内博貴主演『浪漫舞台 新装『走れメロス』 ~小説 太宰 治~』大阪から開幕、舞台初共演の内に内海光司「ついていくだけ」
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『浪漫舞台 新装『走れメロス』〜 小説 太宰 治〜』 (C)浪漫舞台「走れメロス」公演実行委員会2022/撮影:大西二士男
3月5日(土)、6日(日)に、大阪・森ノ宮ピロティホールで『浪漫舞台 新装『走れメロス』 ~小説 太宰 治~』が上演される。太宰治の親友で作家の檀一雄による回想録『小説 太宰 治』をベースに、舞台作品として書き下ろした本公演。2020年上演の前作以来、内博貴が再び太宰治役に挑む。また、小山初代役と太田静子役の二役を佐藤江梨子、山崎富栄役を北原里英、津島美知子役を原史奈、檀一雄役を生島勇輝、山崎晴弘役を下村青、そして太宰が信頼を寄せる小説家の井伏鱒二役を内海光司が演じる。内と内海は舞台作品では初共演、二人のやり取りなども注目だ。初日を前日に控えた3月4日(金)に取材会及び公開ゲネプロが行われ、内をはじめ七人のキャストが開幕直前の心境や見どころなどを語った。
内博貴 (C)浪漫舞台「走れメロス」公演実行委員会2022/撮影:大西二士男
●青年期から晩年までを演じる内「色気を届けたい」●
二度目の主演となる内は、「前回とはキャストが大幅に変わりまして、また新しい作品になっていると思います。前回よりもブラッシュアップされた作品になっていると思いますので、最後まで精一杯頑張りたいと思います」と意気込みを語る。
佐藤江梨子 (C)浪漫舞台「走れメロス」公演実行委員会2022/撮影:大西二士男
子どものころから太宰治が大好きという佐藤は、本作は「再演のつもり」という。「一度、『斜陽』という映画でかず子役を演じたので、今回の太田静子さん役は、私の中では「再演や!」と思ってやっています(笑)」。また、内との共演も縁だと話す。「私は織田作之助さんもすごく好きで、『秋深き』と『競馬』を合わせた作品に出させてもらったのですが、内さんも織田作之助さんをモチーフにした舞台に出演されていると聞いて、ご縁だと思いました。内さんが本当に素晴らしくて、毎日感動しています」と声を弾ませた。
北原里英 (C)浪漫舞台「走れメロス」公演実行委員会2022/撮影:大西二士男
山崎富栄役の北原は「今回の舞台は人生の先輩が多いといいますか、お芝居の上手な方、落ち着いた雰囲気の大人の方が多いので、たくさん学ぶことがありました。映像も駆使しているので、いろんなところにある仕掛けも楽しめる舞台だと思います」と言い、隅々まで観てほしいといざなう。
津島美知子役の原は、マスクをしながらの稽古になかなか慣れなかったと振り返りながら、初日を目前にし「本当に素晴らしい皆様とお芝居ができて。佐藤江梨子ちゃんも長いお付き合いなのですが、久々に再会して、お芝居ができることがとっても楽しいです」と笑顔を見せた。
下村青 (C)浪漫舞台「走れメロス」公演実行委員会2022/撮影:大西二士男
山崎晴弘役の下村は「僕の役は、この作品の中では唯一の父親役です。太宰と関わった女性たちにもやはり親や家族があって、苦しみや葛藤があって。それを乗り越え、また新しい人生に向かう姿を観てほしい」と語った。
檀一雄役の生島は「原作の『小説 太宰 治』を書いた檀一雄という重要な役をやらせていただきます。檀から見た太宰治さんということで、僕はストリーテラー的な部分もあると思うので、お客様にきちんと太宰の人生を伝えたいと思います」と気合を入れる。
内海光司 (C)浪漫舞台「走れメロス」公演実行委員会2022/撮影:大西二士男
井伏鱒二役の内海光司は第一声に「本日は僕の婚約発表記者会見にお越しくださいまして、ありがとうございます!」との冗談で周囲を和ませる。改めて「和気あいあいとやらせてもらっています。よろしくお願いします!」と声に力を込めた。
劇中、着流し姿が麗しい内。四人の女性との恋模様も描いているが、「自分に色気が出ているかわからないですが、皆様にお届けできたらいいなと思います」と控えめだ。
原史奈 (C)浪漫舞台「走れメロス」公演実行委員会2022/撮影:大西二士男
そんな内に対して女性陣は次のように話す。佐藤は「稽古中は内さんもずっとマスクをしていたのですが、マスクを取った瞬間に目がハートになりすぎて……台詞を言うのを忘れていました」と明かす。北原も「内さんは太宰の若い頃から晩年までを演じられるのですが、どんどん渋くなっていくんです。私は後半の太宰と出会う役なので、大人の色気が一番出ている、いい状態の内さんとからませていただけるので、とても役得だと思っております」と続ける。そして原も「私は太宰の妻の役ですけれども、太宰は二人の愛人を作ってしまうということで、それだけ内さんの色気もありますし、みんなが(気持ちを)持っていかれちゃうという感じで。妻としてはちょっと複雑な気持ちではあるのですが……(笑)」と心境を吐露した。
