梅澤裕介、小越勇輝、大西桃香に聞く、梅棒14th WONDER『おどんろ』への意気込みやカンパニーの魅力
(左から)大西桃香、梅澤裕介、小越勇輝
2022年4月、東京公演を皮切りに三重、大阪、高知、愛知で上演される梅棒14th WONDER『おどんろ』。主催公演に加え、舞台や数多くのアーティストのライブ、映画やテレビ番組などの振付・演出も手がけるダンスエンターテインメント集団「梅棒」のメンバーに加え、各方面で活躍するプロフェッショナルたちが集結。稽古がスタートし、公演に向けて本格的に動き出したタイミングで、梅棒の梅澤裕介、今回のゲストである小越勇輝、大西桃香に話を聞いた。
■もう一度作り直すイメージで
ーー今回は2021年夏に予定していた公演のリベンジ公演です。梅澤さんと小越さん、改めて心境や意気込みを教えていただけますか?
小越:前回中止になってしまったのがすごく悔しかったんですが、早いタイミングでリベンジできると決まり、本当に嬉しかったです。自分がまた梅棒というチームに入って届けられる、イチから作り上げられるということにワクワクしています。
梅澤:梅棒は公演を記録に残さないので、舞台でしか観ることができない団体。早いタイミングでできなかった公演が上演できるのはすごく嬉しいですし、今度こそ皆さんにお届けしたいと思っています。
ーー新たにヒロインとして抜擢された大西さんはいかがでしょう。
大西:私はAKB48に所属していて、そこで今人さん(梅棒代表の伊藤今人)に2回ほどお世話になったことがあるんです。梅棒さんに対しては、すごく踊る人たちっていうイメージを持っています。私はダンスに苦手意識を持っていることもあって、まさか出られるとは思っていなかったのでびっくり。あと、以前務めていたのは大先輩の梅田彩佳さん。引き継ぐのが私で良いのかという不安と緊張はありますが、稽古を見ているだけですごく楽しくてワクワクします。私も早くこの世界に入っていけたら良いなと思っています。
ーー梅澤さん、小越さんは本作を1年弱寝かせた形になります。この1年弱で、作品に対する思いなどに変化はありましたか?
梅澤:この作品に対してというか、舞台で作品を届けること自体、当たり前じゃないと痛感しました。公演ができること自体がありがたいなと。お客さまにお届けしたいという気持ちがより強くなりましたね。
小越:前回は、皆様にお届けする目前で中止になってしまったので、言葉で表せない悔しさみたいなものがありました。でも、早い段階で上演できると決まったので、そこからはシンプルに「やるぞ」という気持ちだけ。またイチから作ろうという前向きな思いがすごく強かったです。
■人間と妖怪が出会うことで変わっていく気持ちや関係が見どころ
ーーそれぞれの役柄と見どころを教えてください。
梅澤:僕は主人公の冴えないサラリーマン・萬代(ばんだい)を演じます。梅棒の舞台って、基本的に走ったり驚いたり転んだり、激しいアクトで表現することが多いんですが、萬代は今までの梅棒作品の中で一番エネルギー消費の少ない役柄です。そういう意味でも、今まで梅棒を観たことがある方にとっても新しい一面を見せられるかなと思っています。
大西:私は新米警官の役です。不器用なりに一生懸命に頑張るけど、頑張りすぎて空回りもしちゃうようなキャラクターです。でも、すごく素直な女の子ですね。見所としては、妖怪たちと触れ合う中で気持ちや彼らとの関係性が変わって行くところ。ストーリーもすごく素敵なので注目してほしいです。
小越:僕はNEO妖怪の長というか、リーダー的な存在です。でも、絶対的な存在というよりは、みんな和気あいあいとしている中のリーダーという感じ。妖怪だけど心のひだみたいなものはすごく持っていて、それを素直に出さないちょっとひねくれものですね。キャストが変わったりしたことで、キャラクター性や妖怪同士の関係性も前回から少し変わってくると思うんです。自分のキャラクターも前回と全然違うものになるだろうと感じているので、稽古を通して作っていくのが楽しみですね。
ーー梅澤さんは今回冴えない主人公とのことです。これまではどちらかというと物語を引っ掻き回すキャラクターを演じている印象だったので想像がつかないんですが、役作りはどう考えていますか?
