娘 直美と孫 扇治郎が藤山寛美をしのび、最後の追善公演で松竹新喜劇の名作を上演ーー「父を超える役者が生まれることが一番の追善」
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藤山直美(左)と藤山扇治郎
「昭和の喜劇王」と謳われ、老若男女から絶大な人気を博した藤山寛美の三十三回忌にあたる2022年。5月3日(火・祝)からの大阪松竹座公演を皮切りに、東京の新橋演舞場、京都の南座の3会場にて『藤山寛美三十三回忌追善 喜劇特別公演』を上演する。演目は、大阪、東京公演が「愛の設計図」と「大阪ぎらい物語」、京都公演が「えくぼ」と「はなのお六」で、いずれも藤山寛美にゆかりの深い名作だ。さらに「〈映像〉藤山寛美 偲面影」では在りし日の藤山寛美の代表作や思い出の数々を届ける。4月、大阪市内で行われた製作発表に藤山寛美の娘で俳優の藤山直美と、孫で直美の甥にあたる松竹新喜劇の藤山扇治郎が登壇。同公演にかける意気込みや、藤山寛美への思いを語った。
藤山直美(右)と藤山扇治郎
はじめに挨拶をした藤山直美(以下、直美)は、三十三回忌の追善公演が行われることをとてもうれしく思うと謝辞を述べたのち、「娘として、「何回忌」という追善公演はこれで区切りとして、最後の公演とさせていただきたいと思っております」と、決意を語った。そこにはこんな思いがあった。「これから上方喜劇、また松竹新喜劇で、もっともっとうちのお父さんを超えるような役者さんが出てくれることが父親に対しての一番の追善でございます」。
上方喜劇、そして松竹新喜劇のますますの発展を祈っての決意である。だからこそ、同公演で松竹新喜劇の物語を楽しんでほしいといざなう。
藤山直美
「今、コロナ禍で大変なことも多いと思いますが、もしよかったら劇場に来ていただいて、ひと時を忘れていただいて。また、昭和にこんな面白い役者がいたのかと思い出していただけるような追善公演になればいいなと思っております。父親が言っておりました。「お客さんに喜んでもらうための喜劇が一番大事なんやぞ」と。上方喜劇をちゃんとお伝えさせていただき、お客様に喜んでいただきたいと思っております」
孫の藤山扇治郎(以下、扇治郎)も、数年におよぶコロナ禍で公演中止や延期が相次いだことをふまえながら、「藤山寛美の三十三回忌追善公演に、こうして参加させていただくことに感謝の気持ちでいっぱいでございます。大変なさなかにこうしてお仕事させていただけることもとても幸せでございますが、一番はやはりお客様に喜んでいただけるよう、微々たる力ではございますが、「ああ、観に来てよかったな」と思っていただけるよう、自分自身、努力してまいりたいと思いますので、よろしくお願いいたします」と意気込んだ。
同公演で直美は「大阪ぎらい物語」、「はなのお六」に出演する。「はなのお六」はもともと「はなの六兵衛」というタイトルで、主人公も六兵衛という名の男性。それをお六という女性に書き換えた。「「大阪ぎらい物語」にしましても、「はなのお六」にしましても、ゴムまりがゴロンゴロンと転がっていくような女の子なんです。でも、私もおかげさまでえらい年になりましたので、一つ、ここでちゃんと演じさせていただきたいなと思っているのが私の本当の心持です。いつも言うてますけども、「はなのお六」は早く「はなの六兵衛」に戻さないといけませんし、「大阪ぎらい物語」にしましても、栄二郎という男の物語ですから、早くそれに戻っていけばいいなと私は思っております」と願った。
藤山扇治郎
扇治郎は「愛の設計図」と「えくぼ」に出演する。特に「愛の設計図」で演じる作業員の間文太郎は自分に重なるものがあると心を寄せる。「自分が普段先輩から言われていることと、間文太郎は重なっている部分があって。僕はまだまだ半端ですし、修行していかないといけない。そして、自分が年を重ねたら今度は注意されたり、怒られたことを伝えていける人になっていかないといけないと思います。先輩方、伯母さんを通して学んでいかないといけないというのが、自分と間文太郎の似ている部分だと感じるので、今回、この作品を選んでいただいてありがたいなと思いますし、松竹新喜劇の作品は素晴らしいなと思います」と話す扇治郎に直美が「「愛の設計ミス」にならんようにせんとね」とすかさずコメントし、笑いを誘った。
藤山直美(右)と藤山扇治郎
そんな扇治郎のことを「宝くじに当たったようなもの」とたとえる直美。「松竹新喜劇は品があって、お行儀がよくて、素晴らしい作品がたくさんある劇団ですし、この子(扇治郎)は私と違って男に生まれてきました。おじいちゃんと比べられると言っても、おじいちゃんを知っている方も少なくなってまいりました。松竹新喜劇には男の作品がたくさんあるんです。私がどれだけ頑張っても「桂春団治」はできません、「人生双六」もできません。この子はたくさん宝物やチャンスをいただいているのですから、松竹や松竹新喜劇座長の渋谷天外さん、座員の皆さんに感謝すべきだと思っております」と奮起を促し、「扇ちゃん、頑張ってください!」と今後の活躍にも期待を込めた。
昭和の喜劇王との異名で劇場のみならず、日本中のお茶の間を爆笑の渦に巻き込んできた藤山寛美。「244ヶ月連続公演」など前人未到の偉業を持つ伝説の喜劇役者だ。直美にそんな寛美の思い出を尋ねると、こんな話をしてくれた。
藤山直美(右)と藤山扇治郎
「父親としては厳しい方やと思います。今、言うたら笑われますけどうちの家は男尊女卑、男が一番です。お父さんの言うことが一番。1対5になってもお父さんの1の勝ちなんです。今だと信じられませんよね。そんな家で育ちましたが、今は良かったと思っています。父が家にいなくて当然でしたけど、その分、母親が本当に大車輪のように頑張ってくれたんだと思います。母親が偉いなと思ったのは、いなくて当然のうちの父親の存在を家の中で大きくしてくれたことです。「お父さんのおかげでご飯が食べられるんよ」とか、そんなことを母は語っていました。そんな両親のもとで育ったことに喜びを感じます」
その環境が今、直美の芸をさらに豊かにしている。
「「大阪ぎらい物語」の千代子を演じる際も、そんな家に育ってよかったなと思います。これは大阪の船場の話ですから。上女中、下女中とかがいて、番頭さんがいて、一番上に御寮さん(ごりょんさん/船場言葉で「奥様」のこと)がいてはって。そういう船場の歴史をちょっと垣間見られるところに育ちましたので、感謝しています。それは宝物として持っていけばいいことやし、それが(芝居に)生きていけばいいなと持っております」
藤山直美(左)と藤山扇治郎
取材・文=Iwamoto.K 撮影=田浦ボン
公演情報
二等席 7,000円
三等席 4,000円
2等席 9,000円
3等A席 5,000円
3等B席 3,000円
桟敷席 14,000円
二等席 8,000円
三等席 4,000円
特別席 14,000円