オペラシアターこんにゃく座創立50周年記念公演『あん』──作曲家・寺嶋陸也、歌役者である島田大翼、青木美佐子に聞く

2022.2.7
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オペラシアターこんにゃく座創立50周年記念公演『あん』


オペラシアターこんにゃく座の創立50周年記念公演第3弾は、ドリアン助川原作の『あん』を、原作者自らの台本によりオペラにする(2022年2月10日〜20日 俳優座劇場)。現代の日本を舞台に、いまの人が登場する作品をオペラ化することは、こんにゃく座にとっても初めての試みである。攻めの姿勢で創立50周年記念公演に挑戦する、作曲家の寺嶋陸也と、こんにゃく座の歌役者である島田大翼青木美佐子に意気込みを聞いた。
 

■現代の日本人が登場する新作オペラ

──どら焼き屋を舞台にした小説『あん』をオペラ化しようと考えた理由を聞かせてください。

寺嶋 まず、ドリアン助川さんに台本を書いていただきたい、ということになったのです。ドリアンさんの作品には小説のほか絵本もあり、題材としてはさまざまな可能性がありました。

──エッセイやノンフィクションもありますね。

寺嶋 詩も書いていらっしゃる。そういうなかで、原作もドリアンさん自身の作品からということで、いちばんよく知られている『あん』に決まりました。これはドリアンさんからの提案だったんです。

──ドリアンさんは、常に弱者の視点から、自分が体験するようなかたちで取材をして、作品にまとめることを続けていらっしゃる。しかし、その姿勢とオペラがどうつながるんだろうと思いながら台本を読んでいくと、主人公が「声を聞く」とか「音を聞く」ことと深く結びついている作品なので、オペラにぴったりな作品だという気がしました。

寺嶋 そうですね。ただ、これは音楽監督の萩京子さんが心配しているんですが、これまでこんにゃく座では現代の日本人が出てくるオペラをやったことがないんです。よく考えてみると、オペラというもので、日本に限らず、そのオペラが作られた時代の現代人が出てくるものは、ほとんど例がないんですよ。

──これまでのこんにゃく座の舞台では『金色夜叉』が時代的には近い作品になりますか?

寺嶋 そうはいっても、やっぱり現代ではないので、ぜんぜんちがいます。ある程度、距離のある人を演じるのがオペラの基本というか、そういうふうに発達してきたものでもあるんです。このオペラは現代の日本人が出てくるオペラをどう納得して見てもらえるか、挑戦的な課題かもしれません。

──ということは、攻めの姿勢で、創立50周年記念公演3作目に挑まれるんですね。

オペラシアターこんにゃく座『あん』作曲家の寺嶋陸也。


 

■おいしいあんを役作りの出発点として

──『あん』は河瀬直美監督によって映画化され、樹木希林さんが徳江役を演じられました。その徳江を演じるにあたって準備されたことはありますか。

青木 ハンセン病については、宮崎駿監督の『もののけ姫』に出てくるタタラ場の人々ぐらいの印象しかなかったので、国立ハンセン病資料館に行ったり、多磨全生園を歩かせてもらったりして、まず、知らなくちゃいけないと思って動きました。本当のところまではなかなか理解はできないと思うんですが、なるべく近くまで心を寄せられたらいいなと。

 『あん』の物語自体は、徳江さんが長い苦労の人生の後、自分の生きている、人の生きている、みんなの生きている意味を自分なりに考えながら、死にたいと思ったこともあったけれど、丁寧に丁寧に生きてきて、それがこの幸せな1年間につながる。だから、可哀相とかではなく、粒あんを時間をかけて丁寧に煮て、丁寧に作って、最後にはおいしいあんこができあがるみたいに、そのおいしいあんこの部分を今回演じてみたい。舞台では、徳江さんは社会に出て働けたし、ワカナちゃんや店長さんといった自分の子供くらいの人たちとも交流できた。その幸せな1年間を見てもらう、そういうことを大事にしたいと思って稽古をしています。

──その徳江さんから声をかけられるどら焼き店の店長・千太郎を演じる島田さんはどうですか。千太郎もいろいろな過去がある人物という設定です。

島田 千太郎は和菓子職人なんですけど、大学の頃、ぼくもパティシエになろうかなと本気で思っていた時期がありました。結局、それは断念したんですが、甘いものを作るのは好きで……

──甘党ですか?

