「これを見れば開運する」と市川猿之助が語る舞踊公演 猿之助×壱太郎『二人を観る会』取材会レポート
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市川猿之助
猿之助×壱太郎『二人を観る会』公演が、2022年5月23日(月)~24日(火)に日本教育会館 一ツ橋ホールにて開催される。歌舞伎界をけん引するひとりとして活躍する一方で映像作品や現代劇などにも精力的に取り組み続ける市川猿之助と、上方歌舞伎の継承者として歌舞伎公演はもとよりオンライン公演や配信トークライブなどにも積極的に挑み多彩な活躍を見せる中村壱太郎が、素踊り『種蒔三番叟』と歌舞伎舞踊『お祭り』を披露する舞踊公演で、演目の合間には座談会も予定されている。
今公演に向けて、市川猿之助が懇親取材会に出席してその思いを語った。
真っ当な2人がやる、真っ当な会
猿之助はまず「『二人を観る会』なのに、なぜか今日は僕だけしか来ていないのですが、よろしくお願いいたします」と挨拶して取材陣の笑いを誘った。
今回の演目の素踊り『種蒔三番叟』について猿之助は「私が初めてやらせていただいたのは藤間のご宗家(藤間勘十郎)との明治座での舞踊公演のとき。私の曽祖父の初代猿翁と、宗家のおじい様(六世藤間勘十郎)が若い頃にやった演目なので、それを孫とひ孫がやったら面白いだろうなと思った」と説明。
『お祭り』については「私の叔父の猿翁と壱くん(壱太郎)のおじい様である藤十郎のおじ様がやっており、僕たち2人にとってゆかりの演目」と説明し、「2演目とも非常にシンプルだし、2人だけで踊るので、踊り手の技量といったものが非常によくわかるものになっている。初めての方も、何回も舞台を見ている方も楽しめると思う」と述べた。
市川猿之助
続いて壱太郎についての印象を聞かれると「彼は僕の慶応の後輩でもあり、歌舞伎役者としても非常に僕に近いタイプ。彼は歌舞伎役者だけでなくコーヒー屋でバイトしたり、自ら進んで歌舞伎以外の生活も送るようにしていて、一般常識があり、社会の中でちゃんと暮らしていける役者だと思う。もしかしたら昔の役者の定義からしたら僕ら2人はつまらない人間かもしれないけれども、社会から見たら真っ当な2人がやる、真っ当な会を見ていただきたい」と自身との共通点を挙げながら再び取材陣の笑いを誘った。
声をかけてもらえるうちはそれに全力で応えていく
今公演が行われることになったいきさつを尋ねられた猿之助は「壱太郎くんはこの頃非常に旺盛といいますか、つい先日も自身の主催で吾妻流の会をやったばかり。新しいことを率先してやってきた彼の思いを汲んだ企画で、僕はそこにお声がけいただいたという形。なかなか2人でがっぷり踊ったことはないので、彼が僕と一緒にやりたいとリクエストしてくれたのかな、と思うのですが、その割にはなぜ今日は僕しか来ないんだろう」と壱太郎の不在に首をかしげながら笑った。
猿之助自身も『猿之助と愉快な仲間たち』の第2回公演を先ごろ終えたばかり。精力的に活動するモチベーションについて聞かれると「自分がどうこうしたいのではなく、壱太郎くんが一緒に踊りたいと言ってくれるし、『~愉快な仲間たち』もコロナ禍で表現する機会を失った仲間たちを何とかしてあげたいという思いでやっているプロジェクト。頼まれごとは引き受けると開運する、と何かに書いてあったので、声をかけていただいているうちはなるべくそれに全力で応えていこうと決めた」と笑顔で語った。
市川猿之助
なぜこの演目なのかを聞かれると「なかなか二人立ちで踊るものは限られてくる。『お祭り』は歌舞伎座でもよくかかるが、もう1本を何にするかといったときに、歌舞伎座では素踊りは上演されないので、逆にそういうものをお見せするのもいいのかなと。どうしても僕の芝居というのは派手なイメージがあるので、今回は派手ではなく逆の方に行ってみようかな、しかも長唄ではなく2つとも清元でお見せしようかなと思った」と答えた。
テンション高い2人が組んだらどうなるのか見てもらいたい
座談会はどのようなものになるのかという質問に対しては「壱くんはとても弁が立つというか、僕なんかは出た瞬間のお客様の雰囲気でしゃべることを考えるが、彼はすごく下調べをして考えて話の流れを決めてくれると思うので、どういう話になるのか僕も楽しみ。昨今はどうしてもコロナの話題になるが、彼と相談してそこは軽く触れるだけにして明るい希望を語りたい。学生生活はどうだったかとか、彼の得意なコーヒーの淹れ方とかを聞きたい」と楽しそうに語った。
壱太郎との普段の接点について尋ねられると「僕も藤十郎のおじ様にはとてもお世話になったので、僕のやったことのある役を彼がやるときには、藤十郎のおじ様からどういうことを教わったのか等よく聞かれるし、自分の会をやるときにも、僕のときはどうだったかを聞かれたり、彼の舞台を見に行くと何か気づいたところはなかったか聞かれたり、とても研究熱心で、相談をよくしてくれる」と答え、今回一緒にやることで何か教えることはあるかという問いには「言葉ではなく、一緒に舞台に立って何かを感じてもらえれば。舞台の向き合い方とかを肌で感じてくれたらと思う」と答えた。
市川猿之助
今公演での見どころを聞かれると「2人とも舞台上では冷静というよりかは興奮しがちで、10やればいいところを20も30もやっちゃうくらいテンションが上がってしまうタイプ。テンション高い2人が組んだらどうなるのかというところも見てもらいたい。最近の彼は興奮しないように自制するので、なんとかそれを邪魔して舞台の上で興奮するように仕向けたい。シンプルだけど熱っぽいところを感じてもらえたら」と語った。
元気なうちに次の世代にバトンを渡したい
今後の自身の活動について見据えていることはあるかと尋ねられると「自分たちはまだまだ若いつもりでいたら、毎月のように歌舞伎座に出ていたり、世代交代というのを否が応でも感じる。5月は尾上右近くんが弁天小僧をやるなど若手が出てきているし、いつまでも自分がやりたいという思いは役者としてあるが、歳を取ってから芸を教えてそれを真似されても困るので、元気なうちに次の世代にバトンを渡さないといけない。そういう意味で言うと僕は芸の上での終活に入らないといけないのかな、と思う。芸の上での終活というのは10年20年かかると思うから、今から始めないと多分悔いが残って終わる。引退するということではなくて、自分も頑張りながらバトンタッチしていくという、非常に難しいがそれをやっていきたい」と熱く語った。
質問の合間に「二人を観る会、って舞台にいるだけじゃダメなのかな? どこからでも見てください、って」とつぶやいたり、取材会の最後には猿之助自ら「キャッチフレーズは『これを見に来ると開運するよ』かな」と宣伝文句を考案するなど、終始笑いに包まれ和やかな取材会となった。
市川猿之助
取材・文・撮影=久田絢子
公演情報
座談会
歌舞伎舞踊『お祭り』 清元連中
制作協力:全栄企画株式会社 / 株式会社ちあふる 協力:松竹株式会社