作品が堂々と鎮座する。また、アルベルト・ジャコメッティやジャン・アルプといった非常に重要な彫刻作品が揃っている。
作家を絞るのが難しかったと述べる高柳は「非常に悩んでセレクトしましたが、国内はもとより海外でもたくさん貸し出し、ご覧いただいてきた作品を中心に選びました。ここが彼らのホームなんです。私たちの美術館で、ようやく彼らの作品を紹介できますという気持ちを込めて展示いたしました」と誇りをもって話してくれた。
第3章 Hello! Super Visions
第3章は、視覚世界の変容と芸術観の変化という切り口から、デザインコレクションを中心に紹介している。1992年から大阪市が「生活の中の芸術」が大阪市のコレクションにふさわしいという方針を掲げ、コレクションを始めてきた家具作品やプロダクトデザイン作品をはじめ、2010年末に休館した天保山のサントリーミュージアムが所蔵していたサントリーポスターコレクション約18,000点を含むグラフィック作品が一堂に会している。
前職の美術館でもグラフィック作品を担当していたという学芸員の平井は、「展示数は非常にたくさんあります。気持ちいっぱい盛り盛りに出しておりますので、自由にじっくりご鑑賞いただければ大変嬉しいです」と熱量高く語った。
グラフィック作品は複製芸術のため、「どこかで見たことがある!」という作品にも出会えるはず。第3章は3つの節にわかれている。第1節は「街角の芸術」。有名なアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックの「ムーラン・ルージュ・ラ・グーリュ」をはじめ、ピエール・ボナールやアルフォンス・ミュシャなど、グラフィックファンには馴染みの、そしてたまらない作品群ばかり。
家具やプロダクト作品も多く展示されており、天井から吊られた白い布に椅子のシルエットが映る演出は見もの。平井は「シルエットでご紹介したいなという気持ちは当初からありまして、バナーを吊って影がうまく出た時には、非常に嬉しい気持ちになったのが、本当につい数日前です」と語った。
第2節は「都市と複製の時代」。より産業化が進んだ時代に芸術家が模索して作ってきた形態を紹介する。バウハウスや、ヘリット・リートフェルトの家具、版画などがずらりと並ぶ様子は圧巻。有名な赤玉ポートワインの広告も見ることができる。
第3節は「ペルソナ/プルーラリズム」。田中一光や亀倉雄策、山名文夫、サヴィニャックといったグラフィックデザイナーのポスター、透明な椅子の中に美しい薔薇が閉じ込められた「ミス・ブランチ」をはじめとする倉俣史朗の家具、そして本館の貴重なコレクションの中核を担うアルヴァ・アアルトの椅子など、カラフルで多国籍な作品を多数目にすることができる。
ポスター類は撮影不可で現地でしか見ることができないため、ぜひ足を運んでほしい。豊かな色彩表現に刺激をもらうこと間違いなし。
本当に2時間では時間が足りない。好きなジャンルをゆっくり見るでもよし、日をわけて何度も訪れるのもよし。2階から続く芝生広場と4階には、ヤノベケンジの巨大立体作品が堂々と立つ。
ミュージアムショップdot to dot today
展覧会出口の5階と、2階にはテナントとして入居するミュージアムショップdot to dot todayも。お土産にミュージアムグッズも購入して帰りたい。
大阪中之島美術館
菅谷は「この美術館は色々な使い方ができる。色々な方に様々な角度から楽しんでいただける運営や企画も仕込んでおります。決して終着点ではなく、ここへ来て楽しんでいただいて、またそれぞれの現場に戻っていただく、そういう通過の仕方をしていただきたい。多くの皆様に使っていただけることをお待ちしております」と述べていたように、来るたびに違った表情を見せてくれる美術館だと感じた。今後、続々と展覧会が開催される。ぜひ、一度は大阪中之島美術館に訪れてほしい。
取材・文・撮影=ERI KUBOTA
イベント情報
場所:大阪中之島美術館 4、5階展示室
公式サイト:https://nakka-art.jp
開館時間:10時~17時(入場は16時30分まで)
休館日:月曜日、3月21日(月)を除く。
観覧料:一般1,500円(1,300円)高大生1,100円(900円)〔日時指定事前予約《優先》制〕
( )内は20名以上の団体料金(いずれも税込)