島田 まあ、そうですね。朝昼は甘いものしか食べないから、菓子パンで生きてるみたいな感じです(笑)。いま、ずっと家であんこ作っているんですけど…… 

──やっぱり、実際に作ってみている。

島田 そうです。ただし、これは役作りとかではないです。舞台をやっていると影響されてしまって、たとえば『金色夜叉』に鶏鍋屋のシーンがあったんですが、その時期は鶏鍋ばかり作っていました。いまはあんこの話をずっとしてるから、あんこが食べたいなと思って。お正月のあいだは割とあんこを売っていたから、市販されているものを食べていたんですけど、やっぱり作った方がおいしいかなと思って。それで、電話で祖母に作りかたを教えてもらい、夜な夜なあんこを炊いて、食べて暮らしています。

オペラシアターこんにゃく座『あん』歌役者の青木美佐子。


 

■人が生きることにどういう意味があるのか

──徳江さんがあんを作るときに、小豆に声をかけて、小豆の声を聞こうとするシーンがすごく印象的でした。その行為と音楽がうまく重なったら面白いんじゃないかと思いながら読み進めたんですが、『あん』を作曲されるうえで、重視されたのはどんなことですか。

寺嶋 あまり「聞く」という言葉を特別にクローズアップしようとは考えませんでした。それよりも人が生きるということにどういう意味があるのか。今回の台本では、そこがすごく重要になってくるんです。人だけではなく、人も含めたあらゆる世界が、いろんな関係で成り立っている。そのあたりをいちばん考えて、作曲しました。

──小豆だけではなく、徳江さんは自然の音にも敏感で、月の声とか、風の音とか、樹々のざわめきみたいなものにも耳をすませて、その声を聞こうとするところがありますね。

寺嶋 何かの声を聞くということは、人が生きるということとつながっているのです。

島田 ぼくは「聞く」というのはキャッチする感覚ではないかと思っていて……

──なるほど。受けとめる力ですね。

島田 先日の夜、たまたまテレビで、全盲の方が美術館に通っているという特集をやっていたので見ていたんです。その方は付き添いの人といっしょに行き、付き添いの人からそこに何が描かれているかを言葉で教えてもらうんです。全盲の方はそれを聞くことで作品を楽しむことができるんですが、付き添いの人は、いつもとちがう見方ができるから楽しいと言っていて、それが面白いなと思って。

 だから、絵を見るときにキャッチする感覚は、ぼくは見えてる分だけ少ないということはあるかもしれない。受けとめるという方向にベクトルを使って生きるということは、見えたり聞こえたりする分だけ、しないように思うから。全部見えたり聞こえたりしているからこそ、見えないものとか聞こえないものがあるのかもしれないと思って。

──そういうやりとりが、新しい発見につながるのかもしれないですね。他者と関わることで、自分とは別の視点を獲得できる。それは『あん』にも言えることかもしれない。

オペラシアターこんにゃく座『あん』歌役者の島田大翼。


 

■稽古していくうちに気づいたこと

──実際に稽古しているうちに、気づいたことがありましたら教えてください。

青木 いまさらなんですけど、ドリアンさんの原作にあるものなのか、上村さん演出によるものなのか、どちらも「関係」をすごく大事にしていますよね。もちろん演技をするんだから、関係を大事にしなければいけないんですが、稽古をしながらそのことを改めて再発見しています。芝居、オペラを作っていくのは、相手とはもちろん、音楽とかすべてのものとの関係で成り立っていることを再確認しながら取り組んでいます。いまのお話でいろんなところがつながった感じです。

──島田さんはいかがですか。

島田 ぼくは音楽がなかなか大変だなあと。こんにゃく座でもう16年ぐらいやってるんですけど、寺嶋さんの曲を歌うのが初めてなんです。聴いていると変な音は書かれていないのに、曲がなかなか覚えられない。寺嶋さんの曲は、ぼくが思っている和音とずれてる感じがして、階名でとれないんですよ。そのために自分が歌っている音と、鳴っているピアノの音とが合わないように感じて、そのことに苦しんでいます。

青木 わたしも最初のうちはなかなか音がとりづらかったし、譜面の書きかたも作曲家によってちがうから馴染めなかったんですが、いまはすごい楽しくて。自分で音とりしていて、音とりした瞬間にすごい好きだと思ったのは、ご本人を目の前にして言ってしまうんですが、2歳で亡くなった子供のくだりで、「それはきっと、その子なりの感じかたで」というところです。それからは毎日楽しくやってます。

寺嶋 そう思っていただければうれしいです。こんにゃく座はずっと林光さんと萩京子さんの曲を中心にやってきているので、作風が違うわたしの曲に出演者がちょっと戸惑ったりすることはあるだろうと思います。いままで上演されたわたしの作品もいくつかありますが、それらに出ていなかった歌役者もいますから、まあ、それなりに苦労をおかけするだろうなとは思っていました。

──徳江さんと店長・千太郎のように、これまで接点がなかった人たちが出会い、違和感を感じながらもいろいろ共同作業していくうちに、新たに見えてくるものが出てくるといいですね。

オペラシアターこんにゃく座『あん』稽古場風景。 撮影/前澤秀登


 

■『あん』と桜について

──こんにゃく座のホームページに「どら焼きいかがですか♪」という四重唱がアップされているんですが、これは最初の場面ですか、それとも最後の場面ですか。

寺嶋 実際には、あの曲が最初に出てきて、途中にも出てきて、最後にも出てくるんですが、最後に出てくるときには、形がちょっと変わるんです、最初とは。

──それも楽しみですね。

寺嶋 最初に出てくるときはあんまりおいしくないように書いてある(笑)。ところが、プロモーション用のビデオですし、実際にどら焼きが映ってるもんですから、それをおいしくなさそうに見せるわけにはいきませんし。

