「ダークでカラフルなこの世界観、僕は大好きです」──『サロメ奇譚』牧島 輝インタビュー

2022.3.15
インタビュー
舞台

牧島輝(『サロメ奇譚』ソロカットより)


脚本・ペヤンヌマキ×演出・稲葉賀恵がオスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』を現代劇に料理して贈る『サロメ奇譚』。この“新たな『サロメ』”で預言者ヨカナーンを演じる牧島 輝は、2.5次元舞台を出発点にジャンルにとらわれることなく様々な舞台に立ち、多方面から注目されている若手俳優である。様々な示唆に富んだ『サロメ』の世界を楽しみ、「俳優という職業を選んで良かった」と語る彼の“飾らない思い”をお届けしよう。

──まずは本作にヨカナーン役で出演が決まった時のお気持ちからお聞かせいただけますか?

僕は『サロメ』自体は読んだことがなく、ただ、いろんな芸術作品のモチーフになっていますし、名前は聞いたことがありました。まずヨカナーンってどういう役なんだろうって思って調べたら、どうやら人じゃないみたいだぞっていうのと……あと「首」(笑)。僕はたぶんまだ役で死んだことなかったと思うんですけど……最初にまず「あ、ついに俺も死ぬのか」と思いました。すみません、中身の印象じゃなくて(笑)。

──19世紀に書かれた古典ですし、死ぬことへの興味も含め、作品との出会いの新鮮さだったり難しさだったり。読み進めるほどに湧いてくる「興味深さ」も大きかったかと。

はい。台本をもらう前にもともとの『サロメ』を読んだ時、こういう世界観、僕はすごく好きだなと思いました。ちょっと暗くて……色で言うと決して明るい系の色ではないんだけど、でも変にカラフル、みたいな。その、ちょっとダークでちょっと妖艶な感じの世界観、いいですよね。ただ、今僕らが使っているような言葉じゃない表現で書かれてるから、めちゃめちゃ「むずいっ」と思いましたけど(笑)。でもだからこそ、そういう言葉ってすごく奥行きがあるんだなと知ることができました。普段触れない言葉だと自分自身余計にちゃんと知ろうという意識になるし、「この言葉ってこういう意味にも、別の意味でも捉えられるんだ」みたいな発見もできるし。また、宗教的な要素も多く、今まで僕はあんまり宗教というモノに深く触れることなく生きてきたので、そういう異文化や当時の時代背景も知れたりして面白かった。結果的に、僕はすごく楽しく読めたなと思います。

──ヨカナーンは預言者。それも今の私たちからすれば「日常の中に預言者を職業にしている存在がいるとは?」という感覚で。

そうんですよ! なんなんですか? 預言者って(笑)。

──ご自身はどう捉えました?

分かんないけど怖いですよね。嫌ですもん、自分の前に“預言者”って呼ばれている男が来て、あんまりよくない預言をして「神の声を聞け」みたいなことを言われたら、まず「何なの??」って思う(笑)。こっちの話は聞かないし、恐ろしいですよ、本当に。始めに「『サロメ奇譚』は『サロメ』の現代版になる」というお話を聞いていたので、さらにそれが――預言者が現代にいるという想像がなかなかできなくて、現代に置き換えたら(預言者は)何になるんだろう? 王女とか王様とかは?っていうイメージが自分の中では全然追いつかないままでした。台本をいただくまでずっと「自分はどういう預言者を演じることになるんだろう」とわからずにいました。

