フレデリック LIQUIDを埋め尽くす観客と「フレデリズム」を創り出し踊ったツアーファイナル
フレデリック
フレデリズムツアー2015 ファイナル 2015.12.22 恵比寿LIQUIDROOM
「フレデリックはここから始まります」。
ライブ中、三原健司(Vo./Gt.)は何度も高揚した表情でそう語っていた。
12月22日に恵比寿LIQUIDROOMで開催された、フレデリックにとって初となる全国ワンマンツアーのファイナルは、まさにその言葉通り、バンドが積み上げてきたありったけを叩きつけ、そして未来への指針をはっきりとパフォーマンスで示す熱い2時間だった。
19時になり、開演時間を迎えたフロアの客電が落ちると、徐々に性急さを増していくドラムのビートに合わせてハンドクラップが起こる。「フレデリズムツアー、始めます」という言葉が聞こえたかと思うと、三原康司(Ba./Cho.)のぶっといベースが響き渡るオープニングは「SPAM生活」だ。ニューウェイヴの最も先鋭的な部分と、ずるずる深みに引き込まれていくようなサイケデリアが溶け合ったナンバーだが、そんなストレンジな楽曲にもかかわらずオーディエンスは拳を掲げて楽しんでいる。モザイク模様のようにめくるめく色彩を変える高IQな楽曲を、高性能のダンスビートとして表現する確固たる表現力は言うまでもなく、観客の誰もが、芯までフレデリックの音を染み込ませてここにやって来ているのだろう。
身振りを交えて歌詞の世界観を表現する三原健司、そして赤頭隆児(Gt.)と三原康司がアイコンタクトを交わしながらグルーヴを紡いだ「DNAです」から、「オドループ」へとショーは続く。抑制の効いたアンサンブルと「踊ってない夜は気に入らない!」と感情を爆発させる三原健司の対比でカタルシスを生み出し、このツアーでアポートを務めた高橋武(Dr.) のタイトなドラミングが冴え渡る「WARP」へと。ポストパンクを思わせるつんのめり感を硬質なスネアで加速させたかと思えば、スペイシーなシンセ飛び交う「FOR YOU UFO」では軽快にサウンドのボトムを彩るなど、フレデリックの楽曲を巧みなテクニックで彩る圧巻のプレイだ。
フレデリック
「おい恵比寿! いけるやろ!?」「俺たちは、あなたと踊りたいんだぜ!」と煽り倒した「ふしだらフラミンゴ」でフロアを揺らした後は、三原康司がリードボーカルを取り、夜更けのスナックで男女がデュエットしているかのような猥雑な色気を醸し出した「もう帰る汽船」、さらに「ほねのふね」へと、右肩上がりの盛り上がりでライブは中盤戦へと突き進んでいく。
ステージにスモークが噴出した「うわさのケムリの女の子」では、立ち込める煙幕の向こうで演奏する4人がおぼろげなシルエットになり浮かび上がる。ゆらゆらと踊り歌う三原健司に見入っていると、今度は客席にも大量のスモークが。もうぐちゃぐちゃだ。だけど、清々しい。歓声と笑い声が一体になって、熱狂を増幅させていく。
「今な、『うわさのケムリの女の子』っていう曲だったんや。煙ごっつう焚いたんや。お前らの顔全然見えへんわ。でもどうせ、ブッサイクな笑顔で待ってくれてると思う。関西から来ましたフレデリックです、よろしく」と、薄もやの中で三原健司が挨拶をすると、大歓声が上がる。「お前らのブッサイクな笑顔を全部えびす顔にして帰ります。最高の笑顔に変えてやるんでよろしくね」
「後半戦。踊る曲しか残ってない。俺たちはこうやって、踊る曲でひとつの答えを持ってきました。あなたたちはどうしますか? こっから俺たちディスコゾーンに突入していきます」三原健司が宣言し、三原康司がスラッピーでエロティックなベースソロを披露し、ここからライブはさらなる狂騒にまみれていくことになる。まずはフレデリックの持ち味のひとつである80'sテイストのシンセポップ「さよならカーテン」でMC明けの体を温め、「ディスコプール」では歌詞を「恵比寿のプールサイドは」と即興で変更してアジテート。「ありのままで踊り尽くしましょうよ!」と双子がお立ち台でプレイをシンクロさせた「プロレスごっこのフラフープ」ではダウナーな横ノリと激しい縦ノリが交互に畳み掛けてくる。酸素が薄くなっていき、踊るということだけに意識が集中していく感覚。ダンス耐久レースとでも呼びたくなるような、とてつもないステージだ。