──大きな平鍋で、小豆を煮ていきますよね。

寺嶋 そうそう。『あん』はオペラとしてはおいしいものですから、ぜひ見にきてくださいという、まあ、そんな感じです。

島田 ここの場面は「どら焼きいかがですか♪」というメロディーに、「さくらさくら♪」の音をモチーフに採り入れて、それを展開するように寺嶋さんが作曲されているなと思っています。「どら焼きいかがですか」の「ですか」という音のなかに、「さくら」の音が重ねられている。どの時点でどう発想して書いてるのかと思うんですけれど、すごい。

──「ドラ焼きいかがですか♪」という音のなかに「さくら」が込められている。それが塩味かなにかはわからないけれども、おそらく、千太郎が作るどら焼きのなかに、徳江さんの記憶が入っていくことを予告しているような……。

寺嶋 今回、上村さんもおっしゃってたんですけど、桜も重要なテーマというか、物語の背景を支えるものとして登場するんですね。ここで起きることをずっと見ている存在でもあるし、徳江の分身であろうかと思います。

【動画】オペラシアターこんにゃく座創立50周年記念公演『あん』PV


 

■お客さんへのメッセージ

──では、最後にお客さんに向けて、ひと言ずついただけますか。まず、店長・千太郎を演じる島田さんから。

島田 喜劇、悲劇、怒劇……怒劇は言わないけれど、このお芝居には、うれしいこと、悲しいこと、腹立つことなど、いろんな要素があるので、それをすべて楽しんでいただけたらとは思っています。ぼくが初めて寺嶋さんの曲を歌っていて、これまで聴いてるだけだったときには難解な印象があったんですけど、今回はもう1ページ目から楽しそうだなと思っていて、こういう音を書かれる方なんだというのが新鮮だったので、そう思って見にきていただけたらいなと思っています。

 これはオペラですけど、設定も現代だし、そのためにやりずらいこともあるんですが、難しくないので、来ていただけたらと思うんです。オペラじゃないとできない表現とか、最後の方の「小豆の声が聞こえる」という、どこから聞こえてくるかわからないような歌は、オペラだからできるんだと思って。きっとオペラだからこその楽しみかたができると思うんで、見に来ていただければと思っています。

──では、徳江を演じる青木さん、お願いします。

青木 お話自体、とても面白いお話なので、それを楽しむだけでも楽しいのに、音楽がとってもドラマチックで、聴くだけで想像力がかき立てられる。だから、絶対面白い舞台になるはずです。

──そのなかでも、いち推しの場面とか、ありますか。

青木 まだ稽古していないところで、ものすごい挑戦のところがあって、15分もある徳江さんの長いアリアがあるんです。それでテンポを変えたりとか、さくさく行くとか、いろいろ考えていたんですが、寺嶋さんから「ここはゆっくりと演奏してほしい」と言われたので、ここをどうやって歌っていくのかが楽しみになりました。これから稽古する場面なので、そこがいちばん聴いてほしいところだと言えるようになれるようになりたいなと思います。

──では、作曲家の寺嶋さん、お願いします。

寺嶋 こんにゃく座のオペラを見たことがない人には、やっぱり、こんにゃく座はこんなに面白いんだというのを、ぜひ見てもらいたいと思います。ひとりで歌うところや、ふたりで歌うところ、もっと大勢で歌うところとか、今回出てくる人たちのいろんな組み合わせの歌を作りましたので、アンサンブルとしての音楽を楽しんでほしいと思います。

 なにかひとつのテーマだけを強く主張するという作品ではなく、さまざまな世代やいろんな生活をしている人にとって、それぞれどこか引っかかる部分が必ずあると思います。これはドリアンさんの小説が、元々そういうふうに書かれていますし、オペラのなかでも、そのことを大切に作っていますので、楽しみにいらしていただければと思います。

取材・文/野中広樹

公演情報

オペラシアターこんにゃく座創立50周年記念公演『あん』
 

■会場:俳優座劇場
■日程:2022年2月10日(木)〜2月20日(日)
■原作・台本:ドリアン助川(ポプラ社刊『あん』より)
■作曲:寺嶋陸也
■演出:上村聡史
■出演:
◇どら組/髙野うるお、梅村博美、高岡由季、豊島理恵、相原智枝、西田玲子、小林ゆず子、金村慎太郎
◇春組/島田大翼、青木美佐子、飯野薫、山本伸子、花島春枝、沖まどか、熊谷みさと、泉篤史
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クラリネット:橋爪恵一 ピアノ:入川舜(2/10、2/11、2/13、2/16、2/18、2/19 11時)
クラリネット:草刈麻紀 ピアノ:五味貴秋(2/12、2/14、2/15、2/17、2/19 16時、2/20)

■助成:
文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)
独立行政法人日本芸術文化振興会
公益財団法人三菱UFJ信託芸術文化財団
■後援:一般社団法人未来の会議
■主催・制作:オペラシアターこんにゃく座 TEL.044-930-1720
■公式サイト:https://www.konnyakuza.com/