──実際、『サロメ奇譚』は観客が想像するその先の世界が用意された非常にオリジナリティーのある『サロメ』。いざこの台本を開いたときは……

衝撃、ですね。現代では何に置き換わるんだろうと思っていたら「いや、預言者のままやん!」と。「俺、やっぱり預言者でした。へへへ」みたいな(笑)。そこはめっちゃ戸惑いました。でも「この人逆にどこから来たんだろう」とか、ベースを知っている人もすごい興味に変わりますよね。面白いですよね。稽古中セリフをしゃべってて、たまに自分でも「俺は何を言ってるんだろう?」ってなる瞬間があって。というのも、やっぱり「俺は現代にどうやって来たんだろう」みたいなことを考えていくと本当に訳分かんなくなって、そうすると自分が何者なのかも分かんなくなってきちゃいますよね。でも、一方で、人間の滑稽さとか、見る人によってのヨカナーンの感じ方とか、もともとの『サロメ』では読み取れなかった部分が現代版になったことによって僕はすごい近く感じられて、それもこの戯曲の面白さだなと思っています。

──物語の中心人物、朝海ひかるさん演じるサロメについてはどんな女性をイメージしていますか?

すごいトラウマを抱えながら、親からの抑圧の中を生きてきて……それを、32年。そういう人っていつかは爆発してしまうと思うし、そのきっかけを僕(ヨカナーン)が与えることになるんですけど……サロメ自体もたぶん相当魅力的な女性なんですけど、案の定周りの人間はサロメに魅了されて崩れていってしまうので──やっぱりそこが怖いなって、素の自分はそう思う。すごく元気で何のストレスもなく健康的に生きている人もそれはそれで魅力的なんだけど、コンプレックスがあったり抑圧を受けて生きている人を魅力的に感じてしまう瞬間って、やっぱり僕もあるからなぁ。サロメみたいな人が実際にいたらやっぱりすごく気になっちゃうんだろうな。怖いけど、とても魅力的な存在ですね。サロメは。

──現在はお稽古の真っ最中です。

先輩たちが率先していろんな挑戦をされてるのを見て、「すごいな」って心から思います。自分が台本を読んでなんとなく感じていたそれぞれの役とは本当に大きく違ってて。それはもちろん良いほうに、なんですけど。なんかもうみなさん一言しゃべるだけですごく面白いんですよ。それってなんなんだろう……たぶん俳優さん自身が生きてきた時間がそう思わせるのか、源は分かんないんですけど、すごくすごく面白い。

ただ、僕は舞台上で半分ぐらいの人と会わないんです……会えないんです。ほとんど会話はなくただ自分の預言を伝えてたりするので。でも叶うならこんな面白い人たちと舞台上で正面から対峙したい、セリフのやり取りをしたいと、めちゃめちゃ思う。僕以外のみんなが舞台上に揃って出てるシーンを作ってるのも……もちろん大変な作業ではあるんですけど、外から見てるとすごい楽しそうで、すごい交じりたくて、めっちゃ寂しい(笑)。「いいなぁ」って思いながら、でも役柄上はあくまでクールな顔をしてなきゃいけない。だから僕、尻尾があったら大変でしたね。

──パタパタしちゃう?

しちゃいますねぇ。それで羨ましがってるのがみんなにバレちゃってたことでしょう。ホント、尻尾がなくてよかった(笑)。

──預言を伝える声の美しさと姿の美しさとでサロメを虜にするヨカナーン。演じる上でご自身に求められていること、表現していきたいポイントなどはいかがですか?

声もそうだし、立ち姿もそうだし、やっぱり魅力的であることが一番だと思います。……でもそれって「魅力的になろう」と思ってなれるものではないですよね。そういう自分を磨く努力も大いに必要だと思うけど、本来の僕は生まれながらに美しくて素敵な人に憧れる側の人間、ヘロデみたいな人間なんです。ヘロデがヨカナーンを見る時に「え、ヨカナーンやん」ってなっちゃうドキドキ、最終的に「ヨカナーン様!」みたいになっちゃうあの感覚。だから自分が魅力的で「ちょっとこいつ人じゃないんじゃない?」みたいなオーラを放つにはどうしたらいいんだろう?って思うばかりです。今は。