「幸せっていう怪物」では、三原健司が、「俺たちフレデリックは、2015年、『フレデリズム』という言葉を作りました。俺たちフレデリックのリズムと、あなたたちひとりひとりのリズを一つにまとめて、ここ恵比寿LIQUIDROOM、最強のリズム、最強のグルーヴで、日本一、世界一になりたくて、『フレデリズム』という言葉を作りました。俺たちと、地上最強のリズムを一緒に作りませんか!」と、客席から5人のオーディエンスをステージに上げ、『フレデリッターズ』として共にパフォーマンス。ライブのハイライトは、自分たちだけでなく、みんなと作り上げるんだという意思を、言葉だけでなく明確な行動で体現する。なんて気持ちがいいショウマンシップなんだろうか。
フレデリック
「ワンマンってね、何をもらって帰るかがすっげぇ大事やなって思って。目の前にいる人と何を作るかが大事なのかなって思っている時に……今日は、愛をもらいました。俺、こんなかっこいいこと言ったらあかん?(笑) まあいいや。言うわ。言わしてくれや。何やろ、ごめんな? ブッサイクな笑顔とか言って。自分らめっちゃ綺麗やわ。最高のキラキラした笑顔を持ってんねんな。持ってんねんな、ってあかんな(笑)。マジで、すっげぇ楽しい! 俺は関西から東京に来て、まだ東京でライブした!っていう気持ちにはなってないねん。だからさっきから、『踊れるか恵比寿』とか『踊ってない恵比寿が気に入らない』とか言ってるやんか。俺は東京ドームでワンマンするまで、『東京』って絶対言わへんからな! 今日は恵比寿を攻めに来たからな!」……三原健司がそんな風に気持ちを吐き出したMCを挟んで、ついにライブはクライマックスへ。「残り3曲でお前らの愛を全て確かめてやるからね」という言葉に続いてプレイされた楽曲たちは、すべてが突き抜けた幸福感で満ち溢れていて、音に身体を委ねて笑顔でダンスしている観客の笑顔が素晴らしい光景を生み出していた。
だが、ライブは終わるもので、それをしっかりと締めくくることもバンドの役目だ。「フレデリックはここから始まります。始めるために、『フレデリズムツアー2015』、恵比寿LIQUIDROOMを……終らせないと」と気迫を込めた「オワラセナイト」で、2時間のライブを完全燃焼のエンディングに導いたのだった。
アンコールでは、9月23日をもって脱退したkaz.(Dr.)についても言及。三原健司が不安だった日々について告白し、kaz.がくれたという“4-1は3じゃない。リスナーがいるから、4-1でも4なんだ”という言葉を噛み締めるように回想して、「ハローグッバイ」を披露した。
結成から6年。そのすべてを“今、この場所”に凝縮させ、彼らはまた次のステージに向かおうとしている。あらゆる音楽ジャンルとまだ見ぬリスナーを巻き込んで、ダンスのループがどこまで輪を大きくしていくのか、楽しみで仕方がない。
撮影=上飯坂一 文=矢野裕也
フレデリック
1.SPAM生活
2.DNAです
3.オドループ
4.WARP
5.FOR YOU UFO
6.真っ赤なCAR
7.ふしだらフラミンゴ
8.もう帰る汽船
9.ほねのふね
10.うわさのケムリの女の子
11.さよならカーテン
12.ディスコプール
13.プロレスごっこのフラフープ
14.幸せっていう怪物
15.トウメイニンゲン
16.愛の迷惑
17.オワラセナイト
[ENCORE]
18.ハローグッバイ