梅澤:萬代は、人の愛情を知らないようなタイプの人間です。梅棒の舞台って、やっぱり感情表現が自然と大きくなってしまうんですが、それをなるべくなくす作業を頑張っています。普段やっていることをやらないように。でも、萬代が抱えている寂しさや辛さに共感する部分もあるので、動きを制限しているからやりづらいということはないです。動いてしまうことでキャラクターが崩れないように。「こんなにリアクションしなくていいの?」という不安との戦いですね(笑)。舞台上で成立しているか、演出の今人と相談しつつ、気持ちのいいところに着地できたらと思っています。
ーー小越さんは“NEO妖怪”ということですが、“NEO妖怪”というのは……。
小越:一体何なんですかね?(笑)
梅澤:今作オリジナルの現代ならではの妖怪。
小越:あれですよね。わりと最近のものから生まれた妖怪というか、最近まで使われていたものが使われなくなって、その恨みや怨念などから生まれた妖怪です。
梅澤:少年漫画的な感じで“NEO”です(笑)。
小越:人間に対する思いも妖怪たちそれぞれ違っていて。ちょっかいをかけたりイタズラしたりするものの、一方的に「人間はこうだ」と思っていたのが、人間と接することで心が動いて、気持ちが変化していくのが物語のキー。大事にしなきゃいけないポイントだと思っています。
ーー大西さんはどんな役作りをしようと考えていますか。
大西:私は他の舞台でも真面目で一生懸命で純粋な役をいただくことが多いです。やりがいを感じますし、自分のことをいい風に言ってると思われると嫌ですが、気持ちが分かるというか重ねられる部分もある。やっていてすごく楽しいです。役作りというより、自分をそのまま出している感じですね。
ーーネタバレにならない範囲で、お気に入りのキャラクターはいますか?
大西:います! マチョさん(パイレーツオブマチョビアン)のキャラ! さっき初めて衣装を着た姿を生で見たんですが、衝撃でした。今までの人生であんまり見たことのない姿というかキャラクター。ビジュアルだけでもインパクトがすごい!
梅澤:大西ちゃん、絶対マチョ好きだと思ってました(笑)。
大西:笑顔が止まらなくなりました(笑)。
小越:これは難しいですね。それぞれ個性が強いので。でも大西さんが演じる役はお客さんと同じ目線なので、ストーリーに入っていく上ですごく寄り添ってくれるキャラクターだと思います。
梅澤:NANOIちゃんの役が、公演を見終わって思い出すとニコニコできるというか、愛おしいキャラクターなのですごく好きですね。大西ちゃんの役も楽しみにしています。
■作品に対する情熱とあたたかさが素敵なカンパニー
ーー続投のキャストさんも多くいます。カンパニーの雰囲気やキャストの皆さんの魅力を教えていただけますか。
梅澤:いつにも増して各ジャンルのプロフェッショナルが集まっています。プロジェクトのような感じで、それぞれの専門家が揃っている。情熱も前回から変わっていませんし、元々信頼度も高い皆さん。すごくちゃんとやってくれて自然と船が進んでいるので、こっちが焦るくらいです。
小越:半年くらいぶりに集まったんですが、「この作品を届けたかった」という気持ちがひしひしと伝わってきて、素敵なチームだなと改めて感じました。そこに大西さんなど新たなパワーが加わって、また進化するという期待があります。
大西:新入りの私にも皆さんすごく優しいです。私は人見知りが激しくて、歳下相手だと自分から行こうと頑張るんですが、今回は歳上の方ばかりなのでどうしようと思っていました。でも、キャストの皆さんがすごく優しくて心強いです。
ーー基本的にノンバーバルのダンス公演ですが、ダンスの知識がなくてもストーリーがすっと入ってきます。作る上でのこだわりは何かありますか?
