ゴツプロ!初演出の西沢栄治が語る、名作『十二人の怒れる男』を今、上演する狙いとは
西沢栄治
2015年の旗揚げ以降、ほぼ年一回ペースで公演を重ね、評判が評判を呼び着々と動員数を伸ばしてきている注目の劇団、ゴツプロ!。第七回公演となる今回は、主宰の塚原大助を含む、劇団員六名に加え、六名+一名のゲストを迎えて、国境も時代も越えて“名作”と評される“法廷劇の金字塔”、『十二人の怒れる男』に挑戦することになった。陪審員役はそれぞれ、第一号を渡邊聡、第二号を佐藤達、第三号を山本亨、第四号を塚原大助、第五号を関口アナン、第六号を44北川、第七号を佐藤正和、第八号を泉知東、第九号を小林勝也、第十号を佐藤正宏、第十一号を浜谷康幸、第十二号を三津谷亮、そして守衛を木下藤次郎が演じる。
スラム街に暮らす少年が父親を殺した容疑で起訴され、十二人の男たちが陪審員室で審議に入る。判決は全員一致でなければならないのだが、誰もが有罪を確信する中、ひとりの陪審員が異議を唱え「話し合いたい」と言い出す。少年に不利な証拠や証言を再検証し、話し合いが進むにつれ、初めは11対1だった有罪と無罪の割合が徐々に変化していく……。
今回、演出を手がけるのは、これまで古典劇から現代劇まで幅広い演目に挑み続け、昨年は別役実作の『あーぶくたった、にいたった』の演出でも注目された西沢栄治だ。ゴツプロ!には、これが記念すべき初参加となる。本格的な稽古がスタートしたばかりだという稽古場にて、今作に関わることになったいきさつや現在の手応えなどを語ってもらった。
ーー今回ゴツプロ!とタッグを組みに至った、いきさつを教えてください。
塚原さんとは、2016年に新宿花園神社で上演した椿組の『贋・四谷怪談』という野外劇でご一緒していたんです。僕が構成演出をやり、彼がメインキャストとして出演していて。その時、不器用なんだけれど男気があって、筋の通った芝居をする俳優だなという印象が強くありましてね。その時から、いつか一緒に何かできたらいいねという話はしていたんです。それで、ゴツプロ!はこれまでずっとオリジナル作品をやってこられていたのですが、今回からは第二章というか、新しい形でスタートを切るということで、塚原さんから声をかけてもらったわけなんです。
西沢栄治
ーーそれを聞いた時のお気持ちは?
それはやっぱり、うれしかったですよ。もちろん、断る理由なんて何もないですからね。ここからは作品選びの話にもなってしまいますが、新しくスタートを切るにあたってどういうものをやったらいいんだと考えまして。僕は作家ではないので、今までもそうですが、既成の台本をずっとやってきたということもありますし。だったら、これまでやっていたオリジナル作品から180度展開させて、ザ・演劇! 的な、演劇のど真ん中みたいな作品がいいんじゃないかなということになったんです。そうなると、作品が手強ければ手強いほどなおいいだろうということで、いわゆる法廷劇の名作、会話劇の金字塔とも言われている、この『十二人の怒れる男』をやろうということになったんです。
ーー『十二人の怒れる男』をやるとなると、ゴツプロ!メンバーだけでは人数が足りないわけで。今回の顔ぶれを集めた、キャスティングの狙いとしては。
絶対に芝居のできる人、ということははずせないですよね。あと言えるのは、僕も含めてですけど、メンバーたちもやっとこの芝居ができる年齢になったなということもありました。
ーー確かにこの作品は、若い人ばかりでは成立しにくいですね。
そうなんです。やはり、ある程度の人生を重ねてきた男たちがぶつかり合うところが、醍醐味なので。僕たちにもこれが実年齢でできるようになったので、そういう意味では、そうやって人生を重ねてきた人たちに今回は集まってきてもらったということになるかもしれません。
ーーこうして稽古がスタートして、手応えとしてはいかがですか。まだ、立ち稽古に入って三日目(取材時)とのことですが。先ほど、少し見学させていただいただけですが、もう既に面白かったです。
面白いでしょう? 僕も、こんなに面白いとは思わなかったです(笑)。いや、面白いとは思っていたか、つまり予想していた以上だったという意味ですね。みんなも毎日、脳みそが疲弊すると言っています。人間ドラマの複雑さだけではなく、とにかく登場人物たちがしゃべりながら、考えながら、意外とたくさん動きますしね。やはり人と人が対話する、会話するということはこんなに疲れるものなのか、と改めて思います。言葉で相手を説得したり、打ちのめしたり、言葉でやり合う、渡り合うということはとてもとても大変なこと。体力が要るのはもちろんで、だからこそ疲れるんでしょうね。
