新国立劇場 2022/2023シーズン ラインアップ説明会レポート【演劇部門】~幕開けは3年越しの招聘公演『ガラスの動物園』
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新国立劇場 2022/2023シーズン ラインアップ説明会にて 小川絵梨子演劇芸術監督 (撮影:長澤直子)
新国立劇場の2022/2023シーズン演劇ラインアップ説明会が2022年3月1日(火)に開催され、小川絵梨子演劇芸術監督が登壇した。
(左から)小川絵梨子演劇芸術監督、大野和士オペラ芸術監督、吉田都舞踊芸術監督 (撮影:長澤直子)
小川芸術監督にとって任期5年目のシーズン幕開けは、3年越しの悲願となる海外招聘公演『ガラスの動物園』だ。フランスの国立オデオン劇場制作により2020年3月にワールドプレミアを迎えた作品で、テネシー・ウィリアムズによる名作を世界的な人気を誇る演出家、イヴォ・ヴァン・ホーヴェが演出、主演のアマンダ役にはフランスを代表する女優のイザベル・ユペールを迎えるなど日本でも話題を呼び、これまで2020/2021シーズン、2021/2022シーズンと2回連続でシーズンの幕開け作品として上演を予定していたが、いずれも新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受け、来日がかなわず公演中止となってしまった。
小川は「オデオン劇場側も、日本にはぜひ来たいと言ってくれていた。3年越しでなんとかこの作品をお届けできると信じている。海外への渡航が簡単ではなくなってしまった今、海外の生の素晴らしい舞台を楽しんでいただきたい」と、芸術監督就任以来初となる海外招聘公演への思いを述べた。
(撮影:長澤直子)
2022年10月には、新国立劇場開場25周年記念公演として『レオポルトシュタット』が上演される。これまでも日本で多くの作品が上演されているトム・ストッパードの、2020年1月にロンドン初演された最新作で今回が日本初演となる。激動のオーストリアに生きたあるユダヤ人一族の一大叙事詩となる本作の翻訳は、同じくストッパードの超大作である『コースト・オブ・ユートピア』の翻訳を手掛けた広田敦郎、演出はこれまで数々のストッパード作品に演出・翻訳として携わってきた小川が手掛ける。50代で初めて自らのルーツがユダヤ人にあると知ったストッパード自身の出自をたどったような今作について小川は「ユダヤの迫害という繰り返される悲劇の中でも命を紡いできた、ある一家の歴史を紐解いていく物語となっている。ユダヤの話ではあるが、理不尽な苦しみの中で日々をたくましく生きていく家族の姿というのは、どの文化でも通じるものではないかと思う」と語った。
2022年11月、12月、2023年6月には「未来につなぐもの」シリーズ三部作が上演される。シリーズ三部作の作家・演出家ともに全員が30~40代で、いずれも現代の日本の劇作家が新作を書き下ろす。小川は「我々の世代が過去から何を引き継いで、そして何を未来に残していくことができるだろうか、ということを自分たちにも問いかけつつ、未来に少しでも貢献できるように、そして過去から何を学べるだろうかということをテーマにした作品になっている」とシリーズの意図を説明した。
新作Ⅰとして2022年11月に上演される『私の一ヶ月』は、2019年5月より英国ロンドンのロイヤルコート劇場と新国立劇場が協力して行ってきた劇作家ワークショップから生まれた須貝英による新作で、演出は小川が「私が芸術監督に就任して初めてのシーズン幕開け作品となった、2018年10月上演の『誤解』(作:アルベール・カミュ)の演出をしてくださった、敬愛している演出家」と厚い信頼を寄せる稲葉賀恵だ。
新作Ⅱとして2022年12月に上演される『夜明けの寄り鯨』は、昨年だけでも自身が主宰する演劇ユニット「iaku」での2作品に加え、パルコ・プロデュース『目頭を押さえた』や文学座に書き下ろした『ジャンガリアン』と計4作品が上演されるなど演劇界で熱い注目を集める劇作家・横山拓也による新作で、演出は「こつこつプロジェクト」第一期に参加していた大澤遊が手掛ける。小川は、横山と大澤をそれぞれ「非常に丁寧に心情をくみ上げる」と評し、2人のタッグから繊細で緻密な会話劇が生まれることが期待できそうだ。
新作Ⅲとして2023年6月に上演されるのは、劇団「□字ック」主宰、演出家、映画監督、俳優として幅広い活動を展開している山田佳奈による新作だ。小川は「女性の劇作家にもぜひ参加していただきたいと思ったことと、(山田が描く)取り残された孤独感といったものに興味があった」と山田を起用した理由を述べた。演出は、劇団俳優座所属で活躍の場を広げ続けている、新国立劇場初登場の眞鍋卓嗣が手掛ける。