梅澤:梅棒は今11人でやっているんですが、誰かが「ここは見てて分からないでしょ」と言ったら絶対に掘り下げています。普通の舞台だと脚本・演出の方がいてその人の世界観になっていくと思いますが、梅棒の場合はチームで作っているので、誰か一人でも声を上げたら会議です。まずは見て分かること、それから面白さ。もちろん面白いものを作りたいですが、誰が見ても分かるというのを最優先にしています。
ーー小越さんと大西さんが感じる梅棒の皆さんの印象や魅力を教えてください。
大西:優しい! 皆さんすごく声をかけてくれて、休憩中とかも一人にしないように気を配ってくれる優しさが心に沁みます。
小越:いい意味で相変わらずだなと思いました。前回の稽古から半年以上経っていて、どんな感じで行こうか僕は考えていたんですが、そんなことは関係なく、何も変わらずに迎え入れてくださいました。皆さんの人柄の良さは魅力ですね。僕も自分から行くのは苦手なんですが、梅棒の皆さんがいじってくれて、ふざけられる空気を作ってくれるし笑ってくれるんです。心が緩むというか、リラックスさせてくれる素敵なチームです。
ーー梅棒さんの作品の魅力はどんなところだと思いますか?
大西:AKB48の横山結衣ちゃんが出ていた『ウチの親父が最強』の映像を見せていただいて、バキバキに踊るのがカッコいいと思いました。ダンスの中にちゃんとストーリーが分かる動きがしっかりあるんですよね。コメディチックで、今人さんが女装して可愛らしいママを演じていたり、女の子に意地悪するシーンがあったり。物語を伝える動きがワクワクするし面白いなと思いました。梅澤さんも言っていましたが、セリフのない舞台だからこそ皆さんそれぞれの解釈で観てもらえるし、何度でも楽しめると思います。
小越:キャラクターやストーリーに合わせた楽曲と動きは、見ていても楽しいし、自分が中に入ってもすごく楽しいです。そして、梅棒の皆さんの向上心がすごい。梅棒の中で毎日ミーティングをして話し合うだけじゃなく、客演の皆さんの個性を掛け合わせて、より濃い物語やキャラを作っていくというやり方は、他にはない作り方と魅力だと思います。カンパニーのみんなで協力して、手を取り合って作っていこうという思いをすごく感じます。
■体感する価値のある作品を、ぜひ劇場で見届けてほしい
ーー改めて、皆さんへのメッセージをお願いします。
小越:僕は初めて梅棒さんの作品を観た時に、「すごく輝いてるな、自分もこんなステージに立ちたいな」と思いました。そこから何年も経って、自分がこうしてこの作品に携われるなんて夢のようだと思っています。題材的に本当は夏にやれたらよかったんですが、一足早い夏というか、妖怪たちの一夏の物語、本当なら交わらない人間たちと妖怪たちの世界が交わるストーリーを一緒に体感していただけたら。形に残らないからこそ実際に観に来ていただいて、皆さんの記憶に焼き付けてもらえたら嬉しいと思っています。
大西:梅棒さんの作品に参加させていただくのは初めてで、地方公演も初めて。このご時世、なかなか舞台などに足を運べずにいる方もいると思うんです。今回は全国を周るので、私たちの方から会いに行って熱量を伝えたいと思います。あと、プロットを読ませていただいた時に泣いてしまって。稽古の段階でもすごく心を動かされたり目を奪われたり、見応えがあるし、私が演じる役は皆さん感情移入しやすいキャラクターだと思います。皆さんの心に残るお話だと思うので、期待値を爆上げで楽しみにしてもらえたら嬉しいです!
梅澤:梅棒は作品を見せるというより、そこで生きている人たちを楽しんで覗き見るような舞台なんです。外に出て直接人に会うことが中々できなくなっている中で、機会が減っているものをご提供できるんじゃないかと。いつもの梅棒らしいドタバタあり、不思議なキャラクターあり、面白さもありつつ、いつもと少し違う大人っぽい、情緒的な雰囲気も溢れる素敵な舞台になっています。単純に楽しくて気軽に見られる舞台なので、騙されたと思ってぜひ一度観にきて欲しいですね。
取材・文=吉田沙奈