──本番ではそこへ到達しているであろう牧島さんの姿に出会うのも楽しみです。ファンのみなさんも、牧島さんの新機軸に出会えることを心待ちにしているでしょうね。

ありがとうございます。『サロメ奇譚』はもともとの『サロメ』の良さを損なうことなく現代版にした作品。より自分の近いところで作品について考えられるようになっているので、とてもわかりやくすくなってるのがいいなぁと思います。『サロメ』が好きな方は、導入は「全然違うじゃん!」と思うことでしょう。けれどラストに向かっていくにつれて、全体像は『サロメ』のあの感じにどんどん近いものになっていく。そして気づいたら「そういえば『サロメ』だった、これ」ってなる瞬間があるんじゃないかなと思います。だから、知っている方はそういう意味でも楽しめると思うし、これが『サロメ』の初見という方は、この不思議な世界観と、会話の中に垣間見える人間の滑稽さとか、ちょっと笑えちゃう部分に溺れてほしい。物語の終盤に向かって人間が堕ちていく様、その人の心がぐわんぐわん動いて加速していく様っていうのは、やっぱり面白いんですよ。そういう衝撃をぜひ期待していてください。

──2.5次元舞台、ミュージカル、朗読劇、小劇場テイストのストレートプレイ……と幅広いタイプの作品で舞台に立っている牧島さん。演劇人としての“今”と“この先”の展望とは。

まだまだキャリアも浅いけれど、いろんな舞台に立たせてもらって思うのは「やっぱり俳優という仕事を選んでよかったな」ということですね。舞台を作ること……演じる側もそうだし、作る側の方もそうだし、こうやって取材してくれている方もみんなそうだけど、「エンターテインメントを届ける」ということに全力で取り組んでいる人たちの楽しさが自分の楽しさでもあって……みんな、明るい人が多いんですよね。それに触れることが「僕は生きてる」って感じるということだなって思っていて。だって、同じ時間にね、僕を照らしてくれる人がいて、声を拾ってくれる人がいて、それを観てくれる人がいてっていう、同じ時間をいろんな思いで共有できるってすごい素敵だし、面白いなって思うんです。

だから「こういう作品に出たい」ということに捉われ過ぎず、「一生楽しいものを作ろうとしてる人と一生楽しいものを作りたいな」みたいなシンプルな気持ちが最も大きいですね。

相変わらずなかなか人に会うことができない状況で暗いニュースも多い中、エンターテインメントに触れて誰かと一緒に笑うとか、泣くとか、一人だったとしても作品を観て何か自分の心が動いたとか、そういう瞬間がきっと今は特に大事だと思う。僕も「何かがしたい」って思う前に「誰かのこういう姿を見たい」という気持ちを持ち続けたいし、そういう気持ちになれることが今後も自分がやっていきたいことかなぁって。

──一方的ではなく、「互いに」というのが素敵ですね。

そうですね。人が楽しむのもそうだけど、自分が楽しいからやってる部分もかなりあるので。僕は人としゃべるのもすごい好きだし、もちろんお芝居をするのも、歌うのも、絵を書いたりするのも好き。そういう自分が好きなことを、自由に、人生かけてやれたらいいなと思います。まずはこの『サロメ奇譚』の劇場でお会いできるのがすごく楽しみ。僕も頑張りますので、みなさんも健康に気をつけて、引き続き応援していただけたら嬉しいです。

取材・文=横澤由香

公演情報

『サロメ奇譚』
原 案:オスカー・ワイルド「サロメ」
脚 本:ぺヤンヌマキ
演 出:稲葉賀恵
出 演:朝海ひかる、松永玲子(ナイロン 100℃)、牧島 輝、ベンガル
    東谷英人(DULL-COLORED POP)、伊藤壮太郎、萩原亮介
日 程:
【東京】 2022年3月21日(月)~3月31日(木) 東京芸術劇場 シアターイースト
【大阪】 2022年4月9日(土)~10日(日) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

料金(全席指定・税込): 東京 全席 8,800 円/大阪 全席 9,500 円

公式 HP: https://www.umegei.com/schedule/981/
Twitter : @salomeoddities
企画・制作・主催:梅田芸術劇場
お問合せ: 梅田芸術劇場(東京)0570-077-039/(大阪)06-6377-3888
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