劇中、童謡や昭和歌謡などを元劇団四季の下村が歌唱する。「太宰さんが最も愛したと言われる『燦めく星座』には様々な歌詞がちりばめられていて、だからこそ太宰さんの心に響いたんだろうなと思っています。他にも何曲か歌わせていただきますが、ミュージカル風ではなく、劇の中の歌というふうにできたらいいなと思っています」と意気込んだ。
生島勇輝 (C)浪漫舞台「走れメロス」公演実行委員会2022/撮影:大西二士男
「『直木賞』つながり」とし『塞王の楯』で『直木賞』を受賞した作家の今村翔吾と対面する機会を得たという生島は、「文豪の方の、ものを生み出す手で握手してもらい、エネルギーをもらって、これで檀一雄という役が近くなるだろうなと思いました」と幸先のよいスタートを切った様子だった。
役作りの様子を尋ねられ「内君はすでに太宰を演じているので、稽古場でも一人で余裕をかましていました。僕らが稽古場で台本を一生懸命読んでいる横で、内君は一人で漫画読んでました!」と冗談を交える内海に「やめてください!!」と内の悲痛な叫びが響く。周囲が笑いに包まれる中「そんな内君についていくだけですね!」と内海、掛け合いも絶好調だ。
最後に「僕自身も森ノ宮ピロティホールでの上演は久々ですし、地元の大阪からスタートできることをすごく嬉しく思っていいます。短い期間ですが、お時間のある方はぜひいらしてほしいと思っています。お待ちしています」と内、息の合ったカンパニーで千穐楽まで駆け抜ける。
●丁寧に描かれる太宰を取り巻く友情や師弟関係と、太宰が愛した女性たち●
(C)浪漫舞台「走れメロス」公演実行委員会2022/撮影:大西二士男
続いて『浪漫舞台 新装『走れメロス』 ~小説 太宰 治~』のゲネプロの模様をレポート。物語は太宰治と山崎富栄が玉川上水で心中する場面から幕を開ける。季節は過ぎ、入水自殺から1年後、「太宰治を偲ぶ会へ」と場面が移る。太宰に思いをはせる井伏鱒二や檀一雄ら。その回想から、故郷の青森を飛び出し、初代とともに上京する太宰の半生が動き始める。
(C)浪漫舞台「走れメロス」公演実行委員会2022/撮影:大西二士男
青年時代から40歳までの太宰を演じた内。まだあどけなく、どことなく甘えたような顔を見せる青年から、様々な苦しみに直面し、苦悶の表情を浮かべる30代など、年齢によって様々な顔を見せる。物語の太宰治が年齢が変わると同時に、内もリアルタイムに変貌を遂げているようだ。
(C)浪漫舞台「走れメロス」公演実行委員会2022/撮影:大西二士男
そんな太宰に寄り添う女性たちは四者四様の個性と魅力を放つ。佐藤が扮する小山初代役は東京で多くの知識と経験を積むことで青森時代には持ち合わせていなかった強さをまとう。一方の太田静子は、ファンから妾へとポジションを変えると同時に、太宰を支える落ち着いた女性へと変貌。また、娘を授かり、太宰の名前の一文字を命名されたことで絶対的な信頼感を手に入れる。
(C)浪漫舞台「走れメロス」公演実行委員会2022/撮影:大西二士男
太宰が最期を共にした女性、山崎富栄を演じた北原は、覚悟を決めた女の色気を全身から放ち、津島美知子役の原史奈や佐藤と互角に「女の闘い」を繰り広げる。
(C)浪漫舞台「走れメロス」公演実行委員会2022/撮影:大西二士男
一方、原扮する本妻の津島美知子は、もっともけなげに太宰を支えた女性だろう。決して目立つ存在ではなかったが、絶対的な信頼感で太宰のみならず、彼を支えた多くの人々に安心感を与えていた。
(C)浪漫舞台「走れメロス」公演実行委員会2022/撮影:大西二士男
太宰を取り巻く友情や師弟関係も目が離せない。生島扮する檀一雄は、狂言回しとして確実に太宰の時間を動かしてゆく。
(C)浪漫舞台「走れメロス」公演実行委員会2022/撮影:大西二士男
内海扮する井伏鱒二は太宰にとって師匠であり、父親のような存在。常に彼を気にかけ、時に苦言を呈す場面があるも、基本的におちゃめな性格。太宰との掛け合いの場面では、内と内海の先輩・後輩の関係性も垣間見え、ざっくばらんなやり取りで笑いを誘った。
(C)浪漫舞台「走れメロス」公演実行委員会2022/撮影:大西二士男
そして、富栄の父・山崎晴弘役の下村は、歌でも彼の人生を美しく彩った。
太宰が初代と睡眠薬で自殺未遂を図る場面や、玉川上水に身を投げんとする場面も、息を飲むほど美しかった。太宰と初代の場面では、タマ伸也が奏でるギターが情念を掻き立てる。富栄とのラストシーンでは、二人を結んだ赤い帯がなんとも物悲しい。いずれも文楽や歌舞伎の道行きの場面を見ているようでもあった。
(C)浪漫舞台「走れメロス」公演実行委員会2022/撮影:大西二士男
本作は時代背景も興味深く、流行歌、社会情勢など時代、時代の日本の姿が浮かび上がる。太宰治という一人の男がどんな時代に、どんな人たちとその生涯を送ったのか。いつしか観客である私も彼の隣を歩いているような感覚を楽しめる舞台だった。
取材・文=Iwamoto.K