ーーセリフ量もそれぞれ、かなり多いですし。
はい。たくさんしゃべりつつ、ロジックを戦わせているので。
ーー観る側も「この事件の真実は?」と一緒になって、ものすごく考えますよね。演出面としては、戯曲に忠実でありつつも、本多劇場初なのでは? と思われる四方囲みのステージであることなども印象に残りそうです。
元来、この戯曲は、演出でケレン味のあるようなことをやる必要はまったくないんですけどね。それは今もそう思ってはいるんです、今回はとにかく俳優たちを一番に見ていただきたいという想いがありますから。俳優たちの言葉のやりとりで、この戦いを見ていただきたいということに尽きます。まあ、でもそれだけで、いわゆるプロセニアムの通常のステージの中に閉じ込めてしまうと、それを客観的に見るだけになってしまう。だけどこういったボクシングのリングのような、ほぼ四方囲みの舞台であれば、お客様もその場に一緒に参加して、この問題を考えられるのではないか、ということです。今回、かなり臨場感があると思いますよ。
ーー距離的にもとても近いですし。
当然ながら、座った席によって見えるものが違って、それはすなわち、この裁判に対する視点も変わってくると思うんです。考え方、価値観さえも、さまざまな見え方になるだろうし、そういう効果となったらうれしいですね。
西沢栄治
ーー改めて、ゴツプロ!という集団に対して感じている魅力とは。
もしかしたら、今の時代に反する言葉になってしまうのかもしれないけれど、やっぱり「男だな!」という印象はあります。さっき言ったこととも一緒ですが、みんなちゃんと年齢を重ねて、家庭を持ったり仕事をやったり、人生をしっかりと背負っている男たちなので。そこがやはり、彼らの魅力でしょうね。加えて、意外とみんなカワイイんです(笑)。その点に関しては、今回の稽古が始まってから気づいたんですが。
ーー新たな発見でしたか(笑)。
ええ。でもいいんですよ、なんだか部活みたいで。この年齢だというのに、男子校の運動部の部室にいるような気分です。
ーー今、この時代に、この作品をやる面白味や難しさに関してはいかがでしょう。
1950年代のアメリカを舞台にしていて、なおかつ陪審員制度の話であると聞くと、お客様にはひょっとしたらちょっと難しいイメージを先入観として抱くかもしれません。
ーー法廷劇の金字塔、ですしね。
そう、不朽の名作、ですし(笑)。だけど今回はそのイメージを覆したいな、という想いがあります。それも非常に大事な点であり、シンプルなことなんですが、それこそタイトルとなる“十二人の男”たちにはそれぞれの価値観があり、正義がある。それを単に戦わせる話なんです。もちろん法廷劇ならではの、サスペンスならではの面白さもありますけれども、この作品の楽しさは、実はそこだけじゃない。彼らの、それぞれの考え方のぶつかり合いこそが面白いんです。でも今の僕たちは、相手と言葉でやり合うという体験自体が薄れてしまっている。会議にしたって、リモートでできちゃいますしね。
ーーナマで言葉を交わすことと、リモートで会話することは感覚が全然違います。
はい。そういうチャンスを我々は、失ってきているんじゃないかということです。そしてもうひとつは、それに付随することでもありますが、これもタイトルにある“怒れる男たち”ということ。ただ感情を荒げて怒りをぶつけるというのは良くないことではありますけど、それを避けるあまりに、相手とちゃんと向かい合うということすら失くしてしまっていないだろうか、ということですよ。この物語の中には、間違ったことを言っている人たちも大勢いますが、だけど自分の中にある曲げられないものであったり、どうしても捨てられないものを携えながら、徹底して相手とちゃんと向き合っている。そのことが今の時代の我々にはできているのか。そのことの、ひとつの検証でもありたいと思っています。
ーー確かに、あそこまでの感情的な言い合いは、特にここ数年は体験していないかもしれません。
そうですよね(笑)。という意味では、時代に逆行しまくりの作品とも言えるかもしれない。ひとつの部屋に十二人も閉じ込められて、その中で結構な時間、汗をかきながら話し合うわけなので。今じゃ、できないことであり、だけどそれって必要なことなんじゃないのか、正しい意味で怒るということは、なくしてはいけないことなんじゃないか。そのことへの挑戦でもありますね。
ーーちなみに、西沢さんは裁判員に選ばれたことは。
ないですね。
ーーやってみたいですか?
