丸美屋食品ミュージカル『アニー』開幕~生オケ復活、感動と笑いがいっぱい!ゲネプロレポート
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丸美屋食品ミュージカル『アニー』(ゲネプロ舞台写真)
【THE MUSICAL LOVERS】ミュージカル『アニー』第46回
丸美屋食品ミュージカル『アニー』開幕~生オケ復活、感動と笑いがいっぱい!ゲネプロレポート
2022年の丸美屋食品ミュージカル『アニー』が4月23日(土)、東京・新国立劇場 中劇場にて開幕した。この東京公演は5月8日(日)まで上演。8月には、宮城、大阪、金沢、名古屋をツアーで巡演する(公演情報欄参照)。
主人公アニー役をWキャストで務めるのは、山崎杏(チーム・バケツ)・山本花帆(チーム・モップ)。大人キャストは、前回から続投のマルシア(ハニガン役)、笠松はる(グレース役)に加え、新たに葛山信吾(ウォーバックス役/※葛山の葛、正しくは下部が「ヒ」)、財木琢磨(ルースター役)、島ゆいか(リリー役)が初参加。演出は山田和也、音楽監督は小澤時史、振付・ステージングは広崎うらんがそれぞれ務める。
初日前日の4月22日(金)には、報道向けにゲネプロ(総通し稽古)が公開された。出演は、チーム・モップ。以下、ゲネプロのレポートを、舞台写真と共にお届けする。
「ハードノックライフ」。
ミュージカル『アニー』のオリジナル・ブロードウェイ初演は今から45年前の1977年4月21日。NYアルヴィン劇場で開幕し、同年のトニー賞でベスト作品賞など7部門を受賞した。以来、世界での総上演回数は1,900回にのぼる。世界大恐慌直後の1933年、真冬のニューヨーク。誰もが希望を失う中、本当の両親が迎えに来る「明日」を信じて生きる孤児・アニー。彼女が、周囲の個性あふれる孤児たちや、アニーによって変わってゆく大人たちと繰り広げるストーリー展開は、「Tomorrow」をはじめとする名曲の数々と共に、これまでのべ183万人もの観客に感動を与え続けてきた。
『アニー』が日本テレビ主催により日本で上演されるようになったのは1986年から。2022年で37年目を迎える(2020年は新型コロナウイルス感染症の影響により全公演中止、2021年は休憩なしの90分バージョンでの上演)。なお、今年は「アニー生誕100年」とされ(物語の中で、アニーの出生証明書に「誕生日は1922年10月28日」と記されていることに基づく)、丸美屋食品工業の協賛も20周年を迎える。そんな記念すべき“アニー・アニバーサリー・イヤー”の『アニー』は、2021年同様、クオリティと感染症対策を両立させた90分(休憩なし)の特別バージョンでの上演だ。
本バージョンは、未成年、学生、アマチュア向けにマイルドにアレンジされた『アニー Jr.』という台本をベースに構成されたもので、大人がメインのシーンや楽曲、そして歴史や世情を風刺する内容、マニアックな登場人物が一部省かれ、どの年齢層にも非常に分かりやすくなっている。また、感染症対策のために、シーンやミュージカルナンバー、セットや登場人数を減らしている。ただし、2021年では演奏が録音された音源だったのに対し、今年はオーケストラの生演奏が復活した(指揮:福田光太郎)。
<あらすじ> 1933年12月、真冬のニューヨーク。1929年に起こった世界大恐慌が色濃く残り、誰もが希望を失っていた中で、ニューヨーク市立孤児院には前向きな11歳の少女、アニーがいた。アニーは孤児院を脱走し、犬のサンディと出会うが、警官に補導され連れ戻される。そこにやって来たのが大富豪ウォーバックスの秘書グレース。彼女の取り計らいにより、アニーはウォーバックス邸でクリスマス休暇を過ごすことになる。ウォーバックスはアニーを気に入り、養子にしたいと願うが、アニーが「普通の子と同じように両親と暮らしたい。父さんと母さんを見つけ出したい」と望むので、ウォーバックスは5万ドルの賞金を用意し、アニーの両親を公開捜索する。しかし名乗り出てくるのは、両親になりすまそうとする賞金目当ての悪人ばかり。さらには孤児院長ハニガンと、その弟ルースター、ルースターの恋人リリーも悪事を企んで……。
