植木祥平出演・演出 長島一向一揆に関わった人々の生き様や想いを描く、舞台『みんな出ておいで~』稽古場レポート
-
ポスト -
シェア - 送る
舞台『みんな出ておいで~』 稽古場より
「SEVENSENSES produce 植木祥平演出」の企画第⼀弾である『みんな出ておいで~』。脚本はNHK連続テレビ小説(朝ドラ)をはじめとする様々なメディアで活躍する三谷昌登が手掛け、出演に加えて演出を植木祥平が担う。また、共演に生島勇輝、岡田優、大朏岳優、君沢ユウキ、髙野春樹、田島亮、七木奏音、山口貴也と、実力派が集結。
2024年3月5日(火)の開幕直前に、通し稽古の様子を取材した。
幕が開くと、キャスト陣が念仏を唱えながらステージ上を歩きまわる。物語の舞台は、元亀元年(1570年)の長島。織田信長の台頭で戦が激化する中、本願寺の門徒が多く暮らす平和な島には、阿弥陀様に救いを求めて多くの人がやってくるようになっていた。植木祥平が演じるのは、長島に渡ってきた牢人の日根野。島で暮らすみな(七木奏音)と辰次郎(田島亮)に教えてもらいながら念仏を練習するが全く上達しない日根野に、周りで見ているキャストからは笑い声が上がる。辰次郎の兄で島の稼ぎ頭・一馬を演じるのは髙野春樹。大人らしい落ち着きを持っている一馬が弟の辰次郎とみなに振り回される様子が微笑ましい。 みなと辰次郎、一馬が家族のように暮らしている様子が描かれているため、後半の長島一向一揆で明らかになるそれぞれの思いに心を抉られる。
生き仏とされている父の代理を務める長島願正寺の若い住職・顕忍(山口貴也)は、頼りないものの意思の強さも感じさせる人物。そんな彼を、下男の源蔵(岡田優)が優しく励ましながら支えている。大阪からやってきた僧侶・下間(生島勇輝)は、どこか掴みどころのない人物だ。信仰心の厚い門徒にあたたかい言葉をかける一方で、何が本心かわからない胡散臭さがあり不安を煽る。
柴田勝家(君沢ユウキ)と豊臣秀吉(大朏岳優)は、漫才のようなやりとりで和ませてくれる。顔を合わせるたびに勝家をからかって翻弄する秀吉と、そんな秀吉に怒りながらも可愛がっていることがわかる勝家が非常に人間味あるキャラクターとして表現されているぶん、戦のシーンがより重く胸に迫ってくる。登場人物たちの会話に登場するだけだが、織田信長も恐ろしい魔王というだけの人物ではないことが窺え、印象深く描かれていた。
今回は360°の舞台ということもあり、どこから見るかによって見えるものが変わる。会話している登場人物たちの表情から読み取れるものも多いため、複数回見る方も毎回新鮮に物語を味わえるのではないかと感じた。劇場に入り、照明なども加わって観客が入るとどんな空間が完成するのか楽しみだ。
ネタバレになるため詳細は伏せるが、作中の様々なセリフや結末で、“信仰”について改めて考えさせられる本作。
前半で信仰によって人々が心穏やかに暮らしている様子が描かれるが、後半では信仰によって人々が死に向かっていく。宗教や信仰が日常に深く根ざしていない人間からすると「なぜ」と思ってしまう部分も。しかし、これが史実を元にした物語であること、現在も宗教によって争いが起きていることを考えると、簡単に「わからない」と片付けてはいけないとも感じる。
また、個性豊かなキャラクターをキャスト陣がイキイキと表現しており、誰もが愛すべき人物として存在している。何が正しく何が悪か、物語が進むにつれてわからなくなっていくため、見る人が誰に共感するかにより、受ける印象も大きく変わるのではないだろうか。
シリアスなテーマではあるが、全体を通して重苦しい印象は受けないのも魅力と言えるだろう。登場人物一人ひとりがシリアスに見せる部分とコミカルな部分を担っており、非常に見やすい。通し稽古でも、面白いセリフや演技にスタッフやキャストが笑っていたり、芝居の相手が笑いを堪えていたりと、和気あいあいとした雰囲気で進んでいた。
歴史物が好きな方、人間ドラマが好きな方、もちろんキャストやクリエイターのファンまで、存分に楽しめるだろう本作は、3月5日(火)から10日(日)までDDD青山クロスシアターにて上演される。
取材・文・撮影=吉田沙奈
公演情報
舞台『みんな出ておいで~』
会場:DDD青山クロスシアター
脚本:三谷昌登
■企画:プロデュース:長谷川景太(SEVENSENSES)/ 植木祥平
■制作:株式会社エイジポップ
■公式 X:@minnadeteoide