ああ、でも一度くらいは、やってみたいかもしれないです。いざ参加したら、うわー、こんなの引き受けるんじゃなかったなと思うかもしれないけど。でも、その場で自分はどうなるのか。もちろん、その事件に思いを巡らすんでしょうけど、その話し合いの中で改めて自分はこういう人間なんだ、このことに関してこういう考え方をする人間なんだということが発見できるかもしれない。いや、きっとやったほうがいいですよ。普通だったらやらないで過ごす人生ですからね。この十二人にしたって、やりたい人ばかりじゃなかったんですから。
西沢栄治
ーーこの十二人の中では、陪審員の何号に一番近そうですか?
自分が? そうだな、ふだんやっているのは陪審員長の第一号ですかね。進行係、みたいなものなので。だけど僕も意外と頑固で、ここは絶対に譲らないというところがあるから、結構厄介なんですよ(笑)。
(近くで話を聞いていた塚原から「そうそう! しかも決して意外ではない!」とツッコミあり)
いや、ひょっとしたら、この十二人のキャラクターそれぞれに思い当たることがありそう。観ているお客様も、全部にではなくてもいずれかに共感できそうですから、ぜひそこを見つけて、自分自身のことも思い返してみてもらいたいです。
ーーお客様自身にも、新たな発見があるかもしれませんね。
ええ。話し合うって、そういうことだと思うんですよ。もちろん相手を説得したいとか、相手に勝つか負けるかということもあるだろうけど、その中で自分はこうなんだという振り返りが絶対あるはずなので。討論する、人と話すというのは、実はその中で自分を発見していくことなんじゃないでしょうか。
ーーまだこのあとも稽古が続き、そのあとで本番が待っていますが。その間で、西沢さんが個人的に楽しみにしていることはありますか。
ふふふ。楽しみどころじゃないですよ。苦しいですよ、苦しい苦しい(笑)。
ーーでも、先程の稽古では、とても楽しそうにされている様子が窺えました。
ハハハ、そうでしたか? でも確かに、今日は稽古をしながら「意外と笑えるな、滑稽だよな」って思えたんです。発見でしたね。ホント、決して難しい芝居ではないんです。大人の男が本気で考えたり、ぶつかったりする姿は、とても滑稽であると同時にとてもチャーミングなんだということ。とはいえ、もういろいろ大変なんですよ、苦しい、苦しい(笑)。でも作り手が苦しければ苦しいほど、絶対に面白いものが出来上がりますから。楽に越えられないハードルがあればあるほど、思いもよらないところにたどり着けるはずだと期待して、がんばっている次第です(笑)。
ーーでは、最後にお客様へ向けてのお誘いのメッセージをお願いします。
それは責任重大だ、いきなり緊張してきた(笑)。ともかく、さっきも言ったように不朽の名作法廷劇、会話劇の金字塔であることは間違いないので。映画も名作ですしね。映画でご覧になった方も多いでしょうし、もし観たことがない方なら、ぜひとも一度はこの作品に触れてみていただきたいですし。だけどそんなことに捉われることなく、難しく考えることもなく、人間たちが言葉を持ち、相手と向かい合うということはどういうことなのか。その戦いをぜひ目撃していただきたい。ある意味、むき出しの人間の姿も出てくるでしょうし、今まで観たことがないような『十二人の怒れる男』になる予感があります。ぜひとも、期待していただきたいです。
西沢栄治
取材・文=田中里津子 撮影=敷地沙織
公演情報
ゴツプロ!第七回公演『十二人の怒れる男』
日程:2022年5月13日(金)〜5月22日(日)
会場:本多劇場
演出:西沢栄治
陪審員第一号:渡邊聡 陪審員第二号:佐藤達(劇団桃唄309)
陪審員第三号:山本亨 陪審員第四号:塚原大助
陪審員第五号:関口アナン 陪審員第六号:44北川
陪審員第七号:佐藤正和 陪審員第八号:泉知束
陪審員第九号:小林勝也(文学座)陪審員第十号:佐藤正宏(ワハハ本舗)
陪審員第十一号:浜谷康幸 陪審員第十二号:三津谷亮
守衛:木下藤次郎(椿組)
企画・製作:ゴツプロ合同会社
主催:ゴツプロ合同会社、WOWOW
一般 7,000円 ※当日券は+500円
5月15日(日) ゴツプロ!、小林勝也、山本亨、木下藤次郎、三津谷亮、関口アナン、西沢栄治(演出)
5月18日(水) ゴツプロ!、佐藤正宏、佐藤達、三津谷亮、関口アナン、西沢栄治(演出)
※受付開始時間は開演の1時間前、開場は30分前 ※未就学児童の入場不可
※公演当日は、政府・自治体、および会場のコロナウィルス感染拡大防止ガイドラインに基づく運営を行います
※今後の新型コロナウィルスの感染拡大の状況、および政府や地方自治体の方針により公演スケジュールが変更となる場合もございます