■多彩な顔を見せる山本アニー
オープニング、幕前のデモンストレーションに新演出が加わり、観客の笑いを誘う。高揚した気持ちのまま始まるオーバーチュア。指揮の福田光太郎が客席に一礼し、指揮棒を振り上げる。「Tomorrow」の一節がトランペットで吹かれ、生オケの演奏がそれに続く。この瞬間から、早くも涙が止まらない。そして、幕が上がっていくーー。
山本花帆のアニーは、朗らかで生意気で、力強くて優しい。騒ぎ立てる孤児たちに「ボコボコにされたいの?!」と言い放つ声。孤児たち一人ひとりにかける「おやすみ」の声。ハニガンに命令されて文句たらたらの表情。リンゴ売りのおじさんにおねだりする甘え声。ハニガンにベタベタされると顔を中央に寄せてイヤがる顔。ハニガンに怒鳴られて息を整える姿。難しい単語のスペルを言えて誇らしげな様子……それら、彼女の演技の一つひとつに釘付けになった。なんといっても、自分の欲しいものは自分で勝ち取っていこうとするたくましさが、まさに大恐慌時代を生き抜く孤児そのものだった。歌唱力も抜群な山本のアニーは、大勢で歌っていても、その中で彼女の声が聴きとれるほどクリアな声質だ。ましてやソロの聴きごたえは……ぜひ劇場で体感していただきたい。
「Tomorrow」を歌うアニー(山本花帆) with メープル(サンディ)。
■愛おしい新ウォーバックス
大富豪ウォーバックス役を演じる葛山信吾(葛山の「葛」下部、正しくは「ヒ」)は、『アニー』初参加、ミュージカルも10年ぶりの出演となる。ウォーバックス役は、2017年に『アニー』の演出が山田和也となって以来、藤本隆宏が演じ続けてきた。今回そのバトンを引き継ぎ、役に新たな生命を吹きこむ葛山は、制作発表会見にて「金持ちになることを目標に生きてきた人間が、アニーと出会って、あたたかさ、優しさに触れ、人生が豊かになっていく様を表現したい」と、自分ならではの役作りへの想いを語った。
葛山のウォーバックスは、登場シーンでこそ冷徹なビジネスマンに見えたが、アニーと出会ってからは人間味が増し、ついにはアニーにデレデレとなる。葛山、ミュージカルは10年ぶりながら、「N.Y.C.」も優しい歌声で魅了する。アニーに自身の身の上話をするシーンは、「アニーに話を聞いてもらえた」という喜びにあふれている。アニーと対話するときの落ち着いた声、あるいは、アニーのためにあたふたする様子、アニーにとある呼びかけをされて嬉しさを隠し切れない人間くささ、そのどれもが愛おしく感じられるのだった。
新ウォーバックス、葛山信吾(左)。
ウォーバックスの秘書であるグレースを演じるのは、2021年も同役を演じた笠松はる。ハニガンと対決するときのコミカルさが増し、余裕すら感じる。緊張するウォーバックスに、くすくす笑いながら発破をかけるなど、長年ウォーバックスに仕えている秘書にしか見えない貫禄も見せる。アニー、ハニガン、グレースによるオペラ調の愉快な掛け合いも、グレースの美しいハイトーンボイスがあるからこそ映えるのだ。
左から、笠松はる、山本花帆、マルシア。
■2022年の三悪
2017年・2021年も孤児院の院長ハニガンを演じた(全公演中止となった2020年も演じる予定だった)マルシアは、一言でいうと「パワーアップしまくり」だった。アニーが生意気な態度を取れば、「アニー~~~~~~~~!!」と威嚇、「リトルガールズ(Little Girls)」での声量は割れんばかりで迫力全開。悔しいときには、お気に入りのクッションの上で、『放浪記』の森光子ばりのでんぐり返しを見せてくれる。面白すぎて目が離せない。
そんなハニガンがメロメロになるのは、弟ルースターの前だ。ハニガンの弟で、アニーをだます詐欺師のルースター役には舞台、ドラマ、映画で幅広く出演する財木琢磨。『アニー』初出演である。マルシア演じるハニガンは、2017年・2021年ではルースターに対して塩対応だった。ところが今年は「姉貴~!」と元気よく全力で甘えてくるルースターを受け止め、「よしよし」とあやし、甘やかしている。「可愛い弟キャラ」という立ち位置で、お金を無心してくるルースター。
彼と共に登場する恋人リリーは、いつもマイペースながら、お金のことには目ざとく反応する。演じるのは「可憐Girl's」のメンバーとしてYUIKA名義で参加、現在は舞台を中心に活躍中の島ゆいか。こちらも『アニー』初参加である。財木ルースターは、「イエッ!」「ヨイショ!」「ハ~!」と合いの手を入れながら元気よく歌うが、劇の終盤に、とある失敗をしたとき「ゴメン、リリーちゃん!」と島リリーに謝る姿が、ドジで可愛い。初日前会見で、さりげなく報道陣に投げキッスを飛ばしていた財木は、天性の人たらしなのだろう。甘えん坊で元気でドジな愛すべきルースターだから、リリーもハニガンも、そのダメさを許してしまうのだな、と思わされる。
今年の三悪。左から、財木琢磨、マルシア、島ゆいか。
■とにかく元気な孤児たち
幕開け、モリー(成瀬みずき)の「ママー、ママー!」という悲痛な叫び。夜中の3時だというのに眠れないことに苛立ったペパー(シーセンきあら)が突っかかると、ジュライ(小林 桜)が反論。テシー(北村 栞)を間に挟んでのケンカの騒々しいこと! 縮こまるテシー、ペパーとジュライのケンカ、泰然自若としているケイト(久住星空)の対比が可笑しい。
「リトルガールズ(Little Girls)」での、ハニガンをバカにしまくる生意気な態度、一方で、アニーが出演したラジオ番組を真似る「フリードレス(Fully Dressed)」では、めいっぱい歌って踊る。皆の弾ける笑顔に、観ているこちらのハッピーな気持ちが止まらない。チーム・モップの孤児たち、芝居の緩急がすばらしく、笑いと締める場面のメリハリが楽しかった。歌唱力も抜群だが、とりわけダフィ(岩淵心咲)の声の伸びやかさと、モリーのキュートすぎる声が印象に残った。
「リトルガールズ」のハニガン(マルシア)と孤児たち。
ちなみにモリーがハニガンに「アニーがラジオに出ていた」と伝えると、ハニガンが「次はアニーのミュージカルでも作る?」と返す台詞がある。『アニー』の舞台である1933年はまさに、ミュージカル音楽がラジオから流れていた時代。ラジオの普及にあわせ、「ラジオで流せるから」という理由で、ブロードウェイでミュージカルが発展したという一面があった。
ラジオといえば、ぜひ注目していただきたいのが、アニーが出演したラジオ番組の収録シーンで舞台最下手に位置する効果音係である。これが、かなりハチャメチャ、やりたい放題をしていた。つい筆者も心の中で「自由~!」と叫んでしまったほど。彼は、アンサンブル・キャストで、ローズベルト大統領も演じる伊藤俊彦。2018年『アニー』でも同役を演じていた。実は彼、今回オープニングから活躍するのだが、それは見てのお楽しみとしよう。
ラジオ番組の収録シーン。
■ダンスキッズ、復活
今回出演するダンスキッズは、本来は2020年『アニー』に出演するため、2019年11月に選出されたメンバーだった。だが2020年は全公演中止、2021年は新国立劇場での初日(4月24日)のみの出演で、夏のツアーには参加できなかった。だから、オーディションから2年半の時を経ての出演は、『アニー』ファンにとって嬉しすぎるニュースだった。スケジュールの都合で参加できないメンバーもいるが、ダンスキッズは皆、「明日はきっといいことがある」と、鍛錬を怠らなかったであろう。
ビッグナンバー「N.Y.C.」では、高嶋悠花と三輪駿斗がロマンチックに踊り、鳥塚美羽と山田紗良はアクロバティックな技で魅せる。アニー、未来のスター(木村つかさ)、ダンスキッズが舞い踊るシーンは、現実と夢、現在と未来が融合したような美しさ。ダンスキッズはカーテンコールでも見事な舞を披露し、『アニー』全体に華を添えた。
ビッグナンバー「N.Y.C.」。
劇場ロビーのキャストボードにダンスキッズのクレジット。筆者も思わず涙。
90分バージョンも2年目となり、幾分余裕が感じられ、遊びの要素も増えて、新鮮かつ刺戟的だった。その一方で、逆境を生き抜くたくましい登場人物たちを通じて、なぜ『アニー』がどんな時代でも必要とされてきたか、改めて感じ入るものがあった。そして出演者の心情に瞬間瞬間で寄り添う生オーケストラの演奏によって、作品の感動が増すのを肌で感じた。今年こそ、全公演が無事に完走できることを願う。
ローズベルト大統領も一緒に「Tomorrow」。
丸美屋食品協賛20周年、バックアップあっての『アニー』。
取材・文=ヨコウチ会長
写真撮影=安藤光夫(SPICE編集部)
公演情報
日本テレビ(関東ローカル)『シューイチ×アニー涙と笑いの舞台初日に完全密着!』
2022年4月29日(金・祝)15:50~16:20 ※再放送:5月4日(水・祝)6:00~6:30
アニー:山崎 杏 / 山本 花帆
ウォーバックス:葛山 信吾( ※葛山の葛は正しくは「ヒ」です )
ハニガン:マルシア
グレース:笠松 はる
ルースター:財木 琢磨
リリー:島 ゆいか
アニー役:山崎 杏(ヤマザキ アン)
モリー役:新谷 彩羽(アラヤ イロハ)
ケイト役:山口 菜々美(ヤマグチ ナナミ)
テシー役:小田島 優月(オダジマ ユヅキ)
ペパー役:深澤 七子(フカザワ ナナコ)
ジュライ役:黒川 明美(クロカワ メイミ)
ダフィ役:神澤 七緒(カンザワ ナオ)
アニー役:山本 花帆(ヤマモト カホ)
モリー役:成瀬 みずき(ナルセ ミズキ)
ケイト役:久住 星空(クズミ セイラ)
テシー役:北村 栞(キタムラ シオリ)
ペパー役:シーセン きあら(シーセン キアラ)
ジュライ役:小林 桜(コバヤシ サクラ)
ダフィ役:岩淵 心咲(イワブチ ミサキ)
(以上、Wキャスト)
磯部 ちひろ(イソベ チヒロ)
合田 晴音(ゴウダ ハノ)
齋藤 日南(サイトウ ハルナ)
平山 明香里(ヒラヤマ アカリ)
渡邊 杏奈(ワタナベ アンナ)
高嶋 悠花(タカシマ ハルカ)
鳥塚 美羽(トリヅカ ミウ)
三輪 駿斗(ミワ シュント)
山田 紗良(ヤマダ サラ)
伊藤俊彦、鹿志村篤臣、後藤光葵、丸山田加賜、矢部貴将、太田有美、木村つかさ、濵平奈津美、横岡沙季
■スタッフ
脚本:トーマス・ミーハン
作曲:チャールズ・ストラウス
作詞:マーティン・チャーニン
翻訳:平田 綾子
演出:山田 和也
音楽監督:小澤 時史
振付・ステージング:広崎 うらん
■協賛:丸美屋食品工業株式会社
【東京公演】
■会場:新国立劇場 中劇場
■日程:2022年4月23日(土)~5月8日(日)
※当初の発表では5月9日(月)までの上演期間でしたが、変更になりました。5月8日(日)16時チーム・モップの回が東京公演千穐楽となる予定です。
■料金:全席指定:8,700円(税込)
※4月25日(月)・4月27日(水)は「スマイルDAY」特別料金6,700円(税込)
■
■問合せ:キョードー東京 TEL:0570‐550‐799
宮城公演
■日程:2022年8月7日(日)
■会場:名取市文化会館
■日程:2022年8月11日(木・祝)〜14日(日)
■会場:シアター・ドラマシティ
■日程:2022年8月20日(土)〜21日(日)
■会場:金沢歌劇座
■日程:2022年8月26日(金)〜28日(日)
■会場:愛知県芸術劇場大ホール
■あらすじ:1933年12月、真冬のニューヨーク。1929年に起こった世界大恐慌が色濃く残り、誰もが希望を失っていた中で、ニューヨーク市立孤児院には前向きな11歳の少女、アニーがいた。アニーは孤児院を脱走し、犬のサンディと出会うが、警官に補導され連れ戻される。そこにやって来たのが大富豪ウォーバックスの秘書グレース。彼女の取り計らいにより、アニーはウォーバックス邸でクリスマス休暇を過ごすことになる。ウォーバックスはアニーを気に入り、養子にしたいと願うが、アニーが「普通の子と同じように両親と暮らしたい。父さんと母さんを見つけ出したい」と望むので、ウォーバックスは5万ドルの賞金を用意し、アニーの両親を公開捜索する。しかし名乗り出てくるのは、両親になりすまそうとする賞金目当ての悪人ばかり。さらには孤児院長ハニガンと、その弟ルースター、ルースターの恋人リリーも悪事を企んで……。アニーはいったい、どうなってしまうのか。