2023年4~5月には、フルオーディション企画の第五弾『エンジェルス・イン・アメリカ』二部作が一挙上演される。小川は「20世紀で最も重要な戯曲の一つといわれている。80年代のニューヨークを舞台にしているが、人間が苦しみや理不尽さの中でどう進んでいくのか、それとも止まるのか、どの時代のどの世代であっても当事者であると考えさせられる、非常に普遍的な戯曲だと思う。今回上演できることを嬉しく思う」と作品への思いを述べた。全キャストは既に発表されており、演出にはフルオーディション企画第三弾『斬られの仙太』を手掛けた上村聡史を再び迎える。なお、新国立劇場で今作が上演されるのは今回が初となり、小田島創志による新訳上演となる。
2023年7月にはシーズンの最後を飾る作品として、長塚圭史の新作が上演される。長塚はこれまで新国立劇場において、『音のいない世界で』(2012)、『かがみのかなたはたなかのなかに』(2015、2017)、『イヌビト~犬人~』(2020)、と「こどももおとなも楽しめるシリーズ」として3作品を上演しており、これがシリーズ第四弾となる。
公演以外では、一年間を通して作品を育てていく「こつこつプロジェクトーディベロップメントー」と、一般の方々に向けてのワークショップや講演などを実施していく「ギャラリープロジェクト」も継続して行っていくことを発表した。
質疑応答で、現在のウクライナ情勢の中、芸術と社会の在り方についての思いを尋ねられた小川は「現在のこの状況は非常にショックであるのと同時に、ロシア国内でもSNS等で戦争反対の声を上げている人たちがいて、一つ一つは小さいかもしれないが、その声に寄り添いたいし、その思いを芸術作品という形にして皆さんと共有していくことが、私たちの仕事なのではないかなと思っている」と述べた。
(撮影:長澤直子)
今回のラインアップにおいてどのような観客を意識したかを問われると、小川は「例えば『ガラスの動物園』は主演がイザベル・ユペールさんということで、映画好きの方や、これまで劇場に足を運んだことがない層にも興味を持ってもらえるのではないかと思っている。「未来につなぐもの」シリーズは作家と演出家が30~40代なので、同世代やそれより若い世代にもぜひ見てもらいたい。長塚さんの新作は、未来のお客様でもある子どもたちに演劇の楽しさを頭ではなく感覚で知ってもらいたい、身近に感じてもらいたいと思って続けているシリーズ。毎夏行っている中高生のためのワークショップでは我々も学ぶことが多く、体験や知識を共有できる場として続けていければと思っている」と答えた。
(左から)小川絵梨子演劇芸術監督、大野和士オペラ芸術監督、吉田都舞踊芸術監督 (撮影:長澤直子)
過去から何を学び、未来に何を残すのか。それは小川芸術監督にとって就任時からのテーマの一つだと言っていいだろう。若い世代を積極的に起用することや、中高生のワークショップを継続することへの強い思いなど、次世代を見据えた姿勢は次シーズンも変わらないことが伝わってきた。それに加え、今回はウクライナ侵攻の情勢も大きく影響しているのであろうが、『レオポルトシュタット』や『エンジェルス・イン・アメリカ』について語るとき、「理不尽な苦しみの中で、それでも生きる人々を描いている」という説明には特に熱い思いが込められていると感じた。そのあたりの小川の思いが、これから創作されていく新作公演にも大なり小なり反映されるのではないだろうか。舞台芸術がこの現実の中でどのように社会と共存していくのか、演劇だから届けられる思いや声の在り方に期待したいと思わせてくれる説明会だった。
(左から)小川絵梨子演劇芸術監督、大野和士オペラ芸術監督、吉田都舞踊芸術監督 (撮影:長澤直子)
取材・文=久田絢子
公演情報
『ガラスの動物園』 [海外招聘公演]
■会場:新国立劇場 中劇場
■日程:2022年9-10月
■作:テネシー・ウィリアムズ
■演出:イヴォ・ヴァン・ホーヴェ
■制作:国立オデオン劇場
■出演:イザベル・ユペール、ジャスティーン・バチェレ、シリル・グエイ、アントワン・レナーツ
新国立劇場 開場25周年記念公演
『レオポルトシュタット』[日本初演]
■会場:新国立劇場 中劇場
■日程:2022年10月
■作:トム・ストッパード
■出演:
浜中文一、音月 桂、
村川絵梨、木村 了、土屋佑壱、岡本 玲、那須佐代子 ほか
『私の一ヶ月』
■会場:新国立劇場 小劇場
■日程:2022年11月
■作:須貝英
■演出:稲葉賀恵
『夜明けの寄り鯨』
■会場:新国立劇場 小劇場
■日程:2022年12月
■作:横山拓也
フルオーディション Voi.5
『エンジェルス・イン・アメリカ』
第一部「ミレニアム迫る」 / 第二部「ペレストロイカ」
■会場:新国立劇場 小劇場
■日程:2023年4-5月
■作:トニー・クシュナー
■翻訳:小田島創志
■演出:上村聡史
■出演:浅野雅博 岩永達也 長村航希 坂本慶介 鈴木 杏 那須佐代子 水 夏希 山西 惇
【未来につなぐもの】新作Ⅲ
山田佳奈新作
■会場:新国立劇場 小劇場
■日程:2023年6月
■作:山田佳奈
■会場:新国立劇場 小劇場
■日程:2023年7月
■作・